組織行動とリーダーシップ 全6回の振り返り|提出課題を読み返して残った3つの問い

組織行動とリーダーシップ 全6回の振り返り|提出課題を読み返して残った3つの問い

本記事は「MBAで学んだ組織行動とリーダーシップ」シリーズの最終回、全6回のまとめです。

この記事でわかること

  • 全6回のケースと枠組みの全体像(ミドルとトップを行き来する構成)
  • キリンビール・ユニリーバ・HCLテクノロジーズが、変革への参加を評価で促す以外に使った手段
  • 「リーダーかマネージャーか」を課題の種類で切り替える考え方
  • 受講中に提出した課題を読み返して、自分の考えがどこで変わったか

1. 事前課題に書いた答えが、講義で覆った

全6回を振り返るにあたって、受講中に提出した課題を読み返しました。手元に残っているのは、Day3の事前課題と、Day6の振り返り課題の2本です。

Day3の事前課題は「あなたがキリンビールのV10推進プロジェクトのリーダーに任命されたら、何をするか」という問いでした。私は5つの行動を挙げ、そのうちの1つにこう書いています。

V10推進プロジェクトの取り組みを、社員の評価に直接結びつけることで、プロジェクトへの参加と貢献を促す。

無関心な社員が3割ほど残っている状況を前に、参加を促す一番確実な手段は評価だと考えたからです。

ところが講義で知ったのは、キリンがV10への貢献をあえて人事考課に組み込まなかったことでした。次の回のユニリーバでは、CEOが「正しいことをしたからといって報酬を与える必要はない」と、報酬への組み込みに否定的な考えを語っていました。最終回のHCLテクノロジーズは、360度評価を人事考課ではなく成長支援に使いました。

6回のうち3回で、私の答えとは違う手段が出てきたことになります。この記事では、このずれを入口に、全6回を3つの問いに整理します。


2. 全6回の地図 ―― ミドルとトップを行き来する

まず、6回で扱ったケースと枠組みを並べます。

Dayテーマケース主な枠組み
Day1変革時のミドルリーダーの葛藤と成長スパーク・コーポレーション(企画グループリーダーの山口)パス・ゴール理論、成人発達理論、視野狭窄の4つの原因
Day2企業経営とリーダーシップ、エンパワーメントスターバックス、タローフーズリーダーシップとマネジメントの違い、課題の2分類、コッターの8段階、エンパワーメントの5ステップ
Day3グループマネジメントと組織活性化キリンビール(V10推進プロジェクト)7Sモデル、理念浸透の4段階、動機づけ・衛生理論
Day4組織変革のマネジメントユニリーバ(USLP戦略)コッターの8段階、7Sモデル、CSV
Day5イノベーションを導くチームディズニー・アニメーション(システム部)心理的安全、失敗の分類、クネビン・フレームワーク
Day6イノベーションを導く組織変革HCLテクノロジーズ逆ピラミッド組織、集合天才
全6回のケースを、変革を動かした人の立場(トップかミドルか)で並べた図。Day1スパーク社はミドル、Day2スターバックスはトップ、Day3キリンビールはミドル、Day4ユニリーバはトップ、Day5ディズニー・アニメーションはミドル、Day6 HCLテクノロジーズはトップ
図1:全6回で変革を動かした人の立場

並べてみると、変革を動かす人の立場がミドルとトップで交互に入れ替わっています(Day2はタローフーズでミドルも扱っています)。

立場ケース持っていたもの持っていなかったもの
ミドルキリン(専任2名)社員一人ひとりへの理解、名指しで巻き込む人脈権限、予算、危機感の共有
トップユニリーバ(CEO)人事権(上位100人の3分の1を異動)、四半期決算発表の中止を決める権限途上国ビジネスを理解した幹部、外向きの社風

キリンのV10は、社長直轄でも予算は限られ、専任メンバーは2名でした。それでもコンバット・フォーラムを2年半で40回開き、延べ2,200人(社員の約6割強)が参加しています。ユニリーバは逆に、トップの権限で一気に体制を入れ替えました。

