電動ゴルフカートの生産、中国からベトナムへ逆流するサプライチェーン

米ダラス近郊、テキサス州ガーランドに本社を置くパワースポーツ企業、Massimo Group(マッシモ・グループ、ナスダック上場、ティッカー:MAMO)が、電動ゴルフ・ユーティリティカートの新シリーズ「MVR」の生産をベトナムで拡大し、2025年10月に発表した[1][2]。2026年モデルからは48V・105Ahのリチウムイオン電池が選べるようになる。

この発表が注目に値するのは時期にある。米国は2025年、中国製の低速車両(ゴルフカートなど時速数十キロ以下で走る車両)に対し、100%を大きく超える異例の関税を発動したばかりで、業界全体が生産地を見直す渦中にあるからだ[5]。

この話は、日本のゴルファーが使う道具やコースの予約に直接は届かない。MVRシリーズは米国内の販売網向けで、日本のゴルフ場では国産カートが主流であり、当面プレー環境に変化はないためだ。

一方、経営・調達に関わる読者には見過ごせない論点がある。中国からベトナムへ生産を移すのは中国系メーカーだけではなく、米本土に自社工場を持つ企業までもがベトナムを選ぶという逆流が起きている。本稿はこの逆流の実像と、その先にあるリスクを追う。

Massimo Groupのベトナム生産拡大で何が変わったのか

答えは、電動ゴルフ・ユーティリティカートの生産拠点をベトナムへ広げ、新型のリチウムイオン電池を搭載した点にある。

Massimoの電動ゴルフカートMVRシリーズ。赤い車体の6人乗り
Massimoの電動ゴルフカート。関税を避けるため、この生産をベトナムへ移している(画像:Massimo Motor公式サイトより)

Massimo Groupは2025年8月、ベトナムの提携工場から6人乗り電動ゴルフカートの納入が近く始まると発表した[3]。続く同年10月29日、2026年モデルの「MVRゴルフカート」と「MVRカーゴ・マックス電動ユーティリティカート」の生産をベトナムで開始したと明らかにした[1][2]。

両モデルには48V・105Ahのリチウムイオン電池が新たに搭載される。従来の鉛蓄電池に比べて軽量で充電が速く、5,000サイクル以上の寿命を持ちメンテナンスも不要という[1][2]。

2025年8月から10月にかけてのMassimoの発表を時系列で示す図
Massimo Groupのベトナム生産拡大は2025年に3段階で進んだ

デービッド・シャン(David Shan)CEOは「国際的な製造提携を活用することで、効率を高め、コストを下げ、レクリエーション・業務用双方の需要拡大に対応する能力を広げている」と述べた[2]。発表と同日、Massimoはディーラーからの初期発注額が150万ドル(約2億3,250万円。1ドル=155円換算)を超えたことも明らかにし、2026年1月開催の展示会「PGAショー」(米オーランド)への出品を予定している[4]。

Massimo自体は2024年4月にナスダック上場した新興企業で、テキサス州ガーランドに約3万4,900平方メートル(37万6,000平方フィート)の自社工場を持つ[13]。ただし2025年通期売上高は7,183万ドル(約111億3,365万円)で前年比34.3%減、時価総額も4,331万ドル(約67億1,305万円)まで縮小している[10]。生産拡大は成長よりも、コスト圧縮の色合いが濃い動きと読める。

関税と輸出規制がなぜ企業の生産地選択にまで及ぶのかを、国際政治の側から押さえたい読者には次の一冊が向く。

なぜ電動ゴルフカートに100%超の対中関税が課されたのか

答えは、中国製の低速車両が急増し、米国内メーカーが不公正廉売と認定されたためだ。

米国の産業用車両大手、クラブカー(Club Car、イングリソール・ランド傘下)とテクストロン・スペシャライズド・ビークルズ(Textron傘下、E-Z-GOおよびCushmanブランド)は、中国製ゴルフカート等の急増を受け、商務省と国際貿易委員会(ITC)に反ダンピング税・相殺関税の調査を提訴した[6]。中国から世界向けのゴルフカート等の輸出額は、2020年の1億4,800万ドル(約229億4,000万円)から2023年には9億1,600万ドル(約1,419億8,000万円)へ6倍以上に膨らみ、2024年は約27万9,000台・約10億ドル(約1,550億円)に達し、その81%が米国向けだった[6][8]。

