名門ペブルビーチのキャディが労組結成、稼ぎ方はどう変わるか

米カリフォルニア州モントレー半島の名門リゾート「ペブルビーチ・リゾーツ(Pebble Beach Resorts)」で2026年6月18日、キャディたちが労働組合結成に踏み切った。投票は全米労働関係委員会(NLRB、労使関係を監督する連邦機関)の監督下で行われ、賛成180・反対56(賛成率76%)という大差で、ホスピタリティ産業の労働組合「ユナイト・ヒア・ローカル19(UNITE HERE Local 19、北カリフォルニアのホテル・飲食業労組)」への加入を可決した[1][2]。発端は、キャディ運営を受託するフロリダ拠点の企業キャディマスター(Caddiemaster)が2月、それまでの個人事業主契約(会社と雇用関係を結ばず案件ごとに報酬を受け取る請負形態)を5月から時給雇用へ切り替えると通知したことにある[5]。

海外の名門コースでキャディを付けてプレーする読者にとっては、チップやキャディフィーの相場が今後変わりうる出来事だ。経営・IT分野の読者にとっては、ギグワーカー(単発の仕事を請け負う働き手)的な稼ぎ方が制度化される際に生じる対価配分の摩擦を映す事例といえる。本稿は経緯と数字を整理し、日本のキャディ文化との違いも合わせて考える。

何がペブルビーチのキャディ雇用の転換を招いたのか

ペブルビーチ・カンパニーは2002年以降、キャディ手配の運営をキャディマスターの子会社CSI(Caddie Services International)に委託してきた。当時200〜300人規模の個人事業主のスケジュール管理が煩雑になったことが外部委託の理由だったとされる[4]。この間、キャディは会社に雇われる従業員ではなく、ラウンドごとに報酬を受け取る個人事業主として扱われてきた。

ところが2026年2月16日、キャディマスターは所属キャディに向けたテキストメッセージで、5月1日から個人事業主契約を廃止し、時給雇用に切り替えると通知した[5]。背景には、カリフォルニア州が2020年施行のAB5法(配車サービスなどのギグワーカーを念頭に、独立請負人を従業員として扱うよう企業に求める州法)以降、労働者分類を厳格化してきた流れがある[5]。新賃金は時給17.54〜24.98ドル(約2,720〜3,870円。1ドル=155円換算)となった[4][5]。

キャディマスターは、源泉徴収による事務負担軽減、401kマッチング拠出、有給病気休暇、労災補償の適用などを新制度の利点として説明した[4][5]。同社CEOのダン・コステロ氏は、狙いは報酬とサービス品質の両方の底上げだったと述べている。ペブルビーチ・カンパニーのデビッド・スティバースCEOも、キャディサービスの一貫性に指摘があったことを制度変更の理由に挙げている[4]。同じ時期に、来場者が支払うキャディフィーもシングルバッグ175ドル(約27,125円)、ダブルバッグ250ドル(約38,750円)へ引き上げられた[4]。ただし通知が突然だったことや、移行後の具体的な収入試算が示されなかったことへの不満が、後の労組結成運動の直接の引き金になった[4]。

背景を「キャディ不足」や「高齢化」と結びつけたくなるが、米国の状況はむしろ逆である。NGCOAが2023年にまとめた集計では、キャディを配置するコースは2018年の775から1,282へと65%増えた。キャディ手配アプリの登録者の75%は18歳未満で、若年層の流入が続いている[9]。一方でキャディを置くコースは全体の9%、実際にキャディを付けてプレーしたゴルファーは5%にとどまる[9]。つまり今回の摩擦は、人が足りないから起きたのではない。需要が伸びている局面で、誰がいくら受け取るかという配分の問題として起きている。

