
米ネバダ州ラスベガス(Las Vegas、カジノと国際会議で知られる観光都市)で、市が所有・運営してきた市営(municipal、地方自治体が公共サービスとして運営する形態)ゴルフ場「Desert Pines Golf Club(デザート・パインズ・ゴルフクラブ)」が2026年7月12日に最終ラウンドを終え、閉鎖した。跡地は住宅不足解消のための集合住宅開発に転用される計画で、背景にはラスベガス都市圏で推計8万〜9万戸ともいわれる住宅不足がある[1][2]。この閉鎖は米国内の一都市の出来事であり、日本のゴルフ場運営やプレー環境に直接影響することはない。米国の市営ゴルフ場は日本の民間・公営ゴルフ場とは土地所有や自治体財政の構造が異なり、制度が直結しないためだ。ただし、公有地としてのゴルフ場が住宅転用の圧力にさらされ、収益モデルの限界から閉鎖に至るという構造は、IT・経営に携わる読者にとって公共資産の経済性と都市部での土地利用優先順位の変化を考える材料になる。本稿はDesert Pinesの閉鎖を事例に、その構造を読み解く。
Desert Pines Golf Clubはどのようなコースで、いつ閉鎖されたのか
Desert Pines Golf Clubは、ラスベガス市が所有し東ラスベガスのボナンザ通りとペコス通りの交差点付近に立地していた18ホールの市営ゴルフ場である。1996年の開業から約30年間営業を続け、2026年7月12日の週末に最終ラウンドを実施して閉鎖した[1][2][3]。

コース内には4000本を超える成熟したマツの木が植えられ、グリーンはオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ(Augusta National、米マスターズ開催コース)を参考にしたベントグラス仕様だった[2]。設計は著名コース設計家ピート・ダイ(Pete Dye)一族の系譜によるもので、同じ系譜はTPCソーグラスやラスベガス市内のパイユート・ゴルフリゾートのウルフコースにもつながる[2]。長年通った常連からは閉鎖を惜しむ声が上がったが、市はコースの所有者として、跡地を住宅不足対策に振り向ける方針を優先した[2][3]。東ラスベガスは住宅地とゴルフ場が隣接して発展してきた地区で、Desert Pinesは地域住民にとって手ごろな料金で回れる貴重な公共レクリエーション施設でもあった。閉鎖はその公共性と、市の住宅政策上の優先課題との間でどちらを取るかという選択の結果だった。
公有地としてのゴルフ場がなぜ住宅・産業用地に置き換わるのか、自治体資産戦略の視点から理解できる一冊。
なぜラスベガス市は市営ゴルフ場を住宅用地に転用するのか
ラスベガス都市圏では住宅供給が人口増加に追いつかず、慢性的な不足が続いている。住宅問題を扱う弁護士の推計によれば地域全体で8万〜9万戸の住宅が不足しており、クラーク郡(Clark County、ラスベガスを含む郡)の試算でも手ごろな価格の賃貸住宅だけで8万〜9万6000戸が不足するとされる[4]。

加えて今後10年でラスベガス都市圏には約40万人の流入が見込まれ、不足はさらに拡大する可能性がある[4]。こうした状況下で、市が所有する広大な市営ゴルフ場の敷地は住宅用地として転用可能な数少ない公有地のひとつとみなされるようになった。ラスベガス市はDesert Pines跡地を「Our Future East Las Vegas Plan」と呼ぶ再開発計画に組み込み、非営利団体と民間デベロッパーの共同事業体に土地を売却した[5][6]。ゴルフ場という単一用途の公有地よりも、複合的な住宅・教育・商業機能を持つ土地利用のほうが、住宅不足という都市の優先課題に直結すると市は判断した。市が公表している「Our Future East Las Vegas Plan」は、東ラスベガス地区全体の再生を掲げる計画の一部であり、Desert Pines跡地はその中でも最大級の転用案件に位置づけられている[5]。市有地の中でゴルフ場ほどまとまった面積を一括で確保できる用地は他になく、この点が真っ先に転用対象として選ばれた実務上の理由でもある。
バブル崩壊後に相次いだ日本のゴルフ場閉鎖の実態を取材した記録で、米国事例との比較の土台になる。
ラスベガスの公営・準公営ゴルフ場はなぜ軒並み経営が厳しいのか
Desert Pinesの閉鎖は単発の事例ではない。地元紙の報道によれば、ラスベガス都市圏では過去数年で複数のゴルフ場が売却や経営破綻に至っており、市営やHOA(Homeowners Association、米国の住宅所有者組合で共有施設を管理する団体)が所有するコースも例外ではない[7]。同紙の取材に応じたHOA関係者は、自らの団体が保有するコースが「ほぼ毎年赤字」であることを認めている[7]。

