組織行動とリーダーシップ Day2|スターバックスとタローフーズに学ぶ、WHYを語るトップと任せ方を整えるミドル

組織行動とリーダーシップ Day2|スターバックスとタローフーズに学ぶ、WHYを語るトップと任せ方を整えるミドル

本記事は「MBAで学んだ組織行動とリーダーシップ」シリーズのDay2です。

この記事でわかること

  • スターバックスが2000年代に「スターバックス体験」を失った経緯と、2008年に復帰したシュルツが打った手
  • コッターによるリーダーシップとマネジメントの区別、ハイフェッツの課題の2分類
  • エンパワーメントの5ステップ(目的・ビジョンの共有→対象者の把握→アサインメント→コーチング/動機づけ→支援)
  • タローフーズの内川部長が、命令と任せきりのあいだを往復してしまった理由
  • 受講中に提出した課題を、Day2の枠組みで読み返して見えたこと

1. 1つずつは正しい判断が、積み重なって会社を壊す

Day2のテーマは「企業経営におけるリーダーの役割とは何か」でした。前半はトップマネジメントの立場からスターバックス、後半はミドルマネジメントの立場からタローフーズを扱いました。

スターバックスのケースで印象に残ったのは、2007年2月にハワード・シュルツが経営陣に送ったメールです。自動エスプレッソマシンの導入、焙煎豆の袋詰め、店舗デザインの簡素化。どれもその時点では正しい選択で、個々に見れば体験の質を下げるものではなかった。しかし積み重なった結果、ブランドをコモディティ化させてしまった、という内容でした。

タローフーズの内川部長も、悪い上司として描かれているわけではありません。やり手で、現場にも足を運ぶ。それでも、任せた仕事はことごとく思った方向に進みませんでした。

この2つのケースから、トップは何を語るべきか、ミドルはどう任せるべきかを整理します。


2. Day2の枠組み ―― 経営の階層とエンパワーメント

リーダーシップとマネジメントは別の能力

最初に確認したのは、ジョン・コッターによる区別です。

リーダーシップ(変革を推し進める)マネジメント(組織を効率的に運営する)
長期的なビジョンの提示短期的な計画・予算立案
メンバーの統合組織構造の設計・人材配置
メンバーの動機づけ予実管理・問題解決

どちらが上という話ではなく、状況に合わせて使い分けるものです。ロナルド・ハイフェッツの課題の2分類と重ねると、使い分けの基準が見えてきます。やり方が明確で課題が自分の外にある「技術的な課題」は、権威や専門性のある人が分解して解く。答えがなく自分も課題に組み込まれている「適応を要する課題」は、問題を抱える人たち自身が関係性の中で解く。前者にはマネジメント、後者にはリーダーシップが求められます。

スターバックスに足りなかったのは「なぜやるか」

スターバックスは2000年に米国2,619店・海外792店でしたが、2007年には米国8,505店・海外4,327店と、合計で約4倍に増えています。2005年にCEOとなったジム・ドナルドの下で、出店の加速と出店基準の緩和、ROIを重視した店舗デザインの簡素化、自動コーヒーマシンの導入、フード類の拡大が進みました。

シアトルのパイク・プレイス・マーケットにあるスターバックスの店舗の外観。店の前に客が並んでいる
写真:パイク・プレイス・マーケットのスターバックス(シアトル、2013年)。撮影 Chris06/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
ジム・ドナルド期とハワード・シュルツ復帰後のスターバックスを、根にあった考え・打った手・起きたことの3段で比べた図。ドナルド期は出店加速や店舗デザインの簡素化で第三の場所の価値が下がり、シュルツは新規出店削減と自らの報酬減額を行う一方、社員の健康保険とストックオプションを守った
図1:ドナルド期とシュルツ復帰後の比較

講義では、ドナルドの改革は会社の将来のためではなく、差し迫った課題への対処だったと整理しました。結果として「第三の場所」としての価値が下がり、競合との違いがなくなり、バリスタの情熱も失われていきます。足りなかったのは、存在意義(ミッション)と価値観(バリュー)を理解したうえでの将来像(ビジョン)でした。サイモン・シネックのゴールデンサークルでいえば、WHYが抜けたままHOWとWHATだけが動いていた状態です。

講義ではこれを経営戦略の階層として示しました。企業理念(存在意義)→企業ビジョン→全社戦略→事業戦略→実行計画です。リーダーはこの階層のつながりを理解し、上から順に語る必要があります。

