
米ダラスを本拠とするTopgolf International, Inc.(Topgolf Callaway Brandsのグループ会社。エンターテインメント施設「Topgolf」の運営体とは別の特許保有主体にあたる)が、ボール自体に電子部品を組み込んだゴルフボールの特許を取得した。2026年3月に成立した米特許第12,564,768号(出願は2023年9月)で、圧電素子(機械的な力を電気に変える素子)と無線送信機、ジャイロスコープ(姿勢や角速度を測るセンサー)、磁力計、Bluetooth Low Energy(BLE。近距離無線通信の省電力規格)を1個のボールに内蔵する構成だ[1][2]。ボール自身がスイングの衝撃で発電し、データを直接送信する設計は、コース側に読み取り機を並べる既存のRFID方式とは異なり、用具メーカーが商用化に先立って権利を押さえる特許戦略の一端を示す。IT・経営の視点で見ると、製品化前の特許取得そのものが競争上の布石になっている点に注目したい。ゴルフ用品業界がAIやセンサーを取り込んだデータ活用に軸足を移しつつある今、どの企業がどんな技術思想を先に権利化するかは、今後の製品開発の方向性を占う手がかりになる。
この特許は何を実現するのか、ボール内蔵センサーの仕組み
米特許第12,564,768号の中身を見ると、ゴルフボールの内部に圧電材料と集積回路(IC)、電池を組み込む構成になっている[2]。圧電素子は、スイングでボールが受ける衝撃という機械的な力を電気に変える部品で、発生した電流を小型電池の充電に使う。ボール自体が外部電源なしで動作を続けられる、自己完結型の電源設計だ。
ICにはジャイロスコープと磁力計が組み込まれる。磁力計は毎秒85回程度のペースでボールの回転を捉え、毎分5000回転前後のスピン量まで計測できるとされる[2]。ジャイロスコープは加速度や姿勢の変化を追い、打球の初速や軌道に関わる情報を記録する。計測したデータはBLEでペアリングした携帯端末や受信機に送られ、スピン量や位置情報としてリアルタイムに表示される仕組みだ[1][2]。
想定される用途は、スピン量を記録する計測機能と、紛失時に位置を特定する探索機能の2つで、いずれもボール自体が計測と送信の主体になる点が特徴だ[2]。電源をボタン電池の交換ではなく衝撃発電でまかなう設計は、ボールという消耗品にセンサーを常設する上での実用上の壁を下げる工夫でもある。使い切りの電池では、コストや交換の手間がボール1個ごとの製品化を難しくするためだ。

キヤノンで知財戦略を主導した著者による、特許を経営の武器として使う考え方の基本書。技術の芽を先に権利化する発想を理解する土台になる。
既存のRFID方式と何が違うのか、センサーインフラの有無
Topgolfは、エンターテインメント施設「Topgolf」の打席とターゲットで、すでにRFID(無線自動識別)方式のボール追跡を実用化している。ボールのコアとカバーの間に受動型RFIDタグを埋め込み、打席側とターゲット側に設置した読み取り機がボールの通過を検知する仕組みだ。採用するImpinjのRAIN RFIDシステムは、1時間あたり1万回を超える読み取りに対応するという[3][4]。
ただしこの方式は通過ゾーンを検知するだけで、飛行中の軌道やスピン量そのものは計測できず、打席とターゲット双方への読み取り機の敷設・維持という設備投資が欠かせない。
今回の特許が示す方式は、この前提を変える。ボールの内部でスピンや姿勢を直接計測し、BLEで端末に送るため、外部の読み取り機網を敷く必要がない。設備が要らない分、ゴルフ場に限らず練習場や自宅の庭など、読み取り機を置けない場所でも同じ計測が成り立つ可能性がある。
施設側の経済性で見ても違いは大きい。RFID方式は打席やターゲットの数だけ読み取り機を用意し、保守し続ける必要があるため、導入できる場所はTopgolfのような自社運営施設に限られやすい。ボール自体が計測を完結できれば、設備投資の主体がゴルフ場側からボールの購入者側に移り、個人所有のボールとして流通させる余地が生まれる。
| 項目 | RFID方式(既存) | ボール内蔵センサー方式(新特許) |
|---|---|---|
| 計測主体 | 外部の読み取り機 | ボール自体 |
| 取得できる情報 | 通過ゾーンの検知 | スピン量・姿勢・位置 |
| インフラ | 打席・ターゲットに読み取り機を敷設 | 不要(BLEで直接送信) |
| 設備コスト | 施設側に発生 | ボール側(電池・IC)に集約 |
| 主な用途 | エンタメ施設のスコアリング | 練習場や屋外での個人計測 |

特許出願の動きを競合の技術ロードマップの先行指標として読む視点を企業事例とともに解説しており、今回のような特許報道の読み方に応用できる。
なぜ商用化前に特許を押さえるのか、防御的IP戦略という発想
特許が成立したからといって、この仕組みを組み込んだボールがすぐに店頭に並ぶわけではない。出願から成立まで2年半ほどかかっており、Topgolf Callaway Brandsからも商品化の発表は出ていない。
それでも特許を取得する動機は製品化の有無だけでは説明がつかない。特許権は同じ技術を他社が使うことを一定期間排除できる権利で、自社での商用化を急がなくても、競合が似た方式を開発した際の交渉力になる。将来の選択肢を確保する防御的な知財戦略といえる。