会員制ゴルフ場のように利用料や会費で収益を確保できる施設と異なり、市営コースは公共性を優先し利用料を低く抑える傾向がある。人口動態や余暇の多様化でラウンド数が伸び悩む一方、芝生や灌漑設備の維持管理コストは固定費として重く、収益モデルとして構造的に不利になりやすい。ゴルフ場としての土地利用を続けるより、住宅地に転用したほうが自治体の財政にも住宅政策にも資すると判断される案件が増えている。地元紙が名指しした事例では、バッドランズやレガシー・ゴルフクラブ、シルバーストーン・ゴルフクラブなど、所有者の交代や訴訟による先行き不透明感を抱えるコースが相次いでおり、周辺住民が閉鎖や再開発の噂に不安を抱く構図が繰り返されてきた[7]。Desert Pinesの閉鎖は、この「経営が立ち行かなくなった市営・準公営コースが順番に姿を消していく」流れの延長線上にある。
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跡地にはどのような住宅開発が計画されているのか
Desert Pines跡地は、非営利団体アーバン・ストラテジーズ(Urban Strategies)と住宅開発会社マコーマック・バロン・サラザール(McCormack Baron Salazar)の共同事業体「Desert Pines Master Development」に売却され、総額約5億ドル(約775億円。1ドル=155円換算)規模の再開発が計画されている[5][6]。

計画には手ごろな価格の集合住宅1082戸と分譲一戸建て280戸に加え、地域センターや職業訓練施設、商業スペースが含まれる[6]。住宅開発会社と非営利団体が組む事業体が担う点からも、単なる宅地分譲ではなく教育・雇用支援まで含めた地域再生プロジェクトとして設計されていることがうかがえる。ゴルフ場という単一機能の公有地が、住宅・教育・雇用支援を束ねる複合機能の土地に置き換わる点が、この事例の象徴性を高めている。
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日本でも公営ゴルフ場の閉鎖・用地転用は起きているのか
日本でも公営(自治体所有・関連団体運営)ゴルフ場が閉鎖され、他用途に転用された例はある。神戸市が所有していた西神戸ゴルフ場は1985年の開業後、2021年に市が物流拠点への転用検討を公表し、2023年3月に営業を終了した[8][9]。跡地は東京ドーム21個分にあたる約100ヘクタールが物流・産業用地として整備され、工事は2024年12月に着工し2029年3月の完了が見込まれている[9]。
ただし転用の理由は米国と異なる。ラスベガスは住宅不足への対応が動機だが、神戸市の事例は隣接産業団地の区画完売を受けた物流需要への対応で、住宅転用ではない。日本は公営コースの絶対数が米国ほど多くなく、自治体財政に占める比重や土地の権利関係(借地か所有地か)も個々に異なるため、米国のような「住宅不足からゴルフ場転用」という一律の図式では語れない。事業者にとっては、公有地の用途転換が自治体の政策課題(住宅・産業・防災)によって左右される点を押さえておく価値がある。ゴルファーにとっては、通い慣れたコースが自治体の政策判断ひとつで失われうるという点は日米で共通する。
| 項目 | 米国(ラスベガス市営) | 日本(神戸市関連) |
|---|---|---|
| 主な転用動機 | 住宅不足 | 産業用地需要 |
| 転用後の用途 | 集合住宅・複合施設 | 物流・産業団地 |
| 運営期間 | 約30年 | 約38年 |
| 主な出典 | [1][2][4] | [8][9] |
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まとめ
Desert Pines Golf Clubの閉鎖は、住宅不足という都市課題の前で、公有地としてのゴルフ場という土地利用の優先順位が後退した事例である。米国の一自治体の出来事であり日本のゴルファーのプレー環境に直接影響することはないが、通い慣れたコースが自治体の政策判断で姿を消しうるという点では共通の教訓がある。事業に携わる読者にとっては、公共資産の収益モデルが立ち行かなくなったとき、土地は最も緊急度の高い政策課題に振り向けられるという原則を確認できる事例といえる。公有地の使い道は、レジャー施設としての歴史や愛着だけでは守り切れないという現実を、Desert Pinesの閉鎖は端的に示している。
よくある質問(FAQ)
Q. Desert Pines Golf Clubはなぜ閉鎖されたのですか。
A. ラスベガス市が所有する市営ゴルフ場で、深刻な住宅不足を受けて跡地を住宅開発に転用する方針を市が決めたためです[1][2][3]。
Q. ラスベガスの住宅不足はどれくらい深刻なのですか。
A. 住宅弁護士やクラーク郡の試算では、地域全体で8万〜9万戸規模の住宅が不足しているとされます[4]。
