戦略策定プロセスとは?5つのステップで経営課題を見つけて最適な打ち手を選ぶ方法

この記事でわかること

  • 戦略策定プロセスの全体像と5つのステップ
  • 「いきなり解決策に飛びつかない」ための分析の道筋
  • 業界KSFと自社のGAP(経営課題)を見つける方法
  • M&Aとアライアンス、どちらを選ぶかの判断基準
  • PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)による資源配分の考え方
  • 経営理念・ビジョンと戦略の関係

「売上が下がっている。どうすればいい?」

この問いにいきなり「コストを削ろう」「新規事業を始めよう」と答えてしまう人は少なくありません。しかし、解決策の前に、まず何が本当の経営課題なのかを特定することが戦略策定の要です。

私はIT業界でデリバリーマネージャーとして働いていますが、MBAで「馴染みのない業界」のケーススタディに取り組んだとき、この戦略策定プロセスの重要性を痛感しました。業界が変わっても、分析の「型」は同じ。むしろ、知らない業界だからこそ型に忠実に進める必要があり、結果的にプロセスが身につきました。

この記事では、戦略策定プロセスの5つのステップを、実務で使えるレベルで解説します。

ステップ1:業界を定義する――分析の出発点を決める

戦略策定の最初のステップは、自社が戦っているフィールドを明確に定義することです。

業界定義とは「どの市場を分析対象とするか」を決めることです。同じ企業でも、製品ライン別・顧客セグメント別に見れば複数の市場で戦っています。たとえばIT企業であれば「法人向けクラウドインフラ市場」と「中小企業向けSaaS市場」ではまったく異なる競争環境になります。

業界定義で重要なのは以下の3点です。

  1. 主力事業を中心に定義する:売上構成比の高い事業・顧客セグメントを主戦場と位置づける
  2. 広すぎず狭すぎない範囲:「IT業界」では広すぎ、「A社向けシステム保守」では狭すぎる
  3. 分析の目的に合った切り口:国内市場なのかグローバルなのか、用途別なのか顧客別なのか

業界定義を間違えると、以降の分析すべてがずれます。「そもそも何の市場を分析しているのか?」を最初に合意することが大切です。

ステップ2:外部環境を分析する――業界の「儲かりやすさ」を把握する

業界を定義したら、次は外部環境分析です。主に以下のフレームワークを使います。

PEST分析:マクロ環境の変化を読む

要素分析の視点
Politics(政治)規制・法改正・貿易政策独占禁止法、環境規制
Economy(経済)景気・為替・金利円高による輸出競争力低下
Society(社会)人口動態・価値観の変化少子高齢化による国内需要減
Technology(技術)技術革新・デジタル化AIによる業務自動化

ポイントは、マクロ環境の変化が業界や顧客にどう影響するかまで考えること。「円高が進んでいる」で終わらず、「円高→国内メーカーが海外生産にシフト→部材の国内調達が減少」のように因果関係をつなげます。

5フォース分析:業界の収益構造を見抜く

マイケル・ポーターの5フォース分析は、業界の「儲かりやすさ」を5つの力で評価するフレームワークです。

  1. 業界内の競争:競合の数・規模、差別化の程度、撤退障壁
  2. 新規参入の脅威:参入障壁の高さ(初期投資、規制、技術)
  3. 代替品の脅威:異なる技術・サービスによる代替可能性
  4. 売り手の交渉力:原材料・部品サプライヤーの寡占度
  5. 買い手の交渉力:顧客の集中度、スイッチングコスト

IT業界で考えると、たとえばクラウドインフラ市場では「新規参入の脅威は低い(巨額のデータセンター投資が必要)」一方で「買い手の交渉力は強まっている(マルチクラウド戦略で顧客がベンダーを容易に切り替えられる)」といった分析になります。

コスト構造分析:固定費と変動費のバランス

業界の収益構造を理解するには、コスト構造の分析も欠かせません。

  • 固定費比率が高い業界(設備産業、通信など):稼働率が収益を左右する
  • 変動費比率が高い業界(小売、商社など):仕入れ交渉力が鍵になる

固定費比率が高い業界では、規模の経済が効きやすく、一定以上の生産量を確保することがコスト競争力に直結します。

KSFの導出方法を詳しく知りたい方へ:業界分析から業界KSFを特定する具体的な手順は「業界KSFの見つけ方|5フォース×顧客KBFから導く実践ガイド」で詳しく解説しています。

ステップ3:業界KSFを特定する――「この業界で勝つ条件」は何か

外部環境分析の結果を統合して、業界KSF(Key Success Factors:重要成功要因)を導き出します。

KSFとは「この業界で持続的に利益を上げるために不可欠な条件」のことです。KSFは業界の構造と顧客のKBF(Key Buying Factors:購買決定要因)の両方から導かれます。

