英国のゴルフ場に迫る大幅増税、会員が負担する未来はもう始まっている

英国で、ゴルフ場やゴルフ場併設ホテルの事業用資産税(Business Rates、日本の固定資産税に近い、商業用不動産の賃貸価値をもとに課される英国の地方税)が、2026年4月から大幅に引き上げられる。課税評価を担う英VOA(評価庁、Valuation Office Agency)が公表した新しいレイティングリスト(Rating List、資産ごとの課税評価額一覧)では、ゴルフホテルが評価額2.7倍、練習場が600%超増となる事例が出ている[1][2]。評価の基準日が2021年4月から2024年4月に切り替わり、コロナ後のゴルフ需要回復が高値でそのまま反映された格好だ。

日本から英国コースを訪れる、または現地ゴルフ場買収を検討する読者にとって、この増税は会費水準やM&A時の収益査定に直接効いてくる。一方、日本国内のプレー料金や道具選びに即座の影響はない。ビジネス・IT側の読者にとっては、税制変更という外生要因が会員制ビジネスの価格設定にどう波及するかを見る好例になる。本稿では増税の中身、会費への転嫁経路、対抗手段、日本との構造差を順に整理する。

英国のゴルフ場で何が起きているのか

起きているのは、VOAによる評価額の一斉引き上げと、税率・軽減措置の見直しが重なる事態だ。なお以下の評価額の実例は、いずれも評価額の異議申立てを業務とするアドバイザリー会社スミス・レジャー(Smith Leisure)の集計にもとづく[1][2]。新レイティングリストでは、ウィルトシャー州のラグ・バーン・ゴルフクラブ(Wrag Barn Golf Club)が21%増の10万3,000ポンド(約2,235万円。1ポンド=217円換算、2026年8月時点)、ケント州のケイブ・ホテル&ゴルフリゾートが166%増の6万2,000ポンドとなった[1]。英南東部の別のゴルフホテルでは、評価額が23万5,000ポンド(約5,100万円)から62万5,000ポンド(約1億3,563万円)へ、2.7倍に跳ね上がった例も報じられている[2]。

練習場単体の増加幅はさらに大きい。英南西部のある練習場は評価額が600%超増え、10万ポンド近くに達する見込みだ。英南西部の練習場併設18ホールコースも、2023年の評価額から倍以上の9万8,000ポンドへ上がる[2]。

税率の側には引き下げがある。評価額5万1,000ポンド以上50万ポンド未満の標準税率は1ポンドあたり55.5ペンスから48ペンスへ13.5%下がる[1]。さらに小売・接客・レジャー業向けの40%軽減は2026年4月で終了するが、その代わりに同業種は少なくとも今後3年間、税率から5ペンスが差し引かれる。標準税率は実質43ペンスとなり、現行の55.5ペンスより22.5%低い[1]。それでも評価額の上げ幅がこの引き下げを上回るため、実際の納税額は増える施設が多い。

評価額の引き上げ幅は施設タイプで大きく異なる

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なぜここまで評価額が跳ね上がったのか

背景にあるのは、評価基準日の更新と、練習場の収益改善という2つの要因が重なったことだ。2023年リストの評価基準日は2021年4月だったが、2026年リストでは2024年4月に切り替わり、コロナ後にゴルフ需要が回復した時期の実績がそのまま反映された[1]。

練習場については、Toptracer、Trackman、Inrangeといった弾道計測技術(打球の弾道を追尾・数値化する機器)の普及が、来場者数と収益性を押し上げ、VOAが想定する市場賃料そのものを引き上げたとみられる[1]。VOAは資産の評価額を、実際の賃貸事例や収益実績から逆算した想定賃料をもとに算定する。設備投資で収益力が上がった施設ほど、税負担も重くなる仕組みだ。

弾道計測技術の普及と評価基準日の更新がVOA評価額を押し上げ、軽減終了で実効負担がさらに増える流れ
評価額が跳ね上がった仕組み

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増税分は会員の会費にどう転嫁されるのか

業界団体は、増税分の少なくとも一部が会員や来場者に転嫁されるのは避けられないとみている。英ゴルフ連盟(UK Golf Federation、業界団体)のダグ・プール(Doug Poole)最高経営責任者は「誰かがこの増税分を負担することになり、最終的にはゴルファーがその相手になる」と述べた[2]。

負担の急増を緩和する仕組みとして、移行的軽減措置(Transitional Relief、評価額の急上昇を数年かけて段階的に反映する制度)がある。評価額2万1〜10万ポンドの施設は初年度の負担増を15%に抑えられるが、2年目以降は25%+物価上昇分、3年目は40%+物価上昇分まで上限が広がる[1]。評価額10万ポンド超の施設は初年度30%、2年目以降は25%+物価上昇分が上限となる[1]。段階的とはいえ、3年間で評価額の上昇分にほぼ追いつく設計だ。

業界調査でも会費上昇の動きは裏付けられている。会計事務所ヒリアー・ホプキンス(Hillier Hopkins)が実施したゴルフクラブ調査では、コース維持費が26%増、クラブハウス人件費が平均で約6割増え、調査対象の全クラブが会費の値上げを予定していた。値上げ幅は2〜10%、平均5%だった[3]。

評価額が大きく上がるほど、3年後の負担増ペースも急になる
税制がコース経営を動かす

韓国で、ゴルフ場の合併・買収(M&A)市場に奇妙なねじれが生じている。政府が2026年に会員制ゴルフ場の取得税を4%から12%へ一気に3倍へ引き上げたことで、業界全体のM&A案件はほぼ動きを止めた[3]。ところが同じ市場で[…]