Q. 日本でも同じように公営ゴルフ場が住宅地に転用される可能性はありますか。
A. 神戸市の西神戸ゴルフ場のように公営コースが他用途に転用された例はありますが、動機は産業用地需要など日本固有の事情で、米国の住宅不足とは背景が異なります[8][9]。
出典
[1] Cunningham Group「The Last Round: Desert Pines Golf Club Closes This Weekend and What Comes Next Says a Lot About the Las Vegas Housing Market」https://www.cgvegas.com/investor-alerts/the-last-round-desert-pines-golf-club-closes-this-weekend-and-what-comes-next-says-a-lot-about-the-las-vegas-housing-market (直接取得は403のため、本文中の事実は[2][3][5][6]の複数媒体で裏付け)[2] Fox5 Las Vegas「Desert Pines Golf Club closing after 30 years, affordable housing planned for site」https://www.fox5vegas.com/2026/07/12/desert-pines-golf-club-closing-after-30-years-affordable-housing-planned-site/
[3] KTNV「Desert Pines Golf Club closes in east Las Vegas to make way for major housing redevelopment」https://www.ktnv.com/neighborhoods/east-las-vegas/desert-pines-golf-club-closes-in-east-las-vegas-to-make-way-for-major-housing-redevelopment
[4] Fox5 Las Vegas「Federal land program for affordable housing goes untapped in Las Vegas」https://www.fox5vegas.com/2026/07/08/southern-nevada-housing-shortage-federal-land-program-rarely-used-gap-widens/
[5] Las Vegas Review-Journal「Desert Pines Golf Club in east Las Vegas closes for affordable housing development」https://www.reviewjournal.com/local/east-valley/desert-pines-golf-club-closes-cedes-property-for-affordable-housing-community-3850051/
[6] Yardbarker「Popular Las Vegas golf course shuts down for $500 million major redevelopment effort」https://www.yardbarker.com/golf/articles/popular_las_vegas_golf_course_shuts_down_for_500_million_major_redevelopment_effort/s1_17768_44056743
[7] Las Vegas Review-Journal「Golf course ownership becoming a tough market in Las Vegas」https://www.reviewjournal.com/homes/resale-news/golf-course-ownership-becoming-a-tough-market-in-las-vegas/
[8] 神戸新聞NEXT「市民のゴルフ場、消える『説明もない』愛用者から疑問の声 神戸市、産業用地に転用方針」https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202105/0014322453.shtml
[9] 神戸ジャーナル「西区・押部谷町の『ゴルフ場跡地』に巨大な『産業団地』を造る工事が始まってる。東京ドーム21個分」https://kobe-journal.com/archives/9866994549.html



