バリューチェーン分析とは|ニトリとIKEAに学ぶ競争優位【MBA経営戦略 Day2】

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本記事はアフィリエイト広告(PR)を含みます。

MBAの基礎科目「マーケティング・経営戦略基礎」で扱ったケースを、講義で使ったフレームワークに沿って解説します。


目次

1. 導入 ― 「行動するから考え方が変わる」

Day2はいきなりフレームワークには入らない。冒頭に置かれるのは認知不協和の話だ。

人間の脳は、「考えていること=考え方」と「実際にやっていること=行動」がずれている状態に耐えられない。
「行動」を変え続けていると、「考え方」が変わる。
逆に、「考え方」が一時的に変わっても「行動」が伴っていないと、それも不協和になり、「考え方」はもとに戻ってしまう。
―― セミナー、講義でいいことを学んでも、「行動」しないと全く意味がなくなってしまう!

Day1で学んだ戦略策定プロセスを、翌日から自社の会議で1回でも使う。それができるかどうかで、この3ヶ月の投資対効果は10倍変わる。


2. この回の問いと、記事の構造

この回で解こうとしている問いは、大きく3つある。

  • IKEAはなぜ日本で成長「できた」のか。 それをバリュー・チェーンで説明できるか
  • ニトリはなぜ成長「し続けられている」のか。 同じくVCで説明できるか
  • ニトリは次にどこへ向かうべきか。 顧客にとっての価値を明らかにした形で言えるか

1つ目と2つ目の差に注目したい。片方は「できた理由」、もう片方は「し続けられている理由」。この一語の差が、Day2の核心である。


3. バリュー・チェーン(VC)分析 ― 「打ち手」と「意味合い」をセットで

バリュー・チェーンが提示された原典。「競争優位は部分ではなく全体から生まれる」という、この回を貫く命題の出どころにあたる。

3-1. VCとは何か

M.E.ポーター『競争優位の戦略』(1985年)が示した枠組み。企業活動を主活動(購買物流・製造・出荷物流・販売/マーケティング・サービス)と支援活動(全般管理/ITシステム・人事労務管理・技術管理・調達活動)に分け、

「どの部分で、どの程度コストがかかっているのか」、その結果「どの程度、顧客にとっての付加価値(マージン)が生み出されているか」

を把握する。通常は主活動のみに絞り、競合他社と比較しながら分析する。すべての事業がこの分け方に当てはまるわけではないので、自社に置き換える場合はまず部署ごとに分けてみるのも有効。

3-2. Day1の復習としてのQBハウスVC

まずQBハウスで練習する。業界共通のVCを「出店(店舗開発)/採用・育成/集客(マーケティング)/サービス・オペレーション」と定義し、打ち手と意味合い(狙い)を並べる。

VCQBハウスの打ち手意味合い(狙い)
出店商業施設・駅構内など集客性の高い立地/フランチャイズ高集客、高回転率、スピード展開
採用・育成新卒・ブランクありも歓迎の採用/入社後の研修期間、社内コンテストによる育成理容師・美容師の人員確保、定着、技術向上
集客混雑状況サインの店先掲示(WEB掲載)/予約なし/広告宣伝なし/集客性の高い立地利便性、高集客、高回転率
サービス・オペレーション単一メニュー/自動受付・会計/マニュアル化/ITを活用した店舗データ取得とPDCA入店から出店まで無駄のないプロセス(生産性)

VC分析では、VCごとの打ち手を洗い出すだけでなく、その意味合い(狙い)とセットで考えることが重要

「広告宣伝なし」は手抜きではない。集客性の高い立地に出すことで広告を不要にする、という設計思想の裏返しである。

3-3. 大事な問い ― 良いVCとは何か

IKEAのVCを描き切った直後、講師はこう問う。

※連鎖(Chain)で独自の価値を作り上げていることはわかった。それだけか?
そもそも、良いVCとはどのようなVC?

