
ベトナム中部の都市フエ(2025年に中央直轄市へ格上げされた旧トゥアティエン・フエ省の中心都市)で、177.7ヘクタールの土地に27ホールと9ホール、計36ホールを造成するゴルフ場開発の事業者選定が決着した。落札したのはシンガポール登記のヴィナ・フエG(Vina Hue G Pte. Ltd)で、投資額は約3,400万ドル(約53億円。1ドル=155円換算)[1]。地元企業アニンベスト・プラザB1を退けての落札だ[1][2]。フエはグエン朝の王城を中心とするユネスコ世界遺産「フエ記念物群」を擁する古都として知られ、今回の案件も国際報道では「世界遺産の街」の開発として取り上げられている。日本のゴルファーが今すぐプレーできる話ではないが、ベトナムは近年、海外ゴルフ旅行先として認知が広がりつつある市場だ。IT・ビジネス読者にとっては、新興国のゴルフインフラに外資が単独参入する際、「世界遺産の街」という看板と実際の立地をどう見分けるかという投資判断の材料になる。落札の経緯と立地の実像、開発規模を数字で追う。
フエ36ホール開発、総投資額3,400万ドルの内訳は
事業者選定は2025年12月、地元企業アニンベスト・プラザB1(Aninvest Plaza B1)とシンガポール登記のヴィナ・フエGの2社が提案書を提出したところから始まった[1][2]。両社とも資金力・実績の予備審査を通過し、審査を経てヴィナ・フエGが落札した[2]。事業の総投資額は8,720億ドン超、約3,400万ドル(約53億円)で、内訳は建設費が約8,340億ドン、用地補償費が370億ドン超(約140万ドル、約2.2億円)だ[1]。
| ヴィナ・フエG(落札) | アニンベスト・プラザB1(落選) | |
|---|---|---|
| 登記地 | シンガポール | フエ市(地元) |
| 予備審査 | 資金力・実績とも通過 | 資金力・実績とも通過 |
事業期間は土地使用権の付与から50年で、関連手続きの完了から12カ月以内に着工し、48カ月以内に完成させる計画が示されている[1][2]。決定日は2026年6月下旬とみられ、報道間で1日ほど差があり正確な日付は確認できない[1][2]。

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開発地フォン・フー区は世界遺産フエ王城の近くなのか
同じフエ市内ではあるが、王城に隣接する立地ではない。ユネスコ世界遺産「フエ記念物群(Complex of Hué Monuments)」は1993年、ベトナム初の世界文化遺産として登録された。防御壁に囲まれた王城(皇城)と紫禁城、周辺の陵墓群からなる、グエン朝(1802-1945年)の計画都市だ[3]。ゴルフ場の開発地フォン・フー区は、フエ市の「沿岸開発軸」上、北部の海沿いに位置する行政区で、隣接するクアンチ省方面への幹線道路が通る地域と説明されている[4]。王城のある旧フエ市街地とは同じ「フエ市」の枠内にあるが、地理的には別の区だ。
OpenStreetMapのデータで測ると、王城を囲む城郭(京城、Kinh thành)の中心からフォン・フー区の中心までは北西へ直線で約30km、城壁から区の境界で最も近い地点までも約22kmある[10][11]。区内のどこに敷地があるかは、本稿で参照した報道では示されていない。これだけ離れた地域が同じ「フエ市」に入るのは、2025年1月にトゥアティエン・フエ省がまるごと中央直轄市フエへ格上げされ、市域が旧省全体(面積約4,947㎢、人口約124万人)に広がったためだ[5]。

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177.7ヘクタール・36ホールの開発規模はどれくらい大きいのか
開発面積177.7ヘクタールは、27ホールコース(132.7ha)と9ホールコース(45ha)の合計だ[1][2][6]。㎡換算で約177万7,000㎡、東京ドーム(46,755㎡)約38個分に相当する。投資額8,720億ドン超のうち建設費が約96%、用地補償費が約4%を占める[1]。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発面積 | 177.7ha(東京ドーム約38個分) |
| 内訳 | 27ホール132.7ha+9ホール45ha |
| 総投資額 | 8,720億ドン超(約3,400万ドル、約53億円) |
| うち建設費 | 約8,340億ドン |
| うち用地補償費 | 370億ドン超(約140万ドル) |
| 事業期間 | 土地使用権の付与から50年 |
| 着工 | 関連手続きの完了から12カ月以内 |
50年という期間は、ベトナムの長期リース型開発に近い枠組みだ[1]。着工前の段階のため、開場時期は本稿執筆時点で確認できない。
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なぜシンガポール系企業がベトナムのゴルフ場開発に参入するのか
ベトナム通信社(VNA)の英字ニュースサイトVietnamPlusは2025年8月、同国には国際基準のゴルフ場が80カ所を超え、ゴルフ観光の収入は2022年の6億ドルから2025年には10億ドルに増える見込みで、観光収入全体の8〜10%程度にあたると報じた。2030年までの国家観光戦略も、ゴルフ観光を競争力強化の重点分野に位置づけている[12]。ゴルフ場設計会社NWD Golfは、2030年までにゴルフ場を80カ所から200カ所へ増やす「国家目標」があると発表しているが、この数字は同社のプレスリリースによるもので、VietnamPlusの報道には出てこない[7][12]。この成長市場で、フエでは既にシンガポール拠点のバンヤン・ツリーが2013年からラグナ・ランコー・リゾートを展開しており、ヴィナ・フエGの参入は「フエにおけるシンガポール系資本の存在感拡大」の延長線上にあると報じられている[2]。世界遺産の街というフエの知名度と、国がゴルフ観光を重点分野に据える方針が重なり、外資の先行投資を呼び込んでいる構図と読める。
