北欧の新会員制コースが世界最高評価、スウェーデンにできた理由

米国のゴルフ場開発・運営専門誌ゴルフ・インク(Golf Inc)が発表した「2026年ベスト新規開発(Development of the Year 2026)」の総合1位に、スウェーデン南部エンゲルホルムに新設された会員制ゴルフクラブ「クロウンウッドクラブ(Crownwood Club)」が選ばれた[1]。同賞の総合1位は近年、米国のカボット・シトラス・ファームズ(2025年)、スコットランドのダンバーニー・リンクス(2021年)、フランスのレ・ボルド新コース(2022年)と、いずれもゴルフの「本場」と呼ばれる市場が占めてきた[1]。北欧のクラブが選ばれるのは今回が初めてで、しかもスウェーデンは伝統的なゴルフ観光・投資の中心地ではない。設計を手がけたのは、コース設計家クリスチャン・ルンディン氏と、2016年全英オープン覇者でスウェーデン出身のプロゴルファー、ヘンリック・ステンソン氏が2015年に共同設立した設計事務所ヘンリック・ステンソン・ゴルフ・デザイン(Henrik Stenson Golf Design)だ[1][4]。総工費は約800万ドル(約12億4000万円。1ドル=155円換算)[1]。

クロウンウッドクラブは招待制の会員制コースで、ゲストの利用も会員同伴かつ年4ラウンドまでに制限される超排他的な施設であり[6]、日本の一般ゴルファーが直接プレーする機会を持つ施設ではない。ただし、コース設計のトレンドやゴルフ旅行の憧れの目的地として押さえておく価値はある。ビジネス・IT視点で見ると、現役プロゴルファーが起業した設計事務所が業界最高賞を取ったという事実は、伝統的なゴルフ市場の外側にラグジュアリー開発の資本が流れ込み始めている兆候として読み解ける。本稿では、この受賞がなぜ「異例」なのか、プロゴルファー主導の設計ビジネスの中身、そして800万ドルという工費の意味を順に見ていく。

なぜスウェーデンでの受賞は業界の常識から外れているのか

Golf Inc誌のDevelopment of the Yearは、その年に新規開業したゴルフ場開発を対象に、コース設計・環境配慮・事業計画などを審査員が採点する年間表彰である[1]。過去の総合1位を振り返ると、2025年は米フロリダの複合開発カボット・シトラス・ファームズ、2022年は設計の巨匠ギル・ハンス氏が手がけたフランスのレ・ボルド新コース、2021年はスコットランドのダンバーニー・リンクスと、米国かゴルフの伝統国が占めてきた[1]。

スウェーデンは国内に有数のゴルフ人口を抱えるゴルフ大国だが、国際的にはスコットランドやアイルランドのような「聖地」としての知名度は低く、超高級会員制コースへの大型投資の対象になってこなかった。クロウンウッドクラブは審査員から「すべてが明確なビジョンにつながっている」と評価され、北欧で初めてGEO認証(ゴルフ場の環境負荷を審査する国際認証制度)を取得した建設プロジェクトとなった[1]。伝統的なゴルフ大国以外でも、設計思想と環境配慮を徹底すれば世界最高評価を狙えることを示した事例といえる。

2021年スコットランドから2026年スウェーデンまでの受賞地の推移
Golf Inc誌の総合1位は伝統的なゴルフ市場が続いていた

招待制で希少性そのものを商品化するクロウンウッドクラブの会員制モデルを、ラグジュアリーブランド論の定番書から理解する。

何が評価されたのか——砂地を「動かさない」ことで、速い足元と安い工費を同時に取った

受賞の理由を審査員の言葉から具体的に見ていく。ここが分からないと、単に「北欧が珍しい」だけの話になってしまう。

審査員のマシュー・デューゼンベリー氏は「すべてが明確なビジョンに立ち返る、実によく練られたプロジェクトだ。サステナビリティも強みで、最初から明確に組み込まれている」と述べた[1]。もう一人のジェイソン・スローン氏は設計そのものを評価している。「ルーティングがラウンドにリズムと均衡を与え、敷地本来の美しさとよく調和している。短い芝が随所にあり、ティーからグリーンまで複数のルートと角度が生まれ、結果として楽しいゴルフになっている」[1]。