KSF特定の流れ:

  1. 5F分析で「業界の収益を左右する構造的な力」を把握
  2. 顧客KBF分析で「顧客が購買を決定する要因の優先順位」を把握
  3. PEST分析で「上記が今後どう変化するか」を予測
  4. これらを統合して「この業界で勝つために必要な条件」を言語化

たとえば、固定費比率が高くて顧客が低価格を求めている業界なら、KSFは「一定規模を維持して高稼働率でコスト競争力を保ちつつ、大手顧客から安定的に受注を確保すること」のようになります。

注意すべきは、KSFは時代とともに変化するということ。PESTの変化によって顧客のKBFが変わり、KSFも変わります。「10年前のKSFがまだ通用するか?」を常に問い直す姿勢が必要です。

ステップ4:経営課題を特定する――KSFと自社のGAPを見つける

KSFが明確になったら、次は自社の現状とのGAP(ギャップ)を特定します。このGAPこそが「経営課題」です。

ここで大切なのは、「課題」と「問題」の区別です。

問題課題
定義現状で起きている望ましくない事象あるべき姿と現状のギャップを埋めるために取り組むべきテーマ
「売上が前年比マイナス6%」「業界KSFである高稼働率を実現するための規模が不足」

「赤字だ」「売上が落ちた」は問題(事象)です。なぜ赤字なのか? 業界KSFに対してどこにGAPがあるのか?を突き詰めたものが経営課題です。

自社分析の視点

  • バリューチェーン(VC)分析:自社の活動のどこが強みでどこが弱みか
  • 経営資源(VRIO)分析:自社の資源は価値があるか、希少か、模倣困難か、組織で活かせているか
  • 業界KSFとの照合:KSFの各要素に対して自社のケイパビリティ(実行能力)は十分か

自社の現状をKSFに照らして評価し、何が足りていないかを明確にすることで、次のステップ「戦略立案」の精度が大きく変わります。

ステップ5:戦略オプションを出して、最適な打ち手を選ぶ

経営課題が特定できたら、いよいよ課題を解決するための戦略オプションを検討します。

戦略オプション出しの原則

重要なのは、最初から1つに絞らず、複数のオプションを並べて比較評価することです。

典型的なオプションの軸:

  • 自力で解決する:内部改善、投資拡大
  • 他社と提携する(アライアンス):共同購買、技術提携、合弁
  • 他社と統合する(M&A):合併、買収

M&Aとアライアンスの判断基準

自力での解決が難しい場合(時間やコストがかかりすぎる場合)、M&Aやアライアンスが選択肢に入ります。

評価軸M&Aアライアンス
コントロール容易(経営権を取得)困難(独立した意思決定)
意思決定の速度速い(統一した指揮系統)遅い(合意形成が必要)
技術流出リスク低い(社内に留まる)高い(共有に限界)
投資(時間・資金)大きい小さい
組織文化の摩擦大きい(統合の痛み)小さい
解消のしやすさ困難(だが結束は強い)容易(だがコミットメントは弱い)

判断の軸は「相手の事業をどこまでコントロールしたいか」です。コスト構造の根本的な改善(設備統廃合、人員再配置など)が必要な場合はM&Aが有効。特定の機能だけ補完したい場合はアライアンスで十分です。

統合後の実行:7Sフレームワーク

M&Aを選択した場合、戦略を立てた後の「実行」が成否を分けます。マッキンゼーの7Sフレームワークは、組織変革を設計する際に有用です。

  • ハードS(まず整備すべき):Strategy(戦略)、Structure(組織構造)、System(制度・仕組み)
  • ソフトS(時間をかけて変えていく):Shared Value(共通価値観)、Skills(能力)、Staff(人材)、Style(行動様式)

統合後にハードSを先に整え、その上でソフトSを変えていくのが定石です。

全社戦略の視点:PPMで資源配分を考える

複数の事業を持つ企業では、どの事業にどれだけ経営資源を配分するかが全社戦略の核心です。BCGのPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)は、この判断を支援するフレームワークです。

PPMの2軸の意味

意味背景にある理論
タテ軸:市場成長率キャッシュアウト(投資の必要度)事業ライフサイクル
ヨコ軸:相対マーケットシェアキャッシュイン(収益力)経験曲線
  • スター(高成長×高シェア):投資も必要だが利益も出る。キャッシュはトントン
  • 金のなる木(低成長×高シェア):投資は不要で利益を稼ぐ。キャッシュの源泉
  • 問題児(高成長×低シェア):成長市場だが投資が必要。育てるか撤退か判断
  • 負け犬(低成長×低シェア):基本的には撤退候補