日本の史跡・世界遺産の近くにゴルフ場開発はできるのか
答えは部分的にイエスだ。日本には「世界遺産の近くにゴルフ場を作ってはならない」という単独規定はなく、複数の法律が重なって可否を決める。史跡など指定文化財の現状変更には、文化財保護法に基づき文化庁長官の許可が要る[8]。1990年版の環境白書によれば、国立・国定公園では1973年にゴルフ場を公園事業の対象施設から外し、翌1974年からは特別地域でゴルフコースの造成を目的とした土地の形状変更を許可しないこととした[13]。普通地域でのゴルフ場造成は自然公園法に基づく届出の対象で、環境庁は1990年、造成計画に対する指導指針の運用を都道府県に通知し、造成後の樹林地の保存や水質・水源の保全のため、事業者と協定を結ぶなどの措置を求めた[9]。都道府県の側でも、1990年時点で32都府県がゴルフ場造成の指導要綱などを設け、森林の確保率などを審査・指導していた[13]。
ベトナムのように市が入札で事業者を選ぶ枠組みとは異なり、日本は許可制の積み重ねで是非を判断する。ビジネス面では、外資単独の大型開発のハードルは許認可の数だけベトナムより高い。ゴルファー目線では、国内の史跡近郊コースは既存の許認可を経た既成事実であり、新規開発の余地は限られる。
| ベトナム(フエの事例) | 日本 | |
|---|---|---|
| 規制の骨格 | 中央直轄市による入札・事業者選定 | 文化財保護法+自然公園法+自治体要綱の重なり |
| 史跡等の現状変更 | — | 文化庁長官の許可が必要 |
| 国立公園特別地域での造成 | — | 1974年から許可しない |
| 外資単独での大型開発 | 実例あり(本件) | 本稿で確認できる同種事例は — |
凡例: 非公表=一般に公開されていない数値、—=本稿で確認していない項目。
まとめ
フエの36ホール開発は、世界遺産の街というブランドと、ゴルフ観光を重点分野に据える国の方針が重なる中で、シンガポール企業が落札した案件だった。開発地フォン・フー区は王城の城郭から北西へ直線で20km以上離れた海沿いの区で、「世界遺産の街」の開発ではあっても、遺産に隣接した開発ではない。ゴルファーには当面縁遠い開発だが、ベトナムが海外ゴルフ旅行先として存在感を増す流れの一部ではある。ビジネス読者には、報道が掲げる「世界遺産」と実際の立地の距離を、行政区域の変更まで含めて確かめる必要を示す実例として読める。
よくある質問(FAQ)
Q1. フエの世界遺産「フエ記念物群」とはどんな場所か。
A1. グエン朝(1802-1945年)の王城と紫禁城、周辺の陵墓群からなる計画都市遺構で、1993年にベトナム初の世界文化遺産として登録された[3]。
Q2. このゴルフ場はいつからプレーできるのか。
A2. 関連手続きの完了から12カ月以内に着工し、48カ月以内に完成させる計画が示されているのみで、開場時期は確認できない[1][2]。
Q3. なぜシンガポール企業がベトナムのゴルフ場開発で目立つのか。
A3. フエでは2013年に始まったラグナ・ランコー・リゾートの開発以来シンガポール系資本の存在感があり、今回の落札はその延長として報じられている[2]。
出典
- https://theinvestor.vn/singapore-investor-wins-34-mln-golf-course-project-in-central-vietnam-d19370.html
- https://nhadautu.vn/du-an-san-golf-gan-900-ty-dong-tai-hue-ve-tay-nha-dau-tu-singapore-d105780.html
- https://whc.unesco.org/en/list/678/
- http://vanhoanghethuat.vn/phuong-phong-phu-thanh-pho-hue-khi-the-moi-quyet-tam-moi.htm
- https://english.vov.vn/en/politics/domestic/hue-to-become-centrally-governed-city-as-of-january-1-2025-post1139016.vov
- https://asiagolfjourney.com/new-golf-course-project-in-hue-vietnam/
- https://natlawreview.com/press-releases/nwd-golf-targets-vietnams-1-billion-milestone-engineering-infrastructure
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunka_gyosei/shokan_horei/bunkazai/hogoho_kisoku.html
- https://www.env.go.jp/hourei/18/000102.html
- https://www.openstreetmap.org/relation/19325205
- https://www.openstreetmap.org/way/1509320731
- https://en.vietnamplus.vn/vietnam-targets-1-billion-usd-in-golf-tourism-revenue-post324916.vnp
- https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h02/7444.html


