Azure MonitorのSLO標準搭載、監視ツール契約は見直すべきか

数千人規模でAzure MonitorとDatadogを併用し、年次のコスト監査で監視ツール契約の妥当性を問われる企業のITインフラ担当者は、今回の発表を無視できない。対象はマイクロソフトのAzure Monitor、具体的にはSLI(サービスレベル指標)とSLO(サービス品質の目標値)を管理する新機能である。米マイクロソフトは2026年4月29日にこの機能をプレビュー公開し[1]、2026年6月2〜3日開催のBuild 2026に合わせた観測性関連発表を経て[3]、2026年6月11日に一般提供(GA)を発表した[2]。Service Groups(複数のAzureリソースをまとめる論理単位)ごとにSLIを定義し、エラーバジェットとバーンレートアラートを1画面で管理できる標準機能で、これまでDatadogなどのAPM(アプリケーション性能監視)ツールが担ってきた領域と重なる。監視ツールの契約更新時期を迎える情報システム部門にとって、外部ツールを維持するかAzure標準機能へ寄せるかの判断材料が新たに増えたことになる。本稿は機能の実態と契約見直しの論点を整理する。

予備知識

  • SLI(サービスレベル指標): 可用性やレイテンシーなど、サービスの品質を数値で表す指標。
  • SLO(サービス品質の目標値): SLIに対して「どこまで守るか」を定めた達成目標の値。
  • エラーバジェット: SLOで許容される失敗の残り枠。使い切ると新機能リリースを止めるといった判断材料になる。
  • バーンレートアラート: エラーバジェットの消費速度が速すぎるときに発報する警報。
  • OTel(OpenTelemetry): アプリの計測データを収集するオープンソースの業界標準規格。

Azure Monitorの新機能をどう設定するか以前に、SLI/SLOをどう定義すべきかという設計思想を体系的に学べる

Azure MonitorのSLI/SLO機能とは何か——Build 2026で標準搭載された中身

Azure MonitorのSLI/SLO機能は、Service Groups単位でサービス品質指標を定義し、エラーバジェットとバーンレートアラートを1つの画面で管理できる標準機能である[2]。この機能は2026年4月29日にプレビュー公開され[1]、Build 2026(2026年6月2〜3日、米サンフランシスコ開催)に合わせた観測性関連発表の一つとして紹介された後[3]、2026年6月11日にGAとなった[2]。SLIはService Groups(複数のAzureリソースをまとめた論理的な単位)の粒度で定義し、可用性とレイテンシーをrequest-based(リクエスト単位)またはwindow-based(時間窓単位)のいずれかで評価する[2]。SLO目標はAzure OTelおよびPrometheusメトリクスに対して設定でき、エラーバジェットの消費速度をFast burn(短期間の急激な消費を検知)とSlow burn(長期間の持続的な消費を検知)の2種類のバーンレートアラートで検知する[2]。これまで自前でダッシュボードとアラートルールを組んでいた領域が、標準機能として提供される形になった。

Service GroupからSLI定義、SLO目標設定、エラーバジェット管理、バーンレートアラートまでの流れを示す図
Service Group単位のSLI/SLO管理フロー

Azure MonitorとDatadogへ同じテレメトリを並行送信する構成を組む前提となるOTelの仕組みを理解できる

外部APMツールの機能とどこが重なるのか——Datadogとの比較で見る

Azure MonitorのSLO機能は、DatadogなどのAPM(アプリケーション性能監視)ツールが提供してきたSLO管理・エラーバジェット・バーンレートアラートと重複する領域を持つ[2][5]。Datadogの公式料金ページでは、APMは1ホストあたり月額31ドル(年間契約時。約4,805円、1ドル=155円換算)、APM Proは35ドル(約5,425円)、Continuous Profilerを含むAPM Enterpriseは40ドル(約6,200円)となっており、SLO機能自体はAPMの各プランに含まれず「Service Management」という別カテゴリの製品として扱われている[5]。Azure Monitor側はService Groupsという既存のAzureリソース管理単位をそのまま使えるため、監視対象の棚卸しをAzure Resource Managerの構成情報から始められる点が特徴になる。

比較項目Azure Monitor SLI/SLO(GA)一般的な外部APMツール(Datadog等)
対象データソースAzure OTel・Prometheusメトリクス自社エージェント+OTel/Prometheus対応
SLI定義単位Service Groups(Azureリソースの論理単位)サービス/タグ単位(ツール独自定義)
評価方式request-based/window-basedツールにより異なる(同様の方式を持つ製品もあり)
バーンレートアラートFast burn/Slow burnの2種標準搭載[2]多くは追加設定または別料金の対象
SLO機能の位置づけAzure Monitorの標準機能APMとは別カテゴリの製品として課金[5]

数字だけを見ると、SLO管理をAzure標準に寄せることで外部ツールのService Management分の費用を削減できる余地がある。ただし、Datadogで既に構築したダッシュボードやアラートルール、異常検知の学習データはAzure Monitorへそのまま移行できない。

