
英国サリー州で、名門ゴルフクラブの敷地を住宅に転用する構想が相次いで表面化している。ただし両者の性格は違う。サリーナショナルはクラブ自身が開発業者と合意して土地の住宅転用を進めているのに対し、チップステッドでは提案が外部から持ち込まれ、地元はほぼ一致して反対している[1]。チップステッドゴルフクラブ(Chipstead Golf Club)は住宅開発大手のTaylor Wimpeyと、サリーナショナルゴルフクラブ(Surrey National Golf Club)は同じく大手のBarratt Redrowと、それぞれ住宅開発計画を進めている[1]。クラブが自ら選ぶ場合と、外から迫られる場合の両方が同時に起きている構図だ。地元のゴルファーにとっては、通い慣れたコースが盤面から消え、周辺で選べる練習場やコースの選択肢そのものが薄くなる話になる。ビジネス側の読者にとっては、収益を生まなくなった資産を誰がどう値付けし、誰の意思で処分するのかという、業種を超えた経営判断の縮図として読める。本稿は二クラブの計画を具体的な数字で追い、跡地の価値を決めるのが誰なのかを整理する。
サリー州で何が起きているのか
サリー州では二つのゴルフクラブが、住宅開発への転用計画に直面している[1]。チップステッドGCはTaylor Wimpeyと組み、最大300戸の住宅計画について2026年7月末にReigate & Banstead自治区議会へ開発業者が自治体にEIA(環境影響評価)の要否を判定するスクリーニング意見を求めた段階にある[1]。サリーナショナルGCはBarratt Redrowと土地活用の合意を結び、Tandridge自治区の地域計画「Tandridge 2044 Local Plan」で最大1,200戸の住宅地候補として位置づけられている[1]。
二クラブを合わせると、36ホール分のゴルフコースが住宅地に置き換わる計算になる。近隣のRedhill & Reigateゴルフクラブでもクラブハウスの取り壊しが2026年6月に承認され、10戸の住宅建設が決まった[1]。プレーヤーにとっては、一つのコースが消えるだけでなく、地域単位で選べるコースの選択肢が細る話になる。
クラブ・開発業者、周辺住民、自治体という三者は、それぞれ異なる利害を持つ。跡地の行方は、この三者の力関係で決まる。

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クラブが自ら選ぶ場合と、外から迫られる場合
背景には中央政府からの住宅供給指示がある。タンドリッジ地区は面積の94%がグリーンベルトでありながら、今後15年で約12,300戸を計画するよう国から指示されており、手をつけずに済む用地がほとんど残らない[1]。今回の300戸・25ヘクタールもグリーンベルト上の計画だ[1]。加えてクラブ側の事情として、会員数が減れば会費収入は落ちる一方で芝や設備の維持費はほぼ下がらない。運営を続けるほど収支が悪化するなら、土地を売る選択肢が合理的に見えてくる。
チップステッドGCは1906年開場の家族経営クラブで、バンカーの一部は第二次世界大戦の爆撃跡と伝わるほど歴史が長い[1]。歴史や伝統があっても、土地の資産価値がゴルフ場としての事業価値を上回ると判断すれば、経営陣は転用に動く。サリーナショナルGCも同様に、みずから開発業者と土地活用の合意を結んでいる[1]。
会員制クラブでこの判断を下すのは、会員一人ひとりではなく理事会や経営陣である。プレーする会員の意向と、資産としての土地を管理する経営陣の判断が、必ずしも一致しない構造がここにある。

鑑定評価書の読み方を知れば、跡地の値付けの根拠を自分で確かめられる。
計画はどこまで進み、誰が止められるのか
チップステッドGCの事前協議書には、地域住民から約150件の意見が寄せられ、賛成はわずか3件にとどまった[1]。住民からは「チップステッドは半農村的な村の性格を持ち、地区北部の主要な緑地が失われればそれが損なわれる」との声が上がっている[1]。
サリーナショナルGCは現在Tandridge自治区議会向けの本申請を準備している段階だが、自治体自身の評価では、自治体自身の評価は、その規模の開発地としてこのゴルフ場を「不適当(unsuitable)」と分類し、レクリエーション資源としての重要性も記録している[1][1]。地域計画に候補地として名前が挙がっていることと、自治体が実際に開発を承認することは別の問題だ。
反対意見の多さは、計画を自動的に止める力を持たない。最終的な可否は、住民の声を踏まえたうえで議会が判断する。
| 項目 | チップステッドGC | サリーナショナルGC |
|---|---|---|
| 開発業者 | Taylor Wimpey | Barratt Redrow |
| 計画戸数 | 最大300戸 | 最大1,200戸 |
| 敷地面積 | 25ヘクタール(東京ドーム約5個分) | 200エーカー超(約81ヘクタール、東京ドーム約17個分) |
| 進捗 | 事前協議書提出済み | 本申請準備中 |
| 反対意見 | 約150件(賛成3件) | 記載なし |

