冷暖房カート100台、大手が埋めにいくのは真夏より真冬

2026年7月、PGM・アコーディア・ゴルフが埼玉県のKOSHIGAYA GOLF CLUBにドア付きのエアコンカート「AirCon Cart」を導入した。冷暖房を備えた2人乗りカートを、両社のGRANDシリーズを中心に延べ100台規模で順次入れていく。ドア付きのエアコンカートを100台規模でそろえるのは国内のゴルフ場で初めてだという(同社調べ)[5]。料金はカートフィとは別のアップグレード料金で、1人あたり通し2,000円・ハーフ1,000円(いずれも税込)。1台2名なら4,000円になる[3][8]。

ドア付きエアコンカート「AirCon Cart」の外観。赤い車体にドアとウインドウを備えたキャビン構造
今回導入された「AirCon Cart」。冷暖房を逃がさないためにドアで囲ったキャビン構造で、GRAND PGMのロゴが入る(画像:アコーディア・ゴルフ/PGM ニュースリリース)

この投資を可能にした背景には、母体である平和(遊技機メーカー、証券コード6412)の決算がある。平和は2024年末にアコーディア・ゴルフの買収を発表し、2026年3月期にゴルフ事業の売上高が2,306億2,400万円(前期比+129.8%)まで伸びた[1][6]。

プレーする側にとっては、猛暑の夏を快適なカートで回れるかどうかが、コース選びの新しい基準になりつつある。経営の側から見れば、この投資は誰でもできるものではない。100台規模のカートを一度に入れ替える体力を持つのは、M&Aで規模を確保した一部の大手だけである。

AirCon Cartの運転席まわり。冷暖房の切替スイッチと温度調整ダイヤル、液晶メーターを備えたコントロールパネル
運転席のコントロールパネル。Ventilation・Heating・Coolingを切り替え、風量は3段階、温度はダイヤル式の無段階調整。USBポートも2口備える(画像:PGM「AirCon Cart」特設サイト)

なぜ平和グループはエアコンカート100台に投資できたのか

エアコンカート単体の導入費用は公表されていない。ただし平和の2026年3月期決算短信には、ゴルフ事業の有形固定資産の取得に294億7,000万円を投じたと書かれている。内訳はナイター設備の新設とPGMホテルリゾート沖縄の工事代金である[6]。カートの入れ替えは、この規模の設備投資を続けているグループの中の一項目にあたる。

平和がアコーディアを買収し321コース体制となり売上と設備投資を経てエアコンカート導入に至る流れ図
平和グループの買収がエアコンカート投資を可能にした流れ

平和は2024年12月にアコーディア・ゴルフの買収を発表し、2025年1月末に株式譲渡を完了した。買収額は5,100億円(有利子負債込み)で、費用は全額を銀行借入で賄った[1]。PGM(148コース)とアコーディア(173コース)を合わせ、保有コース数は321に達し、国内最大・保有数では世界最多のゴルフ場運営会社になった[1]。

この統合効果が決算に表れたのが2026年3月期である。ゴルフ事業の売上高は2,306億2,400万円(前期比+129.8%)、営業利益は455億9,900万円(同+147.1%)。アコーディアの通期寄与が本格化したことが、伸び率の大きさに表れている[6]。エアコンカートの初導入は、この決算発表(2026年5月13日)の2か月後にあたる。

ただし規模の拡大が、そのまま財務の余裕になっているわけではない。同じ決算で親会社株主に帰属する当期純利益は116億7,000万円(前期比-10.7%)と減っており、自己資本比率は23.1%、買収費用は全額が銀行借入である[6]。投資の原資は「儲かったから使える金」ではなく、規模を取りにいった結果として動かせるようになった資本と読むほうが実態に近い。

成熟した市場で買収を重ねて規模を積み上げる手法を、国内外の事例から体系的に追いたい読者には次の一冊が向く。

PGM・アコーディア統合はゴルフ事業の構造をどう変えたのか

平和はもともとパチンコ・パチスロ機のメーカーで、決算上のセグメントは「ゴルフ事業」と「遊技機事業」の2つである。2026年3月期の連結売上高2,581億700万円のうち、ゴルフ事業が2,306億2,400万円と9割近くを占めた。前期(2025年3月期)は連結1,458億6,700万円のうちゴルフ事業1,003億6,700万円で7割弱だったので、1年で構造が入れ替わったことになる[6]。

