節水規制下で芝が変わる、大学発の新品種が示すコース管理の未来

米国では、乾燥に強い新品種の芝が大学の研究室から相次いでゴルフ場向けの商業化段階へ進んでいる。フロリダ大学IFAS(農業・食料科学研究所)のゾイシア(高麗芝に近い暖地型の芝)品種「CitraZoy」は2026年に入って生産農場での増殖が広がり、ジョージア大学のバミューダグラス(暖地型芝の一種)品種「Tif3D」は2024年のリリース後、ゴルフ場のグリーン改修での採用を待つ段階にある。すでに紹介したオクラホマ州立大学の「Endarra 81」と合わせ、複数の大学発の品種が相次いで商業化の段階に入った格好だ。

背景には、フロリダ州などで恒常化した散水規制と全米規模の節水圧力がある。行くコースの芝質は、こうした品種転換で今後静かに変わっていく可能性がある。IT・ビジネスの視点では、規制という制約が技術商業化を加速させる供給側シグナルの典型例だ。本稿では確認できる数値をもとに、その加速のしかたを見ていく。

節水規制はなぜ今、大学発品種の商業化を加速させているのか

節水規制とは、自治体や水管理当局が景観・芝生への散水量や頻度を法的に制限する仕組みを指す。フロリダ州の南フロリダ水管理地区(SFWMD)は、住所の奇偶で散水を週2〜3日に制限する規制を通年で運用する[1]。セントジョンズ川水管理地区(SJRWMD)は、深刻な水不足時に散水を週1日・早朝または夜間のみに絞る「フェーズ3」規制も設ける[2]。

節水の流れは全米統計にも表れる。米国ゴルフコース管理者協会(GCSAA)が全米約1,700施設を調査した結果、2024年の散水量は2005年比で31%減少した。2020年比でも3.2%減っている[3]。

削減幅の3分の2は、施設側が水をより効率よく使うようになった結果とみられる[3]。品種を育てる大学側も節水を意識しており、ジョージア大学(UGA)で芝の育種を担うブライアン・シュワルツ教授は、Tif3Dが乾燥などのストレスに強いことから、節水を優先する地域に向くと述べている[4]。

米国ゴルフ場の散水量の指数が、2005年の100から2020年に約71、2024年に69へ下がったことを示す折れ線グラフ
米国ゴルフ場の散水量(2005年=100の指数)。出典: GCSAA全国調査(2025年12月発表)

水を減らしながら芝の状態を保つ管理を芝草科学のデータから学びたい読者には、世界の研究知見をもとにコース管理の考え方を解説したこの一冊が参考になる。

フロリダ大学のCitraZoyとジョージア大学のTif3Dは何が違うのか

CitraZoyはUF/IFASのケビン・ケンワーシー博士が育成したゾイシア品種で[5]、UF/IFASの資料によれば2019年にリリースされた。Z. matrella(国内では高麗芝の名で流通する種)とZ. japonica(野芝)の交配種である[6]。大型パッチ病への耐性が高く、殺菌剤を抑えられる[5]。生産パートナーのStar Turf Farmsが350エーカー超で増殖し、150エーカーの増設も計画する[5]。

CitraZoyとCobaltの札を立てた2種類の芝のサンプル
業界向けのフィールドデーで並べられたCitraZoy(左)と、セントオーガスチングラス品種Cobalt(右)の芝サンプル(画像:Sod Solutions/UF/IFAS農学部ブログより)

Tif3Dは、シュワルツ教授が「TifGreen」の系統から10年近い試験を経て育成し、2024年にリリースしたグリーン用の品種である。UGAの研究室がかつて送り出した代表品種「TifEagle」との共通点も挙げられている[4]。ジョージア州の品種リリース機関GICRSの品種ページによれば、Tif3Dは2012年からUGAティフトン校でTifEagleなど既存のグリーン用品種と比較され、乾燥や芝刈りによる軸刈り(スカルピング)などのストレスを受けている間やその直後も、おおむねこれらより濃い緑と高い均一性を保った。2015年からはゴルフ場の試験用グリーンでも比べられ、密な芝面でTifEagleなどを上回り続けたという[7]。