2008年1月にCEOへ復帰したシュルツの行動は、3つに分けられます。

  • 削る:2008年の米国の新規出店を前年比34%減らし、不採算店を閉鎖。自らの基本報酬を120万ドルから1万ドルに減額
  • 守る:社員の健康保険とストックオプション、コーヒーの品質
  • 始める:従業員トレーニングの刷新、オープンフォーラムの定期開催、リーダーシップカンファレンスの復活

店舗閉鎖という厳しい判断の裏で、社員を大切にする姿勢を行動で示しています。講義ではこれを、社員への説明責任、コミットメントの表明、価値観への共鳴の喚起という3つのコミュニケーションとして整理しました。

エンパワーメントの5ステップ

後半のタローフーズでは、エンパワーメントを扱いました。命令指示型が「命令→管理→服従」で動くのに対し、エンパワーメント型は「権限委譲→支援→明示された目標」で動きます。上司が結果責任を持ち、部下が執行責任を持つという分担です。

ステップ要点
1. 目的・ビジョンの共有何を、何のために、やらないとどうなるかをはっきり共有する。初動で手を抜かない。目標はSMART(具体的・計測可能・合意済み・現実的・期限が明確)に
2. 対象者(部下)の把握能力、意欲、特性、置かれた状況や制約条件をつかむ
3. アサインメント達成までのシナリオを動画のように描き、「任せる範囲」を相手と合意する
4. コーチング/動機づけフォローのタイミングと頻度を事前に合意する。意図と違うアウトプットには、意欲の維持と指導のバランスを取る
5. 支援部下の権限が及ばない組織の問題を解決し、人を手当てし、意思決定の条件をはっきりさせる

5つのステップの土台にはコミュニケーションがあり、前提として「外部環境と全社戦略の認識」と「上司としての結果責任の承認」が置かれていました。


3. 内川部長の3つの場面と、IT現場への当てはめ

命令と任せきりの往復

タローフーズは創業100年、従業員約3,000人の食品メーカーです。初めて創業家以外から就任した木塚社長が中食事業に参入し、その惣菜事業推進部を率いるのが内川部長でした。中食の市場では、現場に近いところでの素早い判断が求められます。

ケースの中で、内川部長の関わり方は大きく揺れています。

タローフーズの内川部長の関わり方を時系列に並べた図。店員の配置転換やコスト削減を直接指示する場面と、進め方を示さずに任せきりにする場面を往復し、最後に部下の提案から任せて支える形が生まれた
図2:内川部長の関わり方の往復
  • コスト削減:全社のコスト削減指示を受け、自ら店舗へ出向いて店長らに直接指示し、「あとは佐々木くんと相談して進めるように」とだけ言って戻ります。佐々木課長は「注文の精度を上げる」よう伝えましたが、部長の直接指示に焦った店長は注文量を一律に1〜2割減らし、売上が大きく落ちました
  • 販促キャンペーン:多村課長の企画を承認し、今回は口出しせずに任せます。ところがキャンペーン用のシールで賞味期限が隠れ、終盤には一定額以上の客全員に配ったことから、期限切れ品をばらまいているという苦情が入りました。中止後、内川部長は「今後はしっかり確認をとってから行動するように」と強く申し渡します
  • 今後のプラン検討:事業の方向性づくりを若手に任せたものの、別件で忙しくなり2カ月手付かずのまま。部下からは「部長も忙しそうで相談もできなかった」という声が出ます。経営会議の資料は紙で回覧していましたが、メンバーは読んでいませんでした

講義では、どの場面にも5ステップの抜けがあると整理しました。コスト削減では、数値や進め方を佐々木課長と共有し、佐々木課長が店長に指示する構造を支えるべきだった。キャンペーンでは、目的を詰め、誰が何をどう進めるかを確かめ、不測の事態に備えるべきだった。プラン検討では、重要なことは対面で伝え、待つのではなく積極的に支えるべきだった、というものです。

最後のプラン検討では、部下の小池が「まず経営会議の資料をみんなで共有してから話し合う」と自ら提案し、2週間後にはイートインスペースや他部門との共同開発など、いくつもの案が出てきました。目的の共有が先にあれば部下は動ける、ということを示す場面です。