評価の核心は土地の扱いにある。 敷地は西海岸のエンゲルホルム近郊、200エーカーの砂地で、以前は樹木農園だった。ルンディン氏は表土の下が「純粋な砂」だと言い、ステンソン氏は「砂質土壌と松の木」があるこの土地を「ゴルフに向いた素晴らしい敷地」と評している[2]。

造成中のクロウンウッドクラブの現場。地表は一面の砂で、周囲に松林、奥に重機が見える
造成中の現場。表土を剥がすと一面の砂で、松林がそのまま残る(画像:Golf Course Architectureより)

そのうえで、彼らが選んだのは足すことではなく引くことだった。ヒース(ヘザー)とマラムグラス、松林の一角はそのまま残し、他は植生を除去して地面の細かい起伏を露出させる手法を採った[2]。参照先として名前が挙がるのはニュージーランドのタラ・イティと米国のパイン・バレーで、狙いは「ウェイストエリアを伴う荒々しい見た目」である[2]。

クロウンウッドクラブの空撮。広いフェアウェイの間に、植生が点在する砂のウェイストエリアが不定形に入り込み、奥に松林と海が見える
ウェイストエリアと短い芝が交互に入る造り。奥に松林、その先は海(画像:Golf Travel Wire(撮影: Michael Althoff)より)

この判断が数字に直結する。動かした土の量は30万立方ヤードに抑えられた[1]。砂地の上に砂の景観を作るのだから、大量の土を運ぶ必要がない。審査で評価された「砂質土壌を活かしたファーム&ファスト(硬く速い)な仕上がり」と、後述する800万ドルという工費の低さは、同じ一つの判断から出ている。安く済ませたから凡庸になったのではなく、土地に合わせたから安く済んだ、という順序である。

ホールの中身も具体的に語られている。

場所特徴
1番・2番両ホールを隔てる砂丘の複合地形[2]
7〜9番小川が絡む。9番はパー5で、どこで・いつ水を渡るかを選ばせる[2]
インの2ホール灌漑用の池沿い(計画上避けられなかった配置)[2]
終盤砂丘の中に島のように連なるホールと、自由な形のティーイングエリア[2]
練習場松林を切り開いたフルレンジ。オーガスタ風に木立で幅が狭まる区間を持つ[2]

ステンソン氏の設計観も一貫している。「静的な環境で設計されていて、その土地の風景に合っていなかったり、その敷地で普通に出会う条件どおりに転がらないコースは好きになれない」[2]。プロとしての体感を設計判断に持ち込む立場を明言した言葉といえる。

環境面では、北欧で初めてGEO認証を取得した建設プロジェクトになった[1]。なお2026年の同賞は、2位が米ジョージア州のThe Keep at McLemore Resort、3位がサウジアラビアのShura Links、佳作が米オハイオ州のMedina Country Clubという顔ぶれで、資本規模で上回る案件を抑えての1位である[1]。

夕方の低い日差しの中、松林に囲まれた短い芝のエリアでゴルファー2人がプレーしている
11ホールのパブリックコース「ヘンリックス・プレイグラウンド」。18歳未満は無料(画像:Crownwood Club公式サイトより)
海外展開

豪州のゴルフテック企業GolfTrak(ゴルフトラック)と、米国のプラットフォーム企業ChipIn(チップイン)が、2026年8月上旬に越境合併を発表した[1][2]。GolfTrakはスマートフォンのカメラとコンピュータビジョン技術(画[…]

