組織行動とリーダーシップ Day4|ユニリーバのUSLP戦略──トップの変革と「目標は可変、哲学は普遍」

組織行動とリーダーシップ Day4|ユニリーバのUSLP戦略──トップの変革と「目標は可変、哲学は普遍」

本記事は「MBAで学んだ組織行動とリーダーシップ」シリーズのDay4です。

この記事でわかること

  • ユニリーバのポール・ポールマンが、2010年にUSLP戦略を打ち出した背景(KSFの変化と7Sのずれ)
  • コッターの変革の8段階とパス・ゴール理論で見る、指示型から支援型への切り替え
  • 2015年の目標未達に対する3つの選択肢と、「ピボットとリフォーカス」という答え
  • サステナビリティ目標を報酬に組み込むことへのCEOの考え方と、Day3の事前課題で私が書いた答えとの違い

権限を持つトップは、変革をどこから始めたか

Day3のキリンビールは、専任2名・限られた予算というミドルの立場からの組織文化改革でした。Day4は反対側、トップマネジメントによる組織変革を扱います。ケースはユニリーバの「USLP(ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン)」戦略です。

ロンドンにあるユニリーバ本社ビル、ユニリーバ・ハウスの外観を見上げた写真
写真:ユニリーバ・ハウス(ロンドン)。撮影 Paul the Archivist/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

2009年1月、ポール・ポールマンがユニリーバのCEOに就任しました。初の社外出身CEOで、52歳のオランダ人。P&Gに27年間勤め、その後ネスレのCFOを務めた人物です。リーマンショックの直後で、ユニリーバの株価は前年に35%下落していました。

ポールマンはアナリストとの初会合で、業績予想と四半期決算の発表をやめると表明しました。その後、事業を2倍にしながら環境負荷を半減させるという目標を掲げます。

講義で投げかけられた問いは2つでした。権限を持つトップは、何から手をつけ、どの順に変革を進めたのか。そして、立てた目標に届かないことが分かったとき、経営者はどう判断するのか。


環境の変化、7Sのずれ、変革の8段階

KSFが先進国型から途上国型に変わった

2010年当時のユニリーバは、世界で1日20億人が製品を使い、従業員16.5万人、サプライチェーンに500万人が関わる会社でした。理念は “doing well by doing good”(正しいことをして成功する)です。

外部環境には、世界的な金融危機、経済のグローバル化、新興国の伸び、地球温暖化、途上国での人口増加がありました。競合のP&Gも激しく追い上げていました。

講義で重視したのは、成功のカギ(KSF)の変化です。

市場成功のカギ(KSF)
先進国ブランド力・マーケティング、最先端機能の開発力
途上国市場を啓蒙する力、途上国に合った製品開発力、チャネルの開拓力

ユニリーバの地域別売上では、途上国がすでに半分以上を占めていました。成長するなら途上国です。ところが社内は「内向きで保身的な社風」「高い地域独立志向」「遅い意思決定」のままで、先進国ごとにマーケティング力で業績を競う組織でした。戦うKSFが変わったのに、組織が追いついていなかったわけです。

USLP戦略は単なるCSRではなかった

2010年11月に公表されたUSLPは、2020年に向けて3つの目標を掲げました。

  1. 10億人の健やかな暮らしを支援する
  2. ユニリーバ製品の製造・使用から生じる環境負荷を半減させる
  3. バリューチェーン内の人々の暮らしを向上させる

講義では、USLPには先進国でのブランド向上、途上国ビジネスの開発、コスト削減、持続可能な供給源の確保、従業員のモチベーション向上といった合理性があると整理しました。特に、政府やNGOと組んで社会課題を解く取り組みが、そのまま途上国の市場開拓になる点です。社会貢献の看板ではなく、ターゲット市場を途上国へ移すための戦略でした。