ITサービスの運用現場に置き換えると

この3つの場面は、ITサービスの運用を担う常駐チームを率い、顧客企業とのあいだに立つマネージャーの仕事にも当てはまります。

コスト削減の場面に当てはめると、顧客から運用コストの見直しを求められ、チームリーダーに「あとは任せる」と伝える状況です。何をどこまで削るのか、守るべきサービスレベルは何か、期限はいつか。それを共有せずにメンバーへ直接指示を出せば、リーダーの頭越しになり、現場は一番手早い方法を選びます。「削減の目的と、やってはいけないことを先に伝えたか」「リーダーがどう進めるつもりかを聞いたか」を確かめる問いになります。

キャンペーンの場面は、顧客の別部門との調整が必要な改善提案を任せる状況に近いものです。自分のチームの外にあるブランドや関係に関わる仕事は、任せたあとも上司が調整を引き受ける必要があります。

プラン検討の場面は、顧客の経営方針や契約上の論点を、メールや資料の転送だけで伝えたつもりになっていないかを確かめる問いになります。


4. 提出した課題を、Day2の枠組みで読み返す

手元に残っている提出物は、Day3の事前課題とDay6の振り返り課題の2本です。どちらもDay2より後に書いたものですが、読み返すとDay2の枠組みにつながる記述がいくつもありました。

Day3事前課題とDay6振り返り課題に書いた6つの記述を、Day2の枠組みに対応づけた図。目的の共有、SMARTな目標設定、リーダーシップとマネジメント、対象者の把握、説明責任とコミットメントには沿っていたが、評価に直接結びつけるという答えは目的への納得を飛ばしていた
図3:提出物の記述とDay2の枠組み

Day3事前課題:目的の共有と、評価で動かすという答え

Day3の事前課題では、キリンビールのV10推進プロジェクトの活動を評価しました。そこで私は、「ありがとうの手紙」などの取り組みについて、この活動の先に何が変わるのか、どう自分に影響があるのかを社員に示していなかったため、参加しない社員も多かったのではないかと書いています。フォーラムの取り組みについても、目標値などのKPIがあれば次のステップに進む時期を検討できた、と書きました。

これはエンパワーメントのステップ1そのものです。何のためにやるのか、やらないとどうなるのかを共有し、目標をSMARTに置く。Day2で学んだことを、別のケースに当てはめていたことになります。

一方で、同じ課題の「自分がリーダーならどうするか」という問いには、V10の取り組みを社員の評価に直接結びつけ、参加と貢献を促すと答えていました。Day2の後半では、ハーズバーグの動機づけ・衛生理論も学んでいます。満足を生む動機づけ要因(仕事内容、責任感、達成感、承認・評価、成長)と、不満を生む衛生要因(企業の方針、監督、対人関係、労働条件、給与)は別物だという理論です。評価は動機づけ要因にも含まれますが、参加を促す主な手段として評価を最初に置いた私の答えは、目的への納得を飛ばしていました。Day3の講義で、キリンが実際にはV10への貢献を人事考課に直接組み込まなかったと知ったのは、そのあとです。

Day6振り返り課題:リーダーかマネージャーか

Day6の振り返り課題では、実務における気付きとして、リーダーとマネージャーの役割の違いを挙げています。リーダーはビジョンと方向性を示し、マネージャーはその実現のための具体的なプロセスを管理する。自分がリーダーなのかマネージャーなのか、自分でも明確ではなかったが、少なくともどういうポリシーで今の活動を行っているのかを明確にできるようになった、と書きました。

社員の特性を理解し、それに合わせた動機づけを考えたことも書いています。社員のプロファイルを検討する中で、経営層との距離感、顧客への遠慮、英語への憧れといった特徴を見つけ、それを踏まえて伝え方を変えた、という内容です。エンパワーメントのステップ2「対象者の把握」を、個人ではなく職場全体に向けて行ったものといえます。

最後に、今後の方向性として「コミュニケーションと透明性」を挙げ、シュルツやHCLのナイアーのように、透明でオープンなコミュニケーションで組織内の信頼を築くことが必要だと書いていました。振り返り課題の冒頭でも、リーダーシップの核心には信念があり、その例としてシュルツを挙げています。講義で扱った、復帰後のシュルツが公開書状とオープンフォーラムで語り続けた姿と、同じ方向の記述です。


5. 学びと示唆 ―― 任せる前に確かめること

Day2を通して残ったのは、「任せる」と「放っておく」は違うという当たり前のことを、手順として持っておく必要があるという点です。

内川部長は、任せたいという意志は持っていました。それでも、目的の共有と途中の支援が抜けたまま任せ、結果が出ないと命令に戻る。この往復が続くと、部下は相談しにくくなります。ケースの序盤で、店舗の状況を細かく問いただされた佐々木課長が相談に来なくなり、部長を避けるようにさえなったのは、その表れだと考えています。

