
米国のゴルフ場経営に、業績の「K字」格差が広がっている。全米ゴルフ場オーナー協会(NGCOA、National Golf Course Owners Association。米国の公営・民営ゴルフ場運営者が加盟する業界団体)が2026年7月、市場調査会社スポーツ&レジャー・リサーチグループ(SLRG、Sports and Leisure Research Group)と共同で「2026年ゴルフ・ビジネス・パルス・レポート」を発表した。200を超える施設運営者への調査から、高価格帯コースへの投資と客足が伸びる一方、都市近郊の中堅パブリックコースは料金転嫁に苦しむ二極化構造が浮かび上がった。
プレーする側にとっては、行きつけのコースの予約料金が上がる背景に、この二極化が関わっている。ビジネス・IT側にとっては、練習場やスクリーンゴルフへの投資判断、外部資本の流入先を読み解く材料になる。本稿ではNGCOAとSLRGの調査データをもとに、米国ゴルフ場経営の「K字」化の実態と日本への示唆を整理する。
米ゴルフ場経営の「K字」格差とは何か
「K字」格差とは、好調な層と苦戦する層が同時に存在し、両者の差が開いていく経済構造を指す言葉である。
Kという文字は、景気の回復パターンをアルファベットの形に例える言い方から来ている。落ち込みから一気に戻ればV字、時間をかけて戻ればU字、戻らないまま低迷が続けばL字。これに対してKは、同じ起点から右上に伸びる線と右下に落ちる線の2本に分かれる形だ。全体が同じ方向へ動くのではなく、上向く層と沈む層に分裂する状態を指す。2020年以降、資産価格の上昇で潤う層と物価高に苦しむ層とで回復の実感が正反対になった米国経済を説明する言葉として定着し、それが今回ゴルフ場経営の分析に持ち込まれた。
SLRGを率いるジョン・ラスト氏は、米国ゴルフ産業が「K字型経済の恩恵を受けている」とし、施設の成否は「きわめて地域限定的」になっていると述べる[2]。好調な施設ほど設備投資を重ねて客単価を上げ、苦戦する施設ほど収益力が細っていく構図だ。
NGCOAのジェイ・カレンCEOは、最も廃業リスクが高いのは大都市近郊にある民間所有の日極め(デイリーフィー)コースだと指摘する。地価・人件費が高い一方、会員制のような固定収入がなく、料金転嫁も難しいためだ[1]。

日本最大級のゴルフ場運営会社PGMが経営危機を乗り越え上場に至った過程を追った一冊で、米国の外部資本主導の買収劇と対比しながら読むと日本型の再生モデルの違いが見えてくる。
プレー料金はどこまで上がっているのか
米国のゴルフプレー料金がどの水準まで上がっているかを、全米ゴルフ財団(NGF、National Golf Foundation。米国のゴルフ参加人口や料金動向を調査する業界団体)のデータで確認する。
NGFによると、公営・日極めコースの18ホール平均グリーンフィーは2019年から2026年にかけて29%上昇した[3]。同期間の消費者物価上昇率は27%で、平均だけを見れば料金上昇はほぼインフレの範囲に収まる。平均額は約41ドル(約6400円。1ドル=155円換算)である[3]。
内訳を見ると景色が変わる。グリーンフィーが80ドル(約12400円)を超える高価格帯コースの数は、2019年から40%増えた[3]。地域差も大きく、32州は18ホール平均料金が50ドル(約7750円)未満だった一方、アリゾナ州82ドル(約12700円)、ネバダ州115ドル(約17800円)、ハワイ州112ドル(約17400円)に達した(2025年時点)[3]。

コロナ後に業績を伸ばした企業に共通する構造を分析した一冊で、ゴルフ場経営に広がる「K字」格差を理解する補助線になる。
練習場・スクリーンゴルフ投資はなぜ収益源になっているのか
なぜ運営者が練習場やスクリーンゴルフへの投資を収益改善策として選んでいるのかを、パルス・レポートの回答から見る。
NGCOAとSLRGの調査では、運営者の間で練習エリアやスクリーンゴルフ(屋内シミュレーターを使うゴルフ体験)への投資が収益を押し上げているとの認識が広がっていることが分かった[1]。プレー料金を大きく上げにくい中、付帯設備への投資で客単価と稼働率を底上げする狙いがある。
一方でレポートは、この分野の競争が「混み合ってきた」とも指摘する[1]。先行投資した施設が優位に立ちやすく、後発の中堅施設ほど投資回収が難しい構図は、価格帯の二極化と同じ力学だ。運営者は人件費の管理と、テクノロジー投資の配分にも新たな難しさを感じているという[1]。

