電力会社とファンド、ゴルフ場跡メガソーラーで住民対応はなぜ分かれたか

長野県木曽町で2026年8月7日、中部電力の完全子会社が旧ゴルフ場跡地に出力21,000kWのメガソーラーを着工した[1]。一方の北海道大空町では、外国資本の会社が取得した女満別ゴルフコースのメガソーラー転用計画に対し、2025年から町議会の反対決議と2万8千筆を超える署名活動が続き、事業者が閉鎖時期を1年延期する事態になっている[2][5][6]。どちらも「ゴルフ場跡地をメガソーラーに変える」という同じ動きだが、地域との関係のこじれ方がまったく違う。

自分の使っているコースがいつか跡地転用の対象になったとき、買い手が誰かによって展開が変わりうるという意味で、ゴルファー読者にも無関係な話ではない。ビジネス側の読者には、同じ資産転用でも進め方によって地域対応の設計が変わり、それが結果の分かれ目になるという構造を、2つの実例を並べて読み解く。

中部電力はなぜゴルフ場跡地を太陽光ポートフォリオに組み込むのか

中部電力の完全子会社CEPCO-Rが100%出資する合同会社メガソーラーきそが、長野県木曽町の旧・木曽駒高原宇山カントリークラブ跡地で21,000kWのメガソーラーを着工した。年間発電電力量は約3,500万kWhで、一般家庭約11,200世帯分に相当する。運転開始は2027年9月を予定している[1]。

中部電力の完全子会社CEPCO-Rが100%出資するメガソーラーきそが2027年9月に21,000kWで運転開始する流れ図
中部電力によるメガソーラーきそ開発の位置づけ

このプロジェクトは、中部電力が単独で100%出資する形態を取っている。同じ記事で並べて報じられた「グリーンパワーさかいみなと」は木質専焼バイオマス発電所で、中部電力44.9%・New Circle Energy25.0%などの協調出資である[4]。発電方式も出資形態も違い、メガソーラーきそは自社グループ単独の太陽光資産として組み込まれている点が異なる。

中部電力グループは2030年頃をめどに、保有・施工・保守を通じて320万kW(3.2GW)以上の再生可能エネルギー拡大を掲げている[4]。メガソーラーきその21,000kWは、同じ記事が並べた同社の太陽光案件——愛知県豊明市の水上メガソーラー「豊明濁池ソーラー」1,750kW、静岡県の磐田匂坂上ソーラー555kW、島田菊川ソーラー500kW——と比べると桁が一つ違う[4]。

メガソーラーきそは他の太陽光案件と桁が一つ違う

さらに中部電力は2026年3月に岩手県内3か所での太陽光発電所建設を決め[8]、5月には丸紅新電力と共同で中部エリアの低圧太陽光400か所・連系出力計約2万kWの開発を公表している[7]。ゴルフ場跡地の太陽光化は同社にとって単発の投資ではなく、既存インフラ企業としての土地・系統資産の積み上げの一環にあたる。

メガソーラー案件の事業構造や収益モデルを1時間で押さえたい読者に。

女満別はなぜ閉鎖延期に追い込まれたのか

北海道大空町の女満別ゴルフコースは、約16年の歳月をかけて平成13年(2001年)8月に開業した町内唯一のゴルフ場である。町議会はこれを「地域の悲願」と表現している[6]。この1.2平方キロメートル余りの土地を外国資本の会社が取得し、メガソーラーを設置する方針を示した[3][6]。

網走湖を望む丘陵地に広がる女満別ゴルフコースの全景(空撮)
転用計画の対象となっている女満別ゴルフコース。町議会はこの1.2平方キロメートル余りの土地の大部分にパネルが敷き詰められることを問題にしている(画像:女満別ゴルフコース公式サイトより)

町議会は2025年7月28日、「大空町内ゴルフ場の再生可能エネルギー開発にかかる要望意見書」と「女満別ゴルフコースの存続を求める決議」を可決した。意見書が挙げた理由は、土砂災害リスク(平成27年には48時間300mmの降雨を記録)、景観破壊とパネル反射による周辺への影響、数少ない雇用の場の喪失、住民・地域間交流の拠点という4点である。決議はさらに踏み込み、「現状の運営体制のまま存続」と「事業計画の中止」を求めた[6]。

町と地元経済界による署名活動は、2025年8月7日の報道時点で2,500筆以上に達していた[3]。その11日後の8月18日、企業側は11月末としていた閉鎖時期を1年延期する考えを示し、町が北海道新聞の取材に明らかにしている[2]。