図表

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賛成180対反対56の投票は何を意味するのか

ペブルビーチ・ゴルフ・リンクス、スパイグラス・ヒル、リンクス・アット・スパニッシュ・ベイ、デル・モンテの4コースには合計250〜300人規模のキャディが所属する[3]。今回のNLRB選挙にはこのうち236人が投票し、180人が賛成、56人が反対して賛成率は76%に達した[1][2]。

UNITE HERE Local 19は北カリフォルニアでホテル・飲食業・空港・スタジアムなどを中心に8,500人超の組合員を抱える労組で、全米に300万人規模の会員を持つ上部団体UNITE HEREの一員である[1]。すでに同リゾートのホテル・レストラン従業員はLocal 19の組合員であり、今回キャディが加わったことで、ペブルビーチ内の労働組合の輪が広がった形になる[1]。公営色の強いパブリックコース(会員制ではなく一般利用者にも開かれたコース)のキャディが労組を結成するのは米国のゴルフ業界でも前例が乏しい[3]。

投票の可決により、Local 19はキャディマスターとの団体交渉における法的な交渉代表となった。今後は賃金体系・シフトの決め方・苦情処理の手続きなどを盛り込んだ労働協約の締結を目指す。会社側は選挙前に反対を呼びかける説明会を複数回開いたとされるが、大差での可決という結果は、こうした働きかけがキャディたちの不満を覆すには至らなかったことを示している[3]。

ペブルビーチ・キャディ労組結成投票結果(2026年6月18日)

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賛成と反対で何が争われたのか

対立の中身は、賃上げか賃下げかという単純な話ではない。同じ制度変更を、両者が別々の物差しで測っている。

キャディ側の言い分は現金の実額だ。2007年から19年キャディを務めるジャスティン・キピナ氏は、制度変更の混乱を「キャディ小屋で手榴弾が爆発したようなもの」と表現している[4]。ベテランのマイク・レホッタ氏は「数字は嘘をつかない」として、シングルバッグ1周で132ドル(約20,460円)だった手取りが、新制度ではチップを除いて99〜129ドル(約15,345〜19,995円)になったと述べる[4]。

会社側の言い分は総支給と保障だ。コステロ氏は、移行後の初回給与計算で90%以上のキャディが増収となり、平均で12%以上増えたと説明する[4]。加えて、これまでキャディが自分で負担していた税務処理を会社側が引き受け、健康保険や401kマッチング、有給病気休暇、労災補償が付く。チップは全額キャディの取り分として残る[4][5]。

両者の数字が食い違うのは、測っている範囲が違うからだ。

論点キャディ側会社側
何を比べるか1周あたりの現金手取り[4]福利厚生を含めた総支給[4][5]
稼働の前提繁忙期に数をこなせば伸びた歩合[4]待機時間も含めて時給が付く安定性[4]
変更の進め方2月のテキスト通知、収入試算の提示なし[4][5]州法の分類厳格化に沿った制度移行[5]
リスクの所在上限が抑えられ、ベテランほど減収[4]労災・税務・保険を会社が負担[4][5]

つまり、キャディ側は「1周でいくら手元に残るか」を、会社側は「年間でいくら保障されるか」を語っている。どちらも嘘ではないが、噛み合わない。加えて、変更が2月のテキストメッセージ1通で通知され、個々のキャディに移行後の収入試算が示されなかった手続きの問題が、金額差以上に不信を広げた[4][5]。賛成76%という結果は、賃金水準そのものより、この決め方への反発を映している。

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時給制でサービスの質は本当に上がるのか

会社側が掲げたもう一つの目的は、サービスの質だった。ここは検証しておく価値がある。

従業員化すれば、教育・評価・シフト管理を会社の指揮下で行える。個人事業主のままでは、業務の細かい指示や品質基準の強制が労働者分類の問題に触れかねない。ペブルビーチ側が挙げた「一貫性」の課題[4]に対しては、制度上は筋の通った打ち手といえる。

一方で、歩合とチップで成り立つ働き方には、良いサービスがそのまま収入に跳ね返る仕組みが埋め込まれていた。時給制はこの連動を弱める。ただしチップは100%キャディに残るため[4]、動機づけが完全に消えるわけではない。

