
コンテナ基盤としてEKS(Amazon Elastic Kubernetes Service、AWSのマネージドKubernetesサービス)を採用し、複数の事業部でクラスタを分散運用する数千人規模の企業では、情報システム部門やSRE(システムの安定稼働を担う運用エンジニア職)担当者がバージョンアップを後回しにしがちだ。日々の障害対応や新機能開発に追われるなか、EKSのコントロールプレーン(クラスタ全体の制御を担う管理層)のバージョン管理は優先度が下がりやすい。2026年7月29日、EKS 1.33の標準サポートが終了し、放置したクラスタは自動的にExtended Support(延長サポート、追加課金で旧バージョンの稼働を継続できる仕組み)へ移行する。移行後は1クラスタあたりの時間課金が6倍に跳ね上がる。本稿では放置コストを数字で示し、アップグレード稟議(社内の起票から承認までの意思決定プロセス)をいつ、どう組むべきかを整理する。
予備知識
- EKS(Amazon Elastic Kubernetes Service): AWSが提供するマネージドKubernetesサービス。コントロールプレーンの運用をAWSが代行する。
- Kubernetes: コンテナ化したアプリケーションを複数サーバーにまたがって自動運用するオーケストレーションソフトウェア。
- Extended Support(延長サポート): 標準サポート終了後も旧バージョンを追加課金で稼働し続けられるAWSの仕組み。
- コントロールプレーン: クラスタのスケジューリングやAPI処理を担う管理層。EKSではAWS側が管理する。
クラスタ棚卸しやバージョン管理を含む本番運用の勘所を体系的に押さえたい担当者向け。
EKS 1.33はすでに延長サポート課金に入っている
EKS 1.33の標準サポートは2026年7月29日に終了した[1]。AWSはEKSの各マイナーバージョンに対し、リリースから14か月間の標準サポートと、それに続く12か月間の延長サポートを提供する仕組みを取っている[1]。標準サポートと延長サポートを合わせた提供期間は26か月になる。標準サポート終了後、クラスタは自動的に延長サポートへ移行し、稼働自体は止まらない。ただし課金体系が切り替わり、追加費用が発生する。「動いているから大丈夫」という判断が、結果的に最もコストの高い選択になる。

EKSでの本番環境構築・運用を具体的な手順で学びたいエンジニア向け。
放置コストはいくらか、標準サポートと延長サポートの料金差
EKSの時間課金は、標準サポート期間中は1クラスタあたり0.10ドル(約15.5円、1ドル=155円換算)である[2]。延長サポート期間に入ると1クラスタあたり0.60ドル(約93円)に上がる[2]。追加分は0.50ドル(約77.5円)で、標準サポート時と比べて6倍の課金になる。730時間換算の月間コストで見ると、標準サポートが約73ドル(約1万1,315円)、延長サポートが約438ドル(約6万7,890円)。年間では標準サポートが約876ドル(約13万5,780円)、延長サポートが約5,256ドル(約81万4,680円)で、差額は1クラスタあたり年間約4,380ドル(約67万8,900円)に達する。事業部ごとに分散運用しているクラスタが10あれば、差額だけで年間4万3,800ドル(約679万円)の追加コストになる計算だ。
| 区分 | 時間課金 | 月間(730h換算) | 年間 |
|---|---|---|---|
| 標準サポート | $0.10(約15.5円) | 約$73(約1.1万円) | 約$876(約13.6万円) |
| 延長サポート | $0.60(約93円) | 約$438(約6.8万円) | 約$5,256(約81.5万円) |
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クラスタ棚卸しの進め方
放置コストを避ける第一歩は、稼働中のクラスタと搭載バージョンの棚卸しである。事業部ごとに分散運用していると、情報システム部門が全容を把握していないクラスタが残っているケースが少なくない。棚卸しでは、稼働中のEKSクラスタ一覧、各クラスタのKubernetesバージョン、標準サポート終了までの残日数の3点を最低限洗い出す。棚卸しの後は、影響範囲の大きいクラスタから優先順位をつけてアップグレード計画に落とし込む。ワークロードの依存関係(古いAPIやアドオンの利用状況)を確認しないまま先にバージョンだけ上げると、アプリケーション側で障害が起きるため、棚卸しの段階で依存関係の洗い出しも合わせて行う。