署名はその後も伸び、10月5日時点で直筆6,282筆・オンライン22,236筆の計28,518筆となった。この署名と、地元113事業者などからの要望書が松川一正町長らに提出されている[5]。

反対署名28,518筆はオンラインが直筆の3.5倍

町長らは2025年11月中にも上京し、関連事業者に署名の写しを手渡すほか、資源エネルギー庁に大空町の現状を報告し、国に法整備などを要望する考えを示した[5]。

ここで順序を押さえておきたい。閉鎖延期の方針が示されたのは、署名がまだ2,500筆規模だった2025年8月である[2][3]。28,518筆という数字が積み上がったのはその後で[5]、延期を直接動かしたのは、7月28日の町議会決議と初期段階の署名活動だったことになる。

外国資本による取得と町議会決議のあと、署名2,500筆超の段階で閉鎖が1年延期され、その後署名が28,518筆に積み上がった流れ図
女満別ゴルフコースが閉鎖延期に至るまで

女満別のような案件を動かす投資ファンドの意思決定ロジックを、世界最大級PEファンド創業者自身の言葉で知りたい読者に。

同じ「ゴルフ場跡メガソーラー」で、なぜ明暗が分かれたのか

中部電力の案件は、着工発表の時点ですでに事業計画・出力・運転開始時期・グループの中期目標との位置づけまで公開情報として整っていた[1][4]。既存の公益企業として自治体や地域との関係を長年築いてきた土台の上に、太陽光案件が積み上がっている構図である。

女満別の案件では、町議会が公式に反対の意見書と決議を可決し、事業計画の中止を求めるところまで関係がこじれた[6]。地域側からすれば、それまで馴染みのなかった取得者が、町内唯一のゴルフ場の存廃に関わる決定を示した格好になる。結果として住民側が署名活動を組織し、国の機関にまで働きかける展開になった[5]。

MBAの枠組みで整理すると、これは資本の時間軸の違いが表面化した事例といえる。インフラ企業が長期保有を前提に地域との関係を順を追って築く投資と、取得した土地の用途を組み替えて収益化する投資とでは、同じ土地取得でもステークホルダーへの向き合い方が変わる。女満別の場合、閉鎖延期という結果は、地域側がまとまって動いたことが事業者側の計画を実際に変えさせた例でもある。

項目中部電力(メガソーラーきそ)外国資本の会社(女満別)
事業主体中部電力の完全子会社が100%出資[1]外国資本の会社(社名は町議会文書・報道とも明示せず)[3][6]
計画の公開状況着工時点で出力・運転開始時期・中期目標との位置づけを公表[1][4]閉鎖時期を当初11月末とし、その後1年延期[2][5]
自治体の対応目立った反対の報道は確認できず町議会が意見書と存続決議を可決[6]
地域の反応同上反対署名28,518筆、113事業者などの要望書[5]
現在の状況着工済み、2027年9月運転開始予定[1]閉鎖を2026年11月末へ1年延期[2][5]
ゴルフ場跡地の太陽光転用/同トラック

2026年5月28日、福島市松川町水原にあった旧・福島カントリークラブの跡地で、太陽光発電所が稼働を始めた。かつてゴルファーが歩いたフェアウェイの上に6万3000枚のソーラーパネルが並び、発電した電力はすべてAmazon(アマゾン)向けに[…]

海外の再エネ用地買収でも、同じ対立は起きるのか

起きる。ただし海外の事例を見ると、分かれ目は資本の性格ではなく、その土地に誰の既存の利用権が乗っているかにあった。

ブラジル北東部では、イタリアのEnel、フランスのEngieという電力会社と、英国の投資会社Actis(現在は米General Atlanticの傘下)が、地域社会が長年利用してきた公有地を中心に868平方マイルを風力発電用に取得している。研究者はこの規模が2050年までに40倍に拡大しうると指摘する[9]。ここでは電力会社と投資会社が同じ側に並んでおり、「公益企業か投資家か」という線引きは働いていない。

ノルウェーでは、欧州最大級の陸上風力発電所が半遊牧民サーミの伝統的なトナカイ放牧地の権利を侵害したとして最高裁が違法と判断し、政府が補償と新たな冬季放牧地の提供に合意した。米国オクラホマ州では、オセージ族の土地8,400エーカーに建てられた84基の風力タービンが不法侵入にあたるとして、連邦裁判所が全基の撤去を命じている[9]。いずれも争点は事業者の資本構成ではなく、先住民族の既存の権利である。

