
従業員数2,000〜3,000人規模でMicrosoft EA(Enterprise Agreement、大規模組織向けの複数年ボリュームライセンス契約)を数年ごとに更新してきた企業の情シス・調達担当者は、次回の契約更新で従来どおりの手続きが通用しない事態に直面している。対象になるのはユーザー数またはデバイス数がおおむね2,400以下の組織で、2025年11月1日以降、この規模でのEA新規更新自体が受け付けられなくなった[1][2][3]。変わるのはライセンス契約という調達の土台であり、影響を受けるのは稟議を通してEAを維持してきた情シス部門と、価格交渉を担ってきた調達部門の双方である。移行先はCSP(Cloud Solution Provider、パートナー企業経由でクラウドライセンスを購入する仕組み)かMCA-E(Microsoft Customer Agreement for Enterprise、EAに代わる新しい契約形態)のいずれかで、どちらも価格保護(Price Protection、契約期間中の値上げから購入価格を守る仕組み)の扱いがEAと大きく異なる。本稿では対象条件と契約構造の変化を整理し、更新時期の判断材料を示す。
予備知識
- EA(Enterprise Agreement): 大規模組織向けの複数年ボリュームライセンス契約。3年契約で、年1回まとめて追加分を精算する「トゥルーアップ」がある。
- CSP(Cloud Solution Provider): パートナー企業(SIer・リセラー)経由でクラウドライセンスを購入する仕組み。月次課金が基本。
- MCA-E(Microsoft Customer Agreement for Enterprise): Microsoftと直接結ぶ契約。契約期間の定めがなく、購入の最低数量もない。
- 価格保護(Price Protection): 契約期間中は値上げの影響を受けず、購入時点の価格が維持される仕組み。
ライセンス資産の棚卸しと国際規格に基づく管理体制を整える実務書。EA更新可否を判断する前提となるユーザー数の把握に直結する
EA更新不可の対象はどこか——2,400ユーザーという線引き
2025年11月1日以降、ユーザー数またはデバイス数がおおむね2,400以下の組織はMicrosoft EAを更新できない。Microsoftはこの変更を2025年1月頃から順次通知しており、直販市場(Microsoftが直接営業を行う国・地域)の顧客が対象となる[1][3]。日本は直販市場に含まれるため、対象条件自体は国内企業にもそのまま当てはまる。この規模の組織が選べる移行先は、パートナー経由のCSPか、Microsoftと直接契約するMCA-Eの二択である[1][2]。現時点で有効なEA契約そのものが即座に無効になるわけではない。あくまで「次回の更新」ができなくなるという規定であり、契約期間中の企業は残存期間中は従来どおりEAの条件で運用を続けられる[2][3]。裏を返せば、次の更新月が2026年内に到来する組織ほど、CSPとMCA-Eの比較検討に充てられる時間が短くなるということでもある。稟議の起案から承認までの社内リードタイムを考えると、実質的な検討期限は更新月そのものより数か月前倒しになる。

CSPパートナーやSIer経由の調達構造に移行する際の交渉・関係管理の基本を短時間で押さえられる
MCA-Eで何が変わるか——価格保護とトゥルーアップの消滅
MCA-Eは既定で価格保護を持たず、EAの年次トゥルーアップに相当する精算の猶予もない。EAは3年間の契約期間中、ボリューム割引を含む価格が固定され、期中に追加した利用者も同じ価格で処理される[2][4]。一方MCA-Eは契約が無期限(エバーグリーン)で購入の最低数量もない代わりに、価格保護は自動付与されず、必要であれば個別に交渉しなければならない[4][5][6]。トゥルーアップの仕組みもなく、利用者を追加した分は次回請求サイクルで即時課金される。これは裏を返すと、契約上のライセンス数を利用者数が上回った時点で即座にコンプライアンス違反になるという意味でもある[4][5]。CSPはパートナー経由の月次課金が基本で、割引はMicrosoftの推奨小売価格を基準にパートナーと個別交渉する形になり、次回更新時に同じ割引率が続く保証はない[1][7]。EAでは3年に一度の更新が実質的な価格交渉の場になっていたが、MCA-Eは大きな更新イベントを挟まず契約が継続するため、同じ頻度・同じ規模での価格交渉の機会そのものが構造的に失われる点も見落とせない[5]。
| 項目 | EA | CSP | MCA-E |
|---|---|---|---|
| 契約主体 | Microsoft直接 | パートナー経由 | Microsoft直接 |
| 契約期間 | 3年(固定) | 月次または年次 | 無期限(エバーグリーン) |
| 価格保護 | あり(期間中固定) | 交渉次第・保証なし | 既定でなし(要個別交渉) |
| 課金体系 | 年1回のトゥルーアップ | 月次課金が基本 | 追加分を次回サイクルで即時課金 |
| 2026年時点での更新可否 | 2,400超のみ継続可 | 制限なし | 制限なし |
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2,400ユーザー超の企業にも波及する理由
2,400を超える組織も、2026年の通常更新でEAをそのまま継続できるとは限らない。Microsoftはこうした大企業に対しても2026年の更新タイミングでMCA-Eへの任意移行を打診する方針を示している[1][2]。加えて2025年11月1日以降、EA・MPSA・OSPAのオンラインサービス価格はMicrosoft.comの定価に統一され、従来のボリューム割引の多くが失われた[7]。従来Level D相当の大口契約では最大12%程度の割引が適用されていたが、この定価統一により割引幅は圧縮される[7]。つまり2,400という閾値は更新可否の境界であって、価格面での影響が及ぶ範囲はそれより広い。2,400を超えて2026年もEAを継続できる組織にとっても、次の更新で提示される見積りは、これまでのボリューム割引を前提にした水準とは違う可能性がある。調達部門が過去の更新実績だけを根拠に予算を積むと、実際の請求額との差が生じやすい局面といえる。


