
三重県いなべ市の六石ゴルフ倶楽部が、2026年9月1日に東京地裁へ民事再生法の適用を申請した。民事再生法とは、経営が行き詰まった企業が裁判所の監督のもとで事業を続けながら債務を圧縮し、破産と違い会社を存続させたまま再建を目指す手続きである。負債総額は約56億円、債権者は約1,900名にのぼる[1][6]。
預託金償還負担によるゴルフ場の経営破綻はここ数年珍しくなくなったが、六石倶楽部のケースが異質なのは、破綻の引き金に元支配人による長期の不正発覚と、それに伴う追徴課税が加わっている点だ。ホームコースの経営破綻は、会員として通う読者にとって預託金やプレー権がどうなるかという実利に直結する。ただし、預託金がいくら戻るのかという最終的な答えは、再生計画が固まるまで出ない。再生計画は2027年1月中旬頃に予定されており[6]、本稿の執筆時点で弁済率は公表されていない。本稿で扱えるのは、なぜこの構図に至ったのかと、営業とプレー権が現時点でどう扱われているかまでである。ビジネス読者にとっては、開示義務のある会社で長期の不正が続いた事例として、財務とガバナンスの両面から読み解ける。
何が起きたのか — 56億円の負債と1,900名の債権者
2026年9月1日、六石ゴルフ倶楽部は東京地裁に民事再生法の適用を申請し、同日に保全処分命令を受けた。負債総額は約56億円、債権者数は約1,900名にのぼる[1][6]。
【速報】
不正が発覚していた六石ゴルフ倶楽部が民事再生へ、営業は継続三重県いなべ市の(株)六石ゴルフ倶楽部は9月1日、代理人を通じて東京地裁に民事再生手続開始の申立てを行い、即日、弁済禁止の保全処分命令の発令を受けた
負債総額は約56億円、債権者数は約1,900名
— 東京商工リサーチ[TSR]公式 (@TSR_NEWS) September 1, 2026
六石ゴルフ倶楽部は1958年(昭和33年)7月に設立され[1][3]、1978年に現在地で18ホールを開設した。その後9ホールを増設して27ホール体制となっている[2][3]。ピーク時の1998年3月期には年間収入高が約11億3,600万円あったが、その後は会員数の減少とともに経営が徐々に悪化していった[1]。

資金繰り悪化の要因は一つではない。次の章では、会員への預託金償還と、社内で起きていた不正という二つの負担がどう重なったのかを見る。
なぜ資金繰りが行き詰まったのか — 預託金と内部不正という二重の負担
帝国データバンクの報告によれば、資金繰り悪化の要因は二つある。一つは会員への預託金償還負担だ。預託金会員制(入会時に会員が一定額をゴルフ場に預け、退会時に返還を受ける仕組みで、バブル期に開場したクラブの多くが採用)は、会員数が想定より減ると償還原資が不足しやすくなる[1]。
規模も分かっている。JC-NETが同社の有価証券報告書などをもとに伝えたところによれば、期末時点の預り保証金は約53億7,700万円に対し、現金・預金は約2,330万円だった。2026年6月に提出された有価証券報告書では、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせる状況が存在すると開示されている[2]。
もう一つが、元支配人による長期の不正だ。同じ記事によれば、会社資金の個人口座や簿外口座への入金、会員権に関連した不適切な取引、預託金返還額の操作、架空経費の請求、納税資金の流用が確認されたという。ただし記事は同時に、不正行為の全容については過去のすべての入出金に関する資料を確認することが困難であり、会社側も発生時期や総額を完全には把握できていないと伝えている[2]。この不正の発覚で修正申告が必要になり、追加の租税負担が生じたことが、資金繰りを直接圧迫した[1][6]。
つまり六石倶楽部の破綻は、外部環境の変化(会員減少)と内部統制の欠如(長期の不正)という、性格の異なる二つの負担が同時に効いた結果といえる。下の図は、この二重構造を単純化して示したものだ。

預託金償還だけが原因なら、対応策は会員基盤の立て直しや償還計画の見直しに絞られる。しかし内部統制の欠如が絡むと、経営の監視体制そのものを見直す必要が出てくる。次の章では、実際にどのような再建スキームが選ばれたのかを見る。
預託金が法律上どう位置づけられ、返還請求権がどこまで保護されるのかを整理したい読者には次の一冊がある。2001年刊で入手は中古が中心になるが、預託金返還問題を正面から扱った数少ない書籍である。
リソルホールディングスはなぜ支援に入るのか — 増減資型再生の仕組み
再建のスポンサーには、東証プライム(東京証券取引所の最上位市場)に上場するリソルホールディングスが入った。同社はホテル・リゾート運営や会員権事業を手がける企業グループである[2]。