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外部資本はなぜ高級コースを買い漁っているのか
高価格帯の会員制クラブに機関投資家やプライベートエクイティ(PE、未上場企業への出資を専門とする投資ファンド)の資金が集まる理由を整理する。
パルス・レポートは、運営者が利益を自コースの改修に再投資する一方、「大規模な外部投資家が高級物件を買収している」とも指摘する[1]。
代表例が2026年6月に成立した。大手PEファンドのKSLキャピタル・パートナーズ(KSL Capital Partners)は、全米最大級のクラブ運営会社インバイテッド・クラブズ(Invited Clubs、150超のクラブ・会員30万人超)をアポロ・グローバル・マネジメント(Apollo Global Management、大手PEファンド)から約26億〜30億ドル(約4030億〜4650億円)で買い戻した[4]。同社の買収は2006年以来2度目で、高級クラブ市場への資金流入が繰り返し起きていることを示す[4]。

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米国のゴルフ場経営の二極化は、日本でも起きているのか
日本でも料金上昇と経営体力の格差は進んでいるが、米国のような投資家主導の「K字」型二極化を裏付ける定量データは、現時点で確認できない。
日本経済新聞によると、2026年に年会費の値上げを予定するゴルフ場は211カ所に上り、前年の2倍超で過去最多となる見通しだ[5]。老朽化したクラブハウスや散水設備の更新に数億円単位の資金が要るためだ[5]。首都圏では週末のビジター料金がこの5年で15%上昇したとの報道もある[6]。
日本のゴルフ場経営は会員制を中心とした商習慣に根ざしている。米国のような「日極めコース」対「会員制高級クラブ」という価格帯別の投資家争奪戦はまだ表面化していない。値上げの主因も投資家間の買収競争でなく、老朽インフラの更新負担という国内固有の事情が大きい。
| 観点 | 米国 | 日本 |
|---|---|---|
| 価格上昇の主因 | 高価格帯コースへの投資家資金流入 | 老朽インフラの更新負担 |
| 直近の動き | 高価格帯コース数が2019年比40%増[3] | 年会費値上げが211カ所で過去最多見通し[5] |
| 外部資本の動き | PEファンドが大型買収を継続[4] | 会員権市場は値上げ後に下落基調[5] |
ビジネス側には、日本でも老朽施設の更新投資をどう回収するかという課題が、米国以上に切実に迫っている。プレーする側には、値上げの理由が投資による付加価値向上なのか、インフラ維持費の転嫁なのかを見極める視点が役立つ。
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まとめ
米国のゴルフ場経営は、高価格帯コースへの投資家資金流入と、都市近郊コースの収益悪化が同時に進む「K字」構造にある。NGCOAとSLRGの調査は、練習場やスクリーンゴルフ投資が収益源として重視される一方、その競争も早くも過熱し始めていることを示した。
プレーする側は、料金上昇が単なるインフレではなく投資による差別化の結果かもしれないと意識しておきたい。ビジネス側は、価格帯・地域を明確にしないまま料金だけを追随して上げる経営が、最も脆弱な立ち位置になりかねない点を教訓にすべきだ。日本でも老朽インフラの更新負担が、形は違えど同じ問いを突き付けている。
よくある質問(FAQ)
NGCOAとSLRGとは何か
NGCOAは米国のゴルフ場運営者が加盟する業界団体、SLRGはゴルフ業界向け市場調査を専門とする調査会社である。両者は2026年で4年目となる共同調査「ゴルフ・ビジネス・パルス・レポート」をまとめた[1]。
「K字」格差とはどのような意味か
景気回復の形をアルファベットに例える言い方の一つで、Kの右上に伸びる線と右下に落ちる線のように、好調な層と悪化する層が同じ時期に分かれていく構造を指す。V字・U字・L字が全体で一つの方向に動くのに対し、K字は分裂を表す。SLRGはこれを米国ゴルフ産業の現状分析に用いた[1][2]。
日本のゴルフ場でも同じ格差は起きているか
料金上昇と経営環境の厳しさは日本でも進んでいるが、米国のような投資家主導の二極化を裏付ける定量データはまだ確認できていない[5][6]。
出典
[1] NGCOA Releases the 2026 Golf Business Pulse Report, Golf Daily, 2026-07 https://www.golfdaily.com/ngcoa-releases-the-2026-golf-business-pulse-report/[2] Tech Caddie Podcast: Jon Last on NGCOA Pulse Report, The Golf Wire, 2026 https://thegolfwire.com/tech-caddie-podcast-jon-last
[3] The Truth About Golf’s Rising Green Fees, National Golf Foundation, 2026-04 https://www.ngf.org/short-game/the-truth-about-golfs-rising-green-fees/
[4] KSL reacquires Invited Clubs for up to $3 billion, Golf Inc., 2026-06 https://golfincmagazine.com/content/ksl-reacquires-invited-clubs-for-up-to-3-billion-retains-existing-leadership-team/
[5] ゴルフ場の年会費上げ、26年は過去最多に 会員権相場に下落圧力, 日本経済新聞, 2026 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB065JX0W5A800C2000000/
[6] 首都圏のゴルフ、週末ビジター料金5年で15%上昇 平日利用の動きも, 日本経済新聞, 2026-04-29 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB0782T0X00C26A4000000/