答えはこうだ。

バリューチェーンの各機能の施策が業界KSFに向かって整合しているかを確認する三層構造の図
バリューチェーンの各施策は、それ単体では評価できない。業界KSFに向かって上向きの矢印が引けるかどうかが、良いVCかどうかを決める。

VCは業界KSFを実現するためのもの。VCだけで良し悪しを判断するのではない。業界KSFの実現に繋がるか、がVCやVCの施策の良し悪しの判断軸

つまりDay2は、Day1の戦略策定プロセスの続きでしかない。業界KSFを特定せずにVC分析をしても、良し悪しは判断できない。 だからDay2の授業も、いったん家具・インテリア業界の外部分析に戻る。


4. 家具・インテリア業界を解剖する

4-1. PEST(IKEA再参入後:2006年〜2010年代前半)

内容
P消費増税(5%→8%、2014年)
Eデフレ経済 → 安価な製品・サービスの増加(SPA浸透含む)、EC市場の拡大
S少子高齢化、晩婚化・婚姻率低下による単身世帯増、若者の車離れ、SNSの浸透、インテリアの好みの多様化(〇〇スタイル)
Tモバイル(特にスマホ)の浸透、モノ・サービスのスペック・満足度・価格の比較が一般化

家具に対するニーズが多様化し、さらに消費者行動もスマホベース(店舗→スマホで検索・購買)に変化。業界のプレイヤーにとっては、より複雑な戦いになってきた。

4-2. 5F分析

強さ内容
売り手資材メーカー・家具メーカー・卸業者が多数存在、材料の差別化がしづらい。大手事業者の自社生産&パートナー化も進む
新規参入異業種(ネット販売事業者含む)からの参入拡大
業界内大塚家具、島忠、ナフコなど多数。地域を越えた商圏での競争が激化
代替品据え付け家具(ウォークインクローゼット含む)・DIYなど
買い手ライフスタイルや利用目的を重視。価格感度が高く、情報収集能力がITの進化と相まって飛躍的に向上

業界の垣根を越えて顧客の奪い合いが進むと同時に、顧客(買い手)の力も増し、業界の魅力度は低下しつつある(儲けにくくなっている)

4-3. コスト構造と効く経済性

家具・インテリア業界のコスト構造は、原価(仕入原価・材料費・直接労務費・経費等)と販管費(広告宣伝費・間接人件費・賃借料・物流コスト・保管料等)が大きい。どの経済性が効くか。

費用効く経済性
広告宣伝費規模の経済
物流コスト規模・密度の経済
仕入原価・材料費固定費ではないが規模の経済(バイイングパワー)※ただし多品種×小ロットだと効きにくい
直接労務費経験曲線効果

ここでDay1にはなかった密度の経済が登場する。

一つの地域に店舗や物流センターを集中配置することで、広告宣伝費や物流費などのコストを削減すること(特にサービス業で効果を得やすい)。出店地域を絞ることで消費データを他社より多く蓄積し、地域のニーズをより早く・深く学習することも可能。

4-4. 財務諸表で「見極める力」を測る(2013年度)

ニトリHDIKEA大塚家具島忠ナフコ良品計画
売上高(億円)3,87639,3995621,6622,3262,200
営業利益(億円)6305,1018127119209
営業利益率16%13%1%8%5%10%
棚卸資産回転日数68日110日215日71日150日113日

棚卸資産回転日数 = 棚卸資産 ÷(売上原価 ÷ 365)。何日分の在庫を持って営業しているか。

家具インテリア業界6社の棚卸資産回転日数と営業利益率の散布図。ニトリ68日16%、IKEA110日13%が右上に位置し、大塚家具215日1%が右下に位置する負の相関
「売れるものを見極める力」は財務に現れる。ニトリとIKEAだけが短い回転日数と高い利益率を同時に達成している。

棚卸回転日数が伸びると、キャッシュを圧迫する。いかに売れない在庫を残さないかが重要。
(IKEAとニトリは他社と比較し、売れる商品を作ること・見極めることができている