1年でゴルフ事業が売上の7割弱から9割近くへ

一方で遊技機事業の売上高は274億8,200万円(前期比-39.6%)、営業利益は7億1,200万円(同-94.0%)にとどまった。販売台数はパチンコ機が3万2,000台(前期比2万2,000台減)、パチスロ機が3万1,000台(同1万9,000台減)である[6]。母体事業が縮む中で、ゴルフ事業が実質的に平和グループそのものを支える構造になった。

この構造は、エアコンカートのような設備投資の原資がどこから来るかを説明する。ゴルフ事業単体の収益だけでなく、母体事業の縮小分を補う形でグループ全体の資本配分がゴルフ場運営に大きく振り向けられている。

ただし、補填の向きは一方通行ではない。AirCon Cartを開発した株式会社オリンピアは平和の100%子会社だが、決算短信の事業区分ではゴルフ事業ではなく遊技機事業に置かれ、主要事業は「遊技機の開発及び製造」と記載されている[6]。縮んでいる側の部門が持つ開発・製造の能力が、伸びている側の設備に振り向けられているということである。

AirCon Cart車体前部のOLYMPIAエンブレムとグリル、LEDヘッドライト
車体前部のOLYMPIAエンブレム。AirCon Cartを開発した株式会社オリンピアは、平和グループの遊技機メーカーである(画像:PGM「AirCon Cart」特設サイト)

販売台数がパチンコ機で2万2,000台、パチスロ機で1万9,000台減った部門には、開発・製造の余力が空く。遊技機事業はゴルフ事業に業績を支えられる側であると同時に、ゴルフ場向け車両の供給側としても使われている。

この構図は、100台規模を一度にそろえられた理由の説明にもなる。導入費用が非公表なので断定はできないが、外部メーカーから調達すれば他社の発注と並んで納期の列に入り、相手のマージンも乗る。グループ内の製造子会社に開発させれば、そのどちらも自分たちの都合で動かせる。前身のCool Cartは「PGMオリジナルの送風機」で、車体はヤマハモーターパワープロダクツなどの社外製だと明記されていた[7]。AirCon Cartでは「オリンピアオリジナルの冷暖房装置」と、グループ内の名前が前に出ている[8]。

本業の縮小を別事業で補うグループが、どこに資本を配るかを判断する枠組みを知りたい読者には次の一冊が参考になる。

年会費値上げ211コースの引き金を引いたのは誰か

2026年に年会費を引き上げるゴルフ場は211コースに達する見込みで、2025年の93コースから倍増する(ゴルフ会員権取引業の桜ゴルフによる2025年12月12日時点の集計)[2]。

ここで注意が要る。この値上げラッシュの引き金を引いたのは中小ではなく、大手のほうである。業界紙の一季出版は「昨年秋から大手ゴルフ場運営のPGM、アコーディア・ゴルフが相次いで年会費の値上げを発表したことが、爆発的に年会費を値上げしたコースが増えた要因だ」と書いている[2]。つまり「大手は設備投資、中小は値上げ」という対比は成り立たない。大手も値上げしている。

大手2社の年会費値上げ発表が業界全体の値上げに波及し大手は設備投資で還元し中堅は会員流出に向かう流れ図
大手の値上げが業界全体に波及し、還元できるかで差がついた

分かれるのは値上げの後である。大手は値上げで得た原資を設備に回し、エアコンカートやナイター設備という会員から見える戻りを作れる。資金繰りの余力が小さいコースは、値上げしても数億円単位のクラブハウス更新には届かず、戻りを示せない。桜ゴルフによれば、大手が値上げを発表すると中堅下位からお手頃価格帯のコースを中心に会員権の処分が殺到し、お手頃コースの平均相場は2025年10月以降、ブーム下で初めて続落した。値上げした中堅から会員が他の倶楽部へ流れる現象も起きており、会員制ゴルフ場の三極化を懸念する声が出ている[2]。

暑さ対策カートの普及自体は、PGMが先行して「Cool Cart」を導入したことがきっかけになっている。ただしCool Cartは冷房ではなく送風機で、最大風速13m/sの風を送る仕組みである[7]。決算短信も「Cool Cart(送風機付ゴルフカート)」と表記している[6]。PGM・アコーディアはこれを全国320コースに展開済みで、今回のエアコンカートは冷暖房を積んだ上位版にあたる[3][5]。後付けの送風機程度なら個別のコースでも導入できるが、ドア付きで冷暖房を積んだカートを100台規模でそろえるとなると話は別である。

