
本記事は「MBAで学んだ組織行動とリーダーシップ」シリーズのDay1です。
この記事でわかること
- スパーク・コーポレーションのケースで、有能なミドルリーダーが視野狭窄に陥った経緯
- 視野狭窄の4つの原因(多忙・同一環境・好評価・貢献実感)と、その根にある「恐れ」
- パス・ゴール理論で見た、上司の交代がミドルに与える影響
- 最終回の振り返り課題に書いた気付きと、Day1の枠組みとの対応
1. 有能で信頼の厚いミドルが、なぜ判断を誤りかけたのか
Day1のケースは「山口正平とスパーク・コーポレーション」です。山口は1998年に入社し、一貫して複合機事業に関わってきた技術者です。業界初の機種の開発に成功し、2008年に開発グループリーダーに早期抜擢され、2016年からは事業戦略を描く企画グループリーダーを務めています。部下からの信頼も厚い。ケースに描かれる山口は、有能で挑戦心があり、誰からも謙虚に学ぶ人物です。
その山口が、2016年に会社が台湾の新北精密工業の傘下に入ったあと、追い詰められていきます。上司が交代し、自分が書いた計画は自分で説明できず、新聞には事業売却の記事が出る。山口は新しい上司の田代が「何かを隠している」と感じ、蚊帳の外に置かれたと落胆します。
ところが後半のBケースで田代が語ったのは、その時点で事業の方向は何も決まっていなかったという事実でした。
講義の問いは、ここにありました。能力も信頼も十分な人が、なぜ事実と違う絵を見てしまったのか。Day1は、この問いをミドルマネジャーが陥りやすい罠として扱った回です。
2. 視野狭窄の4つの原因と、その根にある「恐れ」
リーダーシップ理論の3つの段階
講義はまず、リーダーシップ理論の変遷から入りました。
| 段階 | 研究の対象 | 前提 |
|---|---|---|
| 特性理論(BE) | 有能なリーダーが生まれつき持っている特性 | リーダーは生まれつき |
| 行動理論(DO) | 優れたリーダーの取る行動 | リーダーは育成できる |
| 条件適合理論 | 集団の特性や直面している状況 | 有効なリーダーシップは状況に依存する |
この3段目に位置するのが、パス・ゴール理論です。リーダーの行動を指示型・支援型・参加型・達成指向型の4つに分け、どれが有効かは2つの状況変数で決まるとします。1つは環境要因(市場や競争、経営体制、タスクの構造や権限)、もう1つは部下の適合要因(自立性、経験、能力)です。リーダーは、この状況変数で足りない部分を「補う」行動を取る、という考え方です。
講義では、山口が順調に育った背景に、上司の笹山の存在があったと整理されました。有能で自発的な山口に対して、笹山は表に出る機会を多く与え、手取り足取り教えずにヒントだけを出す支援型の行動を取っていました。
ミドルマネジャーが視野狭窄に陥る4つの原因
ケースの討議では、山口が新北の経営陣から厳しい指摘を受けた場面、田代から計画作成を命じられた場面、売却報道を田代が否定した場面の3つで、山口の態度を考えました。そこから引き出されたのが、視野狭窄の4つの原因です。

| 原因 | 講義での説明 |
|---|---|
| 多忙による思考停止 | こなすことに懸命になり、発生した問題への対処で満足してしまう |
| 同一環境による視点の固定化 | 同じ業務・同じ関係者と長く仕事をすると、物の見方が固定化する |
| 好評価による現状肯定 | 高い評価が続き、厳しいフィードバックを聞かなくなると、自分の課題が見えなくなる |
| 貢献実感による盲目化 | 使命感の高揚が部分最適を招き、自分の責任範囲を狭く規定してしまう |
4つとも、山口の強みの裏返しになっています。講義ではこれを「担当分野の部分最適に陥り、全社の視座を持てない」というミドルの落とし穴として整理し、さらに一歩進めて、人を視野狭窄にさせる本質は「恐れ」であると示しました。
感情とセルフコントロール
もう1つの柱が、「変革の摩擦や問題のほとんどは感情を発端とする」という指摘です。思い入れのある仕事ほど防衛的になる。噂に振り回され、事実を確かめないまま判断する。山口が同期から聞いた「売却で確定らしい」という話を、田代への不信の根拠にしていったのは、まさにこの流れでした。
講義では、NVC(非暴力コミュニケーション)の考え方として、言葉(思考)の奥に感情があり、さらにその奥に「本当に大切にしたい願い(ニーズ)」があるという3層が紹介されました。感情には良いも悪いもなく、焦点を当てるのはニーズのほうです。
成人発達理論
成長の理論としては、ロバート・キーガンの成人発達理論が紹介されました。
| 段階 | 特徴 |
|---|---|
| 第2段階 | 利己的、道具主義的 |
| 第3段階 | 他者依存的、慣習的。コミュニティを優先する |
| 第4段階 | 自己主導。自分の価値体系を持ち、全体最適の視点で人を巻き込む |
