
韓国のスクリーンゴルフ(screen golf、大型スクリーンに投影した映像でラウンドを疑似体験する屋内ゴルフシミュレーター)最大手ゴルフゾングループの持株会社、ゴルフゾン・ホールディングス(Golfzon Holdings、韓国のKOSDAQ市場上場)の非公開化を巡る攻防が長引いている。前CEOの金ウォンイル(キム・ウォンイル)氏が率いる投資会社SJ Investment Holdingsが2026年6月に開始した株式公開買付(TOB、Tender Offer Bid)に対し、米国のアクティビストファンド(物言う株主として知られる投資会社)Terton Capitalが二度にわたり売却を拒否した[1][2]。8月には株価が一時TOB価格を上回るという異例の展開になり、9月2日締め切りの2回目TOBの成否が焦点になっている[2]。
この争いはゴルフゾン製シミュレーターの価格や国内店舗の運営に直接波及する話ではなく、対象は持株会社の株主構成という資本構造そのものにある。プレーヤーが練習場やインドアゴルフ施設で日々触れるサービスに、当面目に見える変化は起きにくい。
一方で経営に関わる読者にとっては、借入依存の買収資金調達と価格算定根拠という2つの論点が、少数株主保護の実務判断としてどこまで通用するかを示す実例になる。本稿では、TOBの経緯とTerton Capitalの主張、韓国の新しい株主保護規制、市場の反応を順に整理し、日本の類似事例と比較する。
ゴルフゾンの非公開化TOBはどのように進んでいるのか
ゴルフゾン・ホールディングスの非公開化は、2段階の株式公開買付という手法で進められている。

SJ Investment Holdingsは2026年6月29日、残り36.15%にあたる1,548万5,020株を対象に、1株6,700ウォン(前営業日終値4,255ウォンに57%のプレミアム)で買い付ける1回目TOBを開始した[3][4]。買付総額は最大1,037億ウォン(約7,280万ドル、約113億円。1ドル=155円換算)で、応募株数にかかわらず全株を買い取る方針だった[4]。
8月5日の締め切りまでに974万2,319株の応募があり、目標の62.9%にとどまった[5]。自己株式を除く議決権ベースの保有比率は85.2%まで積み上がったが、発行済み株式総数ベースでは76.76%にとどまり、任意上場廃止に必要な90%には届かなかった[5][6]。取締役会はTOBへの賛成意見を示していた[1]。
未達を受け、SJ Investment Holdingsは8月10日から9月2日まで、残り13.41%にあたる574万2,701株を対象に同じ6,700ウォンで2回目TOBを開始した。目標株数を全て取得すれば保有比率は90.17%に達し、上場廃止基準を満たす計算になる[6]。

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なぜTerton Capitalは2度目のTOBも拒否したのか
Terton Capitalは、TOB価格が企業価値を過小評価しているとして、2度とも応募を拒んでいる。
同社はゴルフゾン・ホールディングス株の約3%を保有する米国のアクティビストファンドである[2][3]。Tertonの試算では、ゴルフゾンの簿価は1株19,076ウォン(約2,079円。1ウォン=約0.109円換算)で、6,700ウォンのTOB価格はその0.35倍、およそ3分の1の水準にとどまる[3][2]。同社は「健全な企業は少なくとも簿価相当の価値を持つべきだ」と主張し、経営品質やブランド価値が価格に反映されていないと指摘した[3]。
Terton Capitalは取締役会宛ての書簡で、価格算定根拠に加え、買収資金の借入への依存度の高さ、子会社売却計画の3点を問題視した[7]。この異議申し立てを受け、ゴルフゾン・ホールディングスは公開買付説明書を修正する対応を取った[7]。借入依存の資金調達は、買収完了後に対象企業自身の資産や将来収益を返済原資に充てる構造になりやすく、少数株主が退出を迫られる価格の妥当性と表裏の論点になる。

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韓国の改正商法はゴルフゾンの案件にどう影響しているのか
2025年7月3日に韓国の国会を通過した改正商法は、取締役の忠実義務の対象を「会社」から「会社および株主」へ広げ、すべての株主を公平に扱うことを明文で求めた。公布と同時に施行されている[10]。
想定される適用場面として挙げられているのは、企業再編、M&A、資本取引、そして公開買付である[10]。今回のような非公開化を目的としたTOBは、まさにその中心にあたる。
この規制強化は既にゴルフゾンの案件に及んでおり、Tertonの異議申し立てが公開買付説明書の修正につながった一因とみられる[7]。影響はゴルフゾン1社にとどまらない。エコプロBM(Ecopro BM)やSK D&Dなど複数の企業で、株主総会の特別決議を巡る紛争を理由に増資計画が延期される事例が相次いでいる[7]。
取締役会の信認義務が厳格化されたことで、重複上場やスピンオフを自主的に控える動きも出ている[7]。

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株価がTOB価格に迫っているのは何を示すのか
株価がTOB価格に接近している状況は、市場が現在の提示額に懐疑的な姿勢を強めていることを示している。
8月19日(水)の終値は6,630ウォン(約723円)で、TOB価格の6,700ウォンにわずか70ウォン差まで迫った[2][3]。株価はTOB発表後、56%上昇した[3]。
買付価格を株価が上回れば、株主は市場で売った方が有利になるため応募が集まりにくくなる。SJ Investment Holdingsが目標の90%到達に苦しんでいる背景には、この価格接近も影響しているとみられる[2]。
同様の構図で、買い手が最終的に価格を引き上げて決着した非公開化案件は珍しくない。ゴルフゾンの案件でも、9月2日の締め切りまでに価格修正が行われるかどうかが、Tertonをはじめとする少数株主の対応を左右する分岐点になる。