より現実的なリスクは、経験の流出だ。減収を訴えているのは19年目のキピナ氏のようなベテランで、時給表は勤続年数と業務量で決まる。歩合時代に数をこなして稼いでいた層ほど下振れしやすい。コースを知り尽くしたキャディが離れれば、「一貫性」は揃っても平均的な読みの精度は落ちる。

そして支払う側の期待値は上がっている。キャディフィーはシングル175ドル、ダブル250ドルへ引き上げられた[4]。値上げした分の体験価値をどう担保するかは、団体交渉で決まる賃金体系そのものにかかっている。現時点で、時給制への移行後にサービスの質が上がったことを示す客観的なデータは公表されていない。

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キャディの稼ぎ方はどう変わるのか

争点の中心は「歩合+チップ」から「時給」への切り替えが手取りに与える影響だ。旧制度では、キャディは1人がゴルファー2人分のバッグを担ぐ「ダブルバッグ」1周につき、コースが受け取るキャディフィーの大半とチップを合わせて約188ドル(約29,140円)を得ていたとキャディ側は主張する[4]。新制度の時給17.54〜24.98ドルで同じ1周(ラウンドに同伴・移動時間を含め6〜7時間程度)を計算すると、実質130ドル(約20,150円)未満に目減りする場合があるという[4]。

労組結成前の2025年12月、現場のキャディで構成する連絡組織「キャディ・リエゾン・ボード」は、経験年数によらずダブルバッグ1周につき200ドル+チップ(約31,000円)、シングルバッグ1周につき150ドル(約23,250円)という一律の単価案を会社側に提示していたが、合意には至らなかった[4]。キャディマスターは、401kマッチングや有給病気休暇、労災補償を含めた総支給ベースでは多くのキャディの手取りが増えると主張しており、両者の主張は一致していない[4][5]。

歩合中心の旧制度は繁忙期に稼働日数を増やすほど収入が伸びる仕組みだったのに対し、時給制は収入の下限を底上げする一方で上限が抑えられやすい構造とみられる。今後は労組が正式な交渉窓口となり、基本単価や配分ルールを含む労働協約の内容が団体交渉で決まる見通しだ。

ダブルバッグ1周あたりの手取り目安(キャディ側の試算)
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日本のキャディは労働組合を結成できるのか

現時点で確認できる限り、日本の主要ゴルフ場でキャディが労働組合を結成した事例は見当たらない。理由は制度の出発点そのものが異なるためだ。日本のキャディは多くの場合、ゴルフ場が直接雇用するパート・アルバイトや正社員として働くか、専門業者への業務委託でコースに配置される形が中心で、案件ごとに報酬を受け取る米国型の個人事業主契約とは前提が違う[7]。

経済産業省の特定サービス産業動態統計調査でも、キャディ数はゴルフ場の従業者数と並ぶ集計項目として扱われており、統計上も施設側の労働力の一部という位置付けが定着している[7]。一方で日本の多くのコースでは人手不足を背景にキャディを置かないセルフプレーが定着しつつあり、キャディという働き方自体の規模が縮小方向にある点も米国と異なる構図だ[8]。

チップの慣行が薄い日本では、報酬が歩合やチップの変動に左右されにくい半面、稼ぎの伸び代も限定的になりやすい。経営側にとっては、業務委託先を使う場合でも労務管理の責任の所在を明確にしておく論点は今後も残る。ゴルファーにとっては、日本のキャディサービスの料金体系が今回のような労使摩擦で急変する可能性は当面低いといえる。

図表
比較項目米国(ペブルビーチ)日本
主な契約形態個人事業主契約→時給雇用(2026年5月〜)[5]コース直接雇用(パート・正社員)or業務委託が中心[7]
労組結成事例2026年6月、賛成180対反対56で結成[1][2]確認できる事例なし
報酬の主な源泉キャディフィー+チップ(歩合制中心)[4]日当・時給+施設手当(チップ慣行は限定的)
業界の構造変化契約形態を巡る労使摩擦が表面化[3][5]人手不足によるセルフプレー化が先行[8]

