業界KSFとは|QBハウスに学ぶ外部環境分析【MBA経営戦略 Day1】

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MBAの基礎科目「マーケティング・経営戦略基礎」で扱ったケースを、講義で使ったフレームワークに沿って解説します。


この科目は何を扱うのか

本連載は、MBAの基礎科目「マーケティング・経営戦略基礎」で扱った6つのケースを、講義で使ったフレームワークに沿って解説するものです。

この科目のねらいは、経営戦略とマーケティングの理論とフレームワークを、3ヶ月で実務に使えるレベルまで持っていくことにあります。構成は全6回です。

領域扱うこと
第1回経営戦略経営戦略の全体像/事業戦略における環境分析
第2回経営戦略事業戦略における競争優位性の構築
第3回経営戦略全社戦略(資源配分・多角化・経営資源の補完・シナジー)
第4回マーケティングマーケティング戦略の全体像/分析・立案プロセス
第5回マーケティングマーケティング・ミックス(4P)
第6回総合演習経営戦略とマーケティングを1つのケースで使い切る

進め方はケースメソッドです。実在企業の事例を予習し、グループとクラス全体で議論して、そこから業界や時代が変わっても使えるポイントを抽出する ―― という往復を6回繰り返します。授業では次の姿勢が求められます。

  • ケースの登場人物(経営者など)になりきる
  • 自分の言葉で発言する。批評家にならない
  • 正解にこだわらない。業界や時代が変わっても大事なポイントを掴み取る
  • 自社・自分に引き寄せて考え、できることから実践する

つまり、フレームワークを覚えることが目的ではありません。目の前の事業に当てて、自分の言葉で説明できるようになることが目的です。この連載も、その視点で書いています。


1. この回で何を持ち帰るのか

Day1のテーマは「経営戦略の全体像」と「事業戦略における環境分析」。3ヶ月の全6回のうち、Day1〜Day3が経営戦略、Day4〜Day5がマーケティング、Day6が総合演習という構成になっている。

冒頭でクラスに投げかけられる問いは、身も蓋もないほどシンプルだ。

「戦略」と「戦術」の違いは?

戦略は大局的・目的・時間軸が長い。戦術は局所的・手段・時間軸が短い。では、戦術が良くても戦略が貧弱だとどうなるか。ハンドアウトのスライドはこう書く ―― 目指すべき方向が不明確で、構成員の行動がバラバラ、部分最適・短期的視野に陥り、経営資源が分散する。結果は「犬死…」。テレビCMはうまい、営業のセールストークもうまい。でも会社は沈む。そういう会社を、私たちは山ほど知っている。

このクラスでの戦略の定義は次の通りだ。

外部環境と内部環境(自社)を整合させる営み、を整理したグランドデザイン

ポーターの「トレード・オフを受け入れ、何をやり何をやらないかを選択すること」も、伊丹&加護野の「将来のあるべき姿とそこに至る変革のシナリオ」も紹介されるが、実務で回すならこの定義が一番使いやすい。「整合」という言葉が全6回を貫くキーワードになる。


2. 全6回を貫く1枚 ―「戦略策定プロセス」

Day1で提示され、Day2以降も毎回「再掲」され続けるのが、この1枚だ。

3C分析はこのプロセスに包含されている(市場・顧客/競合/自社)。そして最上位に「経営理念・ビジョン」が置かれる。

戦略策定プロセス。市場・業界定義から競合分析と顧客分析を経て業界KSFを特定し、自社分析とのGAPから戦略を立案し、実行結果が再び環境分析に戻る循環図
外部(業界と顧客)を分析して業界KSFを出し、それと自社とのGAPを経営課題として特定する。左から右へ流れ、実行結果はまた外部分析へ戻る。

この図の一番大事な読み方は、左から右への流れである。 自社だけを見ていても戦略は作れない。まずどこ(業界)で戦うのかを定義し、その業界の環境を読み解き、その業界で勝つためのキモ(業界KSF)を抽出する。そのうえで内部を見て、KSFとのギャップを埋める。