ただ、どちらのケースでも同じ枠組みが使われています。7Sモデル(戦略・組織構造・制度の「ハードS」と、価値観・スキル・人材・スタイルの「ソフトS」)と、コッターの変革の8段階です。キリンは戦略・組織・制度の改革を先に済ませたのに、社風が「トップダウン・内向き」のまま残っていた。ユニリーバは戦略を変えたうえで、評価制度・組織・人材・スタイルまで合わせて動かした。立場が違っても、「ハードSを変えただけでは組織は変わらない」という結論は共通していました。


3. 3つの問いに整理する

問い1:人を動かすのは制度か、意味か

冒頭のずれに戻ります。3社は、変革への参加を評価で促すことを最初の手段にしていません。それぞれの判断は次のとおりです。

Day3事前課題での著者の回答(V10への貢献を評価に直接結びつける)と、キリンビール・ユニリーバ・HCLテクノロジーズの判断を並べた図。キリンは人事考課に直接組み込まず、ユニリーバのCEOは報酬への組み込みに否定的で、HCLは360度評価を成長支援に使っていた
図2:変革への貢献を評価に組み込むか
  • キリン:V10の基本方針は「やらされ感」の払拭でした。義務にすれば自発性とぶつかる。代わりに「キリン・スピリット」(考え抜く・やり切る・自由闊達にやる・誠実で倫理観が高い)という行動指針で、間接的に評価しました
  • ユニリーバ:CEOのポール・ポールマンは「モチベーションは目的や関与から生まれる。正しいことをしたからといって報酬を与える必要はない」と語っていました。講義ではこれを2015年の判断として整理しています。ただし同社は2017年から、幹部の長期インセンティブの指標の1つ(25%)にサステナビリティの進捗を入れています(2017年の報酬通知)。目標が浸透したあとで報酬に反映した、という順序です
  • HCL:360度評価の結果を公開し、CEOが自分の結果から先に開示しました。上司が部下を評価する権限を弱め、弱さを見せ合う文化をつくることが目的でした

背景にある理論が、Day2とDay3で出てきたハーズバーグの動機づけ・衛生理論です。給与や労働条件などの衛生要因は、改善しても不満が減るだけで満足にはつながらない。満足を生むのは、達成感・承認・成長・仕事内容といった動機づけ要因のほうです。

もう1つは、Day3の理念浸透の4段階(認知→理解→納得→行動)です。評価に組み込めば「認知」と「行動」は短期間で増えます。ただし「納得」を飛ばした行動は、評価の対象から外れた時点で止まる。キリンが評価ではなくフォーラムでの対話に時間をかけたのは、この「納得」の段階を作るためだったと考えています。

問い2:いま自分はリーダーか、マネージャーか

Day2で、コッターによるリーダーシップとマネジメントの区別が出てきました。リーダーシップは変革を推し進める力(ビジョン・統合・動機づけ)、マネジメントは組織を効率的に運営する力(計画・組織設計・予実管理)です。

同じ日に出てきたハイフェッツの課題の2分類と重ねると、この区別が実務で使いやすくなります。

ハイフェッツの技術的な課題と適応を要する課題を左右に並べ、それぞれに求められる役割(マネジメントとリーダーシップ)、クネビン・フレームワークの領域(秩序系と非秩序系)、パス・ゴール理論のリーダー行動の例を対応させた図
図3:課題の種類と求められる役割

技術的な課題は、やり方が明確で、課題は自分の外にあります。権威や専門性のある人が分解して解けばよく、PDCAや管理統制が有効です。適応を要する課題は答えがなく、自分自身も課題の一部に組み込まれている。解決するのは問題を抱える当事者たちで、必要なのは自律性や関係性への働きかけです。

Day5のクネビン・フレームワークも同じ線で分かれます。自明・煩雑な領域(秩序系)では分析して計画どおり進め、複雑・混沌の領域(非秩序系)では試して、感知して、対処する。Day1とDay4のパス・ゴール理論は、相手と状況に応じて指示型・支援型・参加型・達成指向型を使い分けるという理論でした。ユニリーバのCEOは、変革の序盤は指示型、戦略を理解した経営陣ができてからは支援型に切り替えています。