営業利益率と在庫回転日数の散布図を描くと、明確な相関が見える。この2社は同じ象限にいる。

そしてここで、実務にそのまま効く「ジレンマ」が提示される。

各社売れない在庫を残したくないし、効率的な経営をしたい。しかし顧客からの要望は多く、多岐に渡る。対応しないと店に来てもらえない、買ってもらえない ―― というジレンマがある

「品揃えを増やしたい」と「在庫を絞りたい」は原理的に対立する。 この対立をどう解くかが、この業界の勝負どころである。

4-5. 家具・インテリア業界の業界KSF

内容
顧客KBFコーディネートのしやすさ/買いやすさ(気軽・手軽に買える)/コストパフォーマンス。ニーズは多様化・細分化しセグメントごとにKBFが異なるが、大きな方向性は共通
業界・商品特性在庫管理コストが大きい(製品が大きく管理しづらい/耐用年数が長く購買頻度が低い/商圏が狭く物流コスト大)/好み・ライフスタイルに左右される/参入障壁が低い(特別な技術不要)

【業界KSF】
① マジョリティを見極めた豊富な商品ラインナップを揃えられること
② 調達から物流までVC全体でコストを抑える仕組みがあること
③ 在庫を適正にコントロールできること

あわせて、業界KSFの定義がここで一段クリアになる。

経営戦略とは、売上 − コスト = 利益 の戦いである。
つまり業界KSFを特定するとは、その業界で戦う企業が売上最大化・コスト最小化(+リスク最小化)につながるヒントやポイントを、メカニズムで説明できるように特定することである(絶対の正解があるわけではない)。


5. IKEA ― 「フラットパック」という結節点

IKEAのVC(商品企画/生産/アフターサービス・物流配送/店舗開発・販売)。

VC施策意味合い
商品企画北欧デザイン/世界共通ラインナップから選択採用・毎年5分の1入れ替えされる幅広い品ぞろえ/デザイナーと製造業者の緊密連携/販売価格→生産プロセス→規格決定万国共通に顧客が付加価値を感じる商品ラインナップ/アイテム単位で利益創出できる設計
生産時代に合わせて生産国を変更/世界に点在する1千社以上のサプライヤーと長期提携・生産ノウハウ付与/生産計画は本部が一括コントロール品質・コストを最適化(人件費・物流費などトータルで意思決定)
物流配送・アフター「フラットパック」/世界500社の物流パートナー/従来の常識と一線を画す「キャッシュ・アンド・キャリー」を顧客にも周知/有料の「採寸・ピックアップ・宅配・組み立てサービス」物流費減・余剰コストは顧客に転嫁/提供価値(提供しない価値)の顧客理解浸透
店舗開発・販売郊外の大型店舗/モデルルームエリア・商品別エリア・倉庫エリアに区分け/利用シーンをイメージ可能なディスプレイ/会員制カタログ配布/レストラン・キッズスペース充実「北欧×実用的×低価格」のイメージ形成/倉庫と売り場を兼ね、保管コストの効率化

IKEAのコスト構造(2014年8月期)は、原価55.9%/販管費31.2%/営業利益12.9%。

  • 広告宣伝費(規模の経済):グローバルで広告を共通化し、売上規模が拡大すれば下がる
  • 物流コスト(密度の経済):売上規模拡大+面積あたり輸送量増で低下(出荷工場を集約するなど)
  • 保管料:保管場所と売り場を兼ねれば下がる
  • 原価:大量購買・長期関係で規模の経済/経験曲線。売り残しを削減する(値下げセール・廃棄処分は原価率を上げ利益を圧迫)

連鎖(Chain)の繋がり

ハンドアウトは、IKEAのVCから2つの「連鎖」を抜き出す。

IKEAのフラットパックを起点として規格設計・物流費・保管コスト・配送費の削減が連鎖し、低価格と利益の両立に至る因果図
IKEAの施策は並列に並んでいるのではなく、フラットパックという結節点から派生している。だから一つだけ真似しても効かない。

