
Microsoftは2026年6月29日、Microsoft FoundryでのClaudeの一般提供を発表し、推論をAzure上で行う「hosted on Azure」を打ち出した[1]。ただし処理地として選べるのはGlobalと米国のデータゾーンだけで[1]、EUやアジア太平洋に処理を限定する区分は2026年9月時点でも用意されていない[2]。同じFoundryでAzure OpenAIが使うデプロイ種別には、米国・EU・アジア太平洋のデータゾーンがある[3]。
欧州の利用者の反応はこの点に集まった。InfoQが拾ったRedditの書き込みには、オランダの大手銀行が同じ理由でFoundry経由のAnthropicモデルの利用を認めていない、という実務者の証言がある[4]。日本から見ても条件は厳しい。Claudeを配置できるAzureリージョンに日本は含まれず[5]、データゾーンは米国しかない[2]。
予備知識
- 第一者提供モデル: Azureが販売し、Azure自身がホストして運用するモデル。Azure OpenAIの全モデルが含まれる[6]。
- 第三者提供モデル: 外部ベンダーが販売・運用するモデル。Foundry上のClaudeはAnthropicのMarketplace製品で、Anthropicがプロンプトと出力について独立したデータ処理者になる[7]。
- デプロイ種別: 推論データの処理地を決める区分。Globalは任意のAzureリージョン、Data Zoneは米国・EU・アジア太平洋(APAC)のいずれかの圏内、リージョン型(StandardとRegional Provisioned)は指定したAzureの地域の中で処理する[3]。
- データレジデンシー: 処理・保存されるデータの物理的な所在地を特定の地域・国に限定する仕組み・保証。
第三者提供AIモデルの調達可否をガバナンス体制の中でどう判断するか、実務フレームワークとして整理できる
Azure OpenAIとFoundry経由Claudeの構造の違い
Azure OpenAIでも、処理地が自動でリージョン内に閉じるわけではない。MicrosoftはGlobal系のデプロイ種別について「任意のAzureリージョンで処理されうる」と説明している[3]。処理地を絞るには、Data Zone(米国・EU・APAC)かリージョン型(StandardまたはRegional Provisioned)を選ぶ[3]。Azure OpenAIの特徴は、この3段階から選べることと、推論をAzure自身が運用することにある[6]。
Foundry経由のClaudeは、デプロイの設定時にHosted on AzureとHosted on Anthropic infrastructureのどちらかを選ぶ[2]。どちらでもAnthropicが運用者であり、プロンプトと出力について独立したデータ処理者になる[7]。Hosted on Azureでは、リクエストの受け付けからGPU推論までをAzureのインフラで処理し、保存データは選んだAzureの地域に置く[7]。Hosted on Anthropic infrastructureについて、Microsoftは「選択したAzureリージョンの外を含め、Azureの外で処理されることがある」と書いている[7]。ポータルで既定の設定のままデプロイすると、両方式に対応したモデルはHosted on Azureになる[2]。
Claude in Microsoft Foundry is now generally available, hosted on Azure. Azure customers get Claude Opus 4.8 and Claude Haiku 4.5, with Azure authentication, billing, and commitment retirement.
— Claude (@claudeai) 元投稿を見る
Hosted on Azureで選べる処理範囲は、2026年9月時点でGlobal StandardとUS Data Zone Standardの2つだ[2]。Data Zoneを選ぶとUS Data Zone Standardのデプロイになり、推論は米国内に留まる[2]。EUやAPACのデータゾーンはなく、Hosted on Anthropic infrastructureで選べるのはGlobal Standardだけになる[2]。
Hosted on Azureに対応するモデルも限られる。対象はOpus 5、Opus 4.8、Sonnet 5、Haiku 4.5で、Fable 5.1などはHosted on Anthropic infrastructureでしか使えない[2]。コード実行、Files API、Agent Skills、プログラムによるツール呼び出しもHosted on Azureでは使えない[2]。新しいモデルや機能を求めるほど、Azureの外で処理されうる方式に寄っていく。

AIモデルの推論先が国外インフラになる場合の越境移転リスクを、法務部門と共通言語で検討する助けになる
例外的にデータがAzure境界を越える仕組み
Hosted on Azureを選んでも、すべてがAzureの中で完結するわけではない。Anthropicのドキュメントは、Azureでホストするデプロイではプロンプトと出力がAzure内に留まるとしたうえで、「Anthropicへ出ていくのは、利用メタデータと、Anthropicの安全性システムが検知したコンテンツだけ」と書いている[2]。Microsoftのドキュメントも、自動セーフガードが検知したコンテンツはAnthropicのTrust and Safetyのレビューに回ることがあり、安全性違反の調査のためにAnthropicの担当者が例外の場合に限って顧客コンテンツを確認すると説明している[7]。