つまり「自分はリーダーか、マネージャーか」は、人の属性ではなく、いま向き合っている課題がどちらの種類かで決まります。同じ人が午前はマネージャー、午後はリーダーとして動くこともある、という理解です。

問い3:失敗と弱さを見せられる場があるか

後半2回は、イノベーションを生むチームと組織の話でした。

Day5のディズニー・アニメーションでは、システム部の責任者が「失敗とは単に予期していなかった結果だ」と言い続け、失敗の早期報告を奨励しました。エドモンドソンの失敗の分類では、逸脱や不注意による失敗は非難に値する一方、仮説検証や探査のための実験で起きた失敗は称賛に値するとされます。その間に、プロセスの不備や不確実性による失敗が並びます。

ここで押さえておきたいのは、心理的安全は「ぬるさ」ではないという点です。罰せられたり評価を下げられたりしないと感じられるからこそ、厳しいフィードバックや難しい話し合いができる。Googleのre:Workでも、チームの効果性を左右する因子の1番目に心理的安全性が挙がっています。

Day6のHCLでは、これが組織全体の仕組みになっていました。誰でも経営陣に質問でき、回答を全員が読めるU&I。従業員が間接部門にチケットを発行できる仕組み(月3万件)。公開型の360度評価。CEOのヴィニート・ナイアーは、リーダーの役割をビジョンを掲げることより「イノベーションが生まれやすい環境を築く組織の設計者」と位置づけました。

一方で講義では、この「逆転のリーダーシップ」の限界も扱いました。トップダウンへの依存で後継者が育ちにくいこと、成長市場だったから機能した可能性があること、日本でそのまま通用するかは分からないこと。万能の答えとしてではなく、条件つきの選択肢として示されていました。


4. 振り返り課題に書いたこと

Day6の振り返り課題では、「実務における気付き」を5つ書いていました。そのうち4つを表にすると、どれも上の3つの問いのどこかにつながっています。

振り返り課題に書いた気付きつながる問い
7Sなどの枠組みを知る前は、組織変革を断片的に、直感に頼って進めていた問い1(ハードSだけでは変わらない)
自分がリーダーなのかマネージャーなのか、自分でも明確ではなかった。どういうポリシーで動いているのかを言えるようになった問い2
組織の成熟度を把握することで、リーダーシップのスタイルを選べるようになった問い2
自社の社員の特性を把握し、それに合わせた動機づけを考えた問い1

4つ目は、Day3のキリンの手法と同じ形をしています。V10の推進チームは、社員のプロファイル(経営層への憧れ、高いプライド、先頭を切れない、集団帰属意識が高い)を先に整理し、それに合わせて施策を設計していました。私も同じように自分の職場のメンバーの特徴を書き出し、「経営層との距離感」「顧客への遠慮」「英語への憧れ」といった特徴を見つけています。そのうえで、伝え方を変えたと書いていました。

5つ目として、「自分の活動だけでなく、他の現場のリーダーたちに共有して一緒に取り組むことで、組織の変化を速められる」と書いています。講義では、V10の巻き込み方を「次世代リーダー層を囲い込めば中立層は追随してくる」という枠組み(三枝匡の改革の推進・抵抗パターン)で整理していました。それと同じ方向の気付きです。

そして、事前課題と振り返り課題を並べると、評価制度の扱いが変わっています。Day3の事前課題では「評価に直接結びつける」が5つの行動の1つでした。約6週間後の振り返り課題では、評価制度には一度も触れず、今後の方向性の最後に「コミュニケーションと透明性」を挙げています。理由はシュルツやナイアーのように、透明でオープンなコミュニケーションで組織内の信頼を築くこと、と書いていました。