連鎖①:「フラットパック」を軸にした連鎖
販売価格→生産プロセス→規格決定という逆算の商品企画 → フラットパック → 世界500社の物流パートナー/キャッシュ・アンド・キャリー → 倉庫兼売り場の郊外大型店舗。梱包フォーマットひとつが、企画・生産・物流・店舗のすべてを規定している。

連鎖②:「北欧デザイン」の世界観の連鎖
北欧デザイン → デザイナーとメーカーの緊密連携 → 利用シーンをイメージできるディスプレイ/モデルルームエリア → 会員制カタログ → レストラン・キッズスペース。VCの各要素で「北欧デザイン」と「使い勝手」を訴求し、IKEA独自の世界観を実現・浸透させている。

「提供しない価値」を顧客に説明する

Day2で最も印象的な資料のひとつが、IKEA立川店の店内掲示である。

「何か聞きたいときに、セールススタッフが近くにいないのはなぜ?」
プライスタグをご覧ください。プライスタグにはお客様の必要な商品情報が書かれています。IKEAではセルフサービス・システムによって余分なコストを減らし、お客さまによりお手頃な価格で商品をお届けしています。これが理由です。

「IKEAのデザイナーがデザインを始める前にプライスタグを作るのはなぜ?」
IKEAのデザイナーがもっとも気を配るのは、質の高い商品をだれもが買える価格で作るという点です。これが理由です。

「どうしてIKEAは何でもフラットにするのでしょうか?」
IKEAの家具はフラットパックされています。フラットなので保管や輸送にかかるコストを節約できます。これが理由です。

提供する価値だけでなく「提供しない価値」を顧客に理解してもらう。 これはトレードオフを受け入れるというポーターの戦略定義を、そのまま店内オペレーションに落とし込んだものだ。

IKEAの戦略(まとめ)

生活に合わせて家具・インテリアを買い揃えたいニーズを持つ人に、北欧デザインの家具・インテリアを低価格で提供する。
グローバルのデータを踏まえてニーズのマジョリティを捉え、フラットパックをはじめとする施策によりコストを抑え、在庫コントロールの仕組みを実現した。

そしてグローバルでの業界KSFは、日本のそれの拡張版になる。

日本の業界KSFグローバルでは
マジョリティを見極めた豊富なラインナップグローバルで更に多様化・細分化する消費者ニーズの中で、マジョリティを見極めた商品ラインナップ
VC全体でコストを抑える仕組みグローバル展開を前提に調達から物流までコストを抑える仕組み
在庫を適正にコントロール在庫を持つ場所がグローバルに広がる中での適正コントロール

この「グローバル最適」が、後にニトリに対する弱みへと反転する。


6. ニトリ ― 「変化し続けられる」ことの構造

ニトリの郊外大型店。近年はこれに加えて都心店・EXPRESS・デコホームと、店舗フォーマット自体を増やし続けている。
ニトリの郊外大型店。近年はこれに加えて都心店・EXPRESS・デコホームと、店舗フォーマット自体を増やし続けている。
写真:Mr.ちゅらさん/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

6-1. ニトリのVC

VC施策意味合い
商品企画企画‐生産のすべてのプロセスを社内で完結/自社バイヤー・マーチャンダイザー体制/コーディネート商品専門の企画部署/「DAY Value」「&Style」顧客視点の機能商品群(TVCM)コーディネート初心者〜熟練までのニーズに即応できる企画体制/家具・インテリア+αで顧客への価値提供
生産90%が海外生産品(PBの開発輸入品)/アジアの自社生産・700社以上の協力工場/独自「品質マニュアル」と「開発技術評価会」品質安定・コスト削減の徹底
物流配送・アフター顧客に製品を配達するまですべてを独自の物流網で対応/ロボット倉庫・最新テクノロジー/配送・組み立ては顧客が行うのが基本だが有料で比較的安価に任せることも可能物流費を抑え在庫を適正にコントロール/顧客が最適なサービスを選択可能
店舗開発・販売郊外大型店舗(近年は都市・小型店舗も)/顧客動線に基づいた”見やすい・買いやすい売り場”でルール統一/接客の要不要で区分けされたスタッフ配置/スマホアプリ充実・オムニチャネル化顧客が買い物体験を快適にコントロールできる体験づくり/売上拡大・コスト最適化の同時実現

6-2. ただし ―「VCがつながっている」だけでは説明にならない

ここで再び、大事な問いが刺さる。

「VCがつながりあっている」「VCがKSFにつながっている」だけで良いか?
ニトリが日本国内で成長し続けているのはなぜか?