| 第5段階 | 相互発達。自己を認識し、慈悲心を持つ |
仲間と工場を守ることを最優先していた山口は、Bケースで「会社にとってのベストは何か」を自分で考え直します。この変化は、第3段階から第4段階への移行と重ねて考えることができます。
3. IT運用の現場に置き換えると
ここからは、Day1の枠組みを、ITサービスの運用や常駐チームを率いるマネージャーの場面に当てはめて考えます。顧客企業と自社のあいだに立ち、上にも下にも外にも気を配る立場は、ケースの山口とよく似ています。
上司や顧客側の担当者が替わったとき
山口に起きたことを、パス・ゴール理論の状況変数で並べ直すと次のようになります。

講義では、この変化が「笹山:支援型→田代:指示型」「自己設定→命令」と整理されていました。環境要因と上司の行動が同時に変わり、山口がそれまで頼りにしていた「補ってくれる変数」が消えたことになります。
運用の現場では、顧客側の責任者が替わる、契約の見直しが入る、親会社の方針が変わる、といった場面がこれに当たります。前任者が任せてくれていた範囲が急に狭まったとき、それを「信頼されなくなった」と受け取る前に、環境要因の何が変わったのか、新しい相手は何を補おうとしているのかを確かめる問いになります。
視野狭窄の4原因を、自分への問いに変える
4つの原因は、そのまま点検の問いとして使えます。講義では10項目の「視野狭窄度チェックリスト」も配られました。その考え方を運用マネージャーの場面に当てはめると、次のような問いになります。
| 原因 | 運用マネージャーの場面に当てはめた問い |
|---|---|
| 多忙 | 障害対応や報告資料に追われ、発生した問題を片付けたことで満足していないか |
| 同一環境 | 同じ顧客、同じ関係者との仕事が何年も続き、相手の言いそうなことが予測できる状態になっていないか |
| 好評価 | 顧客や上司から注意される機会が減っていないか。それを「うまくいっている」と受け取っていないか |
| 貢献実感 | 「自分たちが現場を支えている」という思いが、顧客企業全体にとってのベストを考える妨げになっていないか |
4つ目は、山口が「工場の仲間を守る」ことを優先して、日本の工場を閉じる案を描けなかった場面と重なります。常駐チームを守る責任感が強いほど、顧客側の全体最適から見た選択肢を最初から外してしまう可能性があります。
噂ではなく事実を確かめる
山口は売却の噂と報道をもとに、田代が情報を隠していると考えました。運用の現場でも、契約更新や体制変更の話は噂が先に回ります。そのときに必要なのは、講義で示されたセルフコントロールの方法、つまり意図して冷却期間を置くこと、思考を切り替える機会を作ること、自分の考えを問い直すための自問のフレーズを持つことです。
4. 最終回の振り返り課題に書いていたこと
ここでは、最終回のDay6で提出した振り返り課題から、Day1の枠組みに置き直せる記述を拾います。振り返り課題の「実務における気付き」には、該当する記述が4つありました。

1つ目は、自分の役割についての記述です。振り返り課題には、自分がリーダーなのかマネージャーなのか、自分でも明確ではなかった役割について、少なくともどういったポリシーのもとで今の活動を行っているのかを明確にできるようになった、と書いています。Day1の氷山モデル(成果→行動→能力→意識)でいえば、見えている行動の下にある「意識」の層を言葉にした、ということになります。
2つ目と3つ目は、パス・ゴール理論の2つの状況変数に対応します。振り返り課題では、組織がどのステージにあるかを理解することで、適切な戦略とリーダーシップのスタイルを選べるようになったと書きました。これは環境要因の側です。部下の適合要因の側では、自社の社員のプロファイルを検討するなかで、「経営層との距離感」「顧客への遠慮」「英語への憧れ」といった特徴があることを見つけ、それを踏まえて伝え方を変えたと書いています。
4つ目は、振り返り課題の最後に書いた一文です。自分の活動だけでなく、他の現場のリーダーたちに共有してともに取り組むことで、組織の変化を速められることが大きな気付きだった、という内容です。Day1の「視野狭窄に陥らないための工夫」のうち、「外から自分を見る」に当たります。
ケースの場面を自分の立場に置き換えると
提出物にない部分は、ケースの場面を自分の立場に置き換えて考えるしかありません。
田代が「この計画は私自身が経営会議で説明する。君は参加しなくてよい」と告げた場面を、顧客側の責任者が自社の提案を自分だけで社内に説明すると言ってきた場面に置き換えてみます。山口と同じように「外された」と受け取ることはできます。一方で、田代は実際には提案を共に作る仲間を探していました。相手の行動だけを見て結論を出すと、相手の事情に気づく機会を自分で閉じることになります。
