
欧州のゴルフ場で、池や小川に沈んだロストボール(プレー中に紛失し、コース内の水域に沈んだままのゴルフボール)を専業ダイバーが回収し、再販・リサイクルする事業が広がっている。舞台はスペインやドイツを中心とする欧州各国のゴルフ場で、コース管理者と契約した企業がスキューバダイビングで池の底をさらう。背景には環境負荷の問題がある。
ゴルフボールは分解に100年から1000年かかるとされ、亜鉛酸化物など水生生物に有害な成分を含む。世界で毎年紛失するボールは数億個規模との推計もあり、放置すれば長期にわたって水域に残り続ける。
IT・経営に関心のある読者にとって、この業界は誰も注目しない池の底に資源価値を見出し、回収・選別・再販という循環の仕組みに仕立てた事例として読める。欧州で実際にどんな企業が、どれだけの規模でこの市場を動かしているのかを見ていく。
欧州のロストボール回収ビジネスはどんな仕組みで成り立つのか
ロストボール回収ビジネスとは、ゴルフ場の池や川からダイバーが紛失球を引き揚げ、洗浄・選別した上で再販またはリサイクルする事業を指す。
回収の流れは大きく4段階に分かれる。まず契約したダイバーが定期的に池に潜り、沈んだボールを引き揚げる。次に作業場でボールを状態ごとに選別し、汚れを落とす。
プレーに使える状態のものは中古球として販売し、傷みが激しいものは殻と芯を分離してリサイクル原料に回す。契約はゴルフ場側と回収企業側の双方に利点がある。ゴルフ場は池の清掃や水質管理の手間を外部に任せられ、回収個数に応じた対価や割引球を受け取れる。
回収企業は特定コースの独占的な回収権を長期契約で確保し、原材料をほぼ無償で仕入れられる。この仕組みが、他の廃棄物リサイクル事業と比べて利益率を確保しやすい要因になっている[2][3]。
スペインを拠点とするReplay Golf(レプレイゴルフ、本社はソリア県オルベガ)は、自らを欧州最大のダイビング回収企業と位置づける[2]。中古のまま販売する再生球と、殻を溶かして新品同様に作り直す再製球の両方を扱い、回収から製造までを自社工場で一貫して手がける[2]。ドイツ・ミュンヘンを拠点とするLakenuggets(レイクナゲッツ)は、より地域密着型の事業者だ[3]。

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Replay Golfはどれほどの規模でロストボールを扱っているのか
Replay Golfの回収規模を知ることで、欧州のロストボール市場がどこまで産業化しているかが見えてくる。
同社は米国、オーストラリア、英国、ドイツ、フランス、イタリア、スペインの主要ゴルフ市場からボールを回収している[2]。世界全体では毎年4億2000万個超のゴルフボールが紛失しており、これはプラスチック廃棄物換算で1万9000トンに相当するとReplay Golf自身が説明する[2]。
同社は欧州で新品と再生球の両方を製造する工場を持つ数少ない企業の一つでもある[2]。過去には年間1200万個の再生球取り扱いを目標に掲げていた時期もあり、回収から製造までを垂直統合する体制を段階的に拡大してきた経緯がうかがえる[2]。回収したボールをその場で売るのではなく、自社工場で再製球にまで仕上げる点が、単なる中古転売との違いになる。
同社が扱う球は大きく2種類に分かれる。外観の傷みが少ない球はそのまま再生球として売り、殻に深い傷が入った球は溶かして芯材や新品製造の原料に回す再製球に仕立てる[2]。
原料となるボール自体はダイバーが池から拾い上げるため仕入れ費がほとんどかからず、コストの大半は潜水・選別・製造の人件費と設備投資に集中する。この原価構造が、新品球の製造より利益を出しやすい理由になっている。
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ドイツのLakenuggetsは地域単位で何を実証しているのか
Lakenuggetsの事例は、大手ほどの規模がなくても、ゴルフ場と地域単位で回収の循環を回せることを示す。
創業者ルカ・ゾマー氏によると、2022年の1年間でミュンヘン近郊の約10コースから5万から6万個のボールを回収した[3]。回収したボールは状態に応じてA・B・Cの3等級に分け、プレーに使えないものは別のEU加盟国にある業者へ送り、殻と芯を再加工した再製球に仕立てる[3]。
契約先のゴルフ場には、無料の潜水回収を先に実施した上で、自社球を買い戻す際に1個あたり最大10セント(約17円。1ユーロ=165円換算)の割引を出す仕組みもある[3]。近隣のGolfpark Weiherhof(ゴルフパーク・ヴァイヤーホーフ)では2021年の潜水回収で2万5000個を回収し、回収した池球を再加工した練習場球と交換する物々交換型の運用を採る[3]。同施設の支配人ホルスト・ヴィントリッヒ氏は、これをコース内で完結する循環の一形態と位置づける[3]。
Lakenuggetsのような小規模事業者が大手に埋もれずに残れる理由は、コース単位の関係性にある。1コースあたりの回収量は数千個規模にとどまるが、その分だけ潜水頻度や割引条件を個別のゴルフ場事情に合わせて調整しやすい。広域展開する大手が入りにくい小規模コースや地方のゴルフ場を押さえる戦略が、地域密着型の事業者に一定の存在余地を残している。