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日本企業の調達構造でEA更新不可はどう波及するか
日本のエンタープライズ企業の多くはMicrosoft EAでライセンスを調達しており、直販市場である以上、2,400ユーザーの線引きと2025年11月1日の変更はそのまま適用される。違いが出るのは調達の実務構造である。多くの日本企業はEA契約下でもSIerやリセラーを窓口にしてきたため、CSPへの移行は取引窓口が形式上正式化されるだけで済む場合がある一方、MCA-Eを選ぶとMicrosoftとの直接契約に切り替わり、稟議の起案先や責任分界が変わる[1][4]。SIer経由の調達に慣れた組織ほど、Microsoft直接契約の実務(請求書の宛先、契約条項の英語対応、監査対応の窓口)を新たに社内で担う必要が出てくる可能性がある。もう一つの論点は予算計画のタイミングである。EAの年次トゥルーアップは日本企業に多い単年度予算・多年度稟議の周期と噛み合っていたが、MCA-Eの即時課金型では、利用者数の変動を月次で追う体制がないと予算超過に気づきにくい[4][5]。稟議書の作成時点で「3年固定の総額」を前提にできたEAと違い、MCA-Eは変動費として扱う設計変更が必要になる。
| 論点 | EA時代の実務 | MCA-E移行後の実務 |
|---|---|---|
| 稟議の単位 | 3年一括の総額稟議 | 年次または月次の変動費として計画 |
| 調達窓口 | SIer・リセラー経由が主流 | Microsoft直接またはCSPパートナー |
| 価格交渉の機会 | 3年ごとの更新時に集中 | 随時交渉、ただし保証なし |

IT部門の判断は、自社のユーザー数が2,400前後かを早期に確認し、CSPとMCA-Eの見積りを次回更新の半年以上前に取ることである。決裁側(CFO・調達)の判断は、価格保護の有無と交渉可否を稟議書に明記させたうえで、更新か移行かを次年度予算サイクルに間に合う時期に決めることである。
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まとめ
Microsoft EAは2025年11月1日を境に、2,400ユーザー以下の組織では更新そのものができなくなった。2,400を超える組織も2026年更新時にMCA-Eへの任意移行を打診され、価格面ではオンラインサービスの定価統一という形で既に影響が及んでいる。IT部門は自社のユーザー規模を確認し、CSPとMCA-E双方の見積りを更新期日の半年以上前に取得すべきである。決裁側は価格保護の有無を稟議書に明記させ、更新か移行かを予算サイクルに間に合う時期に判断する必要がある。契約形態の選択は、次の3年間のコスト構造そのものを左右する。
よくある質問(FAQ)
Q1. EAはいつまで更新できますか。
A. ユーザー数・デバイス数がおおむね2,400を超える組織は2026年の通常更新タイミングでEAを継続できる。2,400以下の組織は2025年11月1日以降、新規のEA更新自体ができない[1][2][3]。
Q2. MCA-Eに移行すると価格はどうなりますか。
A. MCA-Eは既定で価格保護がなく、値上げに備えるには個別交渉が必要になる。契約は無期限(エバーグリーン)で、購入の最低数量もない[5][6]。
Q3. CSPとMCA-Eはどちらを選ぶべきですか。
A. CSPはパートナー経由で月次課金が基本、MCA-Eはマイクロソフトと直接結ぶ契約である。どちらも次回更新時に同じ割引率が続く保証はなく、自社の調達体制と交渉力を踏まえて選ぶ必要がある[1][7]。
出典
[1] Insight, “Microsoft’s Licensing Shift Is Here — Now’s the Time to Rethink Your Cloud Strategy” https://www.insight.com/en_US/content-and-resources/announcements/microsofts-licensing-shift-is-here-nows-the-time-to-rethink-your-cloud-strategy.html [2] Withum, “Microsoft Licensing Enterprise Agreement Changes: What 500 to 3,000 Seat Organizations Need To Know Before Renewal” https://www.withum.com/resources/microsoft-licensing-enterprise-agreement-changes-what-500-to-3000-seat-organizations-need-to-know-before-renewal/ [3] surveil.co, “Microsoft Licensing Changes FAQ | November 2025 EA Discount & CSP Transition Explained” https://surveil.co/faqs-microsoft-licensing-ea-pricing-2025/ [4] TeamsFox, “Microsoft EA Vs CSP Vs MCA Contract Guide” https://teamsfox.com/microsoft-ea-vs-csp-vs-mca-contract-guide/ [5] SAMexpert, “Microsoft EA vs. MCA-E: A Strategic Licensing Comparison for 2025 and Beyond” https://samexpert.com/ea-vs-mca-e-licensing-2025/ [6] Microsoft, “Microsoft Customer Agreement” (公式ライセンスページ) https://www.microsoft.com/en-us/licensing/how-to-buy/microsoft-customer-agreement [7] Centric Consulting, “Microsoft Enterprise Agreement Renewal to CSP” https://centricconsulting.com/blog/microsoft-enterprise-agreement-renewal-to-csp_microsoft/(参考: 元の指定ソース https://www.softwareone.com/en/blog/articles/2026/02/24/microsoft-changes-ea-to-mca-e および https://blog.shi.com/business-of-it/microsoft-ea-changes/ はいずれもWebFetchで403 Forbiddenとなり直接取得できなかった。上記[1]〜[7]は同内容を独立に報じる代替ソースとして採用した。)