講義では、エンパワーメントが難しくなる条件として次の3つが挙げられました。

  1. 部下の能力ややる気が、任される重みに耐えられない
  2. リーダーにフォローの余裕や、責任を取る覚悟がない
  3. 業務自体がエンパワーメントに向いていない

3つ目については、向く仕事と向かない仕事の目安も示されました。

緊急性を横軸、組織全体への影響を縦軸にとり、エンパワーメントに向く仕事と向かない仕事を示した図。タローフーズの販促キャンペーンは他部門のブランドに関わるため任せにくい側、今後のプラン検討は任せやすい側に置いている
図4:任せやすい仕事と任せにくい仕事

タローフーズの販促キャンペーンは、他部門(ドレッシング事業部)のブランドに関わる仕事でした。こうした仕事を任せるなら、他部署との調整や不測の事態への備えを上司が持つ必要があります。逆に、半年後の提案に向けたプラン検討は時間に余裕があり、任せることで育成にもつながる仕事でした。ここで必要だったのは、放置ではなく、情報の共有と途中のフォローです。

もう1つ、エンパワーメントが苦手なリーダーの固定観念も紹介されました。「自分がやれば一番うまくいく」を「部下が光り輝けば一番うまくいく」に、「すべて自分で片付けないと価値がない」を「任せられるほど組織と自分の価値が上がる」に置き換える、というものです。

トップとミドルで立場は違いますが、どちらにも共通していたのは「なぜやるか」を先に語ることでした。シュルツは会社の存在意義から語り直し、エンパワーメントのステップ1も目的・ビジョンの共有から始まります。


6. まとめ

  • スターバックスでは、1つずつは合理的な判断が積み重なり、「第三の場所」としての価値が失われた。足りなかったのは、存在意義と価値観に基づく将来像だった
  • 復帰したシュルツは、新規出店の削減や自らの報酬減額を行う一方、社員の健康保険とストックオプションを守り、言葉と行動の両方で方向を示した
  • リーダーシップとマネジメントは別の能力で、課題の種類(技術的な課題か、適応を要する課題か)によって使い分ける
  • エンパワーメントは5ステップ(目的・ビジョンの共有→対象者の把握→アサインメント→コーチング/動機づけ→支援)で進める。上司は結果責任、部下は執行責任を持つ
  • タローフーズの内川部長は、目的の共有と支援が抜けたまま任せ、失敗すると命令に戻る往復を繰り返していた

提出物を読み返すと、Day2の枠組みは他のケースを評価するときには使えていました。一方で、自分がリーダーとして動く場面の答えには、まだ十分に反映できていなかったことがわかります。


よくある質問(FAQ)

Q1. エンパワーメントと丸投げはどう違いますか?
エンパワーメントは、目的・ビジョンの共有→対象者の把握→アサインメント→コーチング/動機づけ→支援の5ステップで進めます。上司は結果責任を持ち続け、任せる範囲を相手と合意し、権限の及ばない問題は上司が取り除きます。目的を伝えず、途中のフォローもしないまま任せるのが丸投げです。

Q2. リーダーシップとマネジメントは、どちらが大切ですか?
どちらも必要です。コッターはリーダーシップを変革を推し進める力(ビジョン・統合・動機づけ)、マネジメントを組織を効率よく運営する力(計画・組織設計・予実管理)と整理しました。やり方が明確な技術的な課題にはマネジメント、答えのない適応を要する課題にはリーダーシップが求められます。

Q3. エンパワーメントに向かない仕事はありますか?
講義では、緊急性が高い仕事、組織全体への影響が大きい仕事、他部署との調整が多く要る仕事、段取りが不明確で不確実性が高い仕事が挙げられました。こうした仕事を任せる場合は、上司が調整や不測の事態への備えを引き受ける必要があります。

Q4. シュルツは復帰後、まず何をしましたか?
新規出店の削減と不採算店の閉鎖を発表し、公開書状やオープンフォーラムで方針を直接伝えました。同時に、自らの報酬を減額し、社員の健康保険とストックオプションは維持しています。厳しい削減と、社員を大切にする姿勢を同時に示した点が講義で取り上げられました。


参考書籍


本記事はアフィリエイト広告(PR)を含みます。