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スクリーンゴルフ最大手の非公開化紛争は日本でも起きるか
答えは部分的にイエスで、同型の非公開化TOBを巡る攻防は日本でも起きているが、対象はスクリーンゴルフ企業ではなくゴルフ関連の別業態である。
2025年、ゴルフ用品・予約サービスを手がけるゴルフダイジェスト・オンライン(東証プライム上場、証券コード3319)が、投資ファンド、インテグラルの支援を受けたTGTホールディングスによるMBO(経営陣が関与する買収)でTOBを受けた[8]。買付価格は1株430円で、公表前終値336円に27.98%のプレミアムを付けた[8]。買付期間は2025年5月16日から7月3日までの35営業日で、応募株数は下限を大きく上回り成立した[8][9]。
ゴルフゾンとの違いは、90%到達を目指す強制的な追加TOBではなく、主要株主が応募せず存続する設計にある点だ。筆頭株主の石坂信也社長(保有比率17.73%)ら5者、合計46.73%を保有する株主はTOBに応募せず、非公開化後も株主として残った[8]。韓国のように少数株主が拒否権的に立ちはだかる構図は生まれていない。
| 比較項目 | 韓国(ゴルフゾン) | 日本(ゴルフダイジェスト・オンライン) |
|---|---|---|
| TOBの型 | 90%到達を目指す2段階の強制的TOB | 主要株主が応募せず存続する設計 |
| 少数株主の対応 | Terton Capitalが2度拒否、価格を係争中 | 主要株主含め46.73%が応募せず継続保有 |
| プレミアム | 前営業日終値比57% | 公表前終値比27.98% |
ビジネス側への示唆は、非公開化の設計次第で少数株主保護の緊張度が大きく変わるという点にある。ゴルファー側への示唆は、日本でスクリーンゴルフ専業企業が同種の資本異動に直面した例はまだ確認できず、店舗網や料金体系への影響を心配する段階にないという点だ。
まとめ
ゴルフゾン・ホールディングスの非公開化を巡る攻防は、借入依存の資金調達と価格算定根拠という2つの論点だけで、少数株主が上場企業の運命を左右しうることを示した。ゴルファーにとっては、この争いがプレー環境に直結する話ではないと分かれば十分だ。ビジネス側の読者にとっては、韓国の改正商法が象徴するように、少数株主保護の制度強化が買収スキームの設計そのものを縛り始めている現実を、判断材料として持ち帰る価値がある。
制度の違いを知ることが、次の海外M&Aニュースを読み解く土台になる。
よくある質問(FAQ)
Q. ゴルフゾンのTOBはいつ決着しますか。
A. 2回目TOBは2026年9月2日締め切り、決済は9月4日を予定している。目標株数を全て取得できれば保有比率は90.17%に達し、上場廃止基準を満たす[6]。
Q. TOB価格が引き上げられる可能性はありますか。
A. 株価がTOB価格に接近しており、市場は価格見直しをある程度織り込んでいるとみられるが、8月時点でSJ Investment Holdingsは価格の再提示を表明していない[2][3]。
Q. 日本のゴルフ関連企業でも同じような事態は起きますか。
A. 日本にも非公開化TOBの事例はあるが、強制的な追加TOBを伴わない設計が一般的で、韓国のような拒否権的対立は起きにくい。詳しくは日本セクションを参照。
出典
[1] Bloomberg「Korean Golf Firm Faces Investor Pushback as Buyout Expiry Nears」 https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-08-05/korean-golf-firm-faces-investor-pushback-as-buyout-expiry-nears[2] Bloomberg「Terton Capital Opposes Golfzon Holdings Buyout as Stock Trades Above Offer Price」 https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-08-18/terton-capital-challenges-korea-s-golfzon-on-second-buyout-bid
[3] Briefs「Golfzon Investor Refuses Buyout, Calling 6,700-Won Offer Unfair」 https://www.briefs.co/news/golfzon-investor-refuses-buyout-calling-6-700-won-offer-unfa/
[4] Seoul Economic Daily「Golfzon Holdings Faces 103.7 Billion Won Tender Offer for Delisting」 https://en.sedaily.com/news/2026/06/28/golfzon-holdings-faces-1037-billion-won-tender-offer-for
[5] BigGo Finance「Golfzon Holdings Delisting 80% Complete: SJ Investment Secures 85.2% Voting Stake」 https://finance.biggo.com/news/a5fc3644-b2b4-4f99-b32d-4f1c435092b7
[6] BigGo Finance「Golfzon Holdings Delisting Accelerates as SJ Investment Launches Tender Offer for Remaining Shares」 https://finance.biggo.com/news/1cb8604c-25d4-4998-80be-bc0fa7143fc4
[7] Seoul Economic Daily「Korea’s New Fiduciary Rule Stalls Corporate Fundraising Deals」 https://en.sedaily.com/news/2026/08/21/koreas-new-fiduciary-rules-slow-key-investment-decisions
[8] ストライク「ゴルフダイジェスト・オンライン<3319>、MBOで非公開化へ」 https://www.strike.co.jp/ma_news/detail.html?id=20250515h
[9] 日本M&Aセンター「ゴルフダイジェスト・オンライン、MBOが成立し上場廃止へ」 https://www.nihon-ma.co.jp/news/20250704_3319-6/
[10] Legal500「Client Alert: the Korean Commercial Code Approved by the National Assembly」 https://www.legal500.com/developments/thought-leadership/client-alert-the-korean-commercial-code-approved-by-the-national-assembly-key-implications-and-what-to-do/


