
「不確実な未来」に、どう立ち向かうか
ビジネスの意思決定において、確実なことなどほとんどありません。
為替はどう動くかわからない。競合がいつ新製品を出すかわからない。法規制がどう変わるかわからない。新規事業の売上がどこまで伸びるかもわからない。
それでも、経営者やマネージャーは意思決定をしなければなりません。「わからないから決められない」は許されない。
不確実な未来の中で、いかに合理的に意思決定するか。Day5のテーマは、まさにこの経営者の永遠の課題でした。
Day5で学ぶ2つの武器
Day5では、不確実性に立ち向かうための2つの手法を学びます。
- 感度分析: 「何が一番効くか」を見極める
- ディシジョンツリー: 「どの選択肢が最善か」を構造的に比較する
どちらも、不確実な未来を完全に予測する手法ではありません。そうではなく、不確実性を「見える化」し、意思決定の質を上げるためのツールです。
感度分析:レバーを動かすと、何がどう変わるか
感度分析の考え方
ミキサーのレバーを想像してみてください。高音、低音、ボリューム──複数のレバーがあり、それぞれを動かすと出力(音)が変わります。
ビジネスも同じです。売上、原材料費、人件費、為替──さまざまな変数(レバー)があり、最終的な利益(出力)に影響を与えています。
感度分析とは、各変数を一つずつ動かしたとき、結果がどれだけ変動するかを定量化し、変数間の「順位づけ」をすることです。
これによって、「すべてのリスクに備える」のではなく、「最も影響の大きいリスクに集中的に備える」という合理的な判断ができるようになります。

感度分析の3ステップ
- モデル化と変数の見極め: Day3で学んだモデル化を使い、ビジネスの因果構造を数式にする。何が変数で、それらがどう関連しているかを明らかにする。
- 感度分析の実行: 各変数を「基準値から±○%」動かしたときの結果を計算する。
- リスクの見極め: 結果への影響度で変数をランキングし、特に重要な変数を特定する。
トルネードチャート:影響度の大きさが一目瞭然
感度分析の結果を可視化するのがトルネードチャートです。
各変数を上下に振ったときの結果のレンジ(幅)を横棒で表し、影響の大きい順に上から並べます。すると、竜巻(トルネード)のような形になります。
たとえば、あるスタートアップの利益計画をトルネードチャートにしてみると:
- 売上高: ±20%で利益が±6,000万円変動
- 原材料費率: ±20%で利益が±3,000万円変動
- 固定費: ±20%で利益が±2,000万円変動

一目で「売上高の変動が最もクリティカル」とわかります。だから、売上予測の精度を上げることに最もリソースを割くべきだし、売上が下振れしたときの対策を最優先で準備すべき。
トルネードチャートは、経営会議で「何から手を打つか」を議論するための最強の一枚だと感じました。
ケース:あるスタートアップの経営判断
Day5の前半では、成長中のスタートアップ企業の事業計画をケースに、感度分析を実践しました。
社長の立場で「どのリスク要因に最も警戒すべきか」を、理由とともに3つ挙げるという課題です。
ここで難しかったのは、ケースに具体的な数字が書かれていない変数の扱いでした。「この費用は固定費か変動費か」「この市場はどのくらい伸びるか」──自分で仮説的に数字を設定しなければなりません。
モデルを作る段階で「前提条件の置き方」に自分の判断が入る。だからこそ、感度分析の結果は絶対的な正解ではなく、「この前提のもとではこういう優先順位になる」という条件付きの判断材料です。前提が変われば結論も変わる。その前提自体を共有し議論することが、実務では重要です。
ディシジョンツリー:選択肢を「見える化」して比較する
期待値で比較する
Day5の後半は、ディシジョンツリーと期待値原理です。
不確実な状況で複数の選択肢がある場合、それぞれの選択肢について「起こりうるシナリオ」「その確率」「得られる成果」をツリー状に描き出すのがディシジョンツリーです。

そして各選択肢の期待値(確率 × 成果の加重平均)を算出し、比較することで、「どの選択肢が統計的に最も有利か」を判断します。
ケース:自然災害リスクと収穫の意思決定
ディシジョンツリーのケースでは、あるワイナリーの経営者が、暴風雨のリスクがある中でブドウの収穫タイミングを判断するという話を扱いました。
- 今すぐ収穫する: 確実に平均的な品質のワインができる
- 収穫を遅らせる: 暴風雨が来なければ高品質のワインになるが、来れば大損害
この判断をディシジョンツリーで構造化すると、各選択肢の期待値が算出できます。「リスクはあるが期待値が高い選択肢」と「安全だが期待値が低い選択肢」を、感覚ではなく数字で比較できるのです。
「情報の価値」を定量化する
さらに面白かったのは、「その情報にいくら払う価値があるか」を計算するという発展的な問いです。
もし暴風雨が来るかどうかを100%正確に予測できる情報があったら、その情報にいくら払うべきか?
ディシジョンツリーを使えば、「完全情報があるときの期待値」と「情報がないときの期待値」の差額として、情報の経済的価値が算出できます。
この考え方は、実務でも直結します。
- 市場調査にいくらまでコストをかけるべきか
- コンサルタントの助言にどれだけの価値があるか
- 追加のデータ収集をする時間的コストに見合うリターンがあるか
「もっと調べてから判断したい」と感じたとき、その「もっと調べる」行為自体の価値を定量化できる。これはビジネスパーソンとして非常に強力な思考ツールです。
Day5全体を通じた最大の学び
Day5で最も印象に残ったのは、感度分析とディシジョンツリーのつながりです。
感度分析で「何がいちばん効くか(クリティカルな変数)」を特定し、ディシジョンツリーで「その変数を踏まえてどの選択肢を取るか」を判断する。
この2つを組み合わせることで、不確実な未来に対する体系的なリスクマネジメントが可能になります。
モデル化(Day3)→ 感度分析で重要変数を特定 → ディシジョンツリーで意思決定
この一連の流れは、新規事業の計画、プロジェクトのリスク評価、投資判断──あらゆるビジネスの意思決定に応用できます。
Day5で持ち帰った3つのこと
- すべてのリスクに等しく備えるのは非現実的。 感度分析でインパクトの大きい変数を特定し、そこに集中する。
- 「直感で選ぶ」から「構造化して比較する」へ。 ディシジョンツリーと期待値で、選択肢を定量的に評価できる。
- 「情報の価値」は計算できる。 追加調査のコスト判断も、定量分析の対象になる。
Day5は、Day1-4までの「過去のデータを分析する」世界から、「未来の不確実性に向き合う」世界へのシフトでした。分析の目的が「何が起きたかを理解する」から「何をすべきかを判断する」に変わるこの転換点は、ビジネスにおけるデータ活用の醍醐味だと感じました。
次回のDay6では、複数の変数が絡み合う複雑な因果関係を解き明かす「重回帰分析」に挑みます。
参考書籍
– 『確率思考の戦略論──USJでも実証された数学マーケティングの力』KADOKAWA(森岡毅、今西聖貴著)── 不確実性の中で数字を武器に意思決定する実践例。感度分析・期待値の考え方がビジネスでどう活きるかを体感できる
– 『定量分析の教科書:ビジネス数字力養成講座』東洋経済新報社(グロービス著、鈴木健一著)── 感度分析・ディシジョンツリーの章がDay5の予復習に最適
– 『ビジネスで使いこなす「定量・定性分析」大全』日本実業出版社(中村力著)── 定量分析の理論を豊富なビジネス事例と図解で解説。意思決定のフレームワークが整理されている