答えは外部環境の側にある。2019年までのPESTを重ねると、働き方改革、消費増税、EC市場の拡大(カテゴリー・年代層の拡大)、CtoCの浸透、SNSの浸透(年代層・活用シーン・広告活用の拡大)、インテリアの好みのさらなる多様化、ICT技術(AI・VR含む)の進化 ―― と、変化が加速している。

KBF自体は「コーディネートのしやすさ/買いやすさ/コスパ」で変わらないように見える。しかし中身が変わる。

「様々なシチュエーションにあった形で”気軽・手軽に”購買でき(例:店舗への立ち寄り方、お店で見て家に届けるなど)、細部にわたって自分の”生活にあった”、かつコスパの良さ」が必要に。ここに対応できるか?

6-3. 店舗フォーマットさえ変える(2019年2月時点)

ニトリ(郊外)ニトリ(都心)ニトリEXPRESSDECO HOME
店舗数4151278
立地郊外の幹線道路沿い、大型SC内駅周辺の商業施設内・路面店駅周辺の商業施設内駅周辺の商業施設内
店舗面積5000㎡以上2000-4000㎡1300-1500㎡500-1000㎡
商品点数8000-10000sku6000-8000sku5000-6000sku3000-4000sku
狙い都心へ商圏拡大(車を持たない顧客層の取込み)/中価格帯以上に絞る/ショールーム展示ネット店舗の併用を前提とした品揃え(ベーシックアイテムに絞る)/来店頻度向上ホームインテリア競合店(MUJIなど)の顧客獲得/女性を狙った商品開発・店舗設計/「ニトリ」を隠す

少子高齢化/単身都市型の生活/スマホでの購買など、変化し続ける日本市場に対応するために、店舗形態さえも柔軟に変え続けている

6-4. なぜ変化に対応し続けられるのか ―「配転教育(クラスチェンジ)」

ここがDay2で最も議論が盛り上がるポイントだ。

ニトリは全社員に配転教育(クラスチェンジ)を課す。しかしデザイナーや生産は専門性を高めた方がよいのではないか。専門性を高めるメリット・デメリットは? そのうえで、なぜニトリはあえてデメリットのある配転教育を積極的に行うのか。

全社員を「ゼネラリストなスペシャリスト」として育成することにより、自社のVC全体を有機的に繋ぎ、組織能力を高めている。
全社員を業界KSFに向かう活動にフォーカスさせると同時に、顧客ニーズを起点にVCのヨコの繋がりをより強固にする役割を果たしている。

人材育成は「良い人を育てる」という一般論ではなく、戦略上の意図を持った施策として設計されている。

6-5. SPA(製造小売業)という選択

IKEAもニトリもSPAである。

  • メリット:流通コストの中抜きによるコスト削減/顧客ニーズが共有しやすく迅速な商品開発ができる/需要予測の精度が増すことによる適時適量の生産
  • デメリット:資金と人的資源、広範囲にわたる専門的ノウハウ・管理ノウハウが必要

