英国の干ばつでゴルフ場に水制限、日本のコースは大丈夫か

英国で2026年、記録的な干ばつが広がっている。8月10日時点でイングランドの71.3%が干ばつ状態と判定され、対象人口はおよそ4,500万人に達した[1]。水道事業者サザンウォーター(Southern Water、イングランド南部の水道会社)は事業者向けの非必須用水禁止(NEUB、Non-Essential Use Ban)を申請しており、認められればゴルフ場を含む事業者が20年ぶりの水使用制限に直面する[1]。

グリーンやフェアウェイへの散水そのものは、今回の禁止対象にはまだ入っていない。ただしコース側は芝刈り機の洗浄やクラブハウスの清掃に制限がかかり、維持管理の手間とコストが増えれば、コース状態の悪化や会費への転嫁というかたちで巡り巡ってプレーヤーに跳ね返りうる。ビジネス・IT側の読者にとっては、水資源という自然条件が施設型ビジネスの運営コストと規制対応にどこまで食い込むかを見る具体例になる。本稿では英国の規制の中身と背景、コース経営への波及経路、そして日本の渇水リスクとの違いを順に整理する。

英国のゴルフ場に何が起きているのか

サザンウォーターは、ハンプシャー州とワイト島を対象に干ばつ命令(drought order、渇水時に水道会社が環境・農村地域省(Defra)へ申請して発動される行政命令)と非必須用水禁止の申請を出した[1]。認められれば、事業者に対し業務用プールの維持、機械式洗車機の稼働、車両や施設の清掃、窓拭きなどが禁止される[1]。ゴルフ場では、芝刈り機の洗浄やクラブハウスの窓・敷地の清掃がこれに該当する[1]。

一方、グリーンやフェアウェイへの灌漑そのものはNEUBの対象外だ。芝生への散水は非必須用水禁止ではなく、取水許可(abstraction licence、河川や地下水からの取水を認める許可)という別の枠組みで管理されているためだ[1]。渇水の深刻さを示す例として、8月にはストラウブリッジ・ゴルフクラブ(Stourbridge Golf Club)が野火のため一時閉鎖されている[1]。

英国で非必須用水禁止が最後に発動されたのは2006年で、今回認められれば実に20年ぶりとなる。1996年から2026年までの30年間で、干ばつ許可(drought permit)は124件、干ばつ命令は57件発動されたが、事業者向けの非必須用水禁止は一度もなかった[1]。環境相は8月末までにサザンウォーターの申請への可否を判断する見通しで、記事執筆時点ではまだ結果が出ていない[1]。

2026年7月の記録的少雨からイングランド71.3%の干ばつ状態を経て非必須用水禁止の申請、ゴルフ場の機械洗浄・清掃制限に至る流れ図
記録的少雨からゴルフ場への水使用制限に至る流れ

水不足を単なる異常気象ではなく、経営や政策が向き合うべきグローバルリスクとして捉え直したい読者に。日本の水事情にも触れており、本稿の比較の土台になる一冊。

なぜここまで深刻化したのか

背景にあるのは、記録的な少雨と貯水量の落ち込みが重なったことだ。2026年7月はイングランドで、少なくとも過去190年間で最も乾燥した月となり、降水量は平年比でわずか10%にとどまった。特に東部では月間降水量が0.8mmしかなかった[1]。

貯水池全体の貯水率は69%まで下がり、平年を11.6ポイント下回る水準になっている[1]。少雨と気温上昇が重なった結果、8月10日時点で2,700万人超が何らかの水利用制限の対象になった[1]。

干ばつ自体もすでに珍しくなくなっている。今回は2022年、2025年に続き、5年間で3度目の干ばつだ[1]。取水許可についても、河川の水位が一定を下回ると取水を止める「hands-off flow」条件による制限が広がっており、1,350件超の許可がすでに何らかの制限を受けている[1]。井戸や河川を水源とするゴルフ場は、NEUBの対象外でも、この取水許可の制限を通じて間接的な圧力を受ける[1]。

干ばつ指定地域4,500万人のうち2,700万人が水利用制限の対象

コース管理者の視点から、データに基づく芝草科学と水管理の実務を知りたい読者に。

ゴルフ場の運営コストと会員料金にどう跳ね返るのか

直接の影響は、維持管理の手間とコストの増加というかたちで表れやすい。芝刈り機の洗浄やクラブハウスの清掃ができなくなれば、別の清掃手段や人手の確保が必要になり、維持管理コストが増える方向に働く。プールを併設するクラブでは、プールの維持自体ができなくなる[1]。

間接的な影響はさらに広がりうる。取水許可のhands-off flow条件が強化される中、自前の井戸や河川取水に依存するコースほど、将来的に灌漑用水そのものへ制限が及ぶリスクにさらされる。今回のNEUBは灌漑を対象外としているが、貯水率の低下が続けば、取水許可の制限強化を通じて散水量の縮小に発展する可能性は残る。

もう一つの水道事業者アングリアンウォーター(Anglian Water)は、すでに7月11日からホースパイプ禁止(家庭向けの散水制限)を続けており、供給がさらに悪化すればNEUBの検討にも踏み込む姿勢を示している[1]。事業用水制限が他地域にも広がれば、複数の水道事業者の管内にコースを持つ運営会社ほど、対応コストが重なりやすい。

非必須用水禁止による直接の機械洗浄・清掃禁止と、取水許可の制限強化による間接的な灌漑圧力が、ともに維持管理コスト増につながる図
ゴルフ場のコスト増につながる直接・間接の2経路
土地利用の転換

