FortiOSの「直したはずの脆弱性」が再燃、パッチ済み環境も要点検

数千台規模のFortiGateを社内外ネットワークの境界に配置し、年次のセキュリティ監査を受ける企業のネットワーク運用担当者は、いったんパッチを当てた脆弱性がなぜ再び注意喚起の対象になるのか疑問に思うはずだ。対象はFortinetのFortiOS、具体的には過去に配布された「シンボリックリンク(ファイルの実体を指す別名のようなファイル)永続化対策」パッチそのものを迂回できる脆弱性CVE-2025-68686である。米CISA(サイバーセキュリティ・インフラセキュリティ庁)は2026年7月27日、この脆弱性をKEV(CISAが管理する、実際に悪用が確認された脆弱性の一覧)カタログに追加し、米連邦文民機関には2026年8月10日までの是正を求めた[1]。単独では悪用できないが、過去に侵害を受けた端末では話が変わる。年次監査でパッチ適用の記録は確認しても、侵害の痕跡そのものを再点検する項目が用意されている組織は多くない。本稿は、パッチ適用済みという安心が通用しない典型パターンとして、この事案の技術的な経緯と運用上の点検ポイントを整理する。

予備知識

  • シンボリックリンク: あるファイルやフォルダの実体を指す別名ファイル。攻撃者が悪用すると、本来アクセスできない領域への抜け道になる。
  • KEVカタログ: CISAが管理する「実際に悪用が確認された脆弱性」の一覧。掲載されると米連邦機関に是正期限が課される。
  • パッチのバイパス: ベンダーが配布した修正プログラムそのものに残る不備を突き、修正前と同じ状態を再現する手口。
  • CVSS: 脆弱性の深刻度を0〜10の数値で示す共通の指標。数値だけでなく、悪用の前提条件を合わせて読む必要がある。

FortiGateのような境界機器一点防御の限界と、侵害を前提にした設計思想を学べる

CVE-2025-68686とは何か——過去の対策パッチ自体に残っていた抜け穴

CVE-2025-68686は、Fortinetが過去に配布したシンボリックリンク永続化対策パッチを、未認証のまま迂回できる情報漏えい脆弱性である。脆弱性分類はCWE-200(機微情報の露出)で、CVSSスコアは5.3にとどまる[2][3]。対策パッチは、SSL-VPNの言語ファイル用ディレクトリに設置されたシンボリックリンクを検知して読み取りを遮断する仕組みだったが、リクエストパスに余分なスラッシュを一つ加えるだけで、この検知ロジックをすり抜けられることが分かった[3]。Fortinet自身のPSIRT(製品セキュリティインシデント対応チーム)アドバイザリFG-IR-25-934は、2026年2月10日に初版が公開されている[4]。対象はFortiOS 7.6.0〜7.6.1、7.4.0〜7.4.6、および7.2・7.0・6.4の各系列全バージョンと幅広い[2][3][4]。

項目内容
CVE番号CVE-2025-68686
CVSSスコア5.3
脆弱性分類機微情報の露出(CWE-200)
影響バージョンFortiOS 7.6.0-7.6.1/7.4.0-7.4.6/7.2・7.0・6.4の全バージョン
修正バージョンFortiOS 7.6.2以降/7.4.7以降(7.2・7.0・6.4系は保守対象の後継バージョンへの移行を推奨)
Fortinet初版公開2026年2月10日(FG-IR-25-934)
CISA KEV追加日2026年7月27日
米連邦機関の是正期限2026年8月10日
過去のRCE脆弱性で侵害された端末にシンボリックリンクによる持続的な読み取りアクセスが確立され、Fortinetが検知パッチを配布したが、リクエストパスにスラッシュを追加する手口で検知ロジックをすり抜けられ、読み取りアクセスが再燃する流れを示す図
過去の侵害からパッチ再燃までの流れ

