「正しさ」では人は動かない──パワーと影響力Day2で学んだ、部下と上司を動かす技術

「正しさ」では人は動かない──パワーと影響力Day2で学んだ、部下と上司を動かす技術

「正しいことを言っているのに、なぜ動いてくれないのか」

マネジメントの現場で、この問いにぶつかったことがない人はいないのではないでしょうか。

データを示した。ロジックを組み立てた。成果も出した。なのに、チームは動かない。上司は理解してくれない。会議では賛同が得られず、改革は空回りする──。

グロービスMBAの「パワーと影響力」Day2では、まさにこの問いに正面から向き合いました。テーマは「部下を動かす」と「上司を動かす」。2つのケースを通じて浮かび上がったのは、影響力とは「正しさ」ではなく、「届け方」の問題であるという、シンプルだけれど実践が難しい原則でした。

この記事では、授業で扱ったケースから得た学びと、IT業界で28年働いてきた自分自身の経験を重ねながら、「人を動かす」ことの本質について書いてみたいと思います。

セッションA:部下を動かす──合理的な改革が跳ね返される構造

完璧な戦略が、なぜ跳ね返されたのか

Day2の前半では、ある組織のリーダーが新しい業務手法の導入を試みるケースを扱いました。

このリーダーは、データによる裏付けを取り、パイロットプロジェクトで成果も出し、段階的なアプローチも設計していました。戦略は合理的で、論理的には正しい。ところが、現場のメンバーたちからは激しい反発を受けてしまいます。「自分たちのやり方で十分だ」「外部の手法は合わない」──感情的な抵抗によって、改革は頓挫しかけたのです。

「理」で攻めても、「情」の壁は越えられない

授業のディスカッションで浮かび上がったのは、このリーダーのアプローチが「正しい手順」を踏んでいたにもかかわらず、決定的に欠けていた要素があった、ということでした。

リーダーは、ポジションパワー(地位)とパーソナルパワー(成果や説明力)を駆使して影響力を行使しようとしました。しかし、現場のメンバーたちが長年にわたり築いてきた「自分たちこそがプロフェッショナルだ」という誇り──この非公式な価値観に基づくリレーショナルパワーの強さを、十分に見積もれていなかったのです。

ここで私が強く感じたのは、「正しさ」と「届くかどうか」は別の問題だ、ということです。

新しい手法が合理的であることはデータが示しています。でも、メンバーたちにとっては従来のやり方を変えられることそのものが、自分たちの存在意義を脅かすものとして映っていました。

成果や戦略といった「理」に訴えるアプローチだけでは、組織内部に深く根付いた感情や価値観──いわば「情」の壁は越えられない。影響力の設計には、相手が何を大切にし、何を恐れているのかを読み取る「感情のリテラシー」が不可欠だったのです。

自分の職場で起きていた同じ構造

このケースを学びながら、私は自分のチームで起きていた出来事を思い出していました。

数年前、会社全体でグローバル標準のプロジェクト管理ツールへの移行が決まったときのことです。経営層からの指示は明確で、導入メリットも数値化されていました。私自身も「これは合理的な判断だ」と理解していたので、チームに展開したのですが、ベテランメンバーの反応は想定外でした。

「今のやり方で問題なく回っている」「新しいツールを覚える余裕がない」──表向きはそうした理由でしたが、本音は違ったのだと思います。20年近く同じ顧客の現場で積み上げてきた仕事のやり方に誇りがあった。それを「標準化」の名のもとに変えられることへの、言語化できない抵抗感があったのです。

当時の私は、まさにケースのリーダーと同じことをしていました。データを示し、メリットを説明し、「正しさ」で押し通そうとしていた。でも本当に必要だったのは、彼らの誇りを認めたうえで、「あなたたちの経験があるからこそ、新しいツールを活かせる」と伝えることだったのかもしれません。

影響力とは、相手の世界観の中に入って、そこから一緒に方向を変えること。自分の正しさを外から投げ込むことではない。Day2の前半で、その原則が身体レベルで理解できた気がします。

セッションB:上司を動かす──急昇進した若手の転落

パーソナルパワーの過信が招く危機

後半のケースは一転して、「上司を動かす」がテーマです。ある若手社員が異例のスピードで昇進したものの、上司との関係構築に失敗し、キャリアが危機に瀕するという物語でした。

この若手には確かに強みがありました。顧客との信頼関係構築力、前職での実績、意欲的で自信に満ちた姿勢──いわゆるパーソナルパワーです。しかし、昇進直後の組織内での影響力は極めて限定的でした。

パワーの非対称性を読み誤った代償

授業のディスカッションでは、「パワーの源泉の非対称性」と「影響力の届け方の誤り」が繰り返し議論されました。

上司は、ポジションパワーに加え、豊富な経験と組織内の信頼ネットワークに裏打ちされた多層的なパワーを持っていました。評価権限を持ちつつ、上層部にも情報を提供し、社内のストーリーラインをコントロールできる立場にいたのです。

この若手の致命的なミスは、こうした非対称性を読み誤ったことでした。自分のパーソナルパワーを過信し、上司の立場や文脈を考慮せずに主張や反論を繰り返した。上司の方針に公然と異を唱え、報告の要請にも十分に応えず、独自の判断で業務を進行した。

その結果、行動は「協調性に欠ける部下」として映り、影響力行使の意図そのものが空回りしたのです。

「正しい意見」が「反抗」に変わる瞬間

ここで重要なのは、この若手の意見そのものが間違っていたわけではない可能性がある、ということです。市場の変化を捉えた視点は妥当だったかもしれないし、新しい取り組みに注力したことも中長期的には価値があったかもしれない。