2024年6月には、UGA作物・土壌科学科の公式アカウントもXでTif3Dのリリースを伝えている[8]。

用途も異なり、CitraZoyは住宅芝からスポーツ施設、ゴルフ場まで幅広く、Tif3Dはグリーン専用だ[4][5]。

品種開発元芝の種類主な用途リリース年
CitraZoyUF/IFAS(フロリダ大)ゾイシア住宅芝・スポーツ施設・ゴルフ場2019年
Tif3DUGA(ジョージア大)バミューダグラスグリーン2024年
Endarra 81オクラホマ州立大バミューダグラス住宅芝・スポーツ施設2026年(2027年までに一部市場で供給)
ガバナンス/ゴルフテック

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実際どれだけ乾燥に強いのかデータで比較する

乾燥耐性は、散水を止めてからどれだけ葉の緑を維持できるかという「緑保持率」で評価されることが多い。Endarra 81の研究データでは、極度の乾燥ストレス下での緑保持率が92.8%だった。同条件でUGA先行品種のTifTufは89.9%、Tahoma 31は85.7%、業界標準とされてきたTifwayは53.1%にとどまった[9]。

数値は、米農務省(USDA)の助成で2019〜2023年に行われた地域乾燥耐性試験のうち、極度の乾燥に見舞われた3地点(カリフォルニア州リバーサイド、オクラホマ州スティルウォーター、テキサス州ダラス)の結果である[9]。Endarra 81(試験名OSU2081)などがTifTufより高い乾燥耐性を示したとする論文も、2025年9月にCrop Science誌に掲載された[9]。

一方、CitraZoyとTif3Dについては、本稿で確認した公開資料に比較できる数値は示されていない。UF/IFASはCitraZoyを耐乾性と水利用効率の向上に重点を置いて開発したと説明し[5]、UGAはTif3Dが乾燥や軸刈り(スカルピング)などのストレスへの高い耐性を持つとする[4]。いずれも定性的な説明にとどまり、同じ土俵で数値を比べられるのは、現時点ではEndarra 81を含む一部品種に限られる。

Endarra 81は極度の乾燥下でも標準品種Tifwayの1.7倍の緑を保った
サステナ

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商業化はどこまで進んだのか品種ごとの供給体制を確認する

商業化段階とは、大学の品種登録後、種苗会社への実施許諾(ライセンス)や農場での増殖を経て、実際に購入できるようになるまでの過程を指す。3品種は進み方がそれぞれ異なる。

CitraZoyはすでに農場での増殖と供給の段階にあり、Star Turf Farmsの350エーカー超が稼働中だ。UF/IFASは、大規模案件や今後のゴルフ場への導入に備える段階と位置づける[5]。

販売する側も大学の研究を前面に出しており、Sod Solutionsの公式アカウントはCitraZoyを「フロリダ大学の研究に裏打ちされた」品種として紹介している[10]。

Tif3Dは、リリース前にジョージア・ゴルフ環境財団とUSGA(全米ゴルフ協会)の協力で南東部23コースに試験区を設け、性能を示した[4]。ただしグリーンの改修はゴルフ場にとって大きな投資で、コース管理の責任者は自分の目で結果を確かめてから採用を決める。シュワルツ教授は、市場に定着するまでに年単位の時間がかかると見ている[4]。

Endarra 81は、オクラホマ州立大学のTahoma 31でもライセンスを担うSod Production Services(SPS)が2026年に発売を発表した。芝生農場とのライセンス契約と植え付けが進んでおり、2027年までに一部の市場で数量を限って供給を始める予定だ[11]。米国・アジア・豪州向けはSPSが、欧州・アフリカ・中東向けはスペインのFito社がライセンスを持つ[9]。

CitraZoy・Tif3D・Endarra 81の3品種について、品種リリース、ライセンスと増殖、供給、ゴルフ場への導入の4段階の進み具合を示したマトリクス図
大学発の耐乾性品種3種の商業化段階(2026年9月時点)。出典: UF/IFAS、UGA、Endarra 81公式サイト、Lawn & Landscape
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日本のゴルフ場でも節水品種への転換は進んでいるのか