パッチ適用済み環境で侵害の痕跡が残っていないかを調べる実務手順を体系的に学べる

なぜ一度直したはずの対策が再び破られたのか——シンボリックリンク永続化の経緯

この脆弱性の背景には、2023年ごろから続くFortiGate侵害で、攻撃者がシンボリックリンクを使った持続的な読み取りアクセスを確立してきたという経緯がある。攻撃者はCVE-2022-42475、CVE-2023-27997、CVE-2024-21762などの脆弱性でまずFortiGateに侵入し、SSL-VPNの言語ファイル用ディレクトリにユーザー領域とルートファイルシステムをつなぐシンボリックリンクを設置した[8][9][10]。この手口が広く報道されたのは2025年4月で、Fortinetが原因の解説を公開し、Shadowserver Foundationの調査では2025年4月15日時点で世界で1万6千台超のFortiGateが侵害された状態にあると報告された[8][9]。Fortinetはこの時点で検知パッチを配布したが、パッチはリクエストパス中の「/lang/custom」という文字列を単純一致で探す仕組みだった[3]。攻撃者が「/lang//custom」のようにスラッシュを一つ加えて送ると、文字列一致の判定は外れる一方、Webサーバー側ではパスが正規化されて元のファイルにアクセスできてしまう[3]。特定の攻撃手口だけをふさぐ対策が、根本原因を残したまま迂回されたと見てよい。この経緯は、単発のバグ修正ではなく、パスの正規化やアクセス制御の設計そのものを見直さない限り同種の迂回策が繰り返されうることを示している。

シンボリックリンク侵害端末の地域別分布(2025年4月時点)
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単独のCVSS5.3がなぜ緊急指定を受けたのか——KEV追加と悪用の前提条件

CVE-2025-68686はCVSS5.3で単独では悪用できないが、既にファイルシステムを侵害された端末では対策パッチを無効化するため、CISAはKEVカタログに追加し米連邦機関に是正期限を課した。悪用にはまず、CVE-2022-42475など既存のリモートコード実行脆弱性でファイルシステムレベルの侵害を受けていることが前提になる[2][3]。この前提を満たさない端末に対しては、この脆弱性単体で新たな被害は生じない[2][3]。CISAは2026年7月27日、Arista VeloCloud Orchestratorの脆弱性と合わせてこの脆弱性をKEVカタログに追加し、米連邦文民機関に対して2026年8月10日までの是正を求めた[1][5][6][7]。KEV掲載の基準は深刻度の数値ではなく、実際の悪用が確認されたかどうかにある[1]。CVSS5.3という数値だけを見て優先度を下げると、既に侵害されている端末の「掃除したはずが再燃する」リスクを見落とす。CVSSは脆弱性単体の技術的な深刻度を測る指標であり、対象端末が既に侵害されているかどうかという運用上の文脈までは反映しない。パッチ適用の優先順位付けをCVSS値だけで機械的に決めている組織ほど、この種の「前提条件付き」脆弱性を見落としやすい。

2025年4月の永続化手口公表からFortinetの検知パッチ配布、2026年2月10日のPSIRT初版公開、スラッシュ手口によるバイパス判明、2026年7月27日のCISA KEV追加、2026年8月10日の連邦機関是正期限までの時系列を示す図
検知パッチ配布からKEV追加・是正期限までの時系列
セキュリティ/ネットワーク

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国内のFortiGate環境でも同じ再燃は起きるのか——保守契約と資産棚卸しの死角

FortiGateは日本の中堅〜大企業でも境界機器として広く使われており、同じ構図はそのまま国内でも成立する。違いが出るとすれば体制側にある。多くの企業はFortiGateの保守をSIer(システムインテグレーター)に委託しており、パッチ適用そのものはSIerが淡々と進める一方、「過去に侵害を受けた痕跡が残っていないか」という調査は保守契約の範囲外になりやすい。稟議を通してパッチ適用を承認する場面でも、対象は「脆弱性番号と修正版への更新」に閉じがちで、侵害有無の再点検までは議題に上がりにくい。数年単位で構成変更のないFortiGateほど、初期設定時の担当者が離任し、過去の侵害有無を確認できる人材が社内に残っていない場合もある。