2026年5月28日、福島市松川町水原にあった旧・福島カントリークラブの跡地で、太陽光発電所が稼働を始めた。かつてゴルファーが歩いたフェアウェイの上に6万3000枚のソーラーパネルが並び、発電した電力はすべてAmazon(アマゾン)向けに[…]

早明浦ダムの取水制限は、英国と同じ渇水の表れか

部分的に同じだ。日本でも2026年8月、香川用水の主要水源である早明浦ダムで、18年ぶりとなる第4次取水制限が始まった。貯水率は8月3日の64.2%から8月25日時点で27.2%まで下がり、20%・35%・50%・60%と4段階でカット率が引き上げられた[2][3][4][5]。国土交通省も8月6日に渇水情報連絡室を設置しており、渇水そのものは日本でも現在進行形の事象だ[6]。

早明浦ダムの貯水率は8月だけで64%から27%へ低下した

ただし規制の対象と仕組みは英国と異なる。日本の取水制限は農業用水・水道用水・工業用水を対象に段階的な節水率を課す仕組みで、英国のようにゴルフ場を名指しした業種別の使用禁止(NEUB)ではない。ゴルフ場が取水制限の対象になったという公開データも見当たらない。日本のコースには調整池や井戸水を自前の水源として持つところもあり、水道会社の給水制限に直接左右されにくい構造もある。

項目英国日本(早明浦ダム水系)
規制の対象事業者向け非必須用水禁止(業種別)農業・水道・工業用水への段階的節水率
直近の動き20年ぶりのNEUB申請中(2026年8月)18年ぶりの第4次取水制限(2026年8月)
ゴルフ場への直接データ機械洗浄・清掃を名指しで禁止公開データなし
コースの水源構造水道会社・河川取水への依存度が高い調整池・井戸水など自前水源を持つコースが多い

ビジネス側にとっては、日本のゴルフ場運営会社が英国型の業種別規制に直面する可能性は当面低いが、水資源そのものが逼迫する事象は同時進行しているという点は共通のリスクとして意識しておく価値がある。ゴルファー側にとっては、コース状態が渇水で悪化するリスクは日本にも構造的に存在するが、英国のような制度的な水制限に直結する仕組みは今のところない。

水と維持コスト

米ネバダ州ラスベガス(Las Vegas、カジノと国際会議で知られる観光都市)で、市が所有・運営してきた市営(municipal、地方自治体が公共サービスとして運営する形態)ゴルフ場「Desert Pines Golf Club(デザート[…]

まとめ

英国では記録的な少雨と貯水量の低下が重なり、ゴルフ場を含む事業者が20年ぶりの水使用制限に直面しつつある。灌漑そのものはまだ規制対象外だが、取水許可の制限強化を通じて間接的な圧力はすでに及んでいる。ゴルファーにとっては、コース状態や会費が水資源リスクという新しい変数で変わりうると知っておく価値がある。ビジネス側にとっては、気候変動が施設運営コストに食い込む経路を、規制の中身まで踏み込んで見ておく材料になる。日本には同種の業種別規制はまだないが、早明浦ダムの事例が示すように渇水そのものは今この瞬間も進行している。

よくある質問(FAQ)

Q. 英国のゴルフ場のプレー料金は上がるのですか。
A. 記事執筆時点で具体的な料金改定は報じられていない。ただし維持管理コストが増える方向に働くため、今後の値上げ圧力にはなりうる。

Q. 日本のゴルフ場でも同じような水使用制限は起きますか。
A. 英国型の業種別禁止(NEUB)が日本のゴルフ場に及んだという公開データはない。日本の渇水対応は農業・水道・工業用水を対象にした段階的節水が中心で、詳しくは前段の日本セクションを参照。

Q. 芝生への散水自体は禁止されるのですか。
A. 今回の非必須用水禁止(NEUB)の対象外で、散水は取水許可という別枠組みで管理されている。ただし取水許可の制限が強化されれば、将来的に間接的な影響を受ける可能性はある。

海外コースの事情

南アフリカ第2の都市ケープタウンで、100年を超える歴史を持つ名門ゴルフクラブが、大規模な住宅地への転換を迫られている。対象はKing David Mowbray(キング・デイビッド・モウブレイ)ゴルフクラブで、前身のMowbray Go[…]

出典

[1] The Golf Business「Golf clubs face first business water restrictions in 20 years as two suppliers move on non-essential use bans」(2026年8月14日) https://thegolfbusiness.co.uk/2026/08/golf-clubs-face-first-business-water-restrictions-in-20-years-as-two-suppliers-move-on-non-essential-use-bans/
[2] KSB瀬戸内海放送「早明浦ダムの貯水率が低下 第1次取水制限を開始 3日午前0時時点の貯水率は64.2% 香川県」 https://news.ksb.co.jp/article/16777797
[3] Yahoo!ニュース(KSB瀬戸内海放送配信)「香川用水の第2次取水制限始まる 高知・早明浦ダム貯水率が50.2%に」 https://news.yahoo.co.jp/articles/8f70539b87d07465922413b2ff26a114dfaf7cf8
[4] KSB瀬戸内海放送「早明浦ダムの水位が下がり続ける 19日午前9時から第3次取水制限 4年ぶり」 https://news.ksb.co.jp/article/16812663
[5] KSB瀬戸内海放送「28日午前9時から第4次取水制限実施の見込み 香川用水への供給量60%カット 2008年8月以来18年ぶり」 https://news.ksb.co.jp/article/16833197
[6] 国土交通省「水資源:渇水情報総合ポータル」 https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizukokudo_mizsei_kassui_portal.html