
2000年代前半、通信キャリアで拠点のネットワークを見ていた頃は、作業の入口が「このセグメントに何のプロトコルが流れているか」の確認でした。IPだけとは限らなかったからです。フロアによってはIPX/SPXが残っていて、古い部署にはAppleTalkの端末がぶら下がっていた。
その確認作業は、数年で消えました。同じ時期に、CCNAの出題範囲からもAppleTalkとトークンリングが落ちています。
CCNAの改訂は、ネットワークの現場で何が使われているかを映す鏡です。何が消えたかを並べると、この25年に何が起きたかがそのまま出てきます。そして消えなかったものを見ると、学習投資としてどこが長持ちするかが分かります。
この記事では、CCNAの出題範囲を4つの時点で並べ、入れ替わった技術と、四半世紀動かなかった核を整理します。
この記事でわかること
- CCNAから消えていった技術と、それが消えた時期・背景
- 代わりに入ってきた技術と、2020年の改訂が持っていた意味
- 25年ほぼ変わっていない中核領域はどこか
- 学習投資の耐用年数が、領域によって10倍違うこと
- 単一・分割・単一へと戻った受験形式の変遷
- ブランクがある人が埋めるべき3か所
CCNAから消えていった技術|AppleTalk、トークンリング、ISDN、フレームリレー

まず消えたものから見ます。
| 時期 | 出題範囲から外れた項目 |
|---|---|
| 2000年前後 | AppleTalk、トークンリング(640-407→640-507で削除)、IPX/SPX、16進変換(640-607期に削除進行) |
| 2003〜2010年前後 | IGRP(EIGRPへ置き換え)、RIPv1、ISDN(640-802で削除)、SDM |
| 2020年前後 | フレームリレー(この頃までに消滅)、専門別9トラック(統合により消滅) |
| 現在(v1.1、2024年8月〜) | Puppet/Chef、DNA Center中心の記述 |
この一覧は、そのままネットワーク現場の歴史です。
AppleTalk、IPX/SPX、トークンリングが消えたのは、EthernetとTCP/IPへの一本化が終わったからです。 冒頭に書いた「何が流れているか確認する」という手順自体が不要になった。いまの若手には、そういう作業が存在したこと自体が伝わりにくいと思います。
ISDNとフレームリレーの退場は、拠点間接続がブロードバンドとMPLSに移った結果です。 ISDNのバックアップ回線設計は当時のCCNAの定番論点で、DDR(ダイヤルオンデマンドルーティング)の設定を暗記した人は多いはずです。回線が落ちたときだけダイヤルアップで繋ぎ、一定時間トラフィックが流れなければ切る。あの設計思想は今のフェイルオーバーにも通じますが、設定コマンドそのものにはもう価値がありません。
IGRPがEIGRPに置き換わったのは、プロトコルの世代交代です。 Cisco独自の距離ベクトル型から、拡張版へ。RIPv1が消えてVLSMとクラスレスが入ったのも同じ時期で、アドレス設計の考え方が変わった節目にあたります。
Puppet/Chefが2024年のv1.1で落ちたのは、構成管理ツールの世代交代です。 同じ枠にAnsibleとTerraformが入りました。わずか4年でツール名が入れ替わるのが、自動化領域の現在の速度です。
自社ECサイトや動画配信、社内外向けAPIをインターネット経由で提供し、ピーク帯域の逼迫が事業影響に直結する企業のネットワーク基盤担当にとって、通信量の記録更新は他人事ではない。数百〜数万人規模の企業で複数拠点や海外拠点とのトラフィックを[…]
CCNAに入ってきた技術|無線、セキュリティ、自動化、そしてAI
次に加わったものです。
| 時期 | 新しく加わった項目 |
|---|---|
| 2000年前後 | IOS 12.x、スイッチングの比重増、シミュレーション問題(640-607) |
| 2003〜2010年前後 | VLSM/クラスレス、RIPv2、単一エリアOSPF、EIGRP、無線の基礎、VPNの概念、NAT、IPv6、セキュリティ基礎、RSTP、スイッチセキュリティ、トラブルシューティング |
| 2020年前後 | 自動化とプログラマビリティ(新設10%:Python、REST API、JSON、Ansible)、SDN/コントローラベース、無線の本格化、クラウドの概念 |
| 現在(v1.1) | 生成AI・予測AI・機械学習の説明、クラウドでのネットワーク管理、Ansible/Terraform |
節目は2つあります。