論点IT部門の判断決裁側の判断材料
パッチ適用対象バージョンかを即座に確認し7.6.2/7.4.7へ更新更新自体は通常の保守範囲で承認可
侵害有無の再点検過去のCVE-2022-42475等の侵害履歴とログを再確認追加の調査工数を保守契約の範囲外として別途承認するか判断
対象資産の一覧化からFortiOSバージョン確認、過去の侵害履歴確認、7.6.2または7.4.7以降への更新、残存シンボリックリンクの点検までの実務フローを示す図
資産棚卸しから点検完了までの実務フロー
障害

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まとめ

CVE-2025-68686は、Fortinetが過去に配布したシンボリックリンク永続化対策そのものを迂回する脆弱性で、2026年7月27日にCISAのKEVカタログに追加された。単独では悪用できないという性質上、過去に一度でも境界を突破された端末があるかどうかが対応の分岐点になる。IT部門の次の一手は二つある。FortiOSを7.6.2または7.4.7以降へ更新すること、そして過去にCVE-2022-42475などで侵害歴がないかログを再確認することだ。決裁側は、パッチ適用の承認だけでなく、侵害有無の再点検に要する追加工数を別枠の判断材料に含めておくとよい。パッチ済みという状態は、侵害がなかったことの証明にはならない。

よくある質問(FAQ)

Q1. CVE-2025-68686とは何ですか。
A. Fortinetが過去に配布したシンボリックリンク永続化対策パッチを、未認証のまま迂回できる情報漏えい脆弱性。CVSSスコアは5.3[2][3]。

Q2. 自社のFortiGateも危険ですか。
A. 過去にCVE-2022-42475などでファイルシステムレベルの侵害を受けていない端末には、この脆弱性単体での新たな被害はない。ただし侵害歴が不明な場合は再点検が必要[2][3]。

Q3. どう対応すべきですか。
A. FortiOSを7.6.2または7.4.7以降へ更新し、7.2・7.0・6.4系は保守対象の後継バージョンへ移行する。合わせて過去の侵害ログを確認する[2][3][4]。

出典

[1] CISA, “CISA Adds Two Known Exploited Vulnerabilities to Catalog” (2026-07-27) https://www.cisa.gov/news-events/alerts/2026/07/27/cisa-adds-two-known-exploited-vulnerabilities-catalog

[2] GitHub Advisory Database, “CVE-2025-68686” (GHSA-839g-m33x-3w78) https://github.com/advisories/GHSA-839g-m33x-3w78

[3] CODERCOPS, “CVE-2025-68686: The FortiOS Patch Bypass That Punishes Devices You Never Cleaned Up” https://blog.codercops.com/blog/fortinet-fortios-cve-2025-68686-patch-guide

[4] SentinelOne Vulnerability Database, “CVE-2025-68686: Fortinet FortiOS Information Disclosure” https://www.sentinelone.com/vulnerability-database/cve-2025-68686/

[5] Cyber Security News, “CISA Warns of Fortinet FortiOS Vulnerability Exploited in Attacks” https://cybersecuritynews.com/fortinet-fortios-vulnerability-exploited/

[6] SecurityOnline, “CISA KEV Additions: Arista VeloCloud and FortiOS Flaws Now Exploited” https://securityonline.info/cisa-kev-arista-velocloud-fortios/

[7] HelpRansomware, “CISA Adds Arista VeloCloud and FortiOS Flaws to KEV” https://helpransomware.com/cisa-kev-velocloud-fortios-july-2026/

[8] The Hacker News, “Fortinet Warns Attackers Retain FortiGate Access Post-Patching via SSL-VPN Symlink Exploit” (2025-04) https://thehackernews.com/2025/04/fortinet-warns-attackers-retain.html

[9] BleepingComputer, “Over 16,000 Fortinet devices compromised with symlink backdoor” (2025-04) https://www.bleepingcomputer.com/news/security/over-16-000-fortinet-devices-compromised-with-symlink-backdoor/

[10] Canadian Centre for Cyber Security, “Compromise and persistent access of Fortinet FortiOS products (CVE-2022-42475, CVE-2023-27997, CVE-2024-21762)” https://www.cyber.gc.ca/en/alerts-advisories/compromise-persistent-access-fortinet-fortios-products-cve-2022-42475-cve-2023-27997-cve-2024-21762