
個人情報や取引先の機微情報を扱う業務でLLMを使っていると、データがどの国のサーバーで処理されているかを監査部門から問われる。Amazon Bedrockでクロスリージョン推論(1つのリクエストを複数のAWSリージョンに自動で振り分ける仕組み。以下CRIS)を有効にしている場合、リクエストが想定外の国に流れていないことを説明できる状態にしておく必要がある。
2026年8月、BedrockはOpenAIのGPT-5.6(Sol・Terra・Luna)とGrok 4.6でCRISを使えるようにし、あわせて地理限定プロファイル「US Geo」を追加した[1][2]。グローバルプロファイルは対応する商用リージョンのどこにでも処理を振り分けてスループットとコストを優先し、地理限定プロファイルは処理を指定した地理の中に留める。
以下、両プロファイルの違いと、日本の要件に当てはめたときに何が確認できるかを整理する。
予備知識
- Amazon Bedrock: AWSが提供するマネージド生成AI基盤。複数社のモデルを1つのAPIで呼び出せる
- 推論プロファイル: モデルIDの代わりに指定する識別子。
global.は世界中の対応リージョン、us.は米国内、jp.は東京・大阪と、接頭辞でルーティング範囲が変わる - 送信元リージョン/宛先リージョン: 送信元はAPIを呼び出すリージョン、宛先はBedrockが処理を回しうるリージョン。両者の対応はプロファイルごとに定義される[3]
- データレジデンシー: データの保存・処理を特定の地理的範囲内に限定する要件。個人情報保護法や業界規制で求められることがある
監査部門への説明責任を、技術設定だけでなく法務要件から裏付けたいAI基盤担当向け。
グローバルプロファイルは何を優先するか
グローバルCRISは、対応する商用AWSリージョンであればどこにでもリクエストを振り分ける。地理の境界を設けない代わりに、スループットと単価で有利になる。
公式ドキュメントはClaude Sonnet 4.5について、グローバルプロファイルが地理限定プロファイルより入力・出力ともトークン単価で約10%安いと書いている[4]。料金は処理したリージョンではなく呼び出し元のリージョンを基準に計算され、CloudWatchとCloudTrailのログも送信元リージョンに残る[4]。GPT-5.6とGrok 4.6については、AWSはグローバルの方が単価が低いとだけ述べ、割引率を示していない[1][2]。
もう1つの違いは宛先リージョン一覧の安定性にある。グローバルプロファイルの宛先はAWSが商用リージョンを増やすたびに変わりうるのに対し、地理に紐づくプロファイルの宛先リージョン一覧は変わらない[3]。要件文書に宛先リージョンを書き込めるのは後者だけになる。
IAM・SCPを含むAWS設計判断を体系的に押さえたいエンタープライズ担当向け。
地理限定(Geo)プロファイルは何を保証するか
地理限定CRISは、リクエストを指定した地理の中のリージョンだけに振り分ける。公式ドキュメントは、地理(US・EU・APACなど)に紐づく推論プロファイルへのクロスリージョン推論リクエストはその地理の中に留まる、と書いている[5]。
保存場所の扱いはもう1段細かい。既定ではデータは送信元リージョンにだけ保存されるが、CRISの実行中は入力プロンプトと出力結果が送信元リージョンの外へ移動することがあり、悪用検知のために保存する範囲では宛先リージョンに保存される[5]。つまり保存が送信元リージョン1つで完結するとは限らない。ただし移動先は同じ地理の中のリージョンで、地理の外には出ない。監査部門への説明では、この2段を分けて書く必要がある。
もう1点、宛先リージョンにはアカウントで明示的に有効化していないオプトインリージョンが含まれうる。そのリージョンを自分で有効化していなくてもリクエストは回り、悪用検知目的で入出力が保存されることがある[3]。
実際にどのリージョンで処理されたかは後から追える。CloudTrailはすべてのCRISリクエストを送信元リージョンに記録し、additionalEventData.inferenceRegion フィールドに処理されたリージョンが入る[6]。

Microsoftは2026年6月29日、Microsoft FoundryでのClaudeの一般提供を発表し、推論をAzure上で行う「hosted on Azure」を打ち出した[1]。ただし処理地として選べるのはGlobalと米国の[…]
モデルごとに使える地理が違う
次の表の3モデルはいずれもグローバルと地理限定の両方を選べるが、地理限定でどの地理を選べるかはモデルごとに違う。この差を見ずに要件だけ決めると、目的のモデルで実現できない。
| モデル | グローバル | 地理限定プロファイル | 出典で確認できる地理 |