基本の投資サイクル:「金のなる木」で稼いだキャッシュを「問題児」に投入し、「スター」に育てる。次の収益の柱を意図的に作っていくのが全社戦略の定石です。

PPMの限界を理解する

PPMは万能ではありません。以下の限界を踏まえたうえで使うことが大切です。

  1. 事業間シナジーを表現できない:ある事業が他事業の顧客獲得やコスト削減に貢献していても、PPM上では見えない
  2. 売上と利益は違う:「負け犬」でもキャッシュを生む事業はある
  3. 軸の設定に恣意性がある:成長率の閾値やシェアの計算方法で結果が変わる
  4. 過去データに基づく:衰退した市場が再び活性化する可能性を捉えられない

PPMはあくまで議論のたたき台であり、シナジーや事業間の補完関係を加味した上で最終判断すべきです。

経営理念・ビジョンと戦略の関係

戦略策定プロセスの全体を支えるのが、経営理念とビジョンです。

概念性質内容
経営理念普遍的(変わらない)企業の存在意義・社会への使命
経営ビジョン時代に応じて変化将来のあるべき姿・到達点
経営戦略ビジョン実現の手段競争優位を築くための具体的な道筋

経営理念は変わらず、ビジョンと戦略は時代に合わせて刷新されます。重要なのは、ビジョンが経営理念と整合していること。理念から逸脱したビジョンは、組織の求心力を失わせます。

ビジョンはすべてのステークホルダー(従業員・顧客・投資家・社会)へのメッセージです。自社が何を大切にし、どこに向かっているのかを伝えることで、社内外の行動を方向づけます。

リーダーシップの出発点としての「Lead the Self(自らをリードする)」という考え方を掘り下げた一冊として、以下が参考になります。

IT業界で実践してみて感じたこと

私自身、MBAで学んだこの戦略策定プロセスをIT業界の自分の仕事に引き寄せて考えてみました。

複数のサービスを提供している自社の事業を、PPMの考え方を応用して分類すると、安定収益をもたらす既存契約(金のなる木)、成長が見込める領域(スター候補)、新技術を活用した挑戦的な案件(問題児)、そして見直しが必要な領域に整理できます。

この分類をもとに、人材配置や研修投資、技術力強化の優先順位を考えることで、戦略的な意思決定の質が上がります。IT業界は変化が速いからこそ、このプロセスを定期的に回すことが大切だと実感しました。

まとめ:戦略策定プロセス5ステップ

  1. 業界を定義する:自社の主戦場を明確にする
  2. 外部環境を分析する:PEST・5F・コスト構造で業界の現状と変化を把握
  3. 業界KSFを特定する:「この業界で勝つ条件」を顧客KBFと業界構造から導く
  4. 経営課題を特定する:KSFと自社の現状のGAPを明らかにする
  5. 戦略オプションを評価して最適な打ち手を選ぶ:M&A・アライアンス・自力改善を比較

最も重要なのは「いきなり解決策に飛びつかない」ことです。外部環境の分析→KSF→自社とのGAP→複数オプションの比較という順序を守ることで、的外れな打ち手を避けられます。

よくある質問(FAQ)

Q1. KSFとKBFの違いは何ですか?

KBF(Key Buying Factors)は「顧客が購買を決める要因」、KSF(Key Success Factors)は「業界で成功するための要因」です。KBFは顧客視点、KSFは業界全体の視点で、KBFはKSFを導く重要なインプットの一つです。

Q2. 5フォース分析はどんな業界でも使えますか?

基本的にはどんな業界にも適用できます。ただし、プラットフォーム型ビジネスやネットワーク効果が強い業界では、従来の5つの力だけでは捉えきれない競争力学があるため、補完的な分析が必要です。

Q3. M&Aとアライアンスで迷ったとき、最初に考えるべきことは?

「相手の事業をどこまでコントロールする必要があるか」です。設備統廃合や人員再配置など、経営の根幹に踏み込む必要があればM&A、特定機能の補完だけならアライアンスが適しています。

Q4. PPM分析は中小企業でも使えますか?

事業が複数ある企業なら規模に関係なく使えます。ただし、中小企業では事業間のシナジーが生命線になることが多いため、PPMだけで撤退判断をせず、シナジーの有無を加味した総合判断が重要です。

Q5. 戦略策定プロセスはどのくらいの頻度で回すべきですか?

環境変化の速い業界(IT、SaaSなど)では年1回、安定した業界でも3年に1回は見直すべきです。定期的に回すことで、KSFの変化や新たなGAPを早期に発見できます。


この記事は、グロービス経営大学院で学んだ戦略策定の考え方をもとに、筆者の理解と実務経験を交えて執筆しています。

MBAの学びをストーリーで読みたい方は、noteのマーケティング・経営基礎シリーズ(全6回)もあわせてどうぞ。