
データセンター(DC)の新設地を決める際、これまでの最優先基準は「立地」と「コスト」だった。それが2026年、根本から変わりつつある。不動産大手JLLが公表した最新の年次調査「2026 Global Data Center Outlook」によると、主要市場での電力グリッド接続(データセンターを電力網に接続する手続き・工事)の平均待ち時間は4年を超えた[1][2]。土地や建屋はすぐ用意できても、電力が来るまで運用開始できない状態が常態化している。
対象となるレイヤーは、アプリケーションやクラウドサービスの選定ではなく、その手前にある物理データセンターの拠点選定と電力調達という基盤部分だ。影響を受けるのは、コロケーション(自社設備を他社のデータセンター施設に設置・共同利用すること)やDC容量確保を検討する企業、そして自社構築(ビルド)・借用(コロケーション)・クラウド利用のどれを選ぶか判断するIT×経営の意思決定者である。世界のDC容量が2030年までに倍増する見通しの中、この構造変化を押さえておくことは、拠点戦略やベンダー選定の前提を見直す材料になる。
予備知識
- グリッド接続(Grid Interconnection): データセンターを地域の電力網に接続するための申請・審査・工事の一連の手続き。電力会社の系統容量に空きがなければ、着工前から数年単位の待機が発生する。
- コロケーション(Colocation): 自社サーバーやネットワーク機器を、事業者が運営するデータセンター施設に設置し、電源・冷却・回線などの設備を共同利用する契約形態。
- プライベートワイヤ(Private Wire): 電力会社の系統を介さず、発電設備からデータセンターまで専用線で直接電力を引く方式。系統の混雑や接続待ちの影響を受けにくい。
- ビハインド・ザ・メーター(Behind-the-Meter): 電力会社の検針器(メーター)の内側、つまり自社敷地内で発電・消費を完結させる仕組み。自家発電設備やバッテリーの併設が典型例。
同分野を体系的に扱う関連書。
なぜ「電力」が拠点選定の最優先基準になったのか
DC拠点選定において、電力調達の可否が立地やコストより先に判断される最大の理由は、需要拡大のペースが電力網の増強ペースを上回っているためだ。
JLLの調査によれば、世界のDC容量は現状の103GWから2030年には200GWへとほぼ倍増する見通しで、年平均成長率(CAGR)は14%に達する[1][2]。この拡大を牽引するのはAI需要で、DC容量に占めるAIワークロードの割合は2025年時点の約25%から、2030年には50%まで上昇すると見込まれている[2]。地域別では、米州が世界容量の約5割を占めて最も高い成長率(CAGR約17%)を維持し、アジア太平洋地域は32GWから57GWへ拡大、欧州・中東・アフリカは新たに13GWの供給が積み上がる[2]。

このペースの拡大には巨額の投資が伴う。JLLは2030年までの総投資額を最大3兆ドル(1ドル=155円換算で約465兆円)と試算し、うち不動産価値創出分が1.2兆ドル(約186兆円)、新規負債による資金調達が8700億ドル(約13.5兆円)を占めるとしている[3]。ハイパースケーラー各社だけでも2024〜2026年の3年間で1兆ドル(約155兆円)規模の設備投資を計画しており、資金は潤沢でも、電力という物理制約がボトルネックになっている構図だ。

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接続待ち4年超の実態:何が起きているか
電力グリッド接続の待ち時間は市場によって差があるが、主要市場の平均で4年を超えているというのがJLLの核心的な指摘である[1][2]。
米国内でも特に逼迫が深刻なのが北バージニアだ。地域電力会社Dominion Energyへの100MW規模の接続申請では、平均で約7年待つケースが報じられている[4]。一部の市場では新規の接続申請そのものが2028年まで受け付け停止という状況も伝えられており、建屋の建設(一般に18〜24ヶ月)よりも電力確保の方が明確に長い工程になっている。
こうした遅延を受けて、事業者側は電力会社からの供給を待つのではなく、自ら発電設備を確保する動きを強めている。ダブリンとテキサスでは、実質的に「自前で電力を用意すること」を前提とした運用が一部で定着しつつあり、事業者が電力購入契約(PPA)にとどまらず自家発電への直接投資に踏み込む例が増えている[1][2]。この結果、DCの建設コストにもエネルギー確保コストが上乗せされ始めている。世界平均のDC建設コストは2020年の1MWあたり770万ドル(約11.9億円)から2025年には1070万ドル(約16.6億円)まで上昇(年平均7%)し、2026年はさらに6%上昇して1130万ドル(約17.5億円)に達すると予測されている[1]。

クラウド費用の急増に気づいてから原因を突き止めるまで、FinOpsやインフラの担当者はコストエクスプローラーの画面とCloudTrailのログを手作業で突き合わせてきた。AWSは2026年6月9日、この調査作業を生成AIエージェント[…]
電力確保の3つの選択肢:系統接続・天然ガス・再エネ+プライベートワイヤ
グリッド接続待ちが常態化した結果、事業者は系統接続以外の調達手段を組み合わせて使い分けるようになった。
米国では天然ガスによる自家発電が現実的な選択肢として広がっている。当初は接続待ちの間をつなぐ「ブリッジ電源」としての位置づけだったが、恒常的な自社電源として天然ガス発電設備を持つ動きも増えている[1]。一方で、大手テナントの一部は持続可能性の観点から天然ガス由来の電力を敬遠しており、調達手段の選択が環境方針と直結する場面も出てきた[1]。欧州・中東・アフリカ(EMEA)では、再生可能エネルギーとプライベートワイヤを組み合わせたプロジェクトが、系統経由の電力と比べてテナントの電力コストを最大40%下げられるという試算が示されている[1]。