クラブ側に増税へ対抗する手段はあるのか

手段はあるが、専門知識が要る。評価額の算定を長年手がけてきたアドバイザリー会社スミス・レジャー(Smith Leisure)のマーク・スミス(Mark Smith)氏は、クラブに対しまず3年間の納税額を見込んで予算を組むよう勧める[1]。

評価額が実際の市場賃料に見合わないと判断した場合は、異議申立てが可能だ。スミス氏は、申立てには「2024年4月1日時点での想定市場賃料と比べて評価額が過大である」ことを具体的に示す必要があると説明する[1]。申立てを扱う専門家は、RICS(英国王立公認鑑定士協会)、IRRV(評価・税務協会)、RSAという資格保有者に限るべきだとも警告しており、この分野には無資格の悪質業者も出回っているという[1]。

評価額通知を受け取ったクラブが妥当性を判断し、必要なら資格保有アドバイザーを通じて異議申立てを行う流れ
クラブ側が取りうる対抗手段
米ゴルフ場のK字格差

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日本のゴルフ場に英国のような評価額急増は起こりうるか

結論から言うと、英国のような一斉評価額改定がゴルフ会費を直撃する構図は日本には存在しない。制度の作り自体が異なるためだ。

日本でゴルフ関連の税として最も直接的なのは、ゴルフ場利用税(都道府県税)だ。これは施設の資産評価額に課すVOA方式とは違い、プレーヤー1人1日あたり400〜1,200円をホール数・利用料金に応じた8段階で直接課す仕組みで、税収の7割は施設所在の市区町村に配分される[4]。事業者の評価額が跳ね上がって会費に転嫁される英国型の経路そのものが存在しない。

土地にかかる固定資産税はあるが、ゴルフ場用地は雑種地として造成費や取得費をもとに評価されるのが一般的で、VOAのように賃貸市場価値から逆算する方式とは前提が異なる。さらに政策の方向性も逆だ。日本ではスポーツ庁とJGA(日本ゴルフ協会)が2020年度税制改正要望として、ゴルフ場利用税の非課税対象を18歳未満から30歳未満へ、70歳以上から65歳以上へ広げるよう求めた[5]。ただしこれは2019年に打ち出された方針で、2026年時点でも非課税枠は18歳未満と70歳以上のままであり、拡大は実現していない[4]。それでも負担軽減が議論の軸である点は変わらず、英国のような急増局面ではない。

項目英国日本
課税の対象施設の想定賃貸価値(VOA評価)プレー1回ごとの利用者(ゴルフ場利用税)
直近の動き評価額2.7倍・600%超増の事例非課税枠拡大の方向で調整中
負担者への転嫁経路事業者→会費・利用料に転嫁利用者に直接課税、転嫁の経路自体がない

経営に関わる読者にとっては、日本で英国型の資産評価急増リスクは低い一方、電気代や人件費上昇による会費への転嫁圧力は共通する。ゴルファーにとっては、英国のような突発的な会費急騰は考えにくいが、ゴルフ場利用税という定額の別負担は残る。

まとめ

英国のゴルフ場が直面しているのは、需要回復と技術投資が評価額を押し上げ、軽減措置の終了が重なるという、複数要因が同時進行する増税局面だ[1][2]。ゴルファーにとっては、会費や利用料の値上げが単なる物価上昇ではなく、税制という制度要因からも来ていると知っておく価値がある。経営に関わる読者にとっては、コスト増を段階的な価格転嫁でどう吸収するかという判断軸そのものが、業種を問わず参考になる。日本には同型のリスクはないが、負担の転嫁経路がどう設計されているかという視点は共通して使える。

よくある質問(FAQ)

Q. 英国のゴルフ場の会費は本当に上がるのですか。
A. 英ゴルフ連盟は増税分が最終的にゴルファーの負担になるとの見方を示しているが、実際の値上げ幅や時期はクラブごとの経営判断による[2]。

Q. 日本のゴルフ場でも同じような値上げは起きますか。
A. 日本には英国型の一斉評価額改定は存在せず、直接的な波及は考えにくい。詳しくは前段の日本セクションを参照。

Q. 自分の練習環境や道具選びに関係がありますか。
A. 直接の関係は薄いが、練習場の弾道計測技術の普及が評価額上昇の一因になっている点で、設備投資と税負担は間接的につながっている[1]。

出典

[1] Golf Business News(寄稿・オピニオン。筆者は評価額の異議申立てを扱うSmith LeisureのMark Smith氏、2026年3月6日)「The National Business Rates Revaluation from 1st April 2026 for Golf Venues – Are You Prepared?」 https://golfbusinessnews.com/news/opinion/the-national-business-rates-revaluation-from-1st-april-2026-for-golf-venues-are-you-prepared/
[2] Golfshake「Could this make your golf club membership cost more」 https://www.golfshake.com/news/view/22460/Could_this_make_your_golf_club_membership_cost_more.html
[3] Golfshake「Financial pressures are increasing on golf clubs and golfers will pay for it」 https://www.golfshake.com/news/view/22779/Financial_pressures_are_increasing_on_golf_clubs_and_golfers_will_pay_for_it.html
[4] 東京都主税局「ゴルフ場利用税」 https://www.tax.metro.tokyo.lg.jp/kazei/leisure/golf
[5] GEW(ゴルフエコノミックワールド)「ゴルフ場利用税撤廃に方針転換 『全廃』から『非課税枠拡大』へ」 https://www.gew.co.jp/news/g_59001