ドアを開けた状態のAirCon Cart。2人乗りシートとゴルフバッグを積んだ赤い車体
ドアを開けた状態。2人乗り仕様で、ドアは脱着式のため季節に応じてゴルフ場スタッフが着脱する(画像:PGM「AirCon Cart」特設サイト)

もっとも、その大手でも全コースには入れられない。PGMが特設サイトで公表している導入予定は、2026年8月22日時点で18コースにとどまる。保有321コースに対して約6%である[8]。

導入状況コース数主なゴルフ場
導入済4KOSHIGAYA GOLF CLUB(埼玉)、PGM総成(千葉)、PGMマリア(千葉)、PGMゴルフリゾート沖縄
8月導入予定7桂(北海道)、サンヒルズ(栃木)、PGM石岡(茨城)、PGM武蔵(埼玉)ほか
9月導入予定7利府(宮城)、ザ・ゴルフクラブ竜ヶ崎(茨城)、総武(千葉)、茨木国際(大阪)ほか

なお、エアコンカートは無料の設備ではない。カートフィとは別に1人2,000円のアップグレード料金を取る有料オプションで、投資の一部は利用者から回収する設計になっている[8]。設備を入れられるかどうかと同時に、追加料金を払ってもらえる客層を抱えているかどうかも効いてくる。

会員権相場/前回の記事

愛知県新城市の三河カントリークラブが2026年3月31日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約120億円、債権者は約1,400名にのぼる[1]。入会時にゴルフ場へ預けた資金を一定期間後に返してもらう約束、いわゆる預託金の返還[…]

「猛暑カート」ではなく「閑散期カート」ではないか

ここまで猛暑対策として書いてきたが、この設備は冷房だけではない。冷暖房である。PGMは「”暑い夏”も”寒い冬”も快適にラウンドができるカート」と説明している[8]。暖房が付いている意味を需要の側から見ると、別の絵が出てくる。

経済産業省の特定サービス産業動態統計(調査対象ゴルフ場の集計)によると、2024年の月別利用者数は5月の106.2万人が最も多く、最少は2月の50.3万人で5月の半分を下回る。8月も88.9万人で、5月から16.3%落ちる[9]。谷は真夏と真冬の2つあり、深いのは冬のほうである。

ゴルフ場の利用者数は真夏と真冬に落ちる

平和自身も、決算短信の事業等のリスクで「ゴルフは屋外スポーツのため、近年では毎年のように発生している猛暑や降雪などの天候要因に対して大きな影響を受けることがあります」と、暑さと寒さを並べて書いている[6]。

そう読むと、エアコンカートは暑さ対策の商品ではなく、需要が落ちる月の稼働と単価を底上げする装置になる。1人2,000円のアップグレード料金は、閑散期に値引きで客を呼ぶ代わりに、快適さを売って単価を保つ手段でもある。決算短信がゴルフ事業の取り組みの筆頭に挙げているのは「適正な価格施策によるレベニューマネジメントの強化」で、そのすぐ後ろに「Night Golf」営業とCool Cartの拡充が並んでいる。2027年3月期も両方のさらなる拡充を計画している[6]。夜と、冬夏。いずれも売りにくい時間帯と時期を埋める設備が、同じ文脈に並んでいる。

「猛暑カート」と呼ぶと、より深い冬の谷を埋める機能が視野から外れる。経営の打ち手としては、猛暑対策よりも需要平準化(イールドマネジメント)と読むほうが筋が通る。設備投資の巧拙は、暑い日に何台出せたかではなく、閑散期の稼働をどれだけ戻せたかで測られることになる。

米ゴルフ場のK字格差

米国のゴルフ場経営に、業績の「K字」格差が広がっている。全米ゴルフ場オーナー協会(NGCOA、National Golf Course Owners Association。米国の公営・民営ゴルフ場運営者が加盟する業界団体)が2026年7[…]

米国のゴルフ場再編でも同じ資本格差は起きているのか

起きている。ただし再編の担い手と、その後の運営方針が異なる。米国では2026年6月9日、プライベートエクイティのKSLキャピタル・パートナーズが会員制クラブ最大手インヴァイテッド・クラブスの買収を完了した。取引額は26億〜30億ドルとされる[4]。