3つの手段は、リードタイム・コスト・持続可能性の観点でそれぞれ異なる特性を持つ。
| 手段 | リードタイム | コスト特性 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 系統接続(グリッド) | 主要市場平均4年超、一部で7年規模 | 電力会社の料金体系に依存 | 待機中は稼働開始できない |
| 天然ガス自家発電 | 系統より短縮可能 | 設備投資が上乗せ | 一部テナントが持続可能性を理由に忌避 |
| 再エネ+プライベートワイヤ | 発電・送電の個別開発が必要 | 系統比で最大40%低減の試算(EMEA)[1] | 適地・出力の安定性に制約 |
※本記事は2026年7月時点の情報です。料金・提供条件は変動が速いため、最新は各公式でご確認ください。一部アフィリエイトリンクを含みます。 ✅ 先に結論(Seedance 2.0の要点) 何がすごい[…]
日本のIT×経営読者への示唆
この構造変化は、日本企業が海外DC容量やコロケーションを検討する際の評価軸にも直結する。多くの企業がAI活用の拡大に伴いGPU計算資源やDC容量の確保を急ぐ中、電力調達という制約を見落としたまま契約を進めるリスクが高まっている。
自社構築・コロケーション・クラウド利用のいずれを選ぶ場合も、事業者の「電力調達計画」を契約前の確認事項に加える必要がある。立地とラック単価だけを比較する従来のチェックリストでは、稼働開始時期のリスクを見落とす。コロケーション事業者を選ぶ際は、対象拠点の電力供給元、系統接続の完了時期、代替電源の有無を具体的に確認する段階が必須になった。既存契約であっても、増設や容量拡張の際に同じ確認を求められる場面が増えていくと見ておきたい。

クラウド事業者を利用する場合も無関係ではない。ハイパースケーラー自身が同じ電力制約に直面しており、新リージョンの開設ペースや特定リージョンの容量逼迫という形で、間接的にサービス提供条件へ波及し得る。拠点戦略を検討する際は、価格表だけでなく電力調達の裏付けまで見る視点が求められる。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「グリッド接続待ち4年」とはすべての地域で同じですか?
いいえ。JLLの調査は主要市場の平均が4年を超えるとしており、北バージニアのように7年規模の待機が報じられる市場もあれば、新規接続を2028年まで停止している市場もあります。地域差が大きい点に注意が必要です。
Q2. 日本国内のデータセンター選定にも同じ問題は当てはまりますか?
本稿の数値は主に海外主要市場(米州・EMEA・アジア太平洋の一部)を対象にしたJLL調査に基づきます。日本国内の系統接続事情は電力会社や地域により異なるため、個別確認が必要です[未確認]。海外拠点を検討する際の判断材料として捉えるのが妥当です。
Q3. コロケーション契約時に電力調達計画をどう確認すればよいですか?
対象拠点の電力供給元(系統・自家発電・再エネ+プライベートワイヤの別)、系統接続が完了済みか申請中か、代替電源のバックアップ有無を契約前にヒアリング項目として明示するのが実務的な出発点です。
まとめ
DC拠点選定の判断基準は、立地とコストという伝統的な2軸から、電力調達の可否という新しい制約軸へ移った。世界のDC容量が103GWから200GWへ倍増する需要拡大の裏で、主要市場のグリッド接続待ちは平均4年を超え、事業者は天然ガス自家発電や再エネ+プライベートワイヤといった代替手段の組み合わせを迫られている。
日本のIT×経営読者にとっての実務対応は、コロケーション契約やDC容量確保の検討時に、電力供給元と接続完了時期を評価軸へ明示的に加えることだ。価格表やラック単価の比較だけでは、稼働開始の遅延リスクを見落とす時代になっている。次にDC容量やコロケーションの検討機会があれば、まず相手先の電力調達計画を尋ねることから始めたい。
出典
[1] JLL, “2026 Global Data Center Outlook” — https://www.jll.com/en-us/insights/market-outlook/data-center-outlook[2] JLL Newsroom, “Global data center sector to nearly double to 200GW amid AI infrastructure boom” — https://www.jll.com/en-us/newsroom/global-data-center-sector-to-nearly-double-to-200gw-amid-ai-infrastructure-boom
[3] Data Center Dynamics, “Not a bubble: $3 trillion data center investment ‘supercycle’ expected by 2030, despite challenges – JLL” — https://www.datacenterdynamics.com/en/news/not-a-bubble-3-trillion-data-center-investment-supercycle-expected-by-2030-despite-challenges-jll/
[4] Construction Owners, “How Long It Actually Takes to Power a Data Center in 2026: A U.S. Market-by-Market Reality Check” — https://www.constructionowners.com/insights/how-long-it-actually-takes-to-power-a-data-center-in-2026-a-u-s-market-by-market-reality-check