業績が低迷している企業は、たいてい外部環境と内部環境の施策が整合していない。外部環境が変化しているのに、同じ施策を続けている ―― この一文が、Day3のNKKにも、Day4のチェキにも、そのまま当てはまる。


3. フレームワークに飛びつかない、という作法

Day1で最初に叩き込まれるのは、フレームワークの使い方ではなく使う順番だ。

やみくもにFWに飛びつくのではなく、まず何を分析するか考える枠組み(知るべきこと)を意識する。次に、その分析に有効なFWを探すという手順(プロセス)が重要。

つまり「①分析の枠組み(問い)を先に立てる → ②有効なFWを考える → ③総合して業界KSFを特定する」。

  • マクロ環境はどんな変化が起きているのか → PEST分析
  • 収益構造からどんな戦い方を強いられるのか → 事業経済性分析(コスト構造分析)
  • 外部プレイヤーからどのような影響を受けているのか → 5F分析
  • 市場規模/収益性/成長性は → 市場調査結果を活用(なければ推定)
  • 顧客はどのように分類されるか → 顧客セグメント分析
  • 購買の決め手は何か → 顧客KBFの特定

そして注記が効いている ――「必ずしもFWがあるとは限らない(無いなら作る)」。

この回で採用された分析の枠組みは以下の8ステップ。以降のDayでも、この順番が骨格として繰り返される。

  1. 市場規模・成長率・収益性
  2. 事業経済性の把握(業界コスト構造分析)
  3. マクロ環境変化の把握(PEST分析)
  4. 5F分析
  5. (小まとめ)業界特性の把握
  6. 顧客KBF分析
  7. (まとめ)業界KSFの特定
  8. (上記を踏まえた)個社戦略の評価

4. 理容業界を、数字から解剖する

理容店のサインポール。全国12.8万店、9割が個人経営という分散構造を、この看板の数が物語る。
理容店のサインポール。全国12.8万店、9割が個人経営という分散構造を、この看板の数が物語る。
写真:Corpse Reviver/CC BY-SA 3.0(Wikimedia Commons)

4-1. 市場規模・成長性・収益性

項目数字
市場規模推定約1.15兆円(12.8万店舗 × 900万円/店舗)
店舗数12.8万店(2014年3月末)、9割が個人経営
成長性店舗数 −0.9%/年(2003〜2013年平均)※美容業界は+1.1%
収益性個人経営の営業利益率 24.1%

営業利益率24%。飲食業や小売業を見慣れた目には、驚くほど高い。なのに全国12.8万店に分散し、9割が個人経営。なぜこんなに分散するのか。 ここが最初の「気になるところ」として立つ。

ケース本文では、理容師数も25.2万人(2003年)から23.4万人(2013年)へ減少。固定客比率も90年代の95%前後から2013年には74.0%まで低下している。

4-2. 事業経済性 ― コスト構造から「戦い方」を読む

個人経営の理容業のP/L(単位:千円、添付資料2より)。

項目金額比率
売上7,005100%
売上原価(シャンプー・櫛など)4967%
人件費(給与・福利厚生)2,28333%
販売管理費(賃借料・設備など)2,53836%
利益1,68924%

変動費7%、固定費69%。 固定費比率が極端に高い。ここから導かれる仮説は明快だ ―― この業界は、固定費の「稼働率」を高めること(=いかに客が座り続けている状態を作るか)が経営の肝である。