支援の内容は三つに分かれる。第一に申立費用の援助、第二に事業継続に必要な運転資金を供給するDIPファイナンス(民事再生など法的整理の手続き中に、裁判所の許可を得て新たに供給される融資)、第三に再生債権者への配当原資の支援だ[1][2]。
再建の形は増減資型と呼ばれる方式になる。東京商工リサーチによれば、2027年1月中旬頃に再生計画に則り、既存株式を100%減資したうえでスポンサー側が新株を引き受ける増減資型の経営移譲を予定している[6]。既存株主の持分価値はいったんゼロになり、スポンサーが新しい株主として経営を担う形だ。この仕組みを整理すると、下の図のようになる。

ゴルフ場の営業自体は止めず、会員のプレー権を守りながら財務と経営体制だけを入れ替える。預託金会員制ゴルフ場の再建で、しばしば選ばれてきた形でもある。
2026年8月19日、東京地裁が東京グリーン株式会社(千代田区)に破産手続開始決定を出した。負債総額は約155億円、債権者は約1名[1]。同社は1981年の設立で、かつて千葉県で富里ゴルフ倶楽部とカレドニアン・ゴルフクラブを運営していたが[…]
同じ構造は他のゴルフ場にも潜むのか — 破綻3件が示す共通点と違い
六石倶楽部と同じように、預託金償還負担を抱えたバブル期開場クラブの破綻は他にも起きている。愛知県の三河カントリークラブは2026年3月31日、大阪地裁に民事再生法を申請し、弁済禁止の保全処分決定及び監督命令を受けた。プレー料金が比較的高額で近隣との競合から新規会員の獲得に苦慮し、預託金返還の負担が財務を圧迫していた。負債総額は約120億円、債権者は約1,400名だった[4]。
千代田区の東京グリーン株式会社は2026年8月19日、東京地裁から破産手続開始決定を受けた。負債総額は約155億円である[5]。ただしこの1件は性格が違う。同社は2008年にコース運営事業を別会社へ譲渡し、中間法人を設立して預託金を移していた。運営していた富里ゴルフ倶楽部は成田空港の工事に伴う用地買収により2023年12月に閉鎖されているが、カレドニアン・ゴルフクラブは別会社によって現在も営業が継続されている[5]。
3件を比べると、負債規模でも背景でも一様ではないことが分かる。とくに債権者数の差が大きい。
| ゴルフ場 | 手続と時期 | 負債総額 | 債権者数 | 直接の引き金 |
|---|---|---|---|---|
| 東京グリーン(千代田区、富里GC運営) | 破産手続開始決定 2026年8月 | 約155億円 | 約1名 | 事業譲渡後の残存債務+空港用地買収による閉鎖 |
| 三河カントリークラブ(愛知) | 民事再生申請 2026年3月 | 約120億円 | 約1,400名 | 預託金償還+新規会員獲得難 |
| 六石ゴルフ倶楽部(三重) | 民事再生申請 2026年9月 | 約56億円 | 約1,900名 | 預託金償還+元支配人の不正・追徴課税 |

負債総額だけを見れば六石倶楽部は3件で最小だが、手続に債権者として並ぶ人数では最多になる。会員にとっての深刻さは、負債の絶対額ではなく、自分がその債権者名簿に載っているかどうかで決まる。預託金償還は3件に共通する土台のリスクだが、そこに何が重なるかで破綻の形は変わる。六石倶楽部のケースが示すのは、内部統制の欠如という第三の軸が、預託金という古くからのリスクと結びついたときに何が起きるかだ。
愛知県新城市の三河カントリークラブが2026年3月31日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約120億円、債権者は約1,400名にのぼる[1]。入会時にゴルフ場へ預けた資金を一定期間後に返してもらう約束、いわゆる預託金の返還[…]
米国のカントリークラブでも内部不正は起きるのか
起きる。米国ウィスコンシン州グリーンベイのオナイダ・ゴルフ・アンド・カントリークラブでは、経理責任者が7年以上にわたり260万ドル超(約4億300万円。1ドル=155円換算)を横領していた事例が教材ケースとして報告されている[7]。この件はグリーンベイ市警とFBIが捜査し、連邦検事局が訴追を担当した[8]。日本側は元支配人の不正として報じられている段階で、刑事事件としての処分は本稿の執筆時点で確認できていない。役職も日本側は支配人、米国側は経理責任者で、同じではない。
違いが出るのは、不正が発覚したあとの会員の立ち位置だ。日本の預託金会員制では、会員は預けた金銭の返還請求権を持つ債権者であり、経営が破綻すれば手続に直接並ぶ。六石倶楽部で債権者が約1,900名にのぼるのはこのためで[1][6]、有価証券報告書上の預り保証金約53億7,700万円が、そのまま会員に対する負債として計上されていた[2]。一方、オナイダの事例で報じられているのは私営クラブ内部の財務問題であり、会員が破綻手続の債権者として並ぶ構図では語られていない[7][8]。