7Sをハードからソフトまで合わせ直す

ポールマン以前と以降の7Sは、次のように変わりました。

7Sの要素ポールマン以前ポールマン以降
Strategy現地市場対応・多角化コンパス・ビジョン、USLP戦略
Structure独立した海外事業会社(OpCos)、カテゴリ調整担当CSR部門を廃止し、CMO傘下にサステナビリティ推進組織
System財務目標を重視した評価7つのコミットメント、50以上の具体的目標
Shared Value“doing well by doing good”理念の再確認と深化
Skills競争的なマーケティング力マーケティング+サステナビリティを啓蒙する力
Staff多数のマーケター経営陣を刷新し、事業経験とコミュニケーションに優れた人材を抜擢
Style内向きで保身的、変革には様子見トップダウンで始動し、徐々に幹部に任せる

講義の整理は「環境変化に合わせて戦略を変え、ハードからソフトへと整合させた」というものでした。

8段階の途中でリーダーの行動を切り替えた

この変革をコッターの8段階に当てはめると、前半と後半でポールマンの関わり方が違います。

コッターの変革の8段階にユニリーバの施策を当てはめた図。1から4段階(四半期決算発表の中止、上位100人の3分の1の異動、コンパス・ビジョンとUSLP戦略、国連・ダボス会議での講演)はポールマン主導の指示型、5から7段階(ウィードの昇格と権限拡大、サステナブル調達48%、CB4L)は幹部に任せる支援型。8段階目の変革を根づかせるは継続中の課題
図1:コッターの8段階とポールマンのリーダーシップの切り替え

ここで使ったのがパス・ゴール理論です。リーダーの行動を指示型・支援型・参加型・達成指向型の4つに分け、どれが機能するかは「部下の適合要因(自立性・経験・能力)」と「環境要因(市場競争・経営体制や文化・タスク構造や権限)」で決まると考えます。

変革の序盤、相手は途上国ビジネスへの理解が少ない経営幹部でした。ポールマンは幹部を更迭し、矢継ぎ早に施策を打ち、自らビジョンを社内外に語っています。これは指示型です。中盤以降、相手は戦略を理解した専門性の高い経営陣に替わりました。各部門が取り組みを主導し、要職に就いた幹部が戦略の定着を図る支援型に移っています。


目標が届かないとき、IT現場の判断に当てはめる

2015年の3つの選択肢

最初の4年間で、成果は出ていました。「サステナブル・リビング・ブランド」は成長の半分を占め、他の事業の2倍の速度で伸びた。5年連続で増収増益、コア営業利益率は14.1%から14.5%へ。従業員エンゲージメントスコアは2009年の63%から75%に上がりました。USLPの67の指標のうち12が達成済み、48が計画どおりで、未達は7つです。

一方で、GHGや水の消費量といった難しい目標は大幅に下回っていました。増収率も2012年の6.9%から2014年は2.9%に落ちています。ケースはここで3つの選択肢を示します。

2015年の状況(取り組みやすい目標はクリア、GHG・水は大幅未達、増収率は2.9%)から、A取り組みを2倍に強化、B縮小して財務規律を示す、C社外パートナーに集中、の3案に分かれる図。Aの報酬への組み込みはとらない、Bは採らない、Cの外部連携を取り入れ、ピボットとリフォーカスに至る
図2:2015年の3つの選択肢とポールマンの選択

ポールマンの答えは「USLPはビジネスを行う上での哲学(普遍的)だが、目標は可変である」でした。長期の視点を持つ株主に応えるためB案は採らない。A案のうち、USLPの達成度を評価報酬制度に組み込む考えはとらない。そのうえで外部パートナーとの連携を一層取り入れ、広い社会・環境目標に到達する。講義ではこれを「ピボットとリフォーカス」と呼びました。

ITサービスの運用チームに当てはめると

ITサービスの運用チームを率い、顧客企業とのあいだに立つマネージャーの場面に当てはめると、Day4の枠組みは次の3つの問いになります。

ケースで起きたことIT現場の場面確かめる問い
KSFが先進国型から途上国型へ変わった顧客が求めるものが、安定運用から改善提案や自動化へ移る今のチームの7Sのうち、どこが古いKSFのまま残っているか
序盤は指示型、戦略を理解した経営陣には支援型新しい契約の立ち上げ期と、運用が安定した後相手の経験と能力、タスク構造の明確さから見て、今どのスタイルが機能するか
届かない目標を前にB案を採らず、手段を変えた年度の改善目標が自チームだけでは達成できないと分かる目標の背後にある目的は何か。それを保ったまま、手段や組む相手を変えられるか