中国のゴルフカート等輸出額は5年足らずで6倍超に拡大

ITCは2025年7月17日、中国製の低速個人輸送車両(LSPTV、ゴルフカート・低速車両・ライトユーティリティ車両を含む)の輸入により米国産業が実質的な損害を受けたと最終認定した[5]。これを受けて同年8月、反ダンピング税119〜478%、相殺関税31〜679%という異例の税率が確定した[5]。関税命令は最低5年間有効で、年次審査により税率が見直される[5]。

この税率は中国原産の製品にのみ適用される。生産国をベトナムなど第三国に移せば、実際にその国で作られたと認められる限り課税対象から外れる[8]。Massimoが2025年に相次いでベトナム生産を発表したのは、この関税確定と時期が重なる。

関税や地政学リスクを織り込んで供給網を組み替える手順を知りたい読者には次の一冊が参考になる。

テキサスの自社工場ではなくベトナムを選ぶのはなぜか

答えは、ベトナムが関税を免れながら、中国が持つ量産・部品調達網に最も近い代替地になっているためだ。

Massimoはテキサス州ガーランドに約3万4,900平方メートルの自社工場を持ち、UTVやATV、ボートなど複数の製品を国内生産している[13]。それでも今回のMVRシリーズはベトナムの提携工場に委ねた。理由は表向き「効率化とコスト低減」とされるが[2]、実際には中国の対米輸出が締め出された分の生産能力を、距離が近く人件費も低いベトナムが吸収する構図がある。

同じ動きは中国系メーカー側にも見られる。浙江涛涛车业(Zhejiang Taotao Vehicles、ブランド名Tao Motor)は2024年10月にテキサス州で新工場を稼働させる一方、四輪車の生産ラインはベトナムへ移管を進めている[7][8]。同社会長の曹馬涛(Cao Matao)氏は、ベトナムの工場について「今後2年間は比較的安全だが、将来的には反ダンピング・相殺関税の標的になり得る」と述べたうえで、「反ダンピング税・相殺関税を避ける最善策は、米国内での現地生産と、それを支えるベトナムのサプライチェーンを組み合わせることだ」と続けている[8]。ベトナムは終着点ではなく、2年程度の猶予を買う中継地として位置づけられている。

カンディ・テクノロジーズ(Kandi Technologies)の投資先は、ベトナムではなく米国内である。同社は2024年にゴルフカート・四輪車の生産ラインへ3,000万ドル(約46億5,000万円)を米国内に投じ、リチウム電池・バッテリーパック工場にも1億ドル(約155億円)を米国内で投資する計画を発表した[8]。関税を避ける経路は「ベトナムへ移す」だけではなく、「米国内で作る」という選択肢が併存している。

Massimoと中国系2社がベトナムと米国内生産に収れんする様子を示す図
中国系・米国系メーカーがそろってベトナムと米国内生産へ分散する

つまり中国からベトナムへという単純な一方向の移転ではない。米国本土での最終組立と、ベトナムでの部品・半完成品生産を組み合わせる形に、中国系・米国系を問わず収れんしつつある。

電動カートの規制対応

米国の電動ゴルフカート大手デナゴEV(Denago EV)が2026年6月、Nomad・Rover XL・Scoutなど複数シリーズ計約3万4136台を、米運輸省道路交通安全局(NHTSA、自動車の安全基準とリコールを所管する連邦機関)に[…]

ベトナム生産はサプライチェーンの安全地帯であり続けるか

答えは、当面は有利でも、永久の逃げ場ではない。

米国とベトナムは2025年7月2日、通商枠組みで合意した。ベトナム産品には一律20%の関税を課す一方、中国からの部材を実質的に迂回輸出(transshipment、他国を経由して原産地を偽装する輸出)したとみなされる製品には40%の関税を課すという内容だ[9]。ラトニック米商務長官は「他国がベトナム経由で自国製品を売り込もうとすれば、40%の関税を科される」と説明している[9]。

