
「データを見ているのに、何もわからない」問題
会議の場で分厚い資料を渡され、売上推移のグラフや顧客データの表が並んでいる。「で、何が問題なんだっけ?」──そんな経験はないでしょうか。
データはあるのに、そこから何を読み取ればいいかわからない。あるいは、なんとなく気になる数字に飛びついて分析を始めたものの、最後には「で、だから何?」で終わってしまう。
グロービスMBA「ビジネス・アナリティクス」のDay1は、まさにこの”データ迷子”状態を打破するための回でした。最初に教わったのは、高度な統計手法ではなく、データに向き合うときの姿勢と思考の型です。
そもそも「分析」とは何か
授業の冒頭で投げかけられたのは、「分析」という言葉そのものの意味でした。
漢字を分解すると「分」+「析」。「析」は木を斧で割ること。つまり分析とは、文字通り「分けること」です。
そしてその目的は因果関係の解明──「結果」と「原因」の関係を明らかにすることです。
ここで重要なのは、どちらを先に押さえるか。答えは「結果」です。
分析は「結果」を「分けること」から始まる。これが授業全体を通じた最も基本的な原則でした。
「不思議の国のアリス」にならないために
データとの向き合い方には2つのスタンスがあります。
- 「データから何が言えるか」 ── データを眺めて発見を探すアプローチ
- 「データから何を拾うか」 ── 仮説を持ってデータを見に行くアプローチ
どちらも分析のスタイルとして間違いではありません。しかし授業では、ビジネスの場面では後者──仮説を持ってデータを見る姿勢を持つことが強調されました。
引き合いに出されたのは『不思議の国のアリス』の一節です。アリスがチェシャ猫に「どっちへ行ったらいいの?」と尋ねると、猫は「どこへ行きたいかによるね」と返します。アリスは「どこでもいい」と答え、猫は「なら、どっちへ行ってもかんけいない」と。
目的も仮説もなくデータの海に飛び込むと、まさにアリス状態になる。あちこちの数字に気を取られて分析が発散し、いつまで経っても結論にたどり着けない。
「このデータで何がわかるだろう?」ではなく、「この仮説はデータで裏付けられるか?」──この問いの立て方ひとつで、分析の生産性は劇的に変わるのだと実感しました。
「結果」から分解する──大通りの作り方
Day1のケースでは、あるBtoB企業が売上の低迷に直面しているという設定でした。
最初のグループディスカッションで多くの受講生がやったこと(私を含め)は、「なぜ売上が下がっているのか」とすぐに原因を考え始めることでした。「競合が強くなったのでは」「営業の質が落ちたのでは」──もっともらしい仮説が次々と出ます。
しかし講師のフィードバックは明快でした。
「原因の仮説を考えるのは、まだ早い。まず結果の数字を分解してください」
売上を「新規」と「既存」に分け、さらに「機会数」「受注率」「単価」に分解していく。すると、問題がどこに集中しているかが数字で浮かび上がります。
この段階で初めて、「なぜ?」の仮説を立てる意味が出てくるのです。
このアプローチは「大通りの作り方」と呼ばれていました。以下の図は、その基本プロセスをまとめたものです。

- 結果を丹念に分解して、起こっていることを正確に捉える
- 判明した事実に基づいて原因の仮説を立てる(定性)
- 仮説をデータで検証する(定量)
結果の分解 → 仮説構築 → データ検証。この流れが「大通り」であり、分析の王道ルートです。
最初から原因に飛びつくと、自分の思い込みに沿ったデータだけを拾ってしまう危険があります。まず結果を丁寧に分解することで、原因の仮説は自ずと絞り込まれる──この順序が大事なのだと腹落ちしました。
問題解決の思考ステップ
ケースを通じて、定量分析のプロセス全体像も整理されました。
ステップ1:あるべき姿と現状のギャップを定義する
分析のスタート地点は「問題の定義」です。問題とは、あるべき姿と現状のギャップのこと。ここが曖昧だと、何を分析すべきかも定まりません。