「自社の工夫により、バリューチェーンの全ての機能でコスト低減を行える(可能性がある)」――VC全体を握るからこそ、連鎖を設計できる。

6-6. 競合はニトリに追いつけるか

Day2のクライマックス。ニトリの各施策に対して、IKEAとその他競合が「なぜ真似できないか」を並べる。

ニトリの施策IKEAが真似したらその他競合が真似したら
企画‐生産のすべてを社内で完結/顧客視点の「機能商品」群日本の顧客視点で商品開発しても、他国で売れない可能性すべてを社内で抱えると固定費増。人材の採用・育成に時間がかかる
独自の物流網/ロボット倉庫キャッシュ&キャリーの原則に反する/物流を手掛けるとコスト増倉庫・物流網構築に投資と時間が必要(外注するとコスト高の可能性)
都市・小型店舗も展開/動線に基づく売り場ルール統一小型店舗のフォーマットがない(倉庫兼店舗、レストラン・キッズスペースの確保困難)ニトリが魅力的な場所を既に押さえている/多様な店舗展開には多大な資金
90%が海外生産/アジア自社・700以上の協力工場/独自の品質マニュアル要求品質を日本に合わせると、他国では過剰品質になる海外生産体制の構築に莫大な投資と時間。品質管理も難易度高
ニトリの4つの施策それぞれについて、IKEAが同じことをすると何が壊れるかを対応させ、グローバルVCの崩壊に至ることを示した図
IKEAがニトリを真似できない理由は、技術の差ではない。真似した瞬間に自社のグローバル最適なVCが成立しなくなる、という構造にある。

『ニトリ』の仕組みは、VC上のすべての施策が相互につながっていることで実現しており、しかも『IKEA』や他の競合プレーヤーには簡単に真似できない。
例えば、IKEAが日本にローカライズしようとする/しすぎると、「北欧デザインの家具・インテリアを低価格で提供する」という戦略を実現するためにグローバルで作り上げてきたVCが崩壊してしまう。

IKEAの強み(グローバル最適のVC)が、そのままローカル対応の足枷になっている。 強みは条件付きであり、条件が変われば弱みになる。

6-7. Day2の結論

競争優位は部分から生まれない。全体からのみ生まれる。 ―― マイケル・E・ポーター

各機能の施策がチェーン(連鎖)となって繋がり、業界KSFを満たすことにより競争優位が構築される。こうして構築されたVCは容易に模倣されにくい(ただし方針変更もしにくい)。

この括弧書きが、Day4のチェキ、Day6のエミレーツにつながる伏線になる。


7. 戦略の定石 ― 引き出しを増やす

3つの基本戦略とトレードオフを、原典より短く正確に整理した一冊。誤読されがちな点も潰してくれる。

7-1. ポーターの3つの基本戦略

他社よりも低いコスト顧客が認める特異性
広いターゲットコストリーダーシップ戦略差別化戦略
狭いターゲットコスト集中差別化集中

戦い方のオプションとして整理すると:

競合との向き合い方注力ポイント基本戦略
競合と戦う①低コストで提供できる状態コストリーダーシップ
競合と戦う②高価格を許容してもらえる状態差別化
競合と戦わない集中戦略(QBハウス)

各戦略には、それぞれ効かなくなる条件がある。コストリーダーシップは技術革新で優位の源泉を失う/差別化で大差をつけられる/コスト集中に敗れる。差別化は模倣される/差別化の土台が魅力を失う/差別化集中に敗れる。集中戦略は市場が消失・縮小する/より細分化される/規模のメリットに敗れる。

7-2. 競争優位性構築のステップ(応用編)

価格(コスト)と品質・性能の平面に「バリューライン」(業界内で価格と品質が均衡する線)を引く。

価格が高くて、品質・性能が高いのは当たり前。大事なのは、競合よりもいかに構造的にコスト優位に立ち(①)、そのうえで差別化を目指す(②)こと。
※差別化のみの戦い方は、すぐに模倣され、優位性を失ってしまうことが多い

7-3. 市場地位に応じた競争戦略の定石(嶋口充輝)

地位戦略課題基本方針定石
リーダー市場シェア/利潤/名声全方位型周辺需要拡大/同質化/非価格対応/最適市場シェア
チャレンジャー市場シェア対リーダー差別化リーダーができないこと
フォロワー利潤模倣戦略上位の観察と迅速な模倣
ニッチャー利潤/名声製品・市場特定化特定市場内でのミニ・リーダー戦略

リーダーの定石の実例:ライオンによる歯磨き推奨キャンペーン(周辺需要拡大)、かつての松下電器(同質化)、コカコーラ/JTB対HIS/メガバンク対ネット銀行(非価格対応)、マイクロソフト(最適シェア維持)。

