
AWSは2026年8月21日、AWS Glue 6.0の一般提供を始めた[1]。Glue 6.0で動かすジョブは、Glue 5.1比でDPU時間あたりの料金が30%下がる[2]。実行基盤はApache Spark 4.1・Python 3.13・Scala 2.13に更新され、テーブルフォーマットのApache Iceberg v3にも対応した[1]。
値下げは、ジョブのGlueバージョンを6.0に切り替えた時点で効く。一方でSpark 4.1への更新には既存コードが動かなくなる変更が含まれ、Iceberg v3への移行はテーブル単位の一方向の変更で、上げたテーブルはAthena SQLから読めなくなる[3]。同じリリースに、判断の単位が違う3つの変化が入っている。
予備知識
- AWS Glue: AWSが提供するサーバーレスのETL(データ抽出・変換・格納)サービス。Apache Sparkを実行基盤に使う。
- DPU(Data Processing Unit): Glueの処理能力と課金の単位。1 DPUは4 vCPU・16GBメモリで、料金は使ったDPU数と実行時間(秒単位)で決まる[4]。
- Apache Iceberg: 巨大なテーブルを複数の処理エンジンから安全に読み書きできるようにする、オープンなテーブルフォーマット。仕様のバージョン(format-version)はv3まで確定している[5]。
- 削除ベクター(Deletion Vector): 削除した行の位置を、データファイルごとのビットマップで記録する仕組み。Iceberg v3で加わった[5]。
- VARIANT型: JSON等の半構造化データを、スキーマを固定せずに格納できるデータ型。
Iceberg v3で追加された機能を理解する前提として、テーブルフォーマットの基本構造を押さえられる。
AWS Glue 6.0で何が変わったのか
AWSのBig Data Blogによると、Glue 6.0で動くジョブはGlue 5.1比でDPU時間あたり30%安くなり、ジョブ設定の変更は要らない[2]。料金ページでは、Glue 2.0〜5.1のSparkジョブが同じ単価で、6.0以降だけが安い単価になっている[4]。5.1より前のバージョンから移る場合も、単価の下げ幅は同じ30%である。AWSが3TB規模のTPC-DSベンチマーク(G.2Xワーカー30台、S3上のParquet)で試算したコストは、Glue 5.1の8.87ドルに対し6.0は5.61ドルだった[2]。単価の差に実行時間の短縮が重なった結果で、AWS自身が測った値である。
実行基盤の更新に伴い、Spark宣言的パイプライン(Spark Declarative Pipelines)によるオーケストレーションコードの削減、サブ秒レイテンシーのリアルタイムモードストリーミング、PySparkの処理を高速化するArrowネイティブのPython UDFも使えるようになった[1]。

新規ジョブはコンソールのGlue versionで6.0を選べばよく、APIの変更は要らない[6]。既存ジョブの移行には、生成AIを使ったアップグレードエージェント(Generative AI Upgrade Agent for Apache Spark)を使える[1]。対象はGlue 2.0以降のジョブである[3]。

AWS GlueをS3・Athena・Lake Formationと組み合わせたデータレイク構築の全体像を、日本語で体系的に学べる。
Apache Iceberg v3対応で何が使えるようになるか
Glue 6.0はIceberg 1.11.0を搭載し、v3仕様の機能に対応した[2]。発表で挙げられた主な機能は次のとおり[1][6]。
| Iceberg v3の機能 | 何が変わるか |
|---|---|
| 削除ベクター | v2の位置削除ファイルに代わり、データファイルごとのビットマップで削除行を記録する |
| VARIANT型 | JSON等の半構造化データをスキーマ固定なしで格納できる。Glueは中身を列単位に自動で分解し、読み取りを速める |
| geometry / geography型 | 位置情報などの空間データをテーブル内で扱える |
| ナノ秒精度のタイムスタンプ | v2までのマイクロ秒より細かい、ナノ秒単位の時刻を記録できる[5] |
| UNKNOWN型・DEFAULT列値 | 型が未定の列を置ける。列を追加したとき、既存行を書き直さずに既定値を当てられる |
これらの機能は、既存のIcebergテーブル(v2形式)のままでは使えない。テーブルのformat-versionを3に上げる必要があり、Glue 6.0への移行とは別の判断になる。
削除ベクターは、データファイルの書き直しをなくす機能ではない。v2でも、行の削除や置き換えはデータファイルを書き直さずにできる[5]。v2は削除した行を位置削除ファイルに記録し、v3はそれを、データファイルごとのビットマップ(削除ベクター)に置き換える。v3のテーブルには新しい位置削除ファイルを追加できず、1つのデータファイルに対する削除ベクターはスナップショット内で1つに限られる[5]。読み取り時は複数の削除ファイルを読む代わりに、圧縮されたビットマップを読めばよくなる[2]。AWSが更新の多いCDC(変更データキャプチャ)のテーブルで比べた例では、v3テーブルの読み取りはv2の1.5倍以上速かった[2]。
What’s Newの発表文は削除ベクターを6.0の機能に並べているが[1]、AWSの移行ガイドによると、削除ベクター自体はGlue 5.1のETLですでに使えた。移行ガイドが6.0の新機能として挙げるのは、VARIANT型・ナノ秒精度のタイムスタンプ・空間データ型である[3]。
v3への変更は一方向で、上げたテーブルはv2に戻せない[3]。Icebergの仕様は、実装が自分の対応するより新しいformat-versionのテーブルを読むと例外を投げるよう定めており[5]、v3に上げたテーブルはv3非対応のエンジンから読めなくなる。AWSの移行ガイドも、format-versionを3にしたテーブルはAthena SQLから読めない(エラーはCannot read unsupported version 3)とし、Athenaと共有するテーブルはv2のままにするよう勧めている。v3の新しいデータ型はSpark DataFrameでしか使えず、DynamicFrameとGlue StudioのVisual ETLは対応していない。VARIANT列には細かいアクセス制御(FGAC)もかけられない[3]。