プロゴルファーが起こす設計事務所とはどんなビジネスモデルなのか

ヘンリック・ステンソン・ゴルフ・デザインは、2015年にステンソン氏がコース設計家クリスチャン・ルンディン氏を共同創業者に迎えて立ち上げた設計事務所だ[4]。ルンディン氏は国際的な設計事務所(re)GOLFのパートナー建築家を務めた経歴を持ち、独立性の高い設計技術をステンソン氏のブランド力と組み合わせる座組みである[4]。ステンソン氏は設立時、「プレーヤーとしてのキャリアが今も中心だが、設計の細部に関わることを大切にしたい」と語っている[4]。

同事務所の最初の作品は、2019年に開業したストックホルム近郊のオースタオーカー・ゴルフクラブ(現・Öster by Stenson)で、その6年後の2025年にクロウンウッドクラブが開業した[3][4]。現役トッププロが自らの審美眼をブランドにして設計事業を興すモデルは、タイガー・ウッズ氏やギル・ハンス氏といった「プロ選手発の設計ブランド」という業界カテゴリーの延長線上にある。無名の新規設計事務所より早く富裕層の投資家を呼び込める点が、この座組みの強みになる。

(re)GOLF出身の設計家とプロゴルファーが事務所を興し受賞に至る流れ
ステンソン氏とルンディン氏の設計事務所が受賞に至る流れ
海外展開

イタリアのフィアット(Fiat、ステランティス傘下の自動車ブランド)が、超小型EV「トポリーノ(Topolino)」を米国市場に投入し、ゴルフ場周辺のコミュニティで買い手を見つけ始めている[1]。トポリーノはイタリア語で「小さなネズミ」を[…]

800万ドルの会員制クラブはどう成り立つのか

クロウンウッドクラブの総工費は約800万ドル(約12億4000万円)で、開発を担ったのはノルウェー出身の投資家アリルド・アンドレ・カールセン氏率いる開発会社プラスフォー・ゴルフ社(Plus Four Golf AB)である[1][3]。米国の建設コスト専門調査によれば、高級な会員制コースはクラブハウスなどの付帯施設を含めた総工費が1500万ドル以上に達することが多いとされ[5]、クロウンウッドの800万ドルはその半分程度にとどまる。「高級なゴルフ場開発は環境責任と経済的な実現可能性を両立できる」という評価の背景には、この工費の抑制がある[1]。

コースは会員限定の18ホール本コース「ザ・クラウン」と、18歳未満は無料でプレーできる11ホールのパブリックコース「ヘンリックス・プレイグラウンド」の二本立てで、障がい者向けゴルフ団体パラゴルフ・スウェーデンとの提携も組み込まれている[2]。本コースは完全招待制の会員権を軸とし、ゲストプレーは会員同伴かつ年4ラウンドまで、年間総ラウンド数も1万5000ラウンドに制限してコースコンディションを守る設計だ[6]。希少性そのものを商品化するモデルで、会員権の対価は「プレーできること」ではなく「プレーできる人が限られていること」に置かれている。

項目米国の高級会員制コース目安クロウンウッドクラブ
総工費1500万ドル以上が目安[5]約800万ドル[1]
会員形態コースにより異なる完全招待制[6]
ゲスト利用コースにより異なる会員同伴・年4ラウンドまで[6]
年間総ラウンド数上限非公表1万5000ラウンド[6]

※「非公表」は公開されていない項目。

クロウンウッドクラブの総工費は米国の高級コース目安の半分程度
スウェーデン・クロウンウッドクラブの空撮。松林と海に近い砂地の地形が広がる
クロウンウッドクラブの空撮。松林と海岸に囲まれた立地が特徴(画像:Golf Travel Wire、撮影: Michael Althoff)(画像:Golf Travel Wire(撮影: Michael Althoff)より)