|---|---|---|---|
| GPT-5.6 Sol・Terra・Luna | あり | あり | US[1] |
| Grok 4.6 | あり(global.xai.grok-4.6) | あり(us.xai.grok-4.6) | US[2] |
| Claude Sonnet 4.5 / Haiku 4.5 | あり | あり | US[5]/日本・オーストラリア[7] |
公式ドキュメントは地理の例としてUS・EU・APACを挙げるが[5]、モデル別の対応地理の一覧はドキュメント本体から各モデルの詳細ページへ移っており、静的な一覧としては確認できない[3]。
提供リージョンもモデルで割れる。2026年7月のGA告知では、GPT-5.6 Solがus-east-1(バージニア北部)とus-east-2(オハイオ)の2リージョン、TerraとLunaがこれにus-west-2(オレゴン)を加えた3リージョンである[8]。8月のCRIS告知は、OpenAIモデルのCRISはOpenAIモデルが提供されているすべてのAWSリージョンで使えるとだけ書き、US Geoプロファイルの宛先リージョンを列挙していない[1]。宛先を確定させるには、各モデル詳細ページのRegional availability表を読むか、送信元リージョンからGetInferenceProfileを呼ぶ[3]。Claude Sonnet 4.5にはドキュメントにUS Geoの実例があり、送信元がus-east-1のとき宛先はus-east-1・us-east-2・us-west-2の3つになる[5]。
ARNを書くときに効く点が1つある。Grok 4.6のAWS告知はベンダー名を「SpaceXAI」と表記する一方、推論プロファイルIDはus.xai.grok-4.6とglobal.xai.grok-4.6でxai.のままである[2]。IAMポリシーやSCPの条件はプロファイルID側の綴りに合わせる。
2024年1月、Google Cloudは、自社のサービスをやめて他のクラウドやオンプレミスへ移る顧客について、移行時のデータ転送料を無料にすると発表し、全世界の顧客に適用するとした[1]。同じ1月の11日には、欧州でEUデータ法が発効し[…]
IAMとSCPで地理限定を強制する
地理限定プロファイルを選んでも、権限設定が緩ければグローバルプロファイルの呼び出しは止まらない。強制するにはIAMとSCPの両方に手を入れる。
IAM側は3種類のリソースへの許可が要る。推論プロファイル本体、送信元リージョンの基盤モデル、そしてプロファイルに載っている宛先リージョンすべての基盤モデルである[5]。宛先を1つ許可し忘れると、その宛先が選ばれた時点で呼び出しが失敗する。グローバルプロファイルはARNの形が違い、リージョンもアカウントも空のarn:aws:bedrock:::foundation-model/<モデル名>への許可が3つ目として必要になる[4]。
SCP側は、未使用リージョンをブロックしている組織ほど引っかかる。宛先リージョンをすべて許可リストに入れるか、bedrock:InferenceProfileArnを条件にした推論プロファイル例外を足す[5]。この例外は宛先リージョンの評価にだけ効き、呼び出しを発する送信元リージョンへのリージョン制限は回避できない[5]。
グローバルプロファイルを禁止する側の設定も用意されている。グローバルCRISではaws:RequestedRegionが実際の宛先ではなくunspecifiedになるため、リージョン名を並べた従来の拒否ポリシーでは止まらない。aws:RequestedRegionがunspecifiedで、かつbedrock:InferenceProfileArnがarn:aws:bedrock:*:*:inference-profile/global.*に一致する条件でDenyを書く[4]。
通る条件は2段になる。組織のSCPで宛先リージョンが許可され、その上でIAMが宛先すべての基盤モデルを許可していること。地理限定を選ぶ判断は、この2段を設計に入れて初めて効く。

jp.プロファイルは東京と大阪に閉じる
Claude Sonnet 4.5とHaiku 4.5には、2025年10月から日本向けの地理限定プロファイルがある。プロファイルIDはjp.anthropic.claude-sonnet-4-5-20250929-v1:0とjp.anthropic.claude-haiku-4-5-20251001-v1:0で、接頭辞は日本がjp、オーストラリアがauになる[7]。