3つ目は、ポールマンが「自分たちだけではやれない」と認め、社外と組んだ判断に対応します。目標を下げるか、無理に積み増すかの二択にしないことが、この場面に当てはめたときの要点です。


Day3の事前課題で書いた答えとの違い

Day4はレポート提出の回でしたが、私の提出レポートは手元に残っていません。ここでは、残っている2つの提出物とDay4の内容を突き合わせます。

評価に結びつけるか、文化で育てるか

Day3の事前課題で「あなたがV10推進プロジェクトのリーダーなら、2007年9月以降どう行動するか」と問われ、私は5つの行動を挙げました。そのうちの1つがこれです。

V10推進プロジェクトの取り組みを、社員の評価に直接結びつけることで、プロジェクトへの参加と貢献を促す。

リーダー層の評価に、部下のプロジェクト参加度や成果を含めるとも書いています。

評価・報酬に組み込む側に、Day3事前課題の著者の回答とユニリーバ社内のA案支持者を、組み込まない側にポールマンの考えとキリンビールの判断を並べた比較図
図3:変革への貢献を評価や報酬に組み込むか

Day3の講義で、キリンはV10への貢献を人事考課に直接組み込まなかったと知りました。続くDay4のユニリーバでも、CEOは報酬への組み込みに否定的な考えを語っていました。

実は、ユニリーバ社内にも私と同じ考えの人たちがいました。A案を支持する人々は、マネジャーの評価と報酬にUSLP目標への有効性を測る新しい指標を入れるべきだと考えていました。一部のマネジャーには、財務目標に加えてサステナビリティ目標の説明責任を負わせる実験も行われています。

ポールマンはケースのインタビューで、これに否定的な考えを語っています。「モチベーションは目的や関与から生まれる。正しいことをしたからといって報酬を与える必要はない」。ユニリーバの社員はUSLPというビジョンそのものに働く意味を感じている。その価値観は報酬制度ではなく組織文化の中で育つ、という考えです。講義では、これを2015年のポールマンの選択として整理しました。

なお、ユニリーバはその後、2017年から幹部の長期インセンティブの指標の1つ(25%)にサステナビリティの進捗を入れています(2017年の報酬通知)。報酬を変革の入口に使わず、ビジョンが浸透したあとで仕組みに反映した、という順序で見ると、ケースの判断と矛盾しません。

振り返り課題に残った「信念」

Day6の振り返り課題では、学びの整理の最初に「信念」を挙げ、ユニリーバに触れていました。

ユニリーバのポール・ポールマンはUSLP戦略を通じて、持続可能性を重視したビジネスモデルを推進した。これらの例から、リーダーの強い信念が組織の方向性を定め、成果を生み出すことがわかった。

同じ課題の「実務における気付き」には、次の2点も書いています。7Sモデルなどを知る前は、組織変革を断片的に、直感に頼って進めていたこと。組織の成熟度を把握することで、適切な戦略とリーダーシップスタイルを選べるようになったこと。後者は、パス・ゴール理論の環境要因(経営体制・文化)を見て行動を選ぶという考え方で、変革の段階に応じて指示型と支援型を切り替えたポールマンの判断と同じ構造です。

Day3の事前課題では評価を参加の主な手段に置き、Day6の振り返り課題では評価制度に触れずに信念とコミュニケーションを挙げていました。その間にDay4がありました。


経済価値と社会価値を「AND」で考える

サステナビリティに取り組む理由の5段階

講義では、企業がサステナビリティに取り組む理由を5段階で整理しました。

左にサステナビリティに取り組む理由の5段階(無関心、儲かるから、責任があるから、未来の人たちに申し訳ないから、社会課題解決が企業の存在価値だから)を階段状に並べ、最上段にポールマンを置いた図。右にORの抑圧とANDの才能の4つの対(長期と短期、理想と現実、社会的価値と財務的価値、一貫性と柔軟性)を並べ、一貫性と柔軟性に哲学は普遍・目標は可変を対応させている
図4:サステナビリティへの5つのスタンスと「ANDの才能」
  1. 無関心(法律に従えばよい)
  2. それをやると儲かるから(競争優位)
  3. 企業には責任があるから(義務・責任)
  4. 未来の人たちに申し訳ないから(ポジティブインパクト)
  5. 社会課題解決が企業の存在価値だから