伊藤が山口に投げた「お前自身は、スパークにとって何がベストだと思うんだ?」という問いも、運用チームの立場に置き換えられます。自分のチームを守ることと、顧客企業にとってのベストを考えることは、必ずしも同じではない。その問いに即答できるかどうかが、視野狭窄から抜け出せているかの目安になると考えています。
5. 「自分にとってのベスト」を問い直す
関係の対立構造
講義の後半では、山口と田代のあいだで起きていた悪循環が図で示されました。

双方が相手の行動を見て感情を動かし、その感情から次の行動を取る。どちらも相手の内側にある事情を知りません。講義で投げかけられたのは「自分が認識できていないものは何か」という問いでした。
講義ではあわせて、組織の中での立場を加害者・被害者・傍観者・当事者・エルダーという5つのロールで捉える見方も示されました。売却報道のあとの山口は、自分を被害者の側に置いていたと考えられます。
山口と中野、2つの道筋
Day1には裏ケースとして、地方銀行の日本海銀行で業務改革に取り組んだ中野祐輔氏の話もありました。
| 山口(スパーク・コーポレーション) | 中野氏(日本海銀行) | |
|---|---|---|
| 守ろうとしたもの | 複合機事業と工場の仲間 | 現場とお客様のために作った業務システム |
| 組織の決定 | 事業売却の報道(実際は未決定) | 東都銀行とのシステム統合(プレスリリースで知る) |
| 転機 | 伊藤の「何がベストか」という問い | 提言書が日の目を見ず、退職を決意 |
| その後 | ゼロベースの事業計画を提案し、企画部長に昇格 | みなと情報システムに転職。近江銀行への提案が採用され「ゴー・バンク」として展開。10年後、東都銀行から提案依頼を受ける |
山口は組織の中で答えを出し直し、中野氏は組織の外で構想を実現しました。どちらが正しいという話ではありません。2人とも、葛藤のなかで自分が本当に実現したいことを手放さなかった点が共通しています。
葛藤は発達のサイン
講義の最後に示されたのは、成長についての考え方でした。Center for Creative Leadershipの調査では、リーダーが学びを得た出来事のうち、困難な経験が34%、チャレンジングなアサインメントが27%、他者から学ぶことが22%を占めます。
そして「葛藤(自分にとって不都合な現状)は発達のサイン」という言葉です。精神分析のビヨン理論から(「コンテナーとコンテイニング」)、もやもやした感情や思考を抱えたまま、そこに留まることの大切さも紹介されました。山口が伊藤の問いに答えられず、1週間部屋にこもって考えたのは、この「もやもやに留まる」時間だったと考えています。
6. まとめ
- スパーク・コーポレーションの山口は、有能で信頼も厚いミドルリーダーだったが、売却騒動のなかで事実と違う状況認識を持ってしまった
- 視野狭窄の4つの原因(多忙・同一環境・好評価・貢献実感)は、どれもミドルの強みの裏返しであり、講義ではその根に「恐れ」があると整理された
- パス・ゴール理論で見ると、上司の交代で環境要因とリーダー行動が同時に入れ替わっていた。上司や顧客側の担当者が替わったときに、何が変わったかを確かめる枠組みとして使える
- 山口と田代は、互いの行動を見て不信を深めていた。「自分が認識できていないものは何か」という問いが、悪循環を断つ入口になる
- 最終回の振り返り課題に書いた気付きのうち4つは、Day1の氷山モデル・パス・ゴール理論・視野狭窄を防ぐ工夫に対応していた
よくある質問(FAQ)
Q1. 視野狭窄の4つの原因とは何ですか?
多忙による思考停止、同一環境による視点の固定化、好評価による現状肯定、貢献実感による盲目化の4つです。講義では、これらの根にあるのは「恐れ」だと整理されました。
Q2. 視野狭窄から抜け出すにはどうすればよいですか?
講義では2つの方向が示されました。1つは自分の中を見ること(意図して冷却期間を作る、内省する、本当のニーズを知る)、もう1つは外から自分を見ること(他者の声を聴く、メンターを持つ、起きうる未来から考える)です。
Q3. パス・ゴール理論の「状況変数」とは何ですか?
リーダー行動の有効性を左右する条件で、環境要因(市場、経営体制、タスクの構造や権限)と部下の適合要因(自立性、経験、能力)の2つがあります。リーダーは、状況変数で足りない部分を補う行動を選びます。
Q4. 成人発達理論の段階とはどのようなものですか?
キーガンの理論では、利己的な第2段階、他者依存的でコミュニティを優先する第3段階、自己主導で全体最適の視点を持つ第4段階、相互発達の第5段階が示されます。講義では、葛藤を発達のサインとして捉える見方とあわせて紹介されました。
参考書籍
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