しかし、その「正しいかもしれない意見」を、上司のパワー基盤を無視した形でぶつけてしまった。報連相を怠り、上司の見解を公の場で否定し、成果を組織の文脈で意味づけることなく自分の論理だけで押し通した。

正しいことを言っているのに、それが「反抗」として受け取られる。この構造は、ビジネスの現場で本当によく起きることです。

授業で繰り返し出てきたフレーズがあります。「影響力とは、正しさではなく、関係性の中で発揮されてこそ効果を持つ」。このケースは、その原則の反面教師として強烈な印象を残しました。

上司をマネジメントするという発想

では、この若手はどうすべきだったのか。授業では「上司をマネジメントする」という視点が提示されました。

これは「上司に媚びる」「イエスマンになる」ということではありません。上司のパワー基盤、意思決定のスタイル、何を重視しているかを理解したうえで、自分の影響力が「届く形」に翻訳して提供するということです。

具体的には、まず組織や上司のスタイルに順応し、「敵」ではなく「内側の協力者」としてふるまう。上司の方針の背景にある意図を対話を通じて掘り下げる。顧客の声や市場感覚を、上司の視点で役立つ材料に編集して届ける。新しい切り口は、真っ向からぶつけるのではなく、「こういう視点も補完になるかもしれません」と提案する。

パーソナルパワーを持っていることと、それを組織の中で効果的に発揮できることは、まったく別のスキルなのです。

2つのケースを貫く原則──「パワーの構造」を読む力

Day2で扱った2つのケースは、一見すると対照的です。前半は「部下(組織のメンバーたち)を動かす」話であり、後半は「上司を動かす」話です。

しかし、両方に共通する本質的な学びがありました。

影響力は、自分が何を持っているかではなく、相手にどう届くかで決まる。

前半のリーダーは合理的な戦略とデータを持っていたけれど、メンバーたちの誇りや感情に届く形では伝えられなかった。後半の若手は市場感覚と行動力を持っていたけれど、上司の文脈に合わせた形では表現できなかった。

どちらも、パワーの「保有」はしていた。しかし、パワーを「影響力」に変換するプロセスで失敗していたのです。

Day1で学んだパワーと影響力の基本フレームワーク──ありたい姿の明確化、状況分析、基本スタンスの設定、アプローチの設計、実行と反応の観察──この5ステップを、相手に応じて柔軟に設計し直す必要がある。Day2では、「相手に応じて」の部分が、いかに難しく、いかに重要であるかを思い知らされました。

自分自身への問い──「届ける努力」をしているか

授業の終盤、講師からこんな問いが投げかけられました。

「あなたは今、誰に対して影響力を発揮しようとしていますか? その相手に、あなたの言葉は届いていますか?」

この問いは、帰り道もずっと頭の中に残っていました。

正直に言えば、私にも思い当たることがたくさんあります。

IT業界で28年。ITマネージャーとして、顧客やチームに対して「正しいこと」を伝える場面は日常的にあります。プロジェクトのリスクを報告する、スケジュールの見直しを提案する、新しいプロセスの導入を推進する──。

でも振り返ると、「正しいことを言っている自分」に満足して、それが相手に届いているかどうかの検証を怠っていたことが少なくなかった気がします。

「言った」と「伝わった」は違う。「正しい」と「動かせた」は違う。

この当たり前のことを、ケースという安全な距離から観察し、自分の行動と照らし合わせることで、ようやく腹落ちした感覚があります。

パワーは「武器」ではなく「通貨」

Day2を終えて、私の中でパワーの捉え方が変わりました。

以前は、パワーとはどこか「武器」のようなイメージがありました。持っている人が強い、持っていない人は弱い。使えば相手を動かせる。

でも今は、パワーとは「通貨」に近いものだと思っています。

通貨は、相手がその価値を認めてはじめて機能します。日本円をいくら持っていても、円が通用しない場所では使えない。同じように、自分のパーソナルパワーがどれだけ高くても、相手のコンテキストで価値を認められなければ、影響力としては機能しないのです。

前半ケースのリーダーにとっての「合理性」という通貨は、現場のメンバーにとっては価値の低い通貨でした。後半ケースの若手にとっての「市場感覚」という通貨は、上司にとっては未検証の通貨でした。

影響力を発揮するためには、まず相手が何を「通貨」として認めているかを理解し、自分のパワーをその通貨に「両替」して届ける必要がある。この感覚は、Day2で得た最も実践的な学びです。

おわりに──明日の会議で、何を変えるか

パワーと影響力の授業は、学ぶほどに自分の日常が違って見えてきます。

Day2を経て、私が明日から意識したいのは3つです。

1つ目は、「正しさ」の前に「相手の世界観」を見ること。何かを提案する前に、相手が何を大切にしているか、何に誇りを持っているか、何を恐れているかを想像する時間を取る。

2つ目は、パワーの「両替レート」を意識すること。自分が持っている強みが、相手の文脈ではどう映るかを考え、届く形に翻訳する。

3つ目は、「言った」で終わらず「届いたか」を確認すること。メールを送った、会議で発言した──それだけでは影響力を行使したことにはならない。相手の反応を観察し、届いていなければアプローチを変える。

「正しさ」では人は動かない。でも、「正しさ」を「届く形」に変えることはできる。

Day2で学んだこの原則を、まずは明日の会議から実践してみようと思います。

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