取得税3倍化でも2兆ウォンの争奪戦 ── 韓国ゴルフ場M&Aの逆説

韓国で、ゴルフ場の合併・買収(M&A)市場に奇妙なねじれが生じている。政府が2026年に会員制ゴルフ場の取得税を4%から12%へ一気に3倍へ引き上げたことで、業界全体のM&A案件はほぼ動きを止めた[3]。ところが同じ市場で、韓国最大手のゴルフ場運営会社Golfzon County(ゴルフゾンカウンティ、21コースを運営)の売却案件だけには、国内外の投資会社やレジャー企業など20社超が殺到している[1]。売り手はMBKパートナーズ(韓国最大級のプライベートエクイティ運用会社)で、評価額は2兆ウォン(約2,200億円、1ドル155円・100ウォン11円換算)規模とされる[1][2]。規制で市場全体が冷え込む中、なぜこの一件だけが過熱するのか。取得税という制度変化と、プライベートエクイティ(PE、未上場企業に投資し数年後に売却して利益を得るファンド)の出口戦略という二つの視点から、この逆説を読み解く。

韓国のゴルフ場M&Aはなぜ突然止まったのか

結論から言うと、原因は2026年に施行された会員制ゴルフ場の取得税引き上げにある。

韓国政府は会員制ゴルフ場を売買などで取得する際の税率を、従来の4%から12%へと3倍に引き上げた[3]。この改正により、非中核資産としてゴルフ場を売却し財務改善を図ろうとしていた企業の計画が次々と宙に浮いている[3]。買い手にとっては、買収額に上乗せされる税負担が重くなりすぎ、採算が合う価格を提示しづらくなった。

韓国の取得税引き上げがゴルフ場M&A市場を凍結させる仕組み
取得税引き上げからM&A市場凍結までの流れ

結果として、コースを一つ一つ売買する典型的な会員制ゴルフ場M&Aは事実上止まった状態が続いている[3]。市場全体を覆う規制ショックの存在は、まず押さえておく必要がある。

PEファンドがどう投資先を育て、どう売り抜けるかという出口設計の考え方が体系的に分かる一冊。

取得税は具体的にどれだけ重くなったのか

数字で見ると、税率は4%から12%へと、金額ベースで3倍に膨らんだ計算になる。

例えば評価額100億ウォンのコースなら、改正前は取得税4億ウォンで済んでいたところが、改正後は12億ウォンへ跳ね上がる。差額の8億ウォンは、そのまま買収コストの上乗せになる。

韓国の会員制ゴルフ場、取得税は施行後に3倍へ

この上げ幅の大きさが、個別コースの売買を止めている本質的な理由である。買い手からすれば、税負担だけで買収額の1割強が上乗せされる計算になり、価格交渉の前提そのものが崩れる。

買収額の根拠や入札プロセスなど、M&Aの基本的な仕組みを新書サイズで押さえられる。

なぜGolfzon Countyの案件だけに20社超が殺到するのか

答えは、税制の影響を受けにくい大型・分散型ポートフォリオという構造にある。

Golfzon Countyは全国21コースを運営し、有形資産は1兆3750億ウォンに上り、その大半が土地だ[1]。年間EBITDA(利払い・税・減価償却前利益)は約1500億ウォン、売上高2852億ウォン、営業利益811億ウォンという安定した収益基盤を持つ[1]。個別コースの売買ではなく、運営会社そのものの持分譲渡というディールの形式は、典型的な会員制ゴルフ場M&Aとは性質が異なる大型統合案件として扱われている。

Golfzon County入札に参加する企業タイプの内訳
20社超の入札者層の内訳

入札には国内外のPEファンドだけでなく、レジャー複合企業や、保有地を高齢者向け施設に転用したい建設会社まで幅広い顔ぶれが集まっている[1]。広大な土地という資産価値そのものに用途転換の余地があることが、規制環境が悪化した局面でも買い手を引き寄せている。

海外展開

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評価額2兆ウォンの内訳とMBKの出口戦略

評価額2兆ウォンの根拠は、21コースが生む安定したEBITDAと、簿価1兆3750億ウォンの保有不動産という二つの柱にある[1]。

MBKパートナーズは2018年、1140億ウォンを投じてGolfzon Countyの株式50%を取得し会社を設立した[1]。その後4回の増資で計2880億ウォンを追加投資し、持ち分は約58%まで積み上がったとされる[1]。この間、Golfzon Countyは年平均2〜3コースを買い増す形で規模を拡大してきた[1]。

MBKのGolfzon County買収から売却プロセスまでの時系列
MBKパートナーズによるGolfzon County育成から売却までの経緯

出資して規模を拡大し、収益基盤が育った段階で売り抜けるという型は、PEファンドの典型的な出口戦略である。取得税という逆風下でも、この型を通して構築された資産は買い手を集められることを、今回の案件は示している。

海外展開

NAVEEは、電動キックボードで世界的に知られる中国発のモビリティブランドだ。2020年に設立され、本社を中国・江蘇省蘇州市に置く。展開する製品は主に近距離移動向けの電動キックボードや電動アシスト自転車で、これまでゴルフとは縁のない企業だ[…]

よくある質問(FAQ)

Q1. 韓国の取得税とは何で、なぜ12%まで引き上げられたのか。
A. 取得税は不動産などの資産を取得した際にかかる地方税で、韓国では会員制ゴルフ場を含む一部資産を重課税の対象としてきた。2026年の改正で、会員制ゴルフ場のM&Aによる取得も重課税の対象に含まれ、税率が従来の4%から12%へ引き上げられた[3]。

Q2. Golfzon Countyの案件は日本の読者にどう関係するのか。
A. 直接投資する機会は限られるが、規制強化が資産クラス全体を一律に凍結させるわけではなく、規模や構造次第で例外的に資金が集まる事例として、規制リスクとPEの出口戦略を学ぶ教材になる。

Q3. Golfzon Countyの売却はいつ決着するのか。
A. 2026年5月29日を期限とする予備入札に20社超が名乗りを上げた段階で、本稿執筆時点では優先交渉権者は公表されていない[1]。今後の本入札・デューデリジェンスの進行を注視する必要がある。

製品戦略

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まとめ

韓国のゴルフ場M&A市場は、取得税の3倍化という一つの規制ショックで一律に凍結したわけではない。個別コース単位の小型案件は買い手を失う一方、21コースを束ねたGolfzon Countyのような大型・高収益資産には20社超が集まっている。読者にとっての教訓は、規制強化のニュースを見た際に「市場全体が止まった」という一面だけで判断せず、対象資産の規模・収益構造・出口の設計次第で流動性が大きく変わりうる点を意識することである。今後は優先交渉権者の選定と最終的な売却額の行方に注目したい。

出典

[1] MBK’s Golfzon County Attracts Over 20 Bidders Ahead of May 29 Deadline, Seoul Economic Daily, 2026-05-14 https://en.sedaily.com/finance/2026/05/14/mbks-golfzon-county-attracts-over-20-bidders-ahead-of-may
[2] Bidding Heats Up for Golfzon County Valued at 2 Trillion Won, Seoul Economic Daily, 2026-04-02 https://en.sedaily.com/finance/2026/04/02/bidding-heats-up-for-golfzon-county-valued-at-2-trillion-won
[3] South Korea’s golf course M&As grind to halt after tax increase, KED Global, 2026-07-10 https://www.kedglobal.com/mergers-acquisitions/newsView/ked202607100014