講義を通じて、自分の考えが「制度で動かす」から「意味と信頼で動かす」へ移ったことが、提出物の上にそのまま残っていました。


5. 学びと示唆 ―― 変革を始める前に確かめる3つのこと

全6回を通して残ったのは、個別のフレームワークより、変革に手をつける前に確かめる問いでした。

確かめること問い使う枠組み
動かす手段評価や報酬で動かそうとしていないか。「納得」の段階を作る場はあるか動機づけ・衛生理論、理念浸透の4段階
課題の種類これは技術的な課題か、適応を要する課題か。自分はマネージャーとして動くべきか、リーダーとして動くべきか課題の2分類、クネビン、パス・ゴール理論
場の条件失敗を早く報告できるか。リーダー自身が知識の限界や間違いを見せているか失敗の分類、心理的安全、逆ピラミッド

1つ目について補足すると、評価制度を使うこと自体が誤りなのではありません。キリンも「キリン・スピリット」という形で、評価の中に反映はしていました。問題は、評価を参加を促す主な手段として最初に置いたことにあります。事前課題の私の答えは、まさにそこでした。

2つ目は、Day1の「視野狭窄」の話にもつながります。ミドルマネジャーが視野狭窄に陥る原因として、多忙・同一環境・好評価・貢献実感の4つが挙げられ、その根にあるのは「恐れ」だと講義では整理されていました。適応を要する課題に技術的な解き方を当てはめてしまうのは、答えのない状態に留まることへの恐れからかもしれません。Day1では「葛藤は発達のサイン」「もやもやの中に留まることが成長につながる」という言葉も紹介されました。

3つ目は、ナイアーのリーダー観に表れています。「リーダーはあらゆる質問に答え、あらゆる問題に解決策を示そうとする気持ちを抑えなくてはならない。むしろ自分から尋ねるべき」。最終回の最後に講師が紹介したのも、「正しい答えを求めることより、正しい問いを持つこと」という言葉でした。


6. まとめ

  • 全6回は、ミドル(スパーク社・キリン・ディズニー)とトップ(スターバックス・ユニリーバ・HCL)を行き来しながら、同じ変革の問いを繰り返し考える構成だった
  • 7Sモデルとコッターの8段階は、立場を問わず繰り返し使われた。ハードSを変えただけでは組織は変わらない
  • キリン・ユニリーバ・HCLは、変革への参加を評価で促すことを最初の手段にしなかった。Day3の事前課題で「評価に結びつける」と書いた私の答えとは違っていた
  • 「リーダーかマネージャーか」は人ではなく課題の種類で決まる。技術的な課題にはマネジメント、適応を要する課題にはリーダーシップ
  • 失敗と弱さを見せられる場は「ぬるさ」ではなく、厳しい話し合いをするための前提になる

提出物を読み返して分かったのは、約6週間のあいだに自分の答えが変わっていたことでした。講義の内容そのものより、その変化が記録として残っていたことが、この科目のいちばんの収穫だったと思います。


よくある質問(FAQ)

Q1. 組織行動とリーダーシップは、どんな人に役立つ科目ですか?
6回のうち3回はミドルの立場からの変革を扱います。権限や予算が限られたなかで組織を動かす方法を考えたい、現場のマネージャーやチームリーダーに向いています。

Q2. 変革への貢献を評価制度に組み込むのは間違いですか?
間違いではありません。キリンも行動指針の形で評価には反映していました。避けるべきなのは、評価を参加を促す主な手段にしてしまい、社員が「納得」する段階を飛ばすことです。

Q3. 心理的安全性と「ぬるま湯」の違いは何ですか?
心理的安全は、罰せられたり評価を下げられたりしないと感じられる状態です。だからこそ厳しいフィードバックや難しい話し合いができます。何を言っても許される、問題を指摘しない状態とは違います。

Q4. エンパワーメントと丸投げはどう違いますか?
Day2のタローフーズでは、エンパワーメントを「目的・ビジョンの共有→対象者の把握→アサインメント→コーチング・動機づけ→支援」の5ステップで整理しました。上司が結果責任を持ち、部下が執行責任を持つ。任せる範囲を相手と合意し、権限の及ばない問題は上司が取り除く。この前提がないまま任せるのが丸投げです。