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いま稟議を組むならどう積むか
標準サポート終了日はすでに過ぎているため、必要なのは「間に合わせる」計画ではなく「課金を止める」計画になる。エンタープライズでは、アップグレード作業そのものより稟議と予算確保に時間がかかるぶん、対応が遅れるほど延長サポート課金が積み上がる。稟議には、先送りした月数ぶんの増分(1クラスタあたり月約365ドル、約5万6,600円)を費用対効果の根拠として明記すると承認が得やすい。バージョンを一段飛ばし(例: 1.31から1.33)で上げる場合は、各マイナーバージョンを順に経由する必要があるため、検証工数がさらに増える点も稟議の見積もりに含める。
| 時期 | 作業内容 |
|---|---|
| いますぐ | 稼働クラスタとバージョンの棚卸し、増分課金の実額を把握 |
| 1か月以内 | 稟議起票(先送り1か月ごとに積み上がる金額を明記) |
| 2か月以内 | テスト環境で検証、ワークロードの互換性確認 |
| 3か月以内 | 承認・予算確保、本番アップグレード実施 |
| 以降 | 次バージョンの標準サポート終了日を起点に、同じ棚卸しを定例化 |

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日本企業のシステム部門でEKS 1.33対応が後手に回りやすい理由
AWSの課金ルールと期限は世界共通で、日本企業でも延長サポートへの自動移行と6倍課金は同じタイミングで発生する。違うのは対応のリードタイムだ。日本企業ではEKS運用をSIer(システムインテグレーター、開発・保守を請け負う外部事業者)に委託しているケースが多く、アップグレード作業自体よりも、SIerとの契約変更や追加見積もりの取得に時間がかかる。加えて、内部統制上の変更管理プロセス(申請→レビュー→承認→実施)を経る必要があり、意思決定から着手までのリードタイムが長い。監査対応で変更履歴を残す必要がある企業では、テスト計画書やロールバック手順書の整備も稟議の前提になる。
| 観点 | 自社運用が主体の企業 | SIerへ保守委託する企業 |
|---|---|---|
| リードタイム | アップグレード実施までが比較的短い | 見積もり・契約変更を経るため長くなりやすい |
| 主なボトルネック | 検証工数、リソース調整 | SIerとの調整、内部統制上の変更管理承認 |
IT部門は延長サポート料金の増分を根拠にした稟議資料を、課金が積み上がる前に用意する必要がある。決裁側は、SIerとの保守契約更改のタイミングとEKSのサポート終了日がずれていないかを、費用の観点で確認すべきだ。
まとめ
EKS 1.33は2026年7月29日で標準サポートが終了しており、放置したクラスタはすでに延長サポートへ移行して時間課金が6倍になっている。IT部門の担当者は、稼働中クラスタの棚卸しとバージョン一覧の作成に今すぐ着手し、課金が積み上がる前にアップグレードの稟議を通すことが次の一手になる。決裁側は、放置した場合の延長サポート増分(1クラスタ年間約4,380ドル、約67万8,900円)と、SIerへのアップグレード委託費用を比較したうえで、稟議の承認時期を判断材料にすべきだ。バージョン管理を先送りするほど、コストは静かに積み上がる。
よくある質問(FAQ)
Q1. EKSの標準サポートが切れるとクラスタは止まりますか。
止まらない。標準サポート終了後は自動的に延長サポートへ移行し、稼働は継続するが課金額が上がる[1][2]。
Q2. EKSのバージョンアップにはどのくらいの期間が必要ですか。
ワークロードの検証を含めると、企業規模によるが数か月単位の準備期間を見込むのが一般的だ。1.33はすでに標準サポートを終えているため、いま着手しても数か月は延長サポート課金が続く前提で計画する。次バージョン以降は、標準サポート終了日から逆算して3〜4か月前に着手するのが目安になる。
Q3. 延長サポートの追加課金を止めるにはどうすればいいですか。
クラスタのKubernetesバージョンを標準サポート対象のバージョンへアップグレードすれば、延長サポートの追加課金は発生しなくなる[2]。
出典
[1] Amazon Web Services, “Review release notes for Kubernetes versions on standard support”(2026) https://docs.aws.amazon.com/eks/latest/userguide/kubernetes-versions-standard.html[2] Amazon Web Services, “Amazon EKS extended support for Kubernetes versions pricing”(2024) https://aws.amazon.com/blogs/containers/amazon-eks-extended-support-for-kubernetes-versions-pricing/