EU向けの提供時期も固まっていない。Anthropicの地域コンプライアンスのページは、Microsoft Foundryの欧州・アジア太平洋・カナダをいずれも「Coming 2026」としており、日付はない。同じ表でAWS BedrockとGoogle CloudのVertex AIには、米国を含む4地域すべてに提供済みの印が付いている[8]。Microsoft Q&Aには2026年4月22日、EUデータゾーンで推論が動く時期を問う質問が投稿された。4月25日に2件の回答が付き、Microsoftの外部スタッフは「2026年という公表済みの目標」に触れたが、具体的な時期は示していない[9]。
社内に数千アカウント規模でAIアシスタントを展開し、Amazon Bedrock経由でOpenAIのモデルを利用しているSIerの情報システム部門を想定する。月間のトークン消費量が増えるにつれ推論コストが無視できない規模になってきた一方、[…]
採用可否をどう判断するか——ワークロード単位での切り分け
GDPRがEU域外への移転に求めるのは、処理をEU内に閉じることではなく、移転の法的根拠だ。欧州委員会は、適切な保護措置を定めた契約条項、とくに委員会が事前に承認した標準契約条項を、EUから第三国への移転の根拠に使えると説明している[10]。ただし、EU内での処理そのものを調達条件にしている組織もある。InfoQが紹介した外来がん診療のITアーキテクトは、EU内での推論が保証されることを必須要件としてAzure OpenAIを使っていると書いている[4]。
このため判断はワークロード単位で分ける。越境移転規制の対象データを含まなければ、Foundry経由のClaudeも候補に入れて比較できる。含む場合は、Claudeでなければならない理由があるかで分ける。なければAzure OpenAIのデータゾーンかリージョン型で処理地を限定し、あれば標準契約条項などの移転根拠を整えたうえで個別に承認する。

処理地の制約は、デプロイ種別の段階で止められる。Microsoftは、特定のデプロイ種別の作成をAzure Policyで禁止する定義例を公開しており、判定条件はリソースの種類とSKU名(例はGlobalStandard)だ[3]。Microsoftの公式サンプルも、Claudeを同じリソースの種類とSKU名GlobalStandardで作成している[11]。個人データを扱うサブスクリプションでGlobalStandardを禁止すれば、Claudeで作れるのはHosted on AzureのUS Data Zone Standardだけになる(Azure OpenAIのGlobal Standardも作れなくなる)。
数百〜数千人規模で社内向けAIチャットボットやエージェントをAzure OpenAI Assistants API(会話履歴やツール呼び出しの状態管理をAzure側が肩代わりするAPI)上に構築し、内部統制上の変更管理プロセスを経て本番投[…]
日本から使う場合のリージョンと処理地
Microsoftの対応表(2026年9月1日更新)では、ClaudeのGlobal Standardを配置できるのは米国内のリージョンとスウェーデン中部で、アジア太平洋の列(オーストラリア東部、東日本、西日本、韓国中部、インド南部)にClaudeは載っていない[5]。Foundryのモデルは配置先のリージョンにプロジェクトを置く必要があるため[5]、日本のリージョンのプロジェクトからはClaudeをデプロイできない。
Azure OpenAIは事情が違う。Data Zone StandardのAPACは東日本(Japan East)からデプロイでき、2026年9月3日更新の対応表ではgpt-5.4やgpt-5.6-solが対象に入っている[12]。ただしAPACデータゾーンの処理範囲は「アジア太平洋のいずれかの国」で、日本国内とは限らない[12]。日本国内に限るならリージョン型のStandardを東日本で使うことになるが、対象はgpt-4o、gpt-4.1-mini、埋め込みモデルなどに限られる[12]。予約型のRegional Provisionedなら、東日本でgpt-5系を含む15件が対象になる[12]。
| 項目 | Azure OpenAI | Foundry経由Claude |
|---|---|---|
| 推論の運用者 | Azure | Anthropic(独立したデータ処理者) |
| 日本のリージョンからのデプロイ | できる(東日本) | できない |
| 処理を日本国内に限定 | Standard(東日本)は一部のモデルのみ。Regional Provisioned(東日本)はgpt-5系も可 | 不可 |
| 処理をアジア太平洋に限定 | Data Zone Standard(APAC)で可 | 不可(Anthropicは「Coming 2026」) |
| 処理をEUに限定 | Data Zone Standard(EU)で可 | 不可(Anthropicは「Coming 2026」) |
出典: Microsoft[5][6][7][12]、Anthropic[2][8]。2026年9月時点。