ここでDay1の白眉である「事業経済性」の類型が一気に解説される。

事業経済性メカニズム対象費用の例
稼働率の経済キャパシティを意識する固定費。稼働率100%近辺が単位コスト最小。100%超は追加投資が必要でかえって非効率工場設備、人件費
規模の経済生産量・販売量が増えると単位当たり固定費が減少。効果は青天井研究費、開発費、広告費
経験効果(経験曲線)累積生産量が増えると、歩留まり向上・スピード向上でコストが下がる人件費(固定費)、材料費(変動費)
範囲の経済(シナジー)異なる事業間で経営資源・ノウハウを共有しコスト低減ユニ・チャーム「吸水体」技術、Amazonの同一ECチャネル
バイイングパワー調達量の大きさが値引きとして還元される家電量販店の仕入原価
ネットワークの効果ユーザー・データが増えるほど価値・効率が高まるSNS、マッチング、機械学習
稼働率の経済と規模の経済の単位コスト曲線の比較。稼働率の経済は100%で最小となりそれを超えると上昇、規模の経済は生産量とともに単調に低下する
同じ「固定費が下がる」でも形が違う。稼働率の経済は100%で底を打ち超えると反転するが、規模の経済は量が増えるほど下がり続ける。どちらが効くかで打ち手が変わる。

理容業界に効くのは稼働率の経済。ただし ―― ここが重要 ――固定費の「1単位」が小さい。年間480万円程度の固定費を賄えばよく、稼働はすぐ限界が来る。つまり「高稼働にするために必要な売上が小さい」。

理容業のコスト構造の積み上げ図と、固定費比率の高さ・固定費額の小ささ・顧客KBFのアクセスの良さが合流して12.8万店の分散構造を生むメカニズム図
「なぜ12.8万店に分散したのか」は算数で解ける。固定費比率69%が高稼働を要求し、その固定費の絶対額が小さいことが小規模分散を許し、顧客KBF「アクセスの良さ」がそれを後押しする。

稼働率が何よりも重要 + 固定費額は小さく分散しやすい
全国12.8万店・9割が個人経営に分散する理由が、算数で説明できた

「なぜ分散するのか」という素朴な違和感が、コスト構造分析ひとつで解ける。フレームワークが「腹落ち」に変わる瞬間である。

4-3. PEST分析

理容業界(1990年代半ば)
P 政治厚生労働省の管轄、都道府県の保健衛生指導の対象施設。全国理容生活衛生同業組合連合会が47都道府県支部ごとに定休日を設定
E 経済バブル経済の崩壊
S 社会地方都市での人口減少(都市化)。バブル崩壊による安価な商品への傾倒。「安かろう悪かろう」ではなく「安くて、そこそこ良いもの」を提供する企業が増加し、消費者の目もシビアに
T 技術理容技術に大きな変化はないが、インターネットが事業インフラとして活用され始めた

ハンドアウトの結論 ――「緩やかながら規制に守られた業界だが、経済や社会の変化による顧客ニーズの変化に対応の可能性あり」。

PEST分析の注意点として繰り返されるのが、「事実の羅列や整理にとどめず、自社事業への影響まで引き寄せて機会や脅威を考える」こと。定点観測せよ、とも。

5つの力は、強弱を並べて終わりにすると何も生まない。その力をどう打ち消すかまで考える道具である ―― という原典の使い方は、この一冊で確かめられる。

4-4. 5F分析

5Fは「業界内と業界を取り巻くプレーヤーの力関係から、業界内の(平均的な)儲かりやすさを知るためのフレームワーク」。利益=売上(買い手)−コスト(売り手)という、キャベツの仕入100円・販売150円という例え話で導入される。

国内理容業界(1990年代半ば)の分析:

強さ根拠
新規参入資格を取れば一人でも出店可(9割が個人経営)/強力なブランドが少ない/設備に巨額資金不要(+)/ただし政府の規制あり(−)
代替品美容所の増加(+)
業界内の競争中→強業界の成長率が低い/製品・サービスに独自性なし/固定客の比率が高い中で固定客が減りつつある
売り手備品や消耗品は汎用品/少数企業による独占なし
買い手人口減少/コスト意識の高まりによる利用頻度の低下/代替品への固定客の流出
理容業界の5フォース分析図。中央の業界内競争は中から強、新規参入は中、代替品は中、売り手は弱、買い手は強
理容業界(1990年代半ば)の5F。売り手だけが弱く、他はすべて固定客を削る方向に働く。だから「いかに固定客を維持するか」が業界KSFのヒントになる。