日本にプロゴルファーが設立した国際展開の設計事務所は存在するのか

結論から言えば、日本にヘンリック・ステンソン・ゴルフ・デザインのような、プロゴルファーが独立して興し海外物件も手がける設計会社はほぼ存在しない。国内では青木功氏がメナードカントリークラブ西濃コースなど複数のコースで「設計監修」を務めてきたように[8]、引退後のトッププロが個別のコース開発案件で監修者としてクレジットされる例は珍しくないが[8][9]、これは案件ごとの監修契約であり、独立した設計事務所として組織化・国際展開しているわけではない。

差の背景には、新設コース開発自体の少なさがある。ゴルフ場専門出版社・一季出版の調査では、2023年時点で国内の営業中ゴルフ場は2133コースで、建設中の新設案件に目立った動きはないと報告されている[7]。国内の会員制ゴルフは、戦後から高度成長期に開発された既存の名門クラブの会員権が売買される流通市場が中心で、クロウンウッドクラブのような更地からの新設・招待制クラブ開発はまれである。ビジネス的には、新設余地の乏しさが「プロゴルファー起業の設計会社」という業態そのものの成立を難しくしている。ゴルファーにとっては、国内で同種の新設超高級コースに触れる機会は当面限られると見てよい。

項目スウェーデン(クロウンウッドクラブ)日本
プロゴルファー主導の設計事務所Henrik Stenson Golf Design(2015年設立、海外展開)[4]個別コースの設計監修が中心で、独立事務所として国際展開する例はほぼない[8][9]
新設コース開発の動き2025年開業の新設会員制クラブが世界最高評価[1]2023年時点で新設の目立った動きなし[7]
会員制の主な形態招待制の新規募集[6]既存名門クラブの会員権流通が中心
新設招待制モデルと既存名門流通モデルの対比
スウェーデンと日本で会員制コースの成り立ち方が異なる

まとめ

クロウンウッドクラブの受賞が示すのは、ゴルフの「本場」でなくても、明確な設計思想と環境配慮、そして意外なほど抑えた工費があれば世界最高評価に届くという事実だ。ゴルフ旅行やコース設計のトレンドに関心がある読者にとっては、北欧に新しい憧れの目的地が生まれたと捉えていい。ビジネス・IT視点の読者にとっては、現役プロゴルファーのブランド力が独立設計事務所という事業を成立させ、伝統市場の外側にラグジュアリー開発の資本を呼び込んだ好例として記憶しておく価値がある。日本で同種の動きが起きるかは、新設コース開発そのものの少なさ次第という構造の違いも見えてきた。

よくある質問(FAQ)

Q. クロウンウッドクラブとはどんなコースなのか?
A. スウェーデン南部エンゲルホルムにある招待制の会員制ゴルフクラブで、18ホールの本コース「ザ・クラウン」と18歳未満無料の11ホールコース「ヘンリックス・プレイグラウンド」からなる[2][3]。

Q. なぜスウェーデンでの受賞が異例なのか?
A. Golf Inc誌のDevelopment of the Year総合1位は近年、米国やスコットランド、フランスなど伝統的なゴルフ市場が占めてきており、北欧勢の受賞は今回が初めてだから[1]。

Q. このクラブは一般ゴルファーも利用できるのか?
A. 本コースは完全招待制で、ゲストも会員同伴・年4ラウンドまでに制限される[6]。併設の11ホールコース「ヘンリックス・プレイグラウンド」は公開プレーが可能[3]。

出典

  1. Development of the Year 2026: A cause for celebration – Golf Inc.
  2. Crowning Glory: An interview with Henrik Stenson and Christian Lundin – Golf Course Architecture
  3. Sweden’s Crownwood Club redefines luxury golf – Golf Travel Wire
  4. Lundin and Stenson partner to form new Swedish-based design firm – Golf Course Architecture
  5. How Much Does It Cost to Build a Golf Course? – TPF Golf
  6. Crownwood Club: Scandinavia’s most exclusive golf project – Greenfeed
  7. 全国閉鎖・建設中ゴルフ場調査(2023年6月) – 一季出版
  8. メナードカントリークラブ 西濃コース – メナード
  9. 尾崎将司 – Wikipedia