Datadog APMプラン別料金(1ホストあたり月額・年間契約時)
クラウド/コスト

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OTel/Prometheus対応は監視ツール選定にどう影響するか——計装とロックインの実務

Azure MonitorのSLI/SLO機能がAzure OTelおよびPrometheusメトリクスに対応したことで、既存のOpenTelemetry計装コードを変更せずに複数の監視基盤へ並行送信できる構成が現実的になった[2]。同時期にGAとなった「Direct OpenTelemetry ingestion」は、既存のOTel計装とOTelコレクターのパイプラインをそのまま使い、Application Insightsでの調査、Log Analyticsでの分析、Prometheusメトリクスストレージ+Grafanaでの可視化へテレメトリを送れる仕組みである[4]。計装コード自体はOTel標準に沿っているため、Azure MonitorとDatadogのどちら向けにも同じデータを送るコレクター構成を組める。ロックインが解けるのは計装層までで、ダッシュボードの見た目やアラートのしきい値、既存のオンコール運用フローはツールごとに作り直しが必要になる。契約更新の判断では、計装コードの移行コストとダッシュボード・運用フローの再構築コストを分けて見積もる必要がある。

アプリケーションからOpenTelemetry計装、OTelコレクター経由でAzure MonitorとDatadogへ並行送信される構成を示す図
OTelパイプラインの並行送信構成
クラウド/コスト

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SIer保守契約と稟議フローが監視ツール見直しを遅らせる構造

同じ機能重複は日本企業でも起きるが、契約更新のタイミングが早く動きにくいという違いがある。多くの企業はAzure MonitorやDatadogの運用をSIer(システムインテグレーター)に保守委託しており、機能重複の精査自体がSIer側の提案に依存しがちである。年度予算の稟議は前年度中に確定するため、6月のGA発表を当年度の契約更新にそのまま反映するのは難しく、次年度予算の検討材料として持ち越されやすい。SLA報告の様式が監査・内部統制の要件で固定されている場合、監視ツールを切り替えると報告フォーマットの変更申請が別途必要になり、機能面の優位性だけでは意思決定が進まない。

論点IT部門の判断決裁側の判断材料
機能重複の精査Datadog等の現行契約でSLO/APM機能の利用範囲を棚卸し、Azure Monitorでの代替可否を検証精査工数をSIerの保守契約範囲内に含めるか追加発注するかを判断
契約更新のタイミング次年度予算の稟議に間に合うよう検証結果を早めに提出コスト削減交渉の材料として次回更新時期を待つか前倒し交渉するかを判断
現行ツールの機能棚卸しからAzure Monitor代替評価、稟議申請、契約更新判断までの流れを示す図
監視ツール契約見直しの実務フロー
コスト

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まとめ

Azure MonitorのSLI/SLO機能はGAにより標準化されたが、DatadogなどのAPMツールを即座に代替できるわけではない。ダッシュボードやアラートルール、運用フローの再構築コストが残るためだ。IT部門の次の一手は、現行の外部APMツールでSLO・エラーバジェット機能をどこまで使っているか棚卸しし、Azure Monitor側で代替できる範囲を検証することである。決裁側は、次回の契約更新時期を待たず、この機能重複を交渉材料として早めにSIerへ提示できるか判断してほしい。標準機能の追加は、契約を切り替える理由にはなっても、切り替えを決める理由そのものにはならない。

よくある質問(FAQ)

Q1. Azure MonitorのSLI/SLO機能はいつからGAですか。
A. 2026年4月29日にプレビュー公開され、2026年6月11日にGA(一般提供)となった[1][2]。

Q2. Datadogなど既存のAPMツールをすぐ解約できますか。
A. 機能面では重複するが、既存のダッシュボードやアラートルールはそのまま移行できないため、即時の解約判断には向かない[2][5]。

Q3. 計装コードを書き直す必要はありますか。
A. OTel(OpenTelemetry)標準に沿った計装であれば、Azure MonitorとDatadogの双方へ並行送信できるため、書き直しは不要な場合が多い[4]。

出典

[1] Microsoft Tech Community, “Azure Monitor Service Level Indicators (SLI)” (2026-04-29) https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/azure-monitor-service-level-indicators-sli/4507445

[2] Microsoft Tech Community, “Azure Monitor SLIs now Generally Available” (2026-06-11) https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/azure-monitor-slis-now-generally-available/4523689

[3] Microsoft Tech Community, “What’s new in Observability at Build 2026” https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/what%E2%80%99s-new-in-observability-at-build-2026/4524927

[4] Microsoft Tech Community, “Direct OpenTelemetry ingestion into Azure Monitor is now generally available” https://techcommunity.microsoft.com/blog/azureobservabilityblog/direct-opentelemetry-ingestion-into-azure-monitor-is-now-generally-available/4524044

[5] Datadog, “Pricing” https://www.datadoghq.com/pricing/