示唆:もともと固定客ベースのビジネスだが、コスト意識の高まり(買い手)と、他店・美容室への流出の脅威拡大(新規・競合・代替)により、儲かりにくい業界へ向かっている

そして業界KSFへのヒント ―― 「いかに固定客を維持(できれば確保)するか」。これを解くには顧客KBFの分析が必要になる。

なお5F分析の応用編として「5F × PEST」の掛け合わせが紹介される。今後の環境変化を推測しながら、業界の競争環境がどう変化するかシナリオを描く。特に警戒すべきは業界外のプレイヤー ――「業界を破壊するのは業界外のプレーヤーであることが多い(テスラ、Amazon)」。


5. 顧客KBF ― 「顧客が違う⇒ニーズが違う⇒KBFが違う」

顧客ニーズ=○○したいという欲求が満たされていない状態(顕在+潜在、優先順位の大小あり)。
顧客KBF(Key Buying Factors)=最終的な購買決定に踏み切った最も重要な要因。A社とB社のどちらを買うかの分水嶺。企業側から見れば提供価値(Value Proposition)の裏返し。

理容業界の顧客を「従来の顧客」と、PESTで確認した「価格感度の高い顧客」に分けて分析する。

従来の顧客価格感度の高い顧客
顧客像従来の一般男性(美容所へ切り替えず変化を嫌うタイプ)価格・時間への感度が高い男性。髪を切ることに特段の付加価値を求めない忙しいビジネスパーソン
ニーズ髪の毛(+ひげ)を整えたい/細かく説明せずいつもの髪型に/理髪中はリラックスしたい/移動時間は短縮したい髪を清潔に整えたい(髪さえ切ってくれればいい)/その上での安さ/隙間時間に手短に
KBF高価格帯でのコスパの高さ(変わらない安心・価値+αの手厚いサービス)/アクセスの良さ(顧客住居近く)コスパの高さ(サービスはカットに限定しつつも圧倒的な安さ)/アクセスの良さ(平日動線上も含む)

共通のKBFは「コスパの良さ(ただしセグメントごとに価格帯が異なる)」と「店舗までのアクセスの良さ」。

ここでもう一段深い分析が入る。KBF「アクセスの良さ」がもたらす構造的な意味だ。

「アクセスの良さ」を実現するには、店舗は1か所に集約するのではなく分散した方がよい
+(コスト構造分析より)1店舗の開業に必要な固定費額は小さい
店舗は分散する

コスト構造から出た「分散しやすい」と、顧客KBFから出た「分散した方がKBFを満たす」が、同じ結論に合流する。別々のフレームワークの出力が同じ場所に着地したとき、その示唆は信頼できる。 これが「各分析を総合して業界KSFを特定する」ということの実態である。


6. 理容業界の業界KSF

アクセスのよい立地に分散配置し、価格帯ごとのコスパのよいサービスを提供し、商圏内の固定客を維持し、小店舗の固定費に対する高稼働率を維持すること

補足として:
– コストの7割が固定費であり、店舗単位の固定費の稼働率を高めることが重要
– ただし初期固定費は少額でよく、一定の固定客がいれば収益は確保できる
– 一方、マクロ環境変化に伴い従来の固定客が減少し、価格感度の高い顧客が増えている
– KBFは「生活動線からのアクセスの良さ」と「コスパの高さ」。ただしサービスの価格帯の幅が大きいため、各価格帯でのコスパの追求が必要