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跡地の規模は他の閉鎖とどう違うのか
サリーナショナルGCの計画戸数1,200戸は、チップステッドGCの4倍に達する[1]。敷地面積で見ても、サリーナショナルGCの200エーカー超は、チップステッドGCの25ヘクタール(約62エーカー)の3倍を超える規模だ[1]。同じ「ゴルフ場の住宅転用」でも、案件ごとに規模は大きく異なる。
近隣のRedhill & Reigateゴルフクラブの案件は10戸にとどまり、クラブハウス取り壊しという小規模な転用だった[1]。サリー州だけでも、数十戸規模から千戸超規模まで、複数の転用計画が同時に進んでいることになる。
投資の視点で見れば、跡地の価値は戸数や面積だけでなく、周辺の住宅需要や自治体の開発方針にも左右される。同じ36ホール分の土地でも、立地によって値付けの基準はそろわない。
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日本のゴルフ場跡地はなぜ住宅地になりにくいのか
答えは土地の所有構造と規制にある。英国のようにクラブが自らの判断で住宅転用を選ぶ動きは、日本ではほとんど見られない。
日本でもゴルフ場用地が市場縮小のなかで高値で取引される現象自体は存在する。東京都昭島市の「昭和の森ゴルフコース」(約56万平方メートル)は2021年に売却され、価格は数百億円から1,000億円超とも報じられた。ただしこの種の跡地は住宅地ではなく、物流施設への転用が目立つとされる[2]。
背景には二つの違いがある。第一に土地所有の形だ。日本のゴルフ場は敷地の一部を周辺の複数地権者から借り入れているケースが多く、クラブや運営会社が単独の地主として自由に処分できる英国型のフリーホールドとは前提が異なる。第二に用途規制だ。ゴルフコースは都市計画法上「第二種特定工作物」に分類され、市街化調整区域内での建設・転用には都道府県知事の許可が要り、農地であればさらに農地法の許可も重なる[3]。住宅地への転用は、この二重の許可をくぐる必要がある分、英国の自治体計画審査より一段ハードルが高い。
日本のゴルフ場跡地の転用先を横断的に集計した公開統計は乏しく、住宅・物流・メガソーラー・事業譲渡の内訳を正確な数字で示す一次資料は見当たらなかった。
| 項目 | 英国(サリー州の事例) | 日本 |
|---|---|---|
| 土地所有 | クラブが単独所有(フリーホールド) | 借地と私有地が混在、複数地権者 |
| 意思決定主体 | 会員クラブの理事会 | 運営会社(株式会社) |
| 住宅転用の規制 | 自治体の計画審査 | 都市計画法+農地法の二重規制 |
| 目立つ転用先 | 住宅地 | 物流施設・事業譲渡 |
ビジネス側にとっては、日本の縮小ゴルフ場資産は住宅地よりも物流施設や事業譲渡の形で現金化される可能性が高いという含意がある。ゴルファー側にとっては、コースが消える主因が英国型の「土地価値の一存」ではなく、経営難によるM&Aや譲渡である点が、行き先を読むうえでの手がかりになる。
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まとめ
サリー州の二クラブは、収益が細ったゴルフ場という資産を、会員の意向より先に経営判断で処分する道を選んだ。チップステッドGCの300戸、サリーナショナルGCの1,200戸という数字は、跡地の価値が立地と規模でどれだけ変わるかを示している。プレーする側にとっては、通えるコースの選択肢が地域単位で減る現実として受け止める必要がある。ビジネス側にとっては、収益を生まなくなった資産を誰の判断で値付けし処分するかという、業種を超えた経営課題として読める。反対意見の多さが計画を止める保証にならない点は、跡地を巡る交渉の力学として押さえておきたい。
よくある質問(FAQ)
Q. チップステッドGCやサリーナショナルGCの会員は、今すぐプレーできなくなるのか?
A. 現時点では両クラブとも営業を続けており、チップステッドGCは事前協議書の段階、サリーナショナルGCは本申請準備の段階にある[1]。閉鎖の具体的な時期は報じられていない。
Q. なぜクラブ側が住宅開発に賛成しているのか?
A. 会費収入が細る一方で維持費は下がらず、土地を宅地として売る方が資産価値が高いと経営陣が判断したためだ[1]。日本の運営会社が縮小したゴルフ場を物流施設や他社へ売却する判断と、根っこの経済合理性は近い。
Q. 反対意見が多ければ計画は止まるのか?
A. チップステッドGCには約150件の反対意見が寄せられたが、意見の多さ自体が計画を自動的に止めるわけではなく、最終判断は自治体議会に委ねられる[1]。
出典
[1] The Golf Business「Two Surrey golf clubs face closure, both to be converted into hundreds of homes」 https://thegolfbusiness.co.uk/2026/08/two-surrey-golf-clubs-face-closure-both-to-be-converted-into-hundreds-of-homes/[2] 東洋経済オンライン「「ゴルフ場」用地が高値で売れまくる意外な理由 市場縮小は問題なし、100億円超の取引も続々」 https://toyokeizai.net/articles/-/576293?display=b
[3] note(宅建ダイナマイト合格スクール)「1973年の乱闘。農地転用許可基準とゴルフ場。太平洋クラブライオンズ。」 https://note.com/takken_dynamite/n/nf970d2aae5c3