ポールマンの立場は5段階目です。「企業は株主ではなく消費者のために存在する」という発言も、この立場から出ています。

サステナビリティ経営は「長期的な時間軸での意思決定に基づき、経済価値と社会価値の両立を目指す一貫した経営の取り組み」と定義されます。評価の軸はPeople・Planet・Prosperityのトリプルボトムラインで、考え方はCSR(企業の社会的責任)からCSV(事業を通じた社会課題の解決)へ移ってきました。

「ORの抑圧」をはねのける

コリンズとポラスは『ビジョナリーカンパニー』で、長期か短期か、理想か現実か、社会的価値か財務的価値かを二者択一で考えることを「ORの抑圧」と呼びました。両方を同時に追う「ANDの才能」を活かすのが優れた経営だ、という主張です。

講義のスライドには、この対の中に「一貫性⇔柔軟性」も入っていました。2015年のポールマンの判断は、まさにこの対をANDで解いたものだと考えています。哲学(USLP)は一貫させ、目標と手段は柔軟に変える。B案のように哲学ごと引くのでも、A案のように目標に固執して報酬で押し切るのでもない、第三の道です。

ポールマンは「10個決断して2個間違えたら、後で修正するほうが、何も決めないよりよい」とも語っています。目標を変えることを失敗とみなさず、修正の一部として扱う姿勢が、この言葉にも表れています。


まとめ

  • ユニリーバでは、KSFが先進国型から途上国型に変わったのに、組織は内向きで保身的なままだった。USLPは途上国へ市場を移すための戦略で、単なるCSRではなかった
  • ポールマンは7Sをハードからソフトまで合わせ直し、コッターの8段階の前半は指示型、後半は支援型で進めた。相手の経験と能力でスタイルを選ぶのがパス・ゴール理論の考え方
  • 2015年の目標未達には「哲学は普遍、目標は可変」と答え、外部パートナーとの連携へ手段を切り替えた
  • USLPの達成度を報酬に組み込むことには否定的だった(2017年以降は長期インセンティブの指標の1つに入っている)。Day3の事前課題で「評価に直接結びつける」と書いた私の答えとは逆の判断だった
  • 経済価値と社会価値、一貫性と柔軟性を二者択一にせず「AND」で考えることが、トップの変革を支えていた

よくある質問(FAQ)

Q1. USLP戦略とは何ですか?
ユニリーバが2010年11月に公表した戦略です。環境負荷を減らし社会に貢献しながら事業を2倍にすることを掲げ、2020年に向けて「10億人の健やかな暮らしの支援」「製品の製造・使用から生じる環境負荷の半減」「バリューチェーン内の人々の暮らしの向上」の3つを目標にしました。

Q2. パス・ゴール理論では、リーダーのスタイルをどう選びますか?
指示型・支援型・参加型・達成指向型の4つから、部下の自立性・経験・能力と、市場競争・経営体制や文化・タスク構造などの環境要因に合わせて選びます。ユニリーバでは、途上国ビジネスへの理解が少ない幹部には指示型、戦略を理解した専門性の高い経営陣には支援型が使われました。

Q3. 「ピボットとリフォーカス」とは何ですか?
2015年にポールマンが取った判断を、講義でこう呼びました。USLPは事業の哲学として変えず、届かない目標については手段を変える。具体的には、取り組みの縮小を選ばず、外部パートナーとの連携を一層取り入れて広い社会・環境目標を目指しました。

Q4. なぜポールマンはサステナビリティ目標を報酬に組み込むことに否定的だったのですか?
ポールマンは、モチベーションは目的や関与から生まれ、正しいことをしたからといって報酬を与える必要はないと考えていました。社員はUSLPのビジョンそのものに働く意味を感じており、その価値観は報酬制度ではなく組織文化の中で育つ、という理由です。


参考書籍


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