屋外レンジから室内シミュレーターへ ── ゴルフスイーツの転換が示すゴルフ娯楽業態の淘汰と再生

2026年6月3日、米国のゴルフ娯楽企業ゴルフスイーツ(GolfSuites)が、テキサス州ラボックの屋外ドライビングレンジを「Double Tee Golf & Restaurant」へ売却した。これは単なる資産処分ではない。同社が2025年11月に宣言した「屋外レンジから室内シミュレーターへの全面転換」を仕上げる決定打であり、室内シミュレーターのフランチャイズ(FC=本部が看板・運営ノウハウを加盟店に提供し、加盟金・ロイヤルティを得る事業形態)専業企業への変身を実質的に宣言するものだ。同時期には、屋外ゴルフエンタメ企業のクラフトパット(Craft Putt)が連邦破産法第11条(チャプターイレブン=米国の会社更生手続き)の保護を申請しており、「屋外か室内か」の業態選択が企業の生死を分けるフェーズに入りつつある。

ゴルフスイーツの業態転換タイムライン。2020年屋外レンジ展開、2025年11月室内シミュへの全面転換とAllPlayVentures設立、2026年6月ラボック売却で屋外撤退完了
屋外レンジから室内シミュレーターFCへ。固定資産を手放してまで業態を切り替えた「転換スピード」が、この事例の核心だ。

ピボット(事業転換)の経緯 ── なぜ屋外を捨てたのか

ゴルフスイーツは2020年からテキサス州を中心に、屋外ドライビングレンジを核としたゴルフ娯楽施設を展開してきた。飲食・バーを組み合わせた「トップゴルフ(Topgolf)ライク」な業態だったが、トップゴルフ本体やドライブシャック(Drive Shack)などの競合乱立と運営コスト上昇に直面していた。

2025年11月、同社は戦略転換を正式発表した。室内シミュレーターラウンジを中核に据え、全国フランチャイズ展開のための新会社「オールプレイ・ベンチャーズ(AllPlayVentures LLC)」を設立する、という内容だ。同社は「室内モデルは建設コスト・期間も運営コストも低く、天候に左右されず年間365日稼働できる」という優位性を強調した。2026年6月のラボック売却で、「屋外事業から完全撤退し室内に集中する」プロセスが完了した。

GolfSuitesの店舗外観。黒とレッドを基調としたブランドファサードにロゴと店名が掲げられている
ゴルフスイーツの店舗外観(画像:GolfSuites公式サイトより)。屋外レンジ撤退後、この室内型ファサードが同社の標準店舗になる。

オールプレイ・ベンチャーズとは ── フランチャイズ設計の要点

オールプレイ・ベンチャーズは、全国FC展開のための子会社で、FDD(フランチャイズ開示書類=加盟希望者に開示する米国の法定文書)の準備を進めている。具体的なFC条件は未公表だが、「低コスト投資・天候に強い・年間稼働」という3要素が売り文句になるとみられる。

室内シミュレーターラウンジのFC化は近年急速に広がっている。バックナイン・ゴルフ(Back Nine Golf)は2023年の10拠点から、開発中を含め400拠点超(42州)へ急拡大したと報じられる。韓国のゴルフゾン(GOLFZON)系も米国市場に参入しており、オールプレイ・ベンチャーズが挑むのは競争が激化した市場でもある。差別化の鍵は、シミュレーター単体の品質ではなく、バー・フード・社交環境を含めたトータルの顧客体験と、加盟者へのオペレーション支援体制にある。

GolfSuitesの室内シミュレーターラウンジ。ゴルフシミュレーター画面とパターマット、ソファ席を備えた高級感のある内装
室内シミュレーターラウンジの内装イメージ(画像:GolfSuites公式サイトより)。バー・フードを含めた「社交空間」としての作り込みが、FCモデルの差別化点になる。

