
私は2000年代前半にCiscoの上位認定を持っていましたが、いまは失効しています。更新を続けなかったからです。
当時それを損だと思った記憶はありません。ただ、いま計算し直すと、3年ごとの更新を20年続けていた場合の金額はそれなりのものになります。資格の費用は、受験料の単価ではなく保有期間で効いてきます。
CCNAは高い、という言われ方をよく見ます。ただ、その感覚が何と比べたものなのかは、あまり検証されていません。CompTIAと比べているのか、基本情報技術者試験と比べているのかで、結論は正反対になります。
この記事では、主要なIT資格を受験料と更新頻度の両面で並べ、10年間保有し続けたときの累積コストを比較します。あわせて、公表されていない合格率と合格点の実態も整理します。
この記事でわかること
- 主要IT資格12種の受験料一覧と、CCNAの相対的な位置
- CompTIA Network+がCCNAより高い事実と、値上げがCisco固有ではないこと
- 円建て国家資格が為替と無縁で、四半世紀ほぼ横ばいであること
- 10年間保有したときの累積コストと、CCNAと国家資格の約25倍の差
- 合格率30%・合格点825点という数字がCisco公式値ではない理由
- 実務年次ごとに、2026年の資格選びの判断がどう変わるか
主要IT資格の受験料を並べる|CompTIA Network+のほうが高い
2026年8月時点の一覧です。
| 資格 | 試験数 | ドル建て定価 | 日本円価格 | 更新 |
|---|---|---|---|---|
| CCNA(200-301) | 1 | $300 | 46,860円 | 3年ごと |
| CompTIA Network+ | 1 | $399 | ドル換算(約6万円前後) | 3年ごと |
| CompTIA Security+ | 1 | $439 | ドル換算 | 3年ごと |
| CompTIA A+ | 2 | $253×2=$506 | ドル換算 | 3年ごと |
| LPIC-1 | 2 | $200/試験(日本は円建て) | 16,500円×2=33,000円 | 5年ごと |
| LinuC レベル1 | 2 | ― | 16,500円×2=33,000円 | 5年ごと |
| 基本情報技術者(FE) | 1 | ― | 7,500円 | 生涯有効 |
| 応用情報技術者(AP) | 1 | ― | 7,500円 | 生涯有効 |
| ネットワークスペシャリスト(NW) | 1 | ― | 7,500円 | 生涯有効 |
| AWS Cloud Practitioner | 1 | $100 | 15,000円 | 3年ごと |
| AWS SAA | 1 | $150 | 20,000円 | 3年ごと |
| Azure AZ-900 | 1 | $99 | 12,500円 | 生涯有効 |
| Azure AZ-104 | 1 | $165 | 約21,000円 | 1年ごと(無料更新) |
最初に目につくのは、CCNAの直接競合であるCompTIA Network+のほうが高いという点です。
Network+のドル価格は、$294(2015年、N10-006)→$302(2018年)→$338(2021年11月)→$358(2022〜24年)→$399(2026年6月のCompTIA全ラインアップ一斉改定後)と推移しています。約11年で+36%。CCNAの$300を明確に上回りました。
一方のCCNAは、2020年に$300へ設定されてから6年間据え置きです。
つまりCiscoだけが突出して値上げしているという認識は、データ上は支持されません。 上がっているのはドル建てベンダー資格の全体で、値上げ基調はむしろCompTIAのほうが明確です。CompTIAの2026年価格帯はNetwork+ $399、Security+ $439、A+ 2試験で$548と、いずれもCCNAを上回ります。
AWSも同じ構図です。2024年4月に円建てを一斉改定し、Foundationalが11,000円→15,000円、Specialtyが30,000円→40,000円になりました。ドル定価は据え置きのままで、理由は為替レートの変動と説明されています。
コンテナ基盤としてEKS(Amazon Elastic Kubernetes Service、AWSのマネージドKubernetesサービス)を採用し、複数の事業部でクラスタを分散運用する数千人規模の企業では、情報システム部門やSRE(シ[…]
円建て国家資格は為替と無縁|基本情報は四半世紀で+2,400円
対照的なのが、円建ての国家資格です。
基本情報技術者試験の受験手数料は、5,100円(1998〜2015年)→5,700円(2016年)→7,500円(2022年4月〜現在)と推移しました。IPAが2021年7月16日に改定を発表し、2022年4月に適用されています。
四半世紀で+2,400円。 応用情報技術者試験、ネットワークスペシャリスト試験も同額です。
円安が一切影響しないため、費用の予測可能性が高い。若手にとっては、この予測可能性そのものが価値になります。3年後にいくらかかるかが読める資格と、為替次第の資格では、学習計画の立て方が変わります。
