
韓国の大法院(韓国の最高裁判所にあたる終審裁判所)が2026年2月26日、ゴルフ場の設計図面にも著作権が認められるとの判決を下した。舞台はGOLFZON(ゴルフゾーン、韓国最大手のスクリーンゴルフ運営会社で、国内シェアは推計で約6割)が設計会社から著作権侵害で訴えられた裁判で、二審のソウル高裁の「機能的な設計に創作性なし」との判断を大法院が覆し、差し戻した。年間約16億ドル(約2,480億円、1ドル=155円換算)規模とされる韓国スクリーンゴルフ産業にとって、コスト構造の前提を揺るがしかねない判決だ。
ゴルファー側の実利で言えば、GOLFZON加盟店は1ラウンド(18ホール)ごとに本部へコース利用料を払っており、設計会社へのロイヤリティ負担が確定すればこの利用料への転嫁が現実味を帯びる。ビジネス読者にとっては、「機能に徹した設計に創作性は宿らない」という業界の暗黙の前提が最高裁の一判断で崩れる典型例であり、知財リスクの見積もり方を問い直す材料になる。本稿では判決の中身とGOLFZON経営への影響、競合・加盟店への波及、日本との制度差を読み解く。
韓国大法院は何を認めたのか
大法院はゴルフ場の設計図面についても、機能的な制約の中でホール配置や地形処理の選び方に創作性が宿りうるとして、著作権保護の対象になり得ると判断した。原告はゴルフプラン社やオレンジゴルフデザイン社など、国内外の設計会社3社。被告のGOLFZONは、国内外のゴルフ場運営者と提携契約を結び、実在するコースを3Dで再現したシミュレーション映像をスクリーンゴルフ店に提供してきた[1][2][3]。
設計会社側は、設計図面は設計者の創造的な個性を反映した創作物で、GOLFZONが許可なくスクリーンゴルフ用の映像にしたと主張した。1審(2021年12月、ソウル中央地裁)は著作物性を認め、設計会社側の一部勝訴としたが、2審(2024年2月、ソウル高裁)は一転、ホールごとの違いは難易度や面白さ、戦略といった機能のための選択にすぎないとして創作性を認めず、GOLFZON側を勝たせた。大法院はこの2審判断を破棄し、設計者はゴルフ規則や敷地の地形による制約を考慮しながらも「コースを構成するさまざまな要素を多様に選択・配置・組み合わせるなどして、ほかのコースや個々のホールと区別される創造的な個性を発揮できる」として、個々のコースごとの創作性を改めて判断するようソウル高裁に差し戻した[2][3]。
| 審級 | 判断 | 結果 |
|---|---|---|
| 1審(ソウル中央地裁、2021年12月) | 設計図面に著作物性あり | 設計会社側の一部勝訴 |
| 2審(ソウル高裁、2024年2月) | 機能的制約下では創作性なし | GOLFZON勝訴 |
| 大法院(2026年2月26日) | 制約下でも選択・組み合わせに創作性ありうる | 2審破棄、ソウル高裁へ差し戻し |
機能に徹した設計の中にこそ独自の価値を見出す視点は、知的財産を経営資源として捉え直す発想そのものだ。
なぜ韓国スクリーンゴルフ業界全体が揺れているのか
揺れの理由は、GOLFZONが推計で国内シェア約6割を握る最大手であると同時に、業界2位のカカオVX(Kakao VX、韓国IT大手カカオ系のスクリーンゴルフ運営会社で「フレンズスクリーン」を展開)も同じ手法でコース映像を提供してきたためだ。韓国の話題を英語で発信するサイトSeoulzのまとめによれば、韓国のスクリーンゴルフ市場は年間約16億ドル(前出換算で約2,480億円)規模で、国内シェアはGOLFZONが約6割、カカオVXが約25%、残り約15%を中小の事業者が分け合う[4]。ただしGOLFZON自身は2024年12月期の事業報告書で、公信力のある外部機関の業界統計はまだなく、正確な市場シェアは記載できないとしており[8]、シェアの数字は推計として読む必要がある。GOLFZONの公式サイトによれば、同社のシミュレーターは63カ国・1万490超の拠点で5万1,350台が稼働している[9]。
GOLFZONはゴルフ場「運営者」とは契約してきたが、設計の権利者とはライセンス契約を結んでいなかった。大法院判決はこの抜け穴を突いた。カカオVXも同種の映像提供モデルを採っており、設計会社側が勝訴を確定させれば同様の訴訟対象になり得ると業界では見られている[3]。
この構造は、コース運営者との契約さえあれば映像化できるという前提の上に成り立ってきた。設計者への対価が不要という前提が業界の急成長を支えた面もある。Seoulzは、土台となるシミュレーター機器の市場を12億ドル規模とし、2033年には18億ドルまで拡大するとの見通しも紹介している[4]。市場が広がるほど、著作権処理を怠ってきたコストの重みも増す。