室内シミュレーターFC市場そのものの寡占構造・プレイヤー勢力図は、次の記事でも詳しく分析している。

室内ゴルフFCの寡占構造

米国でインドアゴルフが急速に店舗化している。中心にいるのがBack Nine、24時間無人で運営する米国のインドアゴルフ・フランチャイズである。同社は2023年の10拠点から、2026年には開業済み100超・開発中を含め400拠点超へ拡大[…]

屋外 vs 室内 ── 業態淘汰の構図

クラフトパット(ミニゴルフ+タップルーム)のチャプターイレブン申請は、「屋外×エンタメゴルフ」が厳しい局面を迎えていることを示す。両業態の損益構造の違いを整理すると、室内型の優位がはっきりする。

観点屋外レンジ型室内シミュレーター型
設備・維持コスト広い用地・設備で高い面積効率がよく相対的に低い
天候リスク雨天・厳寒・猛暑が直接減収に天候に左右されず年間稼働
客層既存ゴルファー中心女性・ファミリーなど新規層も呼びやすい
課題ブランド力・規模がないと集客難シミュレーターの精度・体験の魅力次第
屋外レンジ型と室内シミュレーター型を稼働率・天候耐性・初期投資・新規客層・体験品質で比較した概念レーダーチャート
稼働率・天候耐性・初期投資の軽さで室内型が優位。一方、体験の魅力はシミュレーター技術次第という弱点も残る(定性評価のイメージ)。

同時期に破産法の保護を申請したクラフトパットの事例は、「屋外型のまま持ちこたえようとした」対照的なケースとして参考になる。

同時期の対照的破綻

米国のゴルフ・エンタメ市場で、小さな破綻が一つの予兆を示した。ミニゴルフとクラフトビールを掛け合わせた米チェーンのCraft Putt(クラフトパット、カンザス州レネクサ拠点の体験型店舗)が、連邦倒産法チャプター11(事業を続けながら債務[…]

日本市場への応用 ── ゴルフバー・シミュ複合型FCの可能性

日本でも室内シミュレーターのゴルフバーは増えているが、フランチャイズ化が進んだ業態はまだ少ない。都市型・駅近・飲食連携のシミュレーターラウンジは、天候リスクがなく、女性や社会人ゴルファーへのリーチも広い。オールプレイ・ベンチャーズの展開が成功すれば、そのFCモデルは日本の起業家や既存ゴルフ施設にとっても参考になりうる。

韓国発のスクリーンゴルフ企業が米国市場へ進出する動きは、室内シミュレーター市場のグローバルな競争が激化していることを示す一例でもある。

韓国勢の米国侵攻

スクリーンゴルフと聞いて、日本の読者の多くは国内メーカーの設備を思い浮かべる。だが市場の主導権争いは、すでに国境を越えて動いている。約16億ドル規模に育った韓国のスクリーンゴルフ産業が、頭打ちの国内市場から米国へ構造的にシフトしている。 […]

まとめ ── 「失敗したモデルを捨てる速度」が生存条件

ゴルフスイーツの最大の示唆は、「うまくいかないと判断したら素早く転換する」経営スピードかもしれない。それなりの固定資産を手放してまで室内FCに転換した判断は、クラフトパットのように「持ちこたえようとして破綻する」シナリオを回避する選択でもある。変化の速い娯楽産業では、撤退スピードと転換スピードそのものが生存条件になりつつある。


よくある質問(FAQ)

Q. オールプレイ・ベンチャーズのフランチャイズはいつから始まりますか?
A. 2026年6月時点ではFDD(フランチャイズ開示書類)の準備中で、正式な加盟受付の開始時期は未公表です。FDD完成・届け出後に募集が始まる見込みです。

Q. ゴルフスイーツは日本にも展開していますか?
A. 2026年6月時点では米国(テキサスが本拠)のみの展開で、日本への進出計画は公表されていません。

Q. クラフトパットのチャプターイレブンはゴルフスイーツとどう違いますか?
A. クラフトパットは屋外型業態のまま財務的に追い詰められましたが、ゴルフスイーツは破綻前に室内型へ自発的に転換した点が異なります。問題が深刻化する前に手を打てたかどうかが分かれ目でした。


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