Linux系についても補足しておきます。LPICはグローバル定価$200のドル建てですが、日本市場ではLPI独自の円建て定価(税込16,500円)で運用されています。 LinuCも同額です。つまりLPICはドル建て、LinuCは円建てという対比は日本では成立しません。
為替の観点で分けるなら、CCNAとCompTIA(実質ドル連動)と、国家資格・LinuC・LPIC(円建て固定)という線引きのほうが実態に合います。
640-507、640-801、640-802。この番号を見て「ああ」と思う人は、それだけで世代がわかります。私が通信キャリアでネットワークエンジニアをしていた2000年代前半、Ciscoの認定試験はまだ番号で呼ばれていて、参考書の巻末に[…]
差がつくのは更新コスト|10年累積で約25倍

単価の比較より、実務でも家計でも効くのはこちらです。
| 資格 | 更新頻度 | 10年で必要な受験回数 | 10年累積(概算) |
|---|---|---|---|
| CCNA | 3年 | 初回+3回=4回 | 約187,440円 |
| CompTIA Network+ | 3年(CE更新も可) | 初回+CE更新 | 約6万円〜 |
| AWS SAA | 3年 | 初回+3回=4回 | 約8万円 |
| LinuC レベル1 | 5年 | 初回+1回=2回 | 66,000円 |
| 基本情報技術者(FE) | 生涯有効 | 1回 | 7,500円 |
| ネットワークスペシャリスト(NW) | 生涯有効 | 1回 | 7,500円 |
CCNAと国家資格の10年累積コストの差は約25倍です。 受験料単価の差は約6倍なので、残りは更新頻度が作った差ということになります。
CCNAの更新は継続教育クレジット(CE)でも可能ですが、無償でクレジットを積み切るのは実務上むずかしく、多くの人は再受験を選びます。再受験は初回と同額です。
再受験のコストは、更新以外の場面でも効きます。不合格だった場合の再受験も全額で、5日間の待機期間があります。1回落ちれば初回と合わせて93,720円、9万円台です。
割引の効きやすさにも差があります。
| 資格 | 個人が使える割引・無料の手段 |
|---|---|
| CCNA | 常時使える一般向け割引なし。Networking Academy修了者の割引(最大58%)、企業・Ciscoパートナー経由のバウチャー、Exam Safeguard($375で2回、ドル建て) |
| AWS | 合格ごとに次回50%割引バウチャー(Cloud Practitioner合格→SAAが$150→$75) |
| Azure | Virtual Training Day受講で無料受験バウチャー配布の実績あり。学割あり |
| LinuC/LPIC | 割引バウチャー、再受験無料キャンペーンが不定期 |
| CompTIA | 学割(最大50%)、バウチャーと再受験のバンドル |
CCNAには、日本で誰でも常時使える割引がありません。ドル建ての再受験保険(Exam Safeguard、$375で2回)は個人でも買えますが、円建て予約に充当できるかは未確認です。だから会社の受験料補助制度があるかどうかで、この資格の経済性は完全に変わります。 補助があるなら費用の論点は消え、求人要件で選んでいい。なければ10年19万円を織り込んだうえで判断する必要があります。
ガーミンは「値上げ」せずに、どうやって1台あたりの単価を上げたのか 結論を先に言えば、ガーミンは既存モデルの定価を横並びで引き上げるのではなく、その上に「より高い上位ティア」を新設し、購入者の選好を上へずらすことで平均単価(ASP)を押し[…]
合格率と合格点は公表されていない|数字の出どころ
費用の話と直結するのが、合格の見通しです。1回落ちれば46,860円が飛ぶので、受験のタイミングを決める基準が要ります。
ところが検索してよく出てくる合格率20〜40%や合格点825/1000は、すべて非公式の推定値です。Ciscoは合格率も合格点も公表していません。
Ciscoの説明は、試験問題と合格点は予告なく変更されるため、というものです。これは20年以上一貫した方針です。スコアスケールが300〜1000点であることは公開されていますが、合格ラインの数値は出ていません。
825点という数字の出どころは、合格者が自分のスコアレポートを持ち寄って推定したコミュニティの集計です。セキュリティ研修大手のInfosec Instituteも、約825点という記述に「Ciscoは正確な合格点を公式公表していない」という但し書きを付けています。試験対策サイトのExamCertは2026年6月更新の記事で、825がコミュニティ推定であること、そしてスケールドスコアの825点は82.5%正解と同じ意味ではないことを明記しています。
合格率の推定値は、さらに大きくばらつきます。
| 情報源のタイプ | 推定合格率 |
|---|---|
| 日本の資格スクール・専門学校系 | 25〜30% |
| 日本のスクール系(別媒体) | 20〜30% |
| 日本の転職・スクール系 | 30〜40%/40〜50% |