公開情報を見る限り、米国のような散水規制を主因とする耐乾性品種の商業化は日本では確認できない。

背景には気候の違いがある。日本の年間降水量は1971〜2000年の平均で1,718mmと、世界平均(880mm)の約2倍だ[12]。フロリダ州の水管理地区のように、住所単位で散水日数を法的に制限する制度は、日本のゴルフ場運営を巡る情報では見当たらなかった。

日本のゴルフ場が水と無縁なわけではなく、夏場の猛暑対策として散水技術の高度化が進む様子は業界メディアでも取り上げられている[13]。ただし「乾燥に強い品種への切り替え」というより既存芝の運用面の工夫が中心で、大学発耐乾性品種を組織的に商業化するパイプラインの事例は確認できなかった。

観点米国(フロリダ・ジョージア・オクラホマ)日本
主な圧力州・水管理地区の法的散水規制夏季の高温・局所的な乾燥障害
年間降水量の目安州により差が大きい約1,718mm(1971〜2000年平均。世界平均の約2倍)
大学発耐乾性品種の商業化複数大学で同時並行的に進行中事例を確認できず
品種の定量データ公開一部品種で緑保持率等を公開非公表

※「非公表」は、該当する公開情報が確認できなかったことを示す。

ビジネスの観点では、規制主導の耐乾性品種需要が日本で近く立ち上がる可能性は低く、輸入品種の展開より高温・病害耐性を軸にした国内向けの作り込みが優先されやすい。ゴルファーの観点では、行くコースの芝質は当面、既存の散水・管理技術の工夫によって保たれていくとみられる。

まとめ

複数の大学発耐乾性品種が相次いで商業化の段階に入った動きは、水利規制という制約が育種技術の実用化を後押しした結果と読める。3品種は用途も商業化の進み方も異なる。行くコースの芝質は、こうした品種転換で数年単位で緩やかに変わるだろう。規制主導の技術商業化は、水以外の資源制約下にある他業種にも応用できる視点だ。日本では同種の動きを確認できないが、供給側の変化は今後も追う価値がある。

よくある質問(FAQ)

Q. CitraZoyとTif3Dはいつからゴルフ場で使えるのか。
A. CitraZoyは農場での増殖と供給が進む段階、Tif3Dは南東部23コースでの試験を経て、グリーン改修での採用を待つ段階にあり、どちらも全国へ即座に広がる段階ではない[4][5]。

Q. 節水規制は今後日本にも広がる可能性はあるのか。
A. 日本は年間降水量が世界平均の約2倍あり、米国のような法的散水規制の事例は確認できていない[12]。

Q. 芝の乾燥耐性はどう測定されるのか。
A. 散水を止めた状態でどれだけ葉の緑を維持できるかを示す「緑保持率」が使われる。Endarra 81の研究では92.8%という数値が示されている[9]。

出典

  1. https://www.sfwmd.gov/community-residents/landscape-irrigation
  2. https://www.sjrwmd.com/wateringrestrictions/
  3. https://www.gcsaa.org/who-we-are/media/news-release/2025-news-releases/2025/12/30/golf-courses-reduce-water-usage-by-31-percent-according-to-national-survey
  4. https://fieldreport.caes.uga.edu/features/tif3d-promises-putting-green-performance/
  5. https://blogs.ifas.ufl.edu/agronomydept/2026/05/28/from-research-to-reality-how-uf-ifas-turfgrass-breeding-is-shaping-the-future-of-the-turf-industry/
  6. https://ask.ifas.ufl.edu/publication/LH011
  7. http://georgiacultivars.com/cultivars/tif3d
  8. https://x.com/CropSoilUGA/status/1800537383471116629
  9. https://endarra81.com/research/
  10. https://x.com/SodSolutions/status/2036519925007683988
  11. https://www.lawnandlandscape.com/news/sod-production-services-rolls-out-bermudagrass-variety-endarra-81/
  12. https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/bousai/saigai/kiroku/suigai/suigai_3-1-1.html
  13. https://egolf.jp/life/56801/