ルーティングは東京(ap-northeast-1)と大阪(ap-northeast-3)の2リージョンで閉じる。送信元が東京でも大阪でも宛先はこの2つで、リージョン間のトラフィックはAWSのグローバルネットワークを通り、パブリックインターネットには出ない[7]。
運用で効いてくるのはクォータの持ち方である。地理限定CRISのクォータは送信元リージョン単位で管理され、東京で引き上げを申請しても大阪発のリクエストには適用されない[7]。東京と大阪の両方を送信元にする構成なら、Service Quotasでの申請も両方のリージョンで出す。

もう1つ落としやすいのがバーンダウンレートである。Claude Sonnet 4.5は出力トークンのバーンダウンレートが5倍で、出力1トークンがクォータを5トークン消費する。クォータ消費は「入力トークン+キャッシュ書き込みトークン+(出力トークン×バーンダウンレート)」で計算する[7]。2リージョンに絞る構成では、この係数を入れずに見積もるとスロットリングに当たる。
一方、GPT-5.6とGrok 4.6の地理限定は2026年9月時点でUS Geoだけであり[1][2]、日本向けのプロファイルは公開情報では確認できなかった。国内処理を要件にする業務では、要件を書く前にこの差を確認する順序になる。
よくある質問(FAQ)
Bedrockのus.やglobal.は何を意味しますか
推論プロファイルの接頭辞で、us.は米国の中、jp.は東京・大阪の中、global.は対応する商用リージョン全体にルーティングされることを示す。
地理限定プロファイルにすると遅くなりますか
公式ドキュメントの比較表はデータレジデンシー・ルーティング範囲・コスト・SCP要件・向いている組織の5点で両者を説明しており、レイテンシの行はない[6]。コストはグローバル側が約10%安い[4]。
グローバルプロファイルでも越境しない、と説明できますか
できない。ドキュメントはデータレジデンシー要件がある組織に対し、リクエストが他の商用リージョンで処理されうる前提でグローバルCRISが自社のコンプライアンス枠組みに合うか評価するよう求めている[4]。
日本語処理なら東京リージョン固定でよいですか
jp.プロファイルでは東京と大阪の間でルーティングされ、単一リージョン固定にはならない[7]。
まとめ
Bedrockでデータ越境の説明を求められたとき、公式ドキュメントから言えることは3つに整理できる。地理に紐づくプロファイルなら処理はその地理の外に出ない。ただし入出力は送信元リージョンの外(同じ地理の中)に保存されることがあり、そこにはアカウントで有効化していないオプトインリージョンも含まれうる。そして実際に処理されたリージョンはCloudTrailのadditionalEventData.inferenceRegionで後から追える。
選ぶ順序も決まる。先に地理の範囲を要件として決め、その地理の地理限定プロファイルを持つモデルを選ぶ。2026年9月時点で日本に閉じられるのはClaude Sonnet 4.5とHaiku 4.5で、GPT-5.6とGrok 4.6はUS Geoまでである。
コスト差はClaude Sonnet 4.5で約10%、グローバル側が安い。この差を取るなら、aws:RequestedRegionがunspecifiedになる挙動を前提にSCPを書き直すところまでが設計に入る。
出典
[1] Amazon Bedrock expands API support and introduces Cross Region Inferencing for OpenAI models[2] Amazon Bedrock now supports SpaceXAI Grok 4.6 with Cross Region Inferencing
[3] Supported Regions and models for inference profiles – Amazon Bedrock
[4] Global cross-Region inference – Amazon Bedrock
[5] Geographic cross-Region inference – Amazon Bedrock
[6] Route model inference requests across AWS Regions with cross-Region inference – Amazon Bedrock
[7] Introducing Amazon Bedrock cross-Region inference for Claude Sonnet 4.5 and Haiku 4.5 in Japan and Australia
[8] OpenAI GPT-5.6 Sol, Terra, and Luna now generally available on Amazon Bedrock

