
2026年8月19日、東京地裁が東京グリーン株式会社(千代田区)に破産手続開始決定を出した。負債総額は約155億円、債権者は約1名[1]。同社は1981年の設立で、かつて千葉県で富里ゴルフ倶楽部とカレドニアン・ゴルフクラブを運営していたが、2008年の会社分割でコース運営そのものを別会社へ移し、以降は休眠状態にあった[8]。休眠していた会社がなぜ今になって破産したのか。引き金は成田空港第3滑走路増設の用地買収で、2023年12月に富里ゴルフ倶楽部が閉鎖されたことにある[1][3]。
会員権を持つ読者にとって、この事案は当事者でなくても他人事ではない。自分のコースが開場した年と、預託金の据置期限がいつ来るのかを確認する材料になる。ビジネス側の読者には、会社分割で事業だけを売っても法人に残った負債は消えないという構図と、それが国策インフラ事業の用地買収という外部要因で表面化した経緯を、財務とガバナンスの両面から読み解く。
東京グリーンはなぜ2026年に破産したのか
東京グリーンの破産は、2008年の会社分割(負債を大幅に圧縮する再編だった)で残った休眠会社が[8]、2023年の富里ゴルフ倶楽部閉鎖をきっかけに立ち行かなくなった結果である。同社は1981年6月の設立で、2007年9月期には年間収入高約18億7,100万円を計上していた[1]。バブル崩壊後に経営が悪化し、預託金の償還負担も重なった。2008年の再編では、各ゴルフ場について中間法人を設立して預託金を譲渡したうえで、コース運営事業を別会社へ移している[1]。この時点で預託金債務は東京グリーンの手を離れており、今回の破産で確認された債権者1名・約155億円に会員は含まれていないことから、2008年に会社分割を実施し、ゴルフ場運営事業を別会社へ移した[1][2]。以降の東京グリーンは事業を持たない休眠会社となり、金融債務の整理だけを続けていた[1][2]。
転機は成田空港の拡張計画だった。富里ゴルフ倶楽部は成田国際空港の第3滑走路増設に伴う用地買収の対象となり、会員総会は2022年8月に売却関連の手続き開始を承認した[3]。倶楽部側は会員に対し、預託金の全額返還(入会金・名義変更料を除く)ができるよう努力していると説明しており、コースは2023年12月末で閉鎖された[3]。
閉鎖から2年8か月が過ぎた2026年8月19日、東京地裁は東京グリーンに破産手続開始決定を出した。負債総額は約155億円、破産管財人はときわ法律事務所の弁護士が務める[1]。運営を引き継いだ別会社が営むカレドニアン・ゴルフクラブは、今回の破産の対象外で営業を続けている[1]。

会社分割という手法が実務でどう使われ、どんな手続きを踏むのかを一冊で押さえたい読者に。
会社分割で事業を売っても、なぜ負債は消えないのか
会社分割は、事業だけを切り出して別会社に承継させる組織再編の手法である。東京グリーンは2008年にこの手法でコース運営を新会社へ移したが、法人格そのものは消滅せず、残った債務も引き続き東京グリーンの帳簿に残った[1][2]。事業を売っても、売った側の法人と負債は別に存在し続ける。
預託金負債が重しになる構図自体は珍しくない。同じ2026年には、愛知県の三河カントリークラブも預託金償還の資金繰りが行き詰まり、3月31日に民事再生法を申請している。ただしこちらは会社分割を挟まず、事業を持ったまま単体で再生手続きに入った事例で、手続きの区分も異なる。負債総額は約120億円で、東京グリーンの155億円と近い水準にある[4]。富里・カレドニアンが1989年・1990年の開場であるのに対し[8]、三河CCの開場は1998年でバブル崩壊後にあたる。開場時期は異なるが、預託金という無利子の長期負債を抱えたまま収入が細っていった点は共通する。

東京グリーンの場合、休眠状態が18年続いたことで問題がいったん見えにくくなっていた。しかし休眠は債務の消滅を意味しない。金融機関からみれば、返済原資となる事業を持たない法人に貸付金が残り続けている状態であり、その法人自身に資金が入る見込みがなければ、法的整理以外の出口は限られる。
ゴルフ場の経営難から整理までの現場を追った記録。預託金と会員をめぐる実際の経緯を知りたい読者向け。
成田空港の用地買収は何を特殊にしたのか
富里ゴルフ倶楽部の閉鎖は、通常のコース売却とは性格が違う。買い手は国が主導する空港拡張事業であり、交渉の相手は成田国際空港株式会社だった[3]。倶楽部側は会員に対し、預託金について払い込み額の全額返還(入会金・名義変更料を除く)ができるよう努力していると説明しており[3]、報道では「ゴルフ場補償額としては前例のない金額になる見込み」とも伝えられている[3]。

