
ワシントンD.C.(米国の首都)にある東ポトマック公園は、国立公園局(National Park Service、連邦の公園を管理する内務省の機関)が所管する36ホールの公営ゴルフ場を擁する。ここでトランプ政権が、18ホールのチャンピオンシップコースへの改修を、本来必須とされる審査を経ないまま進めていることが明らかになった。連邦下院議員47名は2026年7月30日、費用開示と審査手続きの遵守を求める書簡を内務長官へ送り、8月14日までの回答を求めている[1]。国立首都計画委員会(NCPC)と米国芸術委員会(CFA、いずれも首都ワシントンの公共空間の設計・景観を審査する連邦機関)は、計画案そのものを受け取っていないと明らかにした[2]。
この案件は、日本のゴルファーがコース選びや予約の判断に使う情報ではない。米国の首都にある一公園の土地利用を巡る統治手続きの争いであり、日本国内のコース運営や料金体系に波及するものではないためだ。一方でIT・経営分野の読者にとっては、必須の承認プロセスを飛ばして意思決定を強行した場合に何が表面化するかを示す事例として読める。本稿は、審査省略がどのように可視化され、誰が異議を申し立てているかを追う。
東ポトマック公園のゴルフ場改修で何が変わるのか
東ポトマック公園は、19世紀後半にポトマック川の浚渫土砂を積み上げて造成した人工の中州で、園内全体の敷地は約300エーカー(約121万平方メートル、東京ドーム=46,755平方メートル換算で約26個分)に及ぶ[2]。現在はブルー(18ホール)・ホワイト(9ホール)・レッド(9ホール)の3コース36ホール構成の公営ゴルフ場が置かれ、1919年開場、1923年には全米パブリックリンクス選手権を開催した実績を持つ。
トランプ政権は2026年5月、著名コース設計者トム・ファジオを起用し、3コースを統合して7,660ヤードの18ホール・チャンピオンシップコース1本へ再編する設計案を内務長官が公表した。トランプ氏は同年7月、視察後にSNSで9月1日着工の意向を示している[2][4]。政権側は地元向けの割引料金での本格コース提供を掲げるが、既存のパット練習場やジョギングコースへの影響、料金体系の変更幅は本稿執筆時点で公表されていない。

公共空間の設計と管理を「誰が意思決定に関わるべきか」という制度設計の視点から読み解く一冊。
なぜ国立首都計画委員会の審査を経ずに進んでいるのか
国立首都計画委員会(NCPC)と米国芸術委員会(CFA)は、ワシントンの連邦施設・公共空間の設計変更を審査する連邦機関で、本来この規模の改修には数か月単位の審査を要する。CNNの取材に対し両委員会の担当者は、政権からゴルフ場の設計案を審査目的で受け取ったことはないと回答した[2]。両委員会とも8月は定例会合を開かず、政権が目標とする9月1日の着工までに正式な審査を経る余地は事実上ない。景観・環境影響・歴史的資源への影響を検討する通常の審査には数か月を要するとされ、内務省はCNNの取材に対し、着工前に審査を取得する予定があるかを回答しなかった[2]。
この空白を政権が埋める根拠にしているのが1897年の連邦議会設置法だが、同法は東ポトマック公園を「人々のレクリエーションと楽しみのために永久に公園として保持する」と定めており、審査省略を正当化する条文ではない[3]。
政策形成のプロセスと合意形成の理論を体系的に整理しており、今回のような審査省略の異例さを構造的に理解する助けになる。
訴訟は何を問うているのか
DC保存協会(DC Preservation League、歴史的建造物・景観の保存を目的とする非営利団体)と地元住民2名は、2026年2月13日に連邦地裁へ提訴した。原告側は、行政手続法・国家環境政策法・国家歴史保存法、そして1897年設置法の4点への違反を主張している[3]。
同年7月2日の審理でアナ・レイエス判事は、政権側弁護人に対し「着工の既定路線がないとはもはや信じがたい」と述べ、工事差し止めの請求そのものは退けたものの、本格着工前に裁判所と原告側へ事前通知することを条件として付した[4]。訴訟は係属中で、判決は改修計画そのものの適法性を確定させていない。審査を経ないまま既成事実を積み上げる進め方に、司法が留保を付けたこと自体が、統治構造の綻びを示している。