シェア100%は基本ありえない。リーダー企業は市場のパイを拡大させることが戦略上、極めて重要。

7-4. 逆転の競争戦略(山田英夫)― チャレンジャーの4つの型

リーダーの強みを逆手に取る。

内容
企業資産の負債化リーダーの経営資源が即座に組み替え不可能な場合、その資源に基づく優位性が意味をもたなくなる製品・システムを導入ライフネット生命(営業所・生保レディを持たない)/テイクアンドギヴ・ニーズのハウスウェディング
事業の共食い化リーダーが強みとしてきた製品と共食い関係にあるものを提供J&Jのリーチ歯ブラシ(ライオンはヘッドの小さい歯ブラシを作れない)/パーク24のカーシェアリング
論理の自縛化リーダーが顧客に発信してきたメッセージと矛盾する製品を提供ドライに追随できないキリン/アキレスの「瞬足」(子供用・運動会専用の左右非対称。他社はプロ選手のイメージを崩せない)
市場資産の負債化リーダーの顧客ベースが無価値・重荷になる製品を提供エッソの現金カード(他社カードを見せると割引)/アサヒ飲料「ワンダーモーニングショット」

この4類型は、Day6のエミレーツ航空でそのまま再登場する(既存大手が持つ機材とアライアンスという資産を、負債化させる戦略)。


8. 成長戦略をどう構想するか

8-1. アンゾフのマトリクス

既存製品新製品
既存市場市場浸透:マーケットシェア拡大/製品使用度の増大(頻度・量・新用途)新製品開発:新たな属性の追加/製品ラインの拡張/新技術(新世代)製品導入
新市場新市場開拓:地域的拡張/新たなセグメントへの拡張(狭義の)多角化:市場/製品ともに新領域への参入

多角化にはシナジーの視点が必要。

シナジー内容
生産シナジー工場設備や原材料の共有
販売シナジー流通チャネルや物流網の共有
投資シナジー技術やブランドの共有
経営シナジー人材や経営ノウハウの共有

今後の生き残りをかけ、断片的ではなく、網羅的に考えること

8-2. 成長オプションの評価基準

  1. 市場・事業の魅力度が高いか?(市場規模、成長性、業界の収益性、収益変動リスク、国際化の可能性)
  2. 競争優位性を構築できる(勝てる)可能性が高いか?(市場占有率、相対的収益性、組織の各機能の優劣、シナジー)

「まあまあ×高」と「高×まあまあ」のどちらがベターかは、戦略の目的や経営の姿勢で決定する。

リスクの高低だけではなく、会社としてやるべきか否か(会社として解決すべき経営課題は何か)で考えることが重要。やるべきであれば実現できる方法を考える。

そして忘れてはならない第3の軸 ―― 「それを自社がやりたいか?(企業理念との整合)」

8-3. VRIOとRBV

内部の経営資源を評価する代表的FW。

問い
Value(経済価値)その経営資源によって、外部環境の機会を活用、あるいは脅威を無力化できるか
Rarity(希少性)その経営資源を保有する企業が少数か
Inimitability(模倣困難性)その経営資源の獲得・開発・模倣コストが非常に高いか
Organization(組織)その経営資源を活用するための組織的な方針があるか

戦略論には2つの派閥がある。ポジショニング・アプローチ(利益の源泉を外部環境に見出す。まず外部環境を分析し、構造的に魅力的な産業・市場領域を選択する)と資源アプローチ(RBV)(利益の源泉を企業内の経営資源に見出す。まず独自の資源を蓄積し、それに合わせてポジショニングを構築する)。決着はついていない。

8-4. IKEAの後日談

  • 都市部への小型店舗出店を加速。2021年までに主要都市に30店舗(全米初の都市型店舗「イケア・プラニング・スタジオ」=マンハッタン、2019年4月/日本は2020年6月、原宿駅前)
  • レンタル家具サービスに本格参入(2019年2月スイスで実証実験)。家具を大量販売するIKEAを過剰消費のトリガと批判する声への対応も含む
  • 家具下取りサービスの拡充(2019年3月)、モバイルアプリのアップデート