ここで印象的だったのは、「現状があるべき姿に未達である」ことを問題視するのが一般的だが、「あるべき姿」自体が適切かどうかも問い直すべきというメッセージです。目標設定が非現実的であれば、ギャップの原因は「現場の頑張り不足」ではなく「目標設定のミス」かもしれない。
ステップ2:問題箇所を特定する
全体の数字を見るだけでは、どこに手を打てばいいかわかりません。結果を分解し、問題が集中している箇所を特定することが必要です。
そして、問題箇所はひとつとは限らない。ひとつ見つけたところで安心せず、他の切り口でも検証する姿勢が大切です。
ステップ3:原因を深掘りする
問題箇所が特定できたら、「なぜそうなっているのか」を掘り下げます。ここで初めて原因系の数字(営業活動量、マーケティング施策の効果など)を見に行きます。
ステップ4:打ち手を考える
分析結果に基づいて施策を検討します。ここで大事なのは、分解の結果を活かすこと。「もっと頑張ろう」ではなく、分解で見えた問題箇所にピンポイントで打ち手を当てることで、効率的な改善が可能になります。
ケースの分析を通じた気づき
Day1のケースで実際にExcelを使って分析してみると、教わったばかりの「結果から分解する」がいかに効果的かを体感できました。
一見すると全体的に業績が悪化しているように見えたデータも、セグメント別・時期別に分解していくと、実は特定の領域に問題が集中していることがわかります。「全部ダメ」ではなく「ここがダメ」と言えるかどうかで、打ち手の精度がまったく変わります。
もうひとつの気づきは、「どうすれば」にすぐ飛びつかないことの重要性です。
ビジネスの現場では「で、どうするの?」を急かされがちです。でも、問題の分解が甘いまま「こうしよう」と走り出すと、的外れな施策に時間とコストを費やすことになります。
「分解」に時間をかけることは、遠回りに見えて最短ルートである。講師の「急がば回れ」という言葉が響きました。
定量分析の全体像──6回の学びのロードマップ
Day1ではこの後の全体像も示されました。
| Day | テーマ | 学ぶこと |
|---|---|---|
| Day1 | 分析の意義とプロセス | 問題解決の思考ステップ |
| Day2 | 分析の視点とアプローチ | ヒストグラム、パレート図、代表値 |
| Day3 | 関係性の分析 | 散布図、相関、回帰分析、モデル化 |
| Day4 | 総合演習 | 手法を総動員して実践 |
| Day5 | 不確実性下の意思決定 | 感度分析、ディシジョンツリー |
| Day6 | 複雑な因果の分析 | 重回帰分析 |
Day1で学んだ「結果から分解する」「仮説を持ってデータを見る」は、Day2以降のすべての手法の土台になります。
Day1で持ち帰った3つのこと
- 分析 = 分けること。 因果関係を明らかにするために、まず結果を分解する。
- 仮説を持ってデータを見る。 アリスにならないために、目的と問いを先に定める。
- 「どうすれば」に飛びつかない。 分解の結果を打ち手に活かすことで、的を射た施策が打てる。
どれもシンプルですが、実務で意識できているかと問われると、正直なところ心もとない。データを前にすると、つい気になる数字に飛びついたり、「で、どうする?」を急いだりしがちです。
Day1は、そんな自分の思考の癖に気づかせてくれる回でした。まずは明日の仕事から、「その数字、分解するとどうなってる?」と自分に問いかけることから始めてみようと思います。
参考書籍
– 『定量分析の教科書:ビジネス数字力養成講座』東洋経済新報社(グロービス著、鈴木健一著)── 本科目のベースとなる一冊。分析のプロセスと視点を体系的に学べる
– 『意思決定のための「分析の技術」』ダイヤモンド社(後正武著)── 「大きさを考える」「分けて考える」「比較して考える」「時系列で考える」の4つのアプローチで、分析的思考を体系化した名著