バブル期に入会した会員の中には、預託金5,000万円で入会した例もあったとされる[3]。

会員権相場の指数(ゴルフホットライン指数銘柄549コースの月間平均)は2026年8月時点で113万5,000円である[5]。両者を並べると、成田空港補償の対象になった一部会員の預託金は、今の相場の40倍を超える規模だったことになる。国策インフラ事業による用地買収という特殊な事情がなければ、この規模の資金を東京グリーンが独力で会員に返せた保証はない。
同じ据置期限の壁を抱えるバブル期開場クラブは他にも存在する。買い手が現れるかどうかで行き先は大きく変わる。東京グリーンの場合は空港拡張という買い手があり、法人の破産に至るまでの間に会員への対応を進める余地があった点で、条件に恵まれたケースだったとは言える。
愛知県新城市の三河カントリークラブが2026年3月31日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約120億円、債権者は約1,400名にのぼる[1]。入会時にゴルフ場へ預けた資金を一定期間後に返してもらう約束、いわゆる預託金の返還[…]
米国のゴルフクラブ破綻でも「負債の残る会社」は生まれるのか
部分的に起きる。米国では破産手続き(チャプター11)を通じて資産を負債から切り離した状態で売却する仕組みがあり、多くの破産裁判所がこれを認めている[6]。なお米国にも、テキサス州法の分割合併(divisive merger、いわゆるTexas Two-Step)のように事業と負債を分けたうえで一方を破産させる手法は存在する。買い手は労働組合や債権者からの承継債務を負わない形で施設を取得でき、売り手側の法人に旧債務が残るという結果は日本の会社分割と似ている[6]。
違いは手続きの公開性にある。日本の会社分割は裁判所の関与なく実行できる。債権者保護としては、分割の効力発生前に異議を述べる手続き(会社法789条・810条)と、分割後に残された債権者が承継会社へ直接履行を請求できる制度(同759条4項等)が置かれている。いずれも一般論であり、東京グリーンの2008年の再編についてこれらが問題になったとする報道は確認できない。米国のチャプター11は裁判所の監督下で進み、売却条件や債権者への影響が公開の手続きの中で審査される[6]。
預託金に近い制度も米国に存在する。一部のクラブは30年後などに返還される長期の据置型入会金を採用しており、日本の預託金と発想は近い[7]。ただし米国では非返還型の入会金制度も広く併存しており、返還前提の資金集めがゴルフクラブ経営の標準ではない点が日本と異なる[7]。
| 項目 | 日本(会社分割) | 米国(チャプター11) |
|---|---|---|
| 手続きの主体 | 会社が自ら決定、裁判所関与は限定的 | 裁判所が監督し売却条件を審査 |
| 旧債務の帰属 | 分割前の法人に残存 | 売却元の法人に残存(承継債務なし) |
| 会員向け資金モデル | 預託金(据置期間後に返還)が主流 | 非返還型入会金と長期据置型入会金が併存 |
ビジネス側の読者にとっては、資産と負債を切り離す発想そのものは日米で共通しており、違いは司法の関与度合いにあるという点が実務上の含意になる。ゴルファー側の読者にとっては、返還前提の資金を長期間預ける会員制度は、世界的に見ても主流とは言えないという相対化が得られる。
ジャック・ニクラウス氏のブランドとゴルフ場設計事業を運営するNicklaus Companiesが、2025年11月にチャプター11(米連邦破産法11章、日本の民事再生に近い倒産手続き)を申請した。引き金は、創業者本人が自社を訴えた名誉毀[…]
よくある質問(FAQ)
東京グリーンは今もゴルフ場を持っているのか
持っていない。富里ゴルフ倶楽部は2023年12月に閉鎖され、カレドニアン・ゴルフクラブは別会社が運営を引き継いでいる。
自分のクラブも同じリスクがあるのか
バブル期開場で預託金の据置期限が近いクラブほど確認が必要になる。開場年と据置期限、直近の会員数の推移をコースへ照会しておくと判断材料が増える。
ゴルフ場運営会社が破産すると、コースは使えなくなるのか
必ずしもそうではない。今回もコース運営はすでに別会社に移管されており、破産したのは休眠していた旧会社である。運営会社と法人格が同じかどうかを確認することが重要になる。
2026年5月28日、福島市松川町水原にあった旧・福島カントリークラブの跡地で、太陽光発電所が稼働を始めた。かつてゴルファーが歩いたフェアウェイの上に6万3000枚のソーラーパネルが並び、発電した電力はすべてAmazon(アマゾン)向けに[…]
まとめ
東京グリーンの破産は、会社分割から18年後に表面化した。事業を売っても法人と負債は残り続けるという構図自体は目新しくないが、その負債が消える最後の局面を用意したのは、成田空港拡張という国策インフラ事業の用地買収だった。
会員権を持つ読者への教訓は、開場年と預託金の据置期限を自分のコースについて確認しておくことに尽きる。ビジネス側の読者にとっては、会社分割で事業を切り離した後も、残った法人の債務が消えるとは限らず、消えるとすれば外部要因に依存する場合があるという事実を押さえておきたい。
出典: [1] 帝国データバンク「東京グリーン株式会社」倒産速報 https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5254/ / [2] 日本経済新聞「ゴルフ場運営の東京グリーン、破産開始決定 負債155億円」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2648E0W6A820C2000000/ / [3] クオリティーゴルフ「富里GC(千葉)、23年12月末での閉鎖を決定」 https://q-golf.co.jp/knews/4828/ / [4] 帝国データバンク「三河カントリークラブ」倒産情報 https://www.tdb.co.jp/report/bankruptcy/flash/5214/ / [5] ゴルフホットライン会員権相場情報 https://www.plus-web.co.jp/trend/ / [6] Jones Day「Assets May Be Sold in Bankruptcy Free and Clear of Successor Liability」 https://www.jonesday.com/en/insights/2020/08/assets-may-be-sold-in-bankruptcy-free-and-clear-of-successor-liability / [8] 東京商工リサーチ「東京グリーン株式会社」 https://www.tsr-net.co.jp/news/tsr/detail/1203171_1521.html / [7] Golf Property Analysts「Refundable Club Membership Deposits: The Economics」 https://golfprop.com/uncategorized/refundable-club-membership-deposits-the-economics/