| 英語圏(トレーニングパートナー集計等) | 60〜85% |
20%から85%まで開きます。原因は2つです。
ひとつは母集団の違い。未経験者向けスクールの受講生を数えるか、実務経験者を数えるかで結果は変わります。日本の情報源が低めに出るのは、日本では未経験者向けスクールが母集団の中心になりやすいからと考えられます。
もうひとつは分母の定義。初回受験のみか、全試行を含むかで数字は大きく動きます。この定義を書いている情報源はほとんどありません。
実務的な結論はシンプルです。合格率の数字は計画の役に立ちません。 代わりに使うべき基準は、模擬試験で安定して85%以上です。合格ラインが非公表で、再受験が全額自己負担である以上、ぎりぎりを狙う設計は期待値が悪い。
保有者数についても、Ciscoはレベル別の内訳を公表していません。第三者の研修機関が1998年以降100万件超のCCNAが発行されたと記載していますが、これはCiscoの一次公表ではありません。
若手とベテランで、2026年の判断はどう変わるか
ここからは実務視点の話です。年次によって、資格の意味は変わります。
実務1〜5年目
まず円建て・生涯有効の基本情報技術者試験(7,500円)を起点に置くのが、費用対効果としては最良です。為替リスクゼロ、更新コストゼロ。ネットワーク志向ならネットワークスペシャリストも同額・生涯有効ですが、高度区分なので難度は上がります。
そのうえで、CCNAが求人要件に実際に入っている場合にだけ、46,860円を投じます。判断の順序は、会社の補助制度を確認し、10年19万円の更新コストを織り込み、それでも取る意味があるかを見る、という3段です。補助があるなら悩む必要はありません。
クラウド志向なら、AZ-900(無料バウチャー配布の実績あり)やAWS Cloud Practitioner(合格で次回50%割引)から入る手もあります。初回の機会費用が最も低く、ドル建てですが単価が$100と小さい。
実務5〜15年目
この層でCCNAを新規に取る意味は薄れます。すでに実務があるなら、資格が証明するのは体系的に穴がないことだけです。
むしろ効くのは、2020年以降に加わった領域の穴埋めです。自動化とプログラマビリティ、そしてクラウド上のネットワーク管理。ここはCCNAの範囲を教科書として使い、受験はしないという選択も十分成立します。
受けるなら、クラウド側(AWS SAA、AZ-104)と組み合わせたほうが市場価値は上がります。ネットワークとクラウドの両方を切り分けられる人は、実際に不足しています。
実務15年目以上
論点は、更新するか失効させるかです。
判断材料は3つあります。
第一に、失効した認定に採用市場での価値はほぼありません。 履歴書に書けるのは事実だけで、現在の技術水準の証明にはなりません。
第二に、核は失われていません。 サブネッティングとルーティングの理解は25年もっています。失効しても、実務で使える部分は手元に残ります。
第三に、再取得の意味は立場で変わります。 チームを持つ立場なら、若手が受ける試験の中身を知っていること自体に価値があります。2027年2月開始のv2.0ではトラブルシューティングが復活し、AIが入る。これは若手に何を教えるべきかの指針になります。受験するかは別として、ブループリントは読む価値があります。
判断が変わる閾値
- ドル円が170円超、またはCiscoがCCNAを$350超、CompTIAがNetwork+を$450超に上げる → ベンダー資格の円コストがさらに跳ね、国家資格の優位がより鮮明になる
- 会社が受験料・更新料を全額負担する → ベンダー資格の保有コストの論点は消える。求人需要で選んでよい
- 円が142円を割って戻す → 市場レート換算がCiscoの実効レートを下回り、いまの円定価が割高側に入る
まとめ|資格の費用をどう見るか
- ドル建てではCompTIA Network+($399)がCCNA($300)より高い。値上げはCisco固有ではなく、ドル建てベンダー資格全体の現象
- 円建て国家資格は為替と無縁。基本情報技術者試験は四半世紀で+2,400円(5,100円→7,500円)
- LPICも日本では円建て運用。為替で分けるならベンダー資格 対 国家資格・Linux系の線引きが実態に合う
- 効くのは受験料の単価ではなく更新コスト。10年累積でCCNA約19万円、国家資格7,500円で約25倍の差
- CCNAだけ個人が使える割引がほぼない。会社の補助制度の有無が経済性を決める最大の変数
- 合格率・合格点はCisco非公表。825点も30%も非公式推定。模擬試験85%以上を実質基準に置く
- 年次別では、若手=国家資格を起点に求人要件次第でCCNA、中堅=受験せず穴埋めに使う、ベテラン=更新の要否を立場から判断
よくある質問(FAQ)
Q. CCNAとCompTIA Network+はどちらが高いですか?
2026年8月時点ではCompTIA Network+($399)のほうが高くなっています。Network+は2015年頃の$294から約11年で+36%上昇しました。CCNAは2020年に$300へ設定されてから6年間据え置きです。