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GOLFZONの経営にどれだけ打撃となるのか
現時点の請求額は原告3社の合計で307.1億ウォン(約34億円、100ウォン=約11円換算)だが、GOLFZONの経営を圧迫しているのはこの一時金以上に収益構造そのものの悪化だ[1]。GOLFZONの2024年12月期の連結売上高は6,199.8億ウォン(約682億円)で、前年の6,851.1億ウォンから9.5%減っていた[8]。四半期ベースの落ち込みはこの弱含みの延長線上にある。
GOLFZONの2026年第1四半期決算は、営業利益が前年同期比47.4%減の141億ウォン(約15.5億円)、売上高は同13.9%減の1,118億ウォン(約123億円)だった[5]。加盟店事業の売上は19.6%減、非加盟店事業は20.4%減、練習機のGDR(GOLFZON Driving Range)事業は38.1%減と国内事業が軒並み落ち込む一方、海外事業だけは5.0%増と6四半期連続の増収を保った[7]。国内不振のさなかに著作権リスクが重なった格好だ。
判決を受けGOLFZONは、訴訟対象だった28コースをスクリーンゴルフのコースリストから削除した。原告側の設計会社は訴訟の長期化より和解による解決を望む姿勢も示しており、今後はコースごとのライセンス料交渉が現実的な着地点になるとみられる[3]。

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競合や加盟店にどこまで波及するのか
波及の焦点は、ソウル高裁の差し戻し審でコースごとの創作性が広く認められた場合、GOLFZON以外にも飛び火するかどうかだ。カカオVXやSGゴルフなど他のスクリーンゴルフ事業者も、コース運営者とは契約するが設計会社とはライセンスを結ばない商慣行が一般的だったとされる。設計会社側が勝訴を確定させれば、同種のコース映像を提供する他社にも交渉や提訴が広がる可能性がある[1][3]。
GOLFZONの加盟店オーナーからは、ロイヤリティ負担が確定すれば「コスト転嫁は避けられない」との懸念が出ており、1,000ウォン(約110円)程度の値上げでも採算が厳しいとの声もある[1]。加盟店は現在、18ホール1ラウンドあたり2,000ウォン(約220円)をGOLFZON本部に支払っており、この単価にライセンス料が上乗せされる構図が想定される[1]。
加盟店はすでにラウンド中の広告表示や映像のカクつき(バッファリング)への苦情を抱えており、その上での値上げは客離れの引き金になりかねないとの声もある[1]。競合各社にとっても、コース映像は集客の柱であるだけに、ライセンス費用の追加は収益を直接圧迫する。

日本のゴルフ場設計にも著作権は認められるのか
日本ではゴルフ場設計を巡る著作権訴訟は確認できず、韓国のような転換は起きていない。日本の著作権法は「建築の著作物」に高いハードルを課し、独立して美的鑑賞の対象となる「美術性」を求める。大阪高裁平成16年(2004年)判決(通称グルニエダイン事件)は一般住宅について、通常加味される程度を上回る美的創作性を欠くとして著作物性を否定した[6]。
この基準をゴルフ場設計に適用した判例や、国内事業者が著作権を主張された事例は確認できなかった。ビジネス読者には、「美術性」という壁がある限り日本で同型訴訟が急増する可能性は低いという材料になる。ゴルファーには、国内利用料が直ちに上がる状況ではないとだけ言えそうだ。
| 項目 | 韓国 | 日本 |
|---|---|---|
| 機能的制約下の創作性 | 大法院が選択・配置の創作性を認める(2026年) | 判例上「美術性」を要求、一般建築物は否定例あり |
| ゴルフ場設計を巡る訴訟 | GOLFZON訴訟が差し戻し審で進行中 | 確認できる訴訟なし |
| スクリーンゴルフ事業者の対応 | コース削除・ライセンス交渉が現実化 | 該当事例なし |
まとめ
今回の判決が示したのは、「機能的だから創作性がない」という業界の暗黙の前提が、たった一つの最高裁判断で覆るという事実だ。ゴルフをする読者にとっては、利用料がすぐ上がるわけではないが、コース映像の裏に設計会社の権利という見えないコストが存在することを知っておいて損はない。ビジネス読者にとっては、長年当然視してきた資産の権利関係を、判例変更のたびに洗い直す必要があるという教訓になる。
GOLFZON一社の問題ではなく業界の商慣行そのものが問われており、ソウル高裁の差し戻し審の行方と競合の対応が今後の焦点だ。設計図面という機能的資産の権利処理を怠ってきた企業は、この業界に限らず見直しを迫られるだろう。
よくある質問(FAQ)
GOLFZONとは何ですか
韓国最大手のスクリーンゴルフ運営会社。公式サイトによれば、63カ国・1万490超の拠点で同社のシミュレーターが稼働する。
なぜゴルフ場の設計図に著作権が問題になるのですか
GOLFZONが実在コースを3D映像で再現し提供する際、設計者の許可を得ていなかったためだ。
この判決で日本のスクリーンゴルフの料金も上がりますか
韓国国内の話で、日本で同種の訴訟は確認されておらず、直ちに料金へ影響する状況ではない。
出典
[1] https://en.sedaily.com/sports/2026/02/27/golf-course-copyright-ruling-rattles-screen-golf-industry[2] https://en.sedaily.com/society/2026/02/26/supreme-court-rules-golf-course-designs-qualify-for
[3] https://www.maniareport.com/view.php?ud=202603051019022008211c34736d_19
[4] https://www.seoulz.com/korea-screen-golf-industry-2026/
[5] https://www.digitaltoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=662051
[6] https://www.ip-bengoshi.com/archives/3671
[7] https://www.ftoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=358487
[8] https://dart.fss.or.kr/dsaf001/main.do?rcpNo=20250320001486
[9] https://www.golfzongolf.com/global/user/main/