個人情報保護法の側では、クラウドの利用が個人データの「提供」に当たるかどうかは、クラウド事業者が個人データを取り扱うことになっているかで決まる。個人情報保護委員会のQ&A(Q7-53)は、取り扱わない場合の例として、契約条項で事業者がサーバ上の個人データを取り扱わない旨を定め、適切にアクセス制御していることを挙げている[13]。Foundry経由のClaudeでは、Anthropicがプロンプトと出力について独立したデータ処理者として振る舞い、安全性違反の調査では担当者が顧客コンテンツを確認することがある[7]。「クラウドなので提供に当たらない」という整理をそのまま当てはめられるかは、Anthropicの条項を読んで法務と決める論点になる。
提供に当たらない場合でも、同じQ&A(Q10-25)は、外国の事業者のクラウドを使うなら事業者とサーバの所在国を明らかにし、その国の制度を把握したうえでの措置を本人が知りうる状態に置くよう求めている[13]。Global Standardの推論はどのAzureリージョンでも行われうるため[3]、処理地を説明する場面では米国と言い切れるUS Data Zone Standardのほうが扱いやすい。
まとめ
Foundry経由のClaudeは、Hosted on Azureでも運用者はAnthropicで、処理範囲はGlobal StandardかUS Data Zone Standardに限られる。EUとアジア太平洋のデータゾーンはなく、日本のリージョンにも配置できない。安全性システムが検知したコンテンツはAzure境界の外へ出る。
手を付けるのは、既存のClaudeデプロイの棚卸しからになる。デプロイごとにモデルバージョン(1がHosted on Anthropic、2がHosted on Azure)とRegion scopeを確認し[2]、個人データを流すものがGlobal StandardやHosted on Anthropic infrastructureになっていないかを洗い出す。そのうえで、個人データを扱うサブスクリプションにはGlobalStandardを禁止するAzure Policyを割り当てる[3]。Anthropicの地域コンプライアンスのページで「Coming 2026」が具体的な日付に変わった時点で[8]、ワークロードの切り分けを見直す。
よくある質問(FAQ)
Q1. Foundry上のモデルはすべて同じデータレジデンシー保証を受けられるか。
受けられない。Azure OpenAIはData Zone(米国・EU・APAC)やリージョン型(StandardまたはRegional Provisioned)で処理地を限定できるが[3]、Claudeで選べるのは2026年9月時点でGlobal StandardとUS Data Zone Standardだけだ[2]。
Q2. EUやアジア太平洋のデータゾーンでClaudeを使えるのはいつか。
Anthropicの地域コンプライアンスのページは、Microsoft Foundryの欧州とアジア太平洋を「Coming 2026」としており、日付はない[8]。Microsoft Q&Aの回答も「2026年という公表済みの目標」に触れるにとどまる[9]。
Q3. Global Standard配置は完全にランダムな場所で処理されるのか。
ランダムではなく、空きのあるデータセンターへ動的に振り分けられる[3]。どのAzureリージョンでも処理されうるため、処理地を事前に特定できない点がData Zoneとの違いになる。
Q4. Hosted on Azureならデータは一切Anthropicに渡らないか。
渡る。利用メタデータと、安全性システムが検知したコンテンツはAnthropicへ送られる[2]。
出典
[1] Claude in Microsoft Foundry is now generally available(Microsoft Azure Blog, 2026-06-29)[2] Claude in Microsoft Foundry(Claude Platform Docs)
[3] Deployment types for Microsoft Foundry Models(Microsoft Learn)
[4] Claude Reaches GA on Microsoft Foundry: European Enterprises Cannot Deploy It(InfoQ, 2026-07-05)
[5] Foundry Models from partners and community(Microsoft Learn)
[6] Foundry Models sold by Azure(Microsoft Learn)
[7] Data, privacy, and security for Claude models in Microsoft Foundry(Microsoft Learn)
[8] Regional Compliance(Claude by Anthropic)
[9] Timeline for Claude in Microsoft Foundry to run on Azure EU infrastructure(Microsoft Q&A)
[10] Standard Contractual Clauses (SCC)(European Commission)
[11] Azure-Samples/claude: infra-bicep/infra/foundry.bicep(GitHub)
[12] Region availability for Foundry Models sold by Azure(Microsoft Learn)
[13] 「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」に関するQ&A(個人情報保護委員会)