業界KSFは「業界全体の視点」で書く。個社の概念は含めない。 ここを混同すると、以降の議論が全部ズレる。


7. ようやくQBハウスの話に入る

講義も中盤を過ぎてから、「ここまでは理容業界の分析の話。ようやくここからQBハウスの話に入ります」となった。この構成自体がメッセージである。個社の打ち手を語る前に、業界の掟を読み切れ、と。

従来の理容店 vs QBハウス

従来の理容店QBハウス
ターゲット従来の顧客価格感度の高い顧客
立地顧客住居近くに小さな店舗、商圏内でのアクセスの良さ駅近など平日導線上に店舗、アクセスの良さ
サービス手厚いサービスにより、価格以上のコスパの良さで固定客を確保・維持徹底的に無駄を省いたコスパの良いサービスで新しい顧客KBFを発掘し固定客を確保
稼働小さい固定費の稼働率を高めた小さな固定費の稼働率を高めた
同一の業界KSFに対して従来の理容店とQBハウスが異なる顧客セグメントのKBFに応え、異なる打ち手を選んだことを対比した図
QBハウスは業界KSFを破ったのではなく、同じKSFを別のセグメントのKBFで満たした。Day1の戦略オプションでいう「②業界内で棲み分け、競争回避」にあたる。

両社とも同じ業界KSFを満たしている。違うのは、どのセグメントのKBFに応えたか。QBハウスは新しいニーズの存在を把握し、そこにコスパのよいサービスを提供した。つまり、

QBハウスは競合とは異なる戦略を選択して成長を遂げた

ケース本文から拾える事実:1996年に第1号店「QBハウス 神田美土代店」をオープン。“全てをやるのではなく、大切なことだけに集中する”という考えのもと、顧客が自身ではできないヘアカットのみを提供。創業以来1,000円を維持し、2014年3月の消費増税(5%→8%)に合わせて外税化し1,080円へ。2015年売上154億円(推定)、同年12月時点で国内495店舗・海外101店舗。2015年度JCSI(日本版顧客満足度指数)調査の生活関連サービス分野で1位。

QBハウスのように「競合とは別の満たし方」を選ぶ戦略がなぜ強いのか。個々の施策ではなく、因果の連なりとして戦略を読む視点が得られる。

業界KSFを受けての戦略オプション(3つの型)

選択肢内容
①業界内で正攻法現行の競争ルール・業界KSFの下でよりうまく戦う清涼飲料の自販機数と立地
②業界内で棲み分け、競争回避現行の業界KSFの中で、異なるKBFの領域を見つけ、新たな価値提供を行う高級スーパーの紀ノ国屋、QBハウス
③業界を刷新する現行の競争ルール・業界KSFを破壊し、新しいルールを創造するウォークマンに対するiPod

業界KSFは押さえつつ、競合とは異なる戦い方を選択している企業の方が、高い利益を上げていることが多い

最後の問い

授業の最後、南講師はこう問いかける。

なぜ、QBハウスはデータサイエンティストを採用したり、常にIT投資を行っているのか?
なぜ、QBハウスは教育研修に力を入れているのか?

答えは業界KSFにある。稼働率を最大化するには、混雑予測・待ち時間の可視化・店舗ごとの需要予測が要る(IT投資)。回転率と品質の両立には、スタイリストの技能標準化が要る(教育研修)。ケースには、店先に混雑状況サインを掲示しWEBでも公開していること、カット時間を店舗データとして取得しPDCAを回していること、エアウォッシャーの電源オフがカット終了の合図となること(=1人あたり所要時間の自動計測)などが描かれている。

顧客/自社の経営陣に提案を行う際は、その事業の業界KSFの実現と整合した提案になっているかを必ず確認すること。



8. 受講して持ち帰ったこと

Day1で腹に落ちたことを、3つに絞って書いておく。

① 枠組みを先に決めてから、フレームワークを探す
フレームワークを知っていること自体には、あまり意味がなかった。先に「何を知りたいのか」を決め、それを考えるための枠組みを置く。フレームワークはそれに合うものを後から探す ―― この順番を、自分はずっと逆にしていた。適したものが無ければ自分で作ればいい、という一言も効いた。