Topgolf Internationalは、RFID方式のボール検査装置に関する特許(第10,799,770号)なども保有しており、ボールのトラッキング技術は以前から継続的に出願を重ねてきた領域だ[5]。今回の特許は、その延長線上でRFIDに頼らない方式まで権利化した形になる。特許ポートフォリオの広さは、他社への参入障壁や交渉材料として機能し、製品化の時期が読めない段階でも技術を権利化しておく判断は、研究開発費を投じる企業にとって合理的な選択だ。
経営学の観点では、これは実際に投資するかどうかを後で決められる「選択権」を先に買っておく発想に近い。特許の出願・成立という動きそのものが、競合他社や投資家に向けて自社の技術力を示すシグナルにもなる。製品化するとは限らないが、権利を持つ企業とそうでない企業の間には、交渉や提携の場面で明確な差が生まれる。
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ゴルフ用品のAI・データ活用トレンドとどうつながるか
ゴルフ用品業界では、ローンチモニター(打球の初速・角度・スピン量を計測する機器)やウエアラブル端末で、プレーヤーの動きやショット結果を数値化する動きが進み、AIコーチングサービスへの投資も相次いでいる。
今回の特許が示す方向性は、計測の起点をクラブや外部機器からボールそのものに移す発想といえる。ボールが計測主体になれば、屋内外を問わず、コース設備に依存しないデータ取得が可能になる。用具メーカーにとって、ボールは消耗品であると同時に、データを生む起点にもなり得る。
計測機能を持つボールが実現すれば、ボール単体の販売にとどまらず、蓄積したスイングデータを見せる連携アプリや、上位機能を使うための会員制サービスなど、ハードウエアの外側に収益源を広げる余地も出てくる。ボールという最も交換頻度の高い用具が、継続的な顧客接点に変わる可能性がある。
こうした技術が実際に製品化されるかどうかは未知数だが、特許という形で技術思想が公開された事実は、用具業界がハードウエアの性能競争だけでなく、データ取得の主導権を巡る競争にも入りつつあることを示している。
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よくある質問(FAQ)
Q1. この特許のボールはもう購入できるのか。
A. できない。特許成立は2026年3月だが商品化の発表はなく、現在Topgolfのエンタメ施設では受動型RFIDタグ方式のボールが使われている[3][4]。
Q2. 圧電素子はどうやって電気を作るのか。
A. スイングの衝撃という機械的な力を圧電素子が電気信号に変換し、発生した電流で内蔵の小型電池を充電することで、外部電源なしにセンサーと送信機を動かす[2]。
Q3. 一般のゴルファーが恩恵を受けるのはいつ頃か。
A. 明言されていない。出願(2023年9月)から成立(2026年3月)まで2年半ほどかかっており、商用化の判断や時期についても現時点で公表情報はない[1][2]。
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まとめ
Topgolf Internationalの特許は、圧電素子とジャイロスコープ、磁力計、BLEをボール1個に集約し、外部の読み取り機網に頼らずスピンや位置を計測する設計を示した。製品化前でも権利を押さえる姿勢は、技術の芽を先に囲い込む防御的な知財戦略の実例だ。
読者への示唆は、特許出願・成立の動きが、企業の技術ロードマップを読む先行指標になる点にある。用具メーカーの特許を追うことは、次にどんな製品や競争軸が生まれるかを早い段階で見立てる手がかりになる。決算発表や新製品発表のように大きく報じられないぶん、特許情報は地味だが読み解く価値のある一次情報だ。ボールという最も単純な用具が、データ発信の起点に変わる未来を、この特許は先取りして示している。
出典
[1] Patented: Topgolf’s Golf Ball With Electrical Components—and More North Texas Inventive Activity, Dallas Innovates https://dallasinnovates.com/patented-topgolfs-golf-ball-with-electrical-components-and-more-north-texas-inventive-activity/[2] US12564768B1 – Golf ball with electrical components, Google Patents https://patents.google.com/patent/US12564768B1/en
[3] TopGolf Transforms Golf Driving Ranges with RAIN RFID, Impinj https://www.impinj.com/library/customer-stories/topgolf-transforms-golf-driving-ranges-with-r
[4] Will RFID Golf Balls Ever Fly on Golf Courses?, Nanalyze https://www.nanalyze.com/2019/06/rfid-golf-balls-golf-courses/
[5] US10799770B1 – RFID golf ball testing apparatus and systems, Google Patents https://patents.google.com/patent/US10799770B1/en