| 項目 | 六石ゴルフ倶楽部(日本) | オナイダGCC(米国) |
|---|---|---|
| 不正の主体 | 元支配人[1][2] | 経理責任者[7] |
| 規模 | 全容・発生時期・総額は会社側も未把握[2] | 7年以上で260万ドル超[7] |
| 刑事手続 | 執筆時点で確認できず | 市警・FBIが捜査、連邦検事局が訴追[8] |
| 会員の立ち位置 | 預託金の返還請求権を持つ債権者約1,900名[1][6] | 破綻手続の債権者として並ぶ構図では報じられていない[7][8] |
ビジネス側の含意は、内部統制の欠如は業態も国も問わず起こりうるという点。ゴルファー側の含意は、預託金を預けている日本のクラブでは、経営の失敗がそのまま自分の債権の話になるという点だ。
内部不正がなぜ長期化し、発覚が遅れるのかを実例から追いたい読者には次の一冊が向く。
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よくある質問(FAQ)
六石ゴルフ倶楽部でのプレーや予約は今後もできるのか
民事再生法の適用申請後も営業は継続され、会員のプレー権は保護される方向で手続きが進んでいる[1][2][6]。
預けた預託金は戻ってくるのか
本稿の執筆時点では分からない。再生計画は2027年1月中旬頃に予定されており[6]、再生債権者への弁済率はその計画で決まる。リソルホールディングスが配当原資を支援するとされているが[1][2]、金額や割合は公表されていない。
自分のホームコースも同じリスクがあるのか
預託金会員制を採用する古いクラブは同種のリスクを抱えるが、内部統制の状況はクラブごとに異なり、本稿の事例だけでは一般化できない。
プレー料金は値上がりするのか
今回のケースでは料金への言及は公表されておらず、本稿の執筆時点では確認できていない。
まとめ
六石ゴルフ倶楽部の民事再生は、預託金償還というバブル期クラブに共通するリスクに、内部統制の欠如という別の軸が重なったときに何が起きるかを示す事例だった。ゴルフをする読者への教訓は、預託金を預けているホームコースの経営体制がどう監視されているか確認しておくことに尽きる。
ビジネス側の読者への教訓は、開示義務があることと不正が防げることは別だという点だ。六石倶楽部は有価証券報告書の提出会社であり、2026年6月提出の報告書では継続企業の前提に重要な疑義まで開示されていた[2]。それでも元支配人による長期の不正は続き、会社側は今も全容を把握できていない[2]。上場していない、規模が小さいといった外形で内部統制の強さを推し量ることはできない。
出典: [1] 帝国データバンク「株式会社六石ゴルフ倶楽部」倒産速報 https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5255/ / [2] JC-NET「【三重】(株)六石ゴルフ倶楽部/民事再生申請 負債約56億円 リソルHDが再建支援」 https://n-seikei.jp/2026/09/56hd.html / [3] 伊勢新聞「六石ゴルフ倶楽部が民事再生法の適用申請 負債56億円」 https://www.isenp.co.jp/2026/09/02/152486/ / [4] 帝国データバンク「株式会社三河カントリークラブ」倒産速報 https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5214/ / [5] 帝国データバンク「東京グリーン株式会社」倒産速報 https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5254/ / [6] 東京商工リサーチ「不正が発覚していた六石ゴルフ倶楽部が民事再生へ、営業は継続」 https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/detail/1203201_1521.html / [7] IgnitEd「Embezzlement at the Country Club: A Breach of Trust」 https://www.ignited.global/case/business-and-management/embezzlement-country-club-breach-trust / [8] Club + Resort Business「U.S. Attorneys Handling Oneida G&CC Embezzlement Case」 https://clubandresortbusiness.com/us-attorneys-handling-oneida-gcc-embezzlement-case/