② 業界KSFは、個社の話を混ぜずに出す
外部分析から業界KSFを出すところまでは、あくまで業界全体の視点で考える。自社の事情を混ぜた瞬間に、KSFが「自社にできること」の方へ寄ってしまう。内部分析はそのあと ―― この順序で初めてGAPが見えた。

③ 外部環境が変われば、戦略も変わる
優れた個社戦略は、外部環境から導いた業界KSF・顧客KBFと整合している。裏を返せば、環境が変われば戦略も変えなければならない。定期的に見直す必要があるのは、そういう理由だった。

自分の仕事に当てはめてみる

授業の最後に出された宿題は、そのまま自分の事業への問いになる。手をつけたい順に書いておく。

  • 自分の事業が置かれている外部環境は、いまどうなっているか
  • 顧客のニーズは、これからどう変わりそうか
  • そのとき、業界KSFは変わるのか。変わらないのか
  • 自分の業界の平均的なコスト構造はどうか。割合の高い項目は何で、どの事業経済性が効いて、どれが効かないのか。そして、なぜそう言えるのか

自分に問い直したいこと

  • コスト構造を見ただけで、なぜ12.8万店に分散したのかをメカニズムとして説明できるか
  • フレームワークで整理して満足していないか。その整理から何が言えるのかまで踏み込めているか
  • 顧客が変われば、ニーズが変わり、決め手(KBF)も変わる。自分の事業で、その分岐を何本描けるか
  • 同じ業界KSFを、競合とは別のやり方で満たす道は残っていないか

9. 学び方について ―「具体化と抽象化のサイクルを回す」

最後に、Day1で示される学習法そのものが、実は最も持ち帰る価値があるかもしれない。

テキスト・ケースで予習(個人)
   ↓ 具体化(ケース)
グループで議論 → クラス全体で議論
   ↓ 抽象化(業界・時代が変わっても大事なポイントを掴み取る)
DB・勉強会で学びを深める
   ↓ 具体化(自社・自分)
できることから実践してみる
  • ケースの登場人物(経営者など)になりきる
  • 自分の言葉で積極的に発言する/批評家にならない
  • ※インターネットで検索しない(考えるうえで必要な情報はケースにある)
  • ケースの正解にこだわらない

予習6〜8時間、復習6〜8時間が目安。そしてDay2で登場する認知不協和の話 ――「セミナー・講義でいいことを学んでも、行動しないと全く意味がなくなってしまう」。学んだことを新しい行動につなげる。それがこの科目の、そして経営学の唯一の使い方である。

この連載の他の回


よくある質問(FAQ)

業界KSFとは何ですか?

その業界で勝つための条件・メカニズムのことです。業界に参入するうえで誰もが満たすべき必要条件(外食業で食中毒を出さない等)とも、個別企業の成功要因とも異なります。あくまで業界全体の視点で、何が高収益を生むのかを構造として言い当てたものを指します。

業界KSFと顧客KBFはどう違いますか?

KBF(Key Buying Factors)は顧客が最終的に購入を決めた要因=顧客側の視点です。KSF(Key Success Factors)はその業界で企業が勝つ条件=業界側の視点。顧客KBFの分析は、業界KSFを導き出すための材料のひとつという関係になります。

QBハウスはなぜ成功したのですか?

業界の掟を破ったからではありません。理容業界のKSF(アクセスのよい立地への分散配置、価格帯ごとのコスパ、小店舗の高稼働率)は従来店と同じまま満たしつつ、狙う顧客を「価格感度の高い層」に変えたためです。同じKSFに対して、異なるKBFで応えた ―― これがDay1でいう「業界内で棲み分け、競争を回避する」型にあたります。


公式リソース

※ 各社の製品写真・店舗写真は著作権があるため本記事には掲載していません。上記の公式ページで確認してください。