まとめ

ペブルビーチのキャディ労組結成は、個人事業主として働いていた人たちが時給雇用への切り替えを機に、対価配分の決定権を交渉のテーブルに持ち込んだ出来事だ。賛成180対反対56という大差の結果は、賃金水準そのものよりも、変更の進め方や説明への不満が組織化の原動力になったことを示している。ダブルバッグ1周で188ドルから130ドル未満へという試算のずれは、歩合制から時給制に切り替える際に生じやすい摩擦の典型例でもある。

ゴルファーにとっては、海外リゾートでのキャディフィーやチップの相場が今後の団体交渉次第で動く可能性がある点を頭に入れておきたい。経営に関わる読者にとっては、ギグワーカー的な働き方を制度化する際に、対価の透明性を欠くと労使摩擦に発展しやすいという教訓が読み取れる。

よくある質問(FAQ)

Q. ペブルビーチでキャディへのチップは今後どう変わるのか。
A. 現時点で公式な変更は発表されていない。今後の団体交渉で基本単価やチップの位置付けが議論される見通しだが、結論はまだ出ていない[4][5]。

Q. 今回の労組結成は他のゴルフリゾートにも広がるのか。
A. 未確定だが、公営色の強いパブリックコースでの労組結成は業界でも珍しく、同様に個人事業主契約から従業員化を進める他のリゾートに波及するかが注目されている[3]。

Q. 日本のゴルフ場でもキャディが労組を結成する可能性はあるのか。
A. 現時点で確認できる事例はない。日本のキャディは直接雇用や業務委託が中心で、米国型の個人事業主契約から従業員化するという今回の引き金自体が当てはまりにくい[7]。

出典

[1] UNITE HERE「Caddies at Pebble Beach Resorts Win Union Election」 https://unitehere.org/press-releases/caddies-at-pebble-beach-resorts-win-union-election/
[2] Monterey County Now「Pebble Beach caddies vote convincingly in favor of unionizing, will join local 19」 https://www.montereycountynow.com/blogs/news_blog/pebble-beach-caddies-vote-convincingly-in-favor-of-unionizing-will-join-local-19/article_3799eb52-f248-41d3-891e-694ef7730e42.html
[3] MyGolfSpy「Pebble Beach Caddies Vote In Favor Of Unionizing」 https://mygolfspy.com/news-opinion/pebble-beach-caddies-vote-in-favor-of-unionizing/
[4] GOLF.com「Pay controversy roils Pebble Beach caddie yard: ‘The numbers don’t lie’」 https://golf.com/news/pebble-beach-caddies-controversy/
[5] Hoodline「Pebble Beach Loopers Revolt Over Pay Shakeup, Vote To Unionize」 https://hoodline.com/2026/06/pebble-beach-loopers-revolt-over-pay-shakeup-vote-to-unionize/
[6] Monterey County Now「After a contentious transition from contractors to employees, Pebble Beach caddies will vote on unionizing」 https://www.montereycountynow.com/news/cover/after-a-contentious-transition-from-contractors-to-employees-pebble-beach-caddies-will-vote-on-unionizing/article_76ab6917-d73c-4108-83ab-fc60ac3618e1.html
[7] 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査 長期時系列表10 ゴルフ場(従業者数及びキャディ数)」(e-Stat) https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0004027595
[8] GEW ゴルフ産業専門サイト「ゴルフ場の人手不足をどうする?」 https://www.gew.co.jp/ogawa/g_50807
[9] NGCOA「Trends in Caddying: Why You Should Stay Informed」 https://www.ngcoa.org/golf-business-weekly/2023/may-2023/week-4/trends-in-caddying