北米発の最大手Mulligan Internationalと欧州勢の違いはどこにあるか
世界最大級の回収企業と比較すると、欧州各社がまだ成長途上にあることが分かる。
Mulligan International(マリガン・インターナショナル)は、カナダ・ケベック州ベルイユに本社を置く1992年創業の企業で、ロストボール回収の世界最大手を自任する[1]。100人超のダイバー網を抱え、契約するゴルフ場は500超、年間の回収個数は2700万個を超える[1]。
回収から店頭販売までを自社で垂直統合する点はReplay Golfと共通するが、拠点は北米にあり、カナダとの契約コース数がとりわけ多い[1]。同社は事業展開先としてカナダ・米国に加え欧州にも触れているが、欧州単独の回収コース数や回収個数は公表されていない[1]。
| 企業 | 拠点国 | 創業年 | 契約コース数 | 年間回収個数 |
|---|---|---|---|---|
| Mulligan International | カナダ | 1992年 | 500超 | 2700万個超 |
| Replay Golf | スペイン | 非公表 | 非公表(米・豪・英・独・仏・伊・西で回収) | 非公表(過去に年1200万個目標を公表) |
| Lakenuggets | ドイツ | 非公表 | 約10 | 5万〜6万個(2022年) |
回収個数の桁が示す通り、北米発の最大手と欧州の専業企業には、まだ大きな規模の差がある[1][3]。欧州側はReplay Golfのような広域展開組と、Lakenuggetsのような地域密着組の二層構造で市場を形成しつつある段階だ。
この業界に新規参入しにくい理由も見えてくる。潜水資格を持つダイバーの確保、選別・洗浄設備への投資、そして何より個別ゴルフ場との長期独占契約が参入障壁になる。Mulligan Internationalが100人超のダイバー網を築くまでに30年以上を要した点は、この種の事業が一朝一夕には拡大しないことを示している[1]。
IT・経営の視点で見ると、これは廃棄物に価値を見出す発想そのものより、コースごとの独占契約を積み重ねて参入障壁を築く継続収益型のビジネスモデルとして捉えられる。

まとめ
欧州のロストボール回収ビジネスは、誰も価値を見出してこなかった池の底に、回収・選別・再販という循環の仕組みを持ち込んだ事例だ。Replay Golfのような広域展開組と、Lakenuggetsのような地域密着組が並走し、北米発の最大手にはまだ規模で及ばないものの、独自の市場を形成しつつある。
ゴルフ業界に限らず、放置された資源に事業の型を当てはめる発想として、読者自身の業界に置き換えて考える価値がある。この市場が今後どこまで拡大するか、引き続き注視したい。
よくある質問(FAQ)
Q1. ロストボール回収ビジネスとはどんな事業か。
A. ゴルフ場の池や川に沈んだ紛失球をダイバーが回収し、洗浄・選別した上で中古球として再販するか、殻と芯を分離してリサイクル原料に回す事業を指す[1][2][3]。
Q2. 欧州で最大手の回収企業はどこか。
A. スペインを拠点とするReplay Golfが、自らを欧州最大のダイビング回収企業と位置づけている。回収から新品・再製球の製造までを自社工場で一貫して手がける[2]。
Q3. ゴルフボールはなぜ環境問題として扱われるのか。
A. ゴルフボールは分解に100年から1000年かかるとされ、亜鉛酸化物など水生生物に有害な成分を含む。世界で毎年紛失するボールは数億個規模とされ、回収されなければ長期間水域に残り続ける[4]。
出典
[1] Recovery golf balls, Mulligan International https://mulliganinternational.com/en/recovery-golf-balls/[2] Replay Golf: Golf Balls Recovery, Replay Golf https://replaygolf.com/en/blog-en/replay-golf-golf-balls-recovery/
[3] Lakenuggets – Wie Golfsport durch Lakeballs nachhaltiger wird, golf1.de https://golf1.de/lakenuggets-wie-golfsport-durch-lakeballs-nachhaltiger-wird
[4] Golf Balls as Pollution, Oregon Courses https://oregoncourses.com/articles/golf-balls-as-pollution/