ベトナム産と中国原産で関税率が大きく異なることを示す図
中国原産と判定されると関税が跳ね上がるリスク構造

ゴルフカート専用の対中関税に比べれば、40%の迂回輸出関税ははるかに軽い[5][9]。ベトナム生産へ切り替える経済合理性は、今のところ揺るがない。ただし、ベトナムで最終組立するだけで中身の大半が中国製部品という体制は、原産地規則の審査が厳格化すれば見直しを迫られる。

前例は太陽光パネルにある。米商務省は2023年8月、カンボジア・マレーシア・タイ・ベトナムの4カ国から輸出された太陽光セル・モジュールについて、中国製ウエハーと複数の中国製部材を使い現地では軽微な加工しかしていない製品は、中国製とみなして対中関税を適用すると最終決定した[12]。ゴルフカートでも同種の審査が入れば、ベトナム生産という選択の前提そのものが崩れる。

Massimoのベトナム提携先の部材調達構造は公表されておらず、コスト優位が制度変更後も持続するかは不透明である。生産拠点の分散は、関税回避であると同時に新たな政治リスクの取り込みでもある。

素材とサプライチェーン

米国のシャフト専業メーカー、Newton Golf Company(ナスダック上場、コード:NWTG)が2026年8月14日、2026年第2四半期(4〜6月期)決算を発表した。同社はカリフォルニア州カマリロに拠点を置き、2025年12月末[…]

日本の電動ゴルフカート市場は同じ関税再編の波を受けているか

答えは「起きていない」に近い。日本の電動ゴルフカート市場は、米国のような対中関税・生産移管の連鎖にはさらされていない。

理由は供給構造の違いにある。日本のゴルフカートは、ヤマハ発動機が1975年の発売以来、累計生産台数100万台を超える規模で供給してきた[11]。生産拠点も静岡県掛川市の国内工場に加え、1988年に米国、2015年にタイで稼働させており、中国製の輸入品に頼る構造そのものが存在しない[11]。

米国の関税措置はあくまで中国原産の低速車両を狙い撃ちにしたものであり、国産カートが主流の日本市場には制度上の適用場面がない。

比較項目日本米国
主要サプライヤーヤマハ発動機(国内生産中心)[11]中国製が急増、対中関税で締め出し進行中[6][8]
対中関税の対象該当なし(輸入依存が薄い)反ダンピング119〜478%・相殺31〜679%[5]
生産移管の動き目立った動きなしベトナム・米国内へ分散中[7][8]

経営に関わる読者にとっては、サプライチェーンの脆弱性は輸入依存度に比例するという原則を、この対比からも確認できる。ゴルファーにとっては、日本のカート料金や在庫は今回の関税騒動と無関係に推移すると考えてよい。

まとめ

Massimo Groupのベトナム生産拡大は、単発の一企業ニュースではない。米国の対中関税が電動ゴルフカート業界の生産地図を有無を言わさず塗り替え、中国系・米国系を問わずベトナムへ生産機能が集まるという逆説的な収れんを生んでいる。

ゴルファーにとって、この話は当面のプレー環境やコースの料金に直接は関係しない。むしろ知っておく価値があるのは、身近な道具1つの裏側にも、関税制度が生産地を動かすという事実である。

経営・調達に関わる読者にとっては、関税を回避する生産地の選択は恒久策ではなく、原産地規則の厳格化という次のリスクと常に隣り合わせだという教訓が引き出せる。生産拠点の分散は関税対策であると同時に、新たな政治リスクの取り込みでもある。

よくある質問(FAQ)