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運営主体ナショナル・リンクス・トラストはどうなったのか
ナショナル・リンクス・トラスト(NLT、東ポトマック公園を含む首都圏3公営コースを運営してきた非営利団体)は、トランプ政権1期目に結んだ50年運営契約の当事者だった。政権は2026年1月1日、この契約を一方的に解除し、NLT関係者は「読んだ中で最も馬鹿げた、失望させられる決定の一つ」と反発したと報じられている[5]。
同年5月、政権とNLTは、東ポトマック公園以外の2コースの運営継続をNLTに認める一方、東ポトマック公園はファジオ設計で改修するという妥協案で合意した[5]。内務省は東ポトマック公園を含む公園全体の護岸再整備など広範なインフラ改修にも言及しているが、ゴルフ場改修そのものの費用は本稿執筆時点で未公表のままであり、議員側が開示を求めている理由もここにある[1][5]。

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日本の公営ゴルフ場は誰の許可で改修されるのか
日本では、公有地をゴルフ場に転用したり大規模改修したりする際に、審査を全く経ずに進める例は制度上想定しにくい。都市公園法に基づく都市公園では、占用や用途変更に自治体の条例に基づく許可が必要で、ゴルフコースは都市計画法上の「特定工作物」に当たり開発許可の対象になる[6][7]。実際に神戸市が市営ゴルフ場を産業用地へ転用する方針を示した際は、利用者から「説明がない」との批判を受け、市はニーズ調査や意見募集を経る対応に追われた[8]。茅ヶ崎市もゴルフ場区域の利活用案について、2024年に住民意見募集の期間を設けている[9]。
つまり日本でも案件ごとの説明不足への批判は起きるが、開発許可・条例上の占用許可・住民意見募集という手続きの土台自体は制度に組み込まれており、それを丸ごと飛ばして着工目標だけが先行する今回のような構図は生じにくい。相違の背景には、土地所有と管理権限が連邦政府に集中し首都ワシントンの公共空間審査が政権の意向に直結しやすい米国の統治構造と、自治体の条例・都市計画審議会が重層的に関与する日本の制度設計の違いがある。事業者にとっては、日本の方が審査コストは重いが差し止めリスクは低いという含意になる。ゴルファーにとっては、日本の公営コースが行政訴訟で運営を止められる事態は起きにくいという含意になる。
| 項目 | 日本の公営ゴルフ場 | 東ポトマック公園(米国) |
|---|---|---|
| 土地所有 | 自治体(市区町村)が中心 | 連邦政府(国立公園局) |
| 転用・改修の根拠法 | 都市公園法・都市計画法・自治体条例 | 1897年連邦議会設置法 |
| 事前審査 | 開発許可・占用許可(条例) | NCPC・CFAによる設計審査(本来必須) |
| 住民関与 | 意見募集・都市計画審議会 | 訴訟による事後的な司法審査 |
| 今回の争点 | 該当事例なし(説明不足への批判にとどまる) | 審査未実施のまま着工目標が先行 |
まとめ
今回の核心は、必須とされる審査機関への計画提出を欠いたまま、着工日程だけが独り歩きした点にある。ゴルファーにとっては、公営コースという公共インフラの改修が政治的な意向一つで方向転換しうることを示す事例であり、公共施設としての位置づけが揺らぎつつある。経営・IT分野の読者にとっては、ステークホルダーへの説明と承認プロセスを省略したプロジェクトが司法の留保という形でブレーキを掛けられる典型例であり、ガバナンス設計における承認プロセスの位置づけを再確認させる出来事といえる。
よくある質問(FAQ)
東ポトマック公園のゴルフ場改修はいつ完成する予定か
2026年8月時点で正式な着工日は確定していない。政権は9月1日着工を目指すと表明しているが、必要な審査や訴訟の帰趨次第で変更されうる[2][4]。
改修後もこのゴルフ場は一般利用できるのか
政権側は地元向けの割引料金での本格コース提供を掲げているが、料金体系や利用枠の詳細は本稿執筆時点で公表されていない[1][2]。
日本の公営ゴルフ場でも同様の手続き省略は起こり得るか
制度上は起こりにくい。都市公園法や自治体条例に基づく開発許可・占用許可の手続きが組み込まれているためだ[6][7]。
出典
[1] https://www.axios.com/local/washington-dc/2026/07/30/trump-east-potomac-golf-course[2] https://www.cnn.com/2026/07/18/politics/trump-dc-golf-course-east-potomac-links-takeover
[3] https://dcpreservation.org/2026/02/13/east-potomac-links-lawsuit/
[4] https://www.washingtonpost.com/politics/2026/07/02/judge-presses-trump-administration-plans-east-potomac-golf-course/
[5] https://www.golfdigest.com/story/trump-admin-national-links-trust-east-potomac-deal-2026
[6] https://www.mlit.go.jp/common/001248733.pdf
[7] https://www.rilg.or.jp/htdocs/main/houmu_qa/2023/75_winter01.html
[8] https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202105/0014322453.shtml
[9] https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/public/1007537/kekka/1058920.html

