60コース超が建設中のインドゴルフ市場 ── 南アジアのフロンティアが動き始めた

ゴルフの「次なるフロンティア市場(先進市場の外側にあり、これから成長余地が大きい新興市場のこと)」がどこかと問われたとき、長年の答えはタイ・ベトナム・中国だった。しかしここ数年、南アジアから新たな答えが浮上しつつある。インド(India)だ。米国の調査機関ナショナル・ゴルフ・ファウンデーション(National Golf Foundation/以下NGF)の2024年中間更新によれば、インドでは15コースが建設・計画段階にあり、これは米国外で開発が進む国としてベトナム(50超)に次ぐ規模のグループに入る。これに加え、現地のゴルフ開発企業や報道ベースでは「将来的に60コース超が計画・構想されている」とも語られる。約10億ドル(約1,550億円。1ドル=155円換算、以下同じ)とされる広義のゴルフ市場が、政府のスポーツ観光振興策を追い風に動き始めた。タイ・ベトナムに遅れて参入した南アジアの新興ゴルフ市場が、独自のポテンシャルを持って離陸しようとしている局面を詳しく見ていこう。

米国外で開発中(建設中+計画中)のゴルフコース数の国別比較。ベトナム50超、英国25超、インド・メキシコ・韓国・スペインが各15コースの横棒グラフ
インドは15コースが開発段階にあり、ベトナムに次ぐ「次のフロンティア」候補群に位置する(NGF・2024年)。

インドゴルフ市場の現状 ── 規模と成長の方程式

まず市場規模を押さえておこう。ゴルフ用品(クラブ・ボール・ウェアなど)に限った市場は、調査会社アイマーク(IMARC Group)の推計で2025年に約2億7,900万ドル(約432億円)、2034年に約3億9,500万ドル(約613億円)へと、年率(CAGR=年平均成長率)約3.8〜4%で伸びる見込みだ。コース運営・レッスン・観光まで含めた広義のゴルフ市場では約10億ドル(約1,550億円)規模とされる(報道・推計ベース)。

参加者数について確認できる公式データは限定的だが、都市部を中心に企業接待でゴルフをする層・富裕層・観光ゴルファーが増加しているとされる。インドの中間・上位所得層は2030年にかけて急拡大する見込みであり、「ゴルフを始める人口のベースが膨らむ」という人口動態的な追い風がある。

既存のコース数を見ると、インドには現在およそ300コースが存在する(業界メディア報道ベース)。人口14億人に対してこの数は極めて少なく、供給制約がそのまま成長余地でもある。下の図は、アジア主要国の運営中コース数とインドの開発中コース数を並べたものだ。タイ(Thailand)とほぼ同水準の既存数に見えるが、人口あたりで見ればインドのコース密度は桁違いに低い。

アジア主要国のゴルフコース数比較。タイ約300、インド既存約300、ベトナム約86、インド開発中15の棒グラフ
人口14億の市場に既存は約300コース。タイと並ぶ数だが人口比では極端に少なく、供給余地が大きい(運営中は概数)。

開発を加速する3つのドライバー

①政府のスポーツ観光政策: インド政府は2023年にスポーツ観光(スポーツ・ツーリズム)の振興を掲げた政策を打ち出し、観光省(Ministry of Tourism)がゴルフ観光を重点分野の一つに位置づけた。経済効果の試算として約20億ドル(約3,100億円)の押し上げや、年間150万人規模のゴルフ観光客誘致といった目標が報道・業界資料で語られている(いずれも構想・推計ベース)。国際大会の誘致やインバウンドゴルファーの取り込みが狙いだ。

②民間不動産との連携: インドのゴルフコース開発は、多くの場合、高級住宅・リゾートホテルとセットになった複合プロジェクトだ。首都ニューデリー(New Delhi)近郊、西海岸の観光州ゴア(Goa)、南部のハイデラバード(Hyderabad)やベンガルール(Bengaluru、旧称バンガロール)の郊外では、コースを核にした大型複合リゾートが相次いでいる。コース単独の収益で採算を取るより、不動産価値を高めるツールとして位置づけることで投資回収の目算が立ちやすい。

③ブランドと設計力の導入: インドのゴルフ開発企業アイヴォット(Aivot Golf & Sports Management)は、米国のPGAオブ・アメリカ(PGA of America)や英国の設計事務所ロブ・アンド・パートナーズ(Lobb + Partners)と組み、ムンバイ(Mumbai)・ゴア・ハイデラバードなどでPGAブランドのコース・アカデミーを展開する計画を進めている。幹線道路・空港アクセス・ホテルといった観光インフラの整備も、スリランカ・モルディブとの競争を意識しながら進む。