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移行を判断する上での注意点
Glue 5.1のSpark 3.5.6から6.0のSpark 4.1.1への更新は、メジャーバージョンの更新にあたる。AWSの移行ガイドは、既存ジョブが動かなくなる変更として次を挙げている[3]。
| 変更点 | 影響を受けるジョブ | 対応 |
|---|---|---|
| ANSIモードが既定で有効 | 整数のオーバーフロー・不正なキャスト・配列の範囲外参照を含むSQL処理 | NULLを返していた箇所が例外になる。spark.sql.ansi.enabled=falseで旧挙動に戻せる |
| Scala 2.12→2.13 | Scala 2.12でビルドした独自JARを使うジョブ | Scala 2.13.17で再ビルドする |
| AWS SDK for Java v1の削除 | com.amazonaws.*を使うScala/Javaジョブ | SDK v2へ書き換える。Pythonのboto3はそのまま使える |
| EMRFSの削除 | EMRFS固有の設定を持つジョブ | 設定を外す。S3へのアクセスはS3Aに一本化される |
| Python 3.11→3.13 | 3.12・3.13で削除されたモジュール(imp・cgiなど)を使うPySparkジョブ | それらのモジュールを使わない書き方に直す |
| SQLContextの削除 | SQLContextを使うコード | SparkSessionを直接使う |
PySparkで書かれ、–extra-jarsで外部JARを読み込まず、AWSの呼び出しをboto3で行っているジョブは、Scala・SDKの項目には当たらない。独自のScala/Java JARを持つジョブほど作業が増える。日付・時刻のパースの既定(spark.sql.legacy.timeParserPolicy)も変わっており、パース結果が変わる場合がある[3]。例外で止まる変更はテスト実行で見つかるが、パース結果の違いは出力を突き合わせないと見つけにくい。ステージングで旧バージョンと6.0の出力を突合する検証が要るのはこのためである。
単価の下げ幅はどのジョブでも30%だが、削減額はDPU時間に比例する。移行はDPU時間の大きいジョブ、つまり請求額の大きいジョブから進めると、効果が早く請求に表れる。

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東京・大阪リージョンでの提供と料金
Glue 6.0は、すべての商用リージョンとAWS GovCloud(US)、AWS中国リージョンで提供されている[1]。Glueのエンドポイント一覧には東京(ap-northeast-1)と大阪(ap-northeast-3)が含まれ[7]、国内の2リージョンでも6.0を選べる。単価も両リージョンで同じである[4]。
| 項目 | 東京(ap-northeast-1) | 大阪(ap-northeast-3) |
|---|---|---|
| Glue 6.0の提供 | あり | あり |
| Sparkジョブ単価(Glue 2.0〜5.1) | 0.44ドル/DPU時間 | 0.44ドル/DPU時間 |
| Sparkジョブ単価(Glue 6.0以降) | 0.308ドル/DPU時間 | 0.308ドル/DPU時間 |
単価は2026年9月時点のAWS Glue料金ページの表示で、米国東部(バージニア北部)とも同額である。柔軟な実行(Flex)の単価も、0.29ドルから0.203ドルへ同じ比率で下がっている[4]。東京と大阪にジョブを分けて置く構成でも、6.0にそろえた後の単価はリージョンで変わらない。
まとめ
Glue 6.0の値下げは、ジョブのバージョンを切り替えれば効く。Spark 4.1への更新とIceberg v3への移行は、それぞれ別の検証と判断を伴う。
最初に手を付ける作業は2つある。1つは、Athenaなどほかのエンジンからも読んでいるIcebergテーブルを洗い出し、v3に上げない対象として決めておくこと。もう1つは、DPU時間の大きいジョブから移行ガイドのチェックリスト(Scala 2.13での再ビルド、SDK v1の除去、ANSIモードの影響)を当て、ステージングで出力を突き合わせてから本番を6.0に切り替えることである。
よくある質問(FAQ)
Q. AWS Glue 6.0への移行は必須ですか。
A. 必須ではない。コンソールでは3.0〜5.1も引き続き選べる[6]。ただし30%安い単価が適用されるのは6.0以降のジョブだけである[4]。
Q. Iceberg v3の新機能を使うには、テーブルを作り直す必要がありますか。
A. 作り直しは要らず、テーブルのformat-versionを3に上げる。v2時代の位置削除ファイルは、上げた後も有効なまま扱われる[5]。ただし上げたテーブルはv2に戻せず、Athena SQLからは読めなくなる[3]。
Q. Spark 4.1への更新で、既存のジョブが動かなくなることはありますか。
A. ある。AWSの移行ガイドは、Scala 2.12でビルドしたJAR、AWS SDK for Java v1を使うコード、EMRFS固有の設定を非互換として挙げている。ANSIモードが既定で有効になり、これまでNULLを返していたオーバーフローや不正なキャストは例外になる[3]。
Q. 東京・大阪リージョンでGlue 6.0は使えますか。
A. 使える。Glue 6.0はすべての商用リージョンで提供されており[1]、東京・大阪ともにSparkジョブの単価は1 DPU時間あたり0.308ドルである[4]。