インヴァイテッドは買収前から北米最大の会員制クラブ運営会社で、ゴルフ場・カントリークラブなど150を超える施設を持つ。KSL傘下のヘリテージ・ゴルフ・グループとは統合せず、両社は独立して運営を続ける方針が示されている[4]。

日本(平和グループ)米国(KSL)
取引額5,100億円約4,030〜4,650億円(26〜30億ドル。1ドル=155円で換算)
成立時期2025年1月末2026年6月9日
対象の規模321コース(統合後)150施設超(インヴァイテッド単体)
買い手の性格遊技機メーカーの多角化プライベートエクイティファンド
資金調達銀行借入ファンド資金
統合の方針PGMとアコーディアを同一グループで運営インヴァイテッドとヘリテージは独立運営

取引規模はほぼ同水準である。違いは買い手の性格と、買った後の扱いにある。日本の再編は本業(遊技機)の縮小を補う多角化として進み、買収したブランドを同じグループの中で運営する。米国の再編は投資リターンを狙うファンドが担い、買収後もブランドを分けたまま走らせる。買い手の性格が違っても、規模を得た側にだけ設備投資の原資が集中するという結果は共通している。プレーする側から見れば、日米とも「どの運営会社のコースを選ぶか」がサービス水準を左右する時代になっている。

まとめ

エアコンカートの導入は、単なる新サービスではなく、平和グループが買収で手に入れた事業規模の反映である。ゴルフ事業の売上高は前期比+129.8%、営業利益は+147.1%まで伸び、2026年3月期にはゴルフ事業の有形固定資産の取得に294億7,000万円を投じている[6]。

ただし「大手は投資、中小は値上げ」という単純な図式ではない。値上げの引き金を引いたのは大手のほうで、2026年に年会費を上げるコースは211に達する見込みである[2]。分かれるのは値上げの後で、設備という見える戻りを作れるかどうかが、会員をつなぎ留められるかを決める。

そして戻りの中身も、猛暑対策だけではない。冷暖房を積んだカートは、利用者数が5月の半分まで落ちる冬と、16.3%落ちる8月という2つの谷を埋める装置である[9]。開発を担ったのはグループ内の遊技機メーカーで、縮む本業は補填される側であると同時に、供給側としても再利用されている[6]。

ゴルフをする読者にとっては、コースを選ぶ基準に「運営会社の投資体力」という物差しが加わったことになる。ビジネスの読者にとっては、M&Aで得た規模が既存事業の縮小を補いながら、その既存事業の製造能力ごと新規投資に転用される、資本と資源の再配分の実例として読める。ただし平和の当期純利益は前期比-10.7%、自己資本比率は23.1%であり、規模の拡大がそのまま利益や財務の余裕になっているわけではない[6]。

よくある質問(FAQ)

エアコンカートの利用料金はいくらですか

カートフィとは別のアップグレード料金で、1人あたり通し2,000円・ハーフ1,000円(いずれも税込)である。1台2名で利用すると4,000円になる[5][8]。

自分のホームコースにもエアコンカートは来るのか

PGMは特設サイトで導入予定のゴルフ場を公表しており、2026年8月22日時点では18コース(導入済4・8月導入予定7・9月導入予定7)が挙がっている。GRANDシリーズを中心に順次拡大する計画で、保有する321コースすべてへの一律導入は公表されていない[8]。

冬もエアコンカートは使えますか

冷暖房なので暖房としても使える。PGMは「”暑い夏”も”寒い冬”も快適にラウンドができるカート」と説明しており、春秋は脱着式のドアを外して開放的にラウンドできる[8]。

プレー料金や年会費は今後も上がるのか

年会費は2026年に211コースが値上げする見込みで、2025年の93コースから倍増する。人件費や設備更新費の負担が続く限り、この傾向は当面続くとみられる[2]。

出典

[1] https://news.golfdigest.co.jp/news/article/175600/1/
[2] https://www.ikki-web2.com/archives/11876
[3] https://response.jp/article/2026/08/17/415345.html
[4] https://golfincmagazine.com/content/ksl-reacquires-invited-clubs-for-up-to-3-billion-retains-existing-leadership-team/
[5] https://www.accordiagolf.com/corp/news/detail.php?no=0000000936
[6] https://azcms.ir-service.net/DATA/6412/ir/140120260513528544.pdf
[7] https://www.pacificgolf.co.jp/cool_cart/
[8] https://www.pacificgolf.co.jp/aircon_cart/
[9] https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010140040050100011/2