ベトナム・タイとの比較 ── 何が似ていて何が違うか

ベトナム(Vietnam)は現在およそ86コースを運営し、NGFによれば米国外で最も多い50超のコースが開発段階にある。国家戦略として2030年に200コース体制を目指しており、年間ゴルフ観光収益は10億ドル超に達しているとされる(別記事「ベトナムゴルフ戦略2030」参照)。タイは首都バンコク(Bangkok)と海辺のリゾート地ホアヒン(Hua Hin)を中心に約300コースを持ち、東南アジア最大のゴルフ観光地として確立されている。

ベトナムゴルフ聖地化の裏側

この記事でわかること ベトナムが「アジア最優秀ゴルフデスティネーション」を9年連続受賞(2017〜2025年)した背景と意味 コース数約100→2030年200コース目標という開発計画の全体像 タイガー・ウッズ設計コースやトランプ・[…]

インドとこれらとの最大の違いは「国内市場の厚み」だ。タイ・ベトナムは主に外国人ゴルファーのインバウンド消費に依存しているのに対し、インドは14億人という巨大な国内市場ポテンシャルを持つ。内需を核にした成長モデルが成立しうる点で、2000年代の中国のゴルフ開発期に似た構図だといえる。

下表に、アジア主要国とインドのゴルフ市場指標を整理した。日本のゴルファー・業界にとっての要点は、「インドは既存数こそタイ並みだが、人口比のコース密度が極端に低く、内需主導で伸びる余地が最も大きい市場」だという点だ。

運営中コース(概数)開発中コース1コースあたり人口の目安主な成長エンジン
タイ約300──約23万人外国人インバウンド観光
ベトナム約8650超約114万人インバウンド観光+国家戦略
インド約30015(NGF)/60超は構想・報道ベース約467万人巨大な国内需要(内需主導)

※人口あたりは各国総人口を運営中コース数で割った概算。インドは1コースが背負う人口が突出して多く、それだけ供給が追いついていないことを示す。

ただし課題もある。土地規制の複雑さ、水資源へのアクセス(ゴルフコースは大量の水を要する)、既存ゴルフクラブの閉鎖的な会員文化(外国人・一般市民が利用しにくい)などが、開放的な市場形成の障壁となっている。

日本のゴルフ関係者にとっての意味

日本とインドの間にはゴルフ産業でのビジネス接点はまだ少ないが、以下の文脈が考えられる。

第一に、日系ゴルフ用品メーカー(ミズノ・本間・ヤマハ等)にとってインドは潜在的な輸出市場だ。現状はタイトリスト(Titleist)やキャロウェイ(Callaway)が市場シェアの大半を握るが、新規開業コースへの用品納入という商流が拡大する余地がある。

第二に、コース設計・管理技術の輸出機会がある。日本では閉鎖コースが相次ぐ一方で、インドでは新設コース需要が旺盛だ。グリーンキーパー(コースの芝・グリーンを管理する専門職)人材、芝管理技術、コース設計ノウハウの輸出は、過去にタイで実績を持つ日本企業にとって、次の市場としてインドが浮上する可能性を示す。

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まとめ ── 「遅いが大きい」フロンティアの特性

インドのゴルフ市場は、コース数の伸びそのものはベトナム・タイより穏やかだ。NGFが捕捉する建設・計画段階のコースは15で、首位ベトナムの50超とは差がある。しかし、国内市場の潜在規模は桁違いに大きい。現地企業が語る「60コース超の構想」という数字は、検証可能な建設実績というより、供給側が「これから需要が来る」と確信していることの現れだと読むのが妥当だろう。この市場が本格的に離陸したとき、アジアのゴルフ産業の重心は、また一段と南アジア方向へシフトするかもしれない。

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よくある質問(FAQ)

Q. インドでゴルフをするにはどうすればよいですか?
A. ニューデリー・ムンバイ・ベンガルール・ゴアなどの主要都市では、外国人でもプレー可能なコースが増えています。一般開放のリゾートコースや、日系・外資ホテルに付属したコースからアクセスするのが現実的です。ビジターフィー(会員以外が支払うプレー料金)やグリーンフィー(コース使用料)は高めで、1ラウンドあたり1〜3万円程度が目安とされます。

Q. インドのゴルフコースは環境負荷が高くないですか?
A. 水資源問題は確かに課題です。開発計画の中には雨水再利用・再生水使用・乾燥に強い芝の導入を盛り込んでいるプロジェクトもありますが、全体として環境基準の整備は途上です。

Q. 日本からインドへのゴルフ観光は現実的ですか?
A. ゴアなどの観光地では英語が通じ、ゴルフパッケージも提供されています。フライト時間は9〜11時間程度で、ゴルフ目的での訪問は実現可能です。ただしインフラ整備はまだ発展途上で、タイ・ベトナムよりも準備が必要な市場だといえます。


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