Q. CCNAと基本情報技術者試験では、どちらから取るべきですか?
費用面だけで見れば基本情報技術者試験(7,500円・生涯有効)が先です。為替リスクも更新コストもありません。CCNAは3年ごとの更新があり、10年累積で約19万円になります。CCNAが求人要件に実際に入っている場合、または会社の受験料補助がある場合は、その順序にこだわる必要はありません。
Q. CCNAの更新は必要ですか。費用はいくらですか?
3年ごとの再認定が必要です。継続教育クレジット(CE)による更新も可能ですが、実務上は再受験を選ぶ人が多く、その場合は初回と同額の46,860円がかかります。10年で初回+3回、累計約187,440円という計算になります。
Q. CCNAの合格率と合格点を教えてください。
Ciscoはどちらも公表していません。広く引用される825/1000点はコミュニティの推定値で、Cisco公式値ではありません。またスケールドスコアの825点は82.5%正解を意味しません。合格率の推定は情報源によって20%から85%まで開きがあり、母集団と分母の定義が揃っていないため計画には使えません。
Q. 失効したCCNAは履歴書に書けますか?
事実として記載することはできますが、採用市場での評価はほぼありません。現在の技術水準の証明にならないためです。失効を気にするより、範囲のうちどこが自分に残っていて、どこが空いているかを説明できるほうが実務では効きます。
Q. 会社が受験料を出してくれる場合、CCNAは取るべきですか?
補助があるなら費用の論点は消えるので、求人要件と学習時間だけで判断できます。10年19万円という累積コストが最大の抑止要因なので、それが外れると判断は大きく変わります。
Q. AWSやAzureの資格と比べて、CCNAは割高ですか?
単価ではCCNA(46,860円)がAWS SAA(20,000円)やAZ-900(12,500円)より高くなります。ただしAWSも3年更新で、10年累積では約8万円です。差が最も大きいのは割引制度で、AWSは合格ごとに次回50%割引、Azureは無料バウチャーの配布実績があるのに対し、CCNAには受験するだけで次回が安くなる仕組みがありません。
このシリーズの他の記事
CCNAを4つの時点で比べた調査を、4本に分けて公開しています。
- CCNAの受験料はなぜ上がったのか——値上げの正体は円安だった
- CCNA v2.0は2027年2月3日から——6ドメインが5ドメインになる
- CCNAから消えた技術と、残った技術——昔取った知識はどこまで使えるか
受験料も更新制度も、認定機関の都合で変わります。CompTIAやAWSの価格改定、Ciscoの更新要件の変更が確認できた時点で、本記事の比較表は更新します。
このブログでは、ネットワークとクラウドの実務、資格とキャリアの意思決定、そしてMBAで扱う経営の視点を横断して書いています。IT業界で25年、通信キャリアのネットワークエンジニアから始めて、いまは大手企業のIT部門で仕事をしている立場からの見方です。一次情報にあたり、数字を分解して、通説が正しいかを確認してから書くようにしています。
資格の話でいちばん困るのは、いくらかかるかではなく、その金額を出す価値があるかの判断材料が揃わないことだと思っています。この記事がその材料になっていれば幸いです。
出典と注記
- Cisco Learning Network(CCNA 200-301の受験料・更新要件)|learningnetwork.cisco.com
- 情報処理技術者試験の受験手数料7,500円|IPA 情報処理推進機構(2021年7月16日発表、2022年4月適用)
- CompTIA各試験の価格|CompTIA(2026年6月の全ラインアップ改定後)
- AWS認定の価格・2024年4月の円建て改定|AWS 認定
- Microsoft認定の価格|Microsoft Learn
- LinuC/LPICの価格|LPI-Japan
信頼度の注記
| 項目 | 確度 | 補足 |
|---|---|---|
| CCNA・国家資格・AWS・Azureの現在価格 | 高 | 各機関の公表値 |
| CompTIA Network+の2015年・2018年ドル価格 | 中 | 一次情報(CompTIA公式・アーカイブ)未確認。二次情報ベースの推定 |
| 10年累積コスト | 本記事の試算 | 現行価格が10年据え置かれる前提。割引・会社補助・CE更新の費用差は考慮しない |
| 合格率・合格点 | すべて非公式推定 | Cisco公式値は存在しない |
| CCNA保有者数「100万件超」 | 中 | 第三者研修機関の記述。Cisco一次公表ではない |
| 求人需要トレンド | 未確認 | 各資格の入口としての位置づけは定性的記述にとどめた |
10年累積コストは現行価格の据え置きを前提とした試算です。実際には為替と価格改定で変動します。CCNAの円価格は2024年2月に税込42,900円から46,860円へ改定されており、本記事は現行の46,860円を基準としました。42,900円を載せている媒体はまだ多く残っています。