ニトリが取った打ち手(都市小型店、オムニチャネル)に、IKEAも後から追随している。 「真似できない」は「永遠に真似されない」ではない。



9. 受講して持ち帰ったこと

① competitive advantageは「部分」では作れない
一つひとつの施策がどれだけ優れていても、それだけでは優位にならない。各機能の施策が連鎖して業界KSFを満たしたときに初めて競争優位になる ―― そして、そうやってできたVCは簡単には真似されない。ただし自分たちも方針を変えにくくなる、という副作用まで含めて理解しておきたい。

② 定石は、前提とセットで使う
戦略の定石は引き出しとして便利だが、それぞれに効かなくなる条件がある。市場の中での自分たちの位置と手持ちの資源を見てから選ばないと、定石が足を引っ張る。

③ 評価の軸を先に持っておく
「市場の魅力度」と「競争優位性を構築できるか」の2軸。そこに「そもそも自分たちがやりたいのか(理念と合うのか)」を足す。この3つ目を忘れると、正しいのに続かない意思決定になる。

自分の仕事に当てはめてみる

  • 自分の事業のVCを書き出したら、それは業界KSFと整合しているだろうか
  • 業界KSFに向かって全部の活動がフォーカスできているか。そもそも自分の業界のKSFが何か、チームで共有できているか。ここがチームの成果を決める気がする
  • 新規事業の話が出たとき、戦略策定プロセスと突き合わせるとどこが抜けているだろうか

自分に問い直したいこと

  • 自社のVCを紙に書いたとき、各施策に「それは業界KSFの何を満たすのか」と注釈を付けられるか
  • 事実を並べただけで終わっていないか。そこから優位性はどこにあるのかを特定できているか
  • 自社の強みは、どんな条件が崩れたら弱みに変わるのか
  • 新規事業を考えるとき、選択肢を決め打ちせず網羅的に出せているか。絞り込みの判断軸を言葉にできるか

この連載の他の回

前回

本記事はアフィリエイト広告(PR)を含みます。 MBAの基礎科目「マーケティング・経営戦略基礎」で扱ったケースを、講義で使ったフレームワークに沿って解説します。 この科目は何を扱うのか 本連載は、MBAの基[…]

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よくある質問(FAQ)

バリューチェーン分析とは何ですか?

企業活動を機能ごとに分け、どこにコストがかかり、その結果どれだけの付加価値が生まれているかを把握する枠組みです(M.E.ポーター)。重要なのは施策を並べることではなく、各施策が業界KSFの何を満たすのかという意味合いとセットで見ることです。

なぜIKEAはニトリのやり方を真似できないのですか?

技術の差ではなく、真似した瞬間に自社の前提が壊れるからです。日本の顧客視点で商品開発すれば他国で売れない在庫になり、自社物流を持てばキャッシュ&キャリーの原則に反し、小型店舗にはそもそも倉庫兼売り場のフォーマットが使えません。グローバル最適で築いたバリューチェーンそのものが成立しなくなります。

規模の経済と密度の経済はどう違いますか?

規模の経済は生産量・販売量が増えるほど単位あたり固定費が下がる効果で、効果は青天井に効きます。密度の経済は一つの地域に店舗や物流センターを集中配置することで物流費・広告宣伝費を下げる効果で、特にサービス業で効きやすいという違いがあります。


公式リソース

  • ニトリ公式サイト ― 店舗フォーマット(ニトリ/EXPRESS/デコホーム)の現在
  • ニトリホールディングス IR ― 有価証券報告書・決算資料。棚卸資産回転日数を自分で計算できる
  • IKEA Japan ― 都市型店舗・レンタル・下取りサービスの現在
  • This is IKEA ― 「なぜこの価格で作れるのか」を自社で説明しているページ

※ 各社の製品写真・店舗写真は著作権があるため本記事には掲載していません。上記の公式ページで確認してください。