Q. 電動ゴルフカートの価格は上がるのですか。
A. 米国では中国製品への高関税分、価格上昇圧力がかかる。Massimoのようにベトナム生産へ切り替えたメーカーは、この上昇圧力を回避しやすい立場にある[1][5]。

Q. なぜ中国製ゴルフカートにここまで高い関税がかかるのですか。
A. 米国の産業界が反ダンピング税・相殺関税を提訴し、ITCが2025年7月に国内産業への実質的な損害を認定したためだ。最終的な税率は反ダンピング119〜478%、相殺31〜679%に達した[5]。

Q. 日本のゴルフ場でも同じ動きが起きるのですか。
A. 起きていない。詳しくは本文の日本セクションを参照。

出典

[1] Powersports Business「Massimo expands production, launches MVR Golf and Utility Carts for 2026」 https://powersportsbusiness.com/news/electric/2025/10/29/massimo-expands-production-launches-mvr-golf-and-utility-carts-for-2026/
[2] PR Newswire「Massimo Group Expands International Production Through Vietnam Partnership and Launches Lithium-Ion MVR Golf and Utility Carts for 2026」 https://www.prnewswire.com/news-releases/massimo-group-expands-international-production-through-vietnam-partnership-and-launches-lithium-ion-mvr-golf-and-utility-carts-for-2026-302590370.html
[3] PR Newswire「Massimo Group (NASDAQ: MAMO) Strengthens Global Supply Chain With Vietnam Manufacturing Partnership; Golf Cart Deliveries to U.S. Imminent」 https://www.prnewswire.com/news-releases/massimo-group-nasdaq-mamo-strengthens-global-supply-chain-with-vietnam-manufacturing-partnership-golf-cart-deliveries-to-us-imminent-302523903.html
[4] PR Newswire「Massimo Group Reports Strong Dealer Demand Following Launch of Vietnam-Produced MVR Golf and Utility Carts」 https://www.prnewswire.com/news-releases/massimo-group-reports-strong-dealer-demand-following-launch-of-vietnam-produced-mvr-golf-and-utility-carts-302597144.html
[5] PR Newswire(Wiley Rein LLP寄稿)「International Trade Commission Makes Affirmative Final Determination in Trade Case on Low-Speed Personal Transportation Vehicles from China」 https://www.prnewswire.com/news-releases/international-trade-commission-makes-affirmative-final-determination-in-trade-case-on-low-speed-personal-transportation-vehicles-from-china-wiley-reports-302508290.html
[6] Fortune「Chinese EV tariff loophole: golf cart imports, Club Car, Textron, USTR」 https://www.fortune.com/2024/06/29/chinese-ev-tariff-loophole-golf-cart-imports-club-car-textron-ustr
[7] CNBC「Tariffs target Trump’s second favorite set of wheels, the golf cart」 https://www.cnbc.com/2025/04/30/tariffs-target-trumps-second-favorite-set-of-wheels-the-golf-cart.html
[8] Flanders-China Chamber of Commerce「Chinese golf cart makers are moving to the U.S. to avoid tariffs」 https://www.flanders-china.be/en/newsletterpublications/chinese-golf-cart-makers-are-moving-to-the-us-to-avoid-tariffs
[9] CNBC「Trump says U.S. struck trade deal with Vietnam that imposes 20% tariff on its imports」 https://www.cnbc.com/2025/07/02/trump-trade-vietnam-deal.html
[10] StockAnalysis.com「Massimo Group (MAMO) Stock Overview」 https://stockanalysis.com/stocks/mamo/
[11] ヤマハ発動機 公式サイト「事業領域:ゴルフカー」 https://global.yamaha-motor.com/jp/profile/business/golf-cars/
[12] White & Case LLP「US Department of Commerce Determines that Imports from Southeast Asia are Circumventing ADD/CVD Orders on Solar Cells and Modules from China」 https://www.whitecase.com/insight-alert/us-department-commerce-determines-imports-southeast-asia-are-circumventing-addcvd
[13] PR Newswire「Massimo Group Announces Expansion of its Manufacturing Facility in Garland, Texas」 https://www.prnewswire.com/news-releases/massimo-group-announces-expansion-of-its-manufacturing-facility-in-garland-texas-302150715.html