一方、中国のゴビ砂漠の大規模案件は「異議なく進みうる」とされる。理由も主体の性格ではなく、砂漠が人口密集地ではなく農地転用とも競合しないことにある[9]。

項目日本(女満別)海外
争点になった土地町内唯一のゴルフ場。雇用・観光・地域間交流の拠点[6]地域社会が利用してきた公有地、先住民族の放牧地・保留地[9]
摩擦を起こした主体外国資本の取得者と町・地元経済界の対立電力会社・投資会社の双方。性格による差は見られない[9]
摩擦が起きにくい条件人口が少なく農地転用とも競合しない土地(ゴビ砂漠など)[9]
対立の帰結議会決議・署名活動を経て閉鎖を1年延期[2][5][6]最高裁判断や連邦裁の撤去命令、補償と拒否権[9]

海外事例が示すのは、資本が公益企業か投資ファンドかよりも、その土地に誰の既存の利用が乗っているかが摩擦の大きさを決めるという点だ。女満別で町議会が持ち出したのも、所有権の議論ではなく雇用・観光・交流という地域の利用実態だった[6]。ゴルファー側の読者にとっては、買い手が誰かという以上に、自分のコースが地域にとってどんな機能を持っているかが、跡地転用のときの抵抗力になるという見立てになる。

旧ゴルフ場の別用途転用(NZ)

ニュージーランド(NZ)南島カンタベリー地方、クライストチャーチ近郊のウェイマカリリ地区(Waimakariri District)で、18ホール・77ヘクタール(東京ドーム約16個分)のペガサス・ゴルフコースが住宅地への転用を巡る争点に[…]

よくある質問(FAQ)

女満別ゴルフコースは今すぐ閉鎖されるのか
当初の2025年11月末から2026年11月末へ1年延期する方針が示されている[2][5]。本稿の執筆時点でその後の変更は確認できていない。延期が撤回や再延期につながるかは今後の動向次第である。

中部電力のメガソーラーきそに反対の動きはあるのか
本記事の執筆時点で目立った反対の報道は確認できない。着工発表の時点で事業計画が公開情報として整っていたことも一因とみられる。

ゴルフ場が買収されたら、いつも同じような転用が起きるのか
一律には言えない。買い手が長期保有を前提とする事業者か、土地の用途を組み替えて収益化する投資家かによって、その後の展開は大きく変わりうる。

ステークホルダーとガバナンス

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まとめ

中部電力の案件と女満別の案件は、どちらも「ゴルフ場跡地のメガソーラー転用」という同じ現象でありながら、地域との関係のこじれ方がまったく違った。違いを分けたのは、太陽光という技術でも立地の良し悪しでもなく、その土地が地域にとって何であったかと、事業者がそれをどう扱ったかだった。

ゴルファー読者には、自分のコースが地域の雇用や交流にどう組み込まれているかが、跡地の行方を左右する要素になるという教訓が残る。ビジネス側の読者には、同じ資産転用でも既存の利用実態への向き合い方によって地域対応コストが変わり、それが事業スケジュールそのものを左右するという構造を押さえておきたい。


出典: [1] 中部電力ニュースリリース「メガソーラーきそ着工」 https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1218178_3273.html / [2] 北海道新聞デジタル「女満別のゴルフ場閉鎖『1年延期』 大空町に事業者側が方針」(2025年8月18日) https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1200016/ / [3] 北海道新聞デジタル「人気ゴルフ場、太陽光に転用計画 大空町で外資系 地元反発、存続の署名活動広がる」(2025年8月7日) https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1196842/ / [4] 日経BP メガソーラービジネス「中部電、ゴルフ場跡地に21MWのメガソーラー着工」 https://project.nikkeibp.co.jp/ms/atcl/19/news/00001/06003/?ST=msb / [5] 経済の伝書鳩「女満別ゴルフコース存続を」(2025年11月13日) https://denshobato.com/BD/N/page.php?id=134809 / [6] 大空町議会「大空町内ゴルフ場の再生可能エネルギー開発にかかる要望意見書」「女満別ゴルフコースの存続を求める決議」(令和7年7月28日可決) https://www.town.ozora.hokkaido.jp/soshiki/1002/1/2/842.html / [7] 中部電力ニュースリリース「中部エリアにおける低圧太陽光発電所(全400カ所)の開発について」(2026年5月15日) https://www.chuden.co.jp/publicity/press/1217786_3273.html / [8] 中部経済新聞「中電、岩手3ヵ所で太陽光発電所を建設」(2026年3月20日) https://www.chukei-news.co.jp/news/2026/03/20/OK0002603200201_09/ / [9] Yale E360「’Green Grab’: Solar and Wind Boom Sparks Conflicts on Land Use」 https://e360.yale.edu/features/solar-land-grabs-agrovoltaics