ひとつは2002年のシミュレーション問題の導入です。それまでのCCNAは知識の確認が中心でしたが、ここから設定できるかを問う試験に変わりました。2007年の640-802で単価が$125から$250へ上がったのも、この方向の延長にあります。
もうひとつが2020年です。この改訂で自動化とプログラマビリティが独立ドメインとして10%を占めました。CCNAでPython、REST API、JSONが問われるようになったのはこのときからです。 CLIだけで完結していた資格に、コードが入りました。
現行の200-301 v1.1のドメイン構成比は次のとおりです。
| ドメイン | 比率 |
|---|---|
| 1.0 ネットワークの基礎 | 20% |
| 2.0 ネットワークアクセス | 20% |
| 3.0 IPコネクティビティ | 25%(最大) |
| 4.0 IPサービス | 10% |
| 5.0 セキュリティの基礎 | 15% |
| 6.0 自動化とプログラマビリティ | 10% |
出題数は約100〜120問、試験時間120分です。
なお2000年時点・2010年時点は、Ciscoが現在のようなパーセンテージ配点のブループリントを同じ形式で公表していませんでした。そのため構成比の厳密な時系列比較はできず、項目ベースの比較にとどめています。
主要システムをAzureのWest US(米国西部)リージョン単一に集約し、複数リージョンへの分散やDR(災害復旧)計画をまだ具体化していない企業のインフラ担当者は、この障害の技術的経緯を無視できない。2026年7月23日14時44分(U[…]
25年変わらなかった部分|サブネッティングとルーティングの核
ここが、この記事でいちばん伝えたい部分です。
消えたものと入ってきたものを並べると変化ばかりに見えますが、中核は四半世紀ほとんど動いていません。
- TCP/IPとOSI参照モデル
- サブネッティングとアドレス設計
- スイッチング、VLAN、STP
- スタティックルーティングとOSPF
- ケーブル、インターフェース、疎通確認の手順
640番台で問われていたこれらは、200-301でもほぼそのまま問われます。しかも最大配点のIPコネクティビティ(25%)は、この核の中心です。2027年2月開始のv2.0では、基礎にあたる領域(インフラと接続+スイッチングとアクセス)が計50%へ増えます。比重はむしろ上がります。
実務でも同じです。私はいま通信ネットワークとクラウド基盤の両方を見ていますが、クラウド側で起きる障害の切り分けに使っている道具は、結局サブネットとルートテーブルと名前解決です。マネージドサービスの層がどれだけ厚くなっても、下に落ちれば同じ場所に着地します。
ここから言えるのは、学習投資の耐用年数は領域によって10倍違うということです。
| 領域 | 耐用年数の実績 |
|---|---|
| サブネッティング、TCP/IP、STP、OSPF | 25年以上(現役) |
| 無線、セキュリティ基礎、IPv6 | 15年以上(現役) |
| ISDN、フレームリレー | 約10年で消滅 |
| DNA Center中心の記述 | 約4年で削減 |
| Puppet/Chef | 約4年で削除 |
時間配分をどちらに寄せるかは、ここから逆算できます。若手の方であれば、サブネッティングを面倒がって飛ばすのが最も損な選択です。25年もつことが実証されている数少ない領域を、最初に捨てることになります。
試験の受け方も変わった|単一・分割・単一への回帰
出題範囲だけでなく、受験の形も変わっています。
| 項目 | 2000年前後 | 2010年前後 | 2020年前後 | 現在(2026年8月) |
|---|---|---|---|---|
| 単一/分割 | 原則単一(2003年の640-801から分割を導入) | 単一と分割の2経路 | 単一のみ(ICND/CCENT廃止) | 単一のみ |
| 試験時間 | 75分→90分 | 単一90分/ICND1 90分・ICND2 75分 | 120分 | 120分 |
| 問題数 | 約55〜70問 | 単一50〜60問 | 約100〜120問 | 約100〜120問 |
| シミュレーション | 640-607から導入 | あり | あり | あり |
| 言語 | 日本語/英語 | 日本語/英語 | 日本語/英語 | 日本語/英語 |
問題数が50〜60問から100〜120問へ、ほぼ倍になっているのが目につきます。試験時間も90分から120分へ延びました。範囲が広がったぶん、1問あたりに使える時間は減っています。
分割受験は2003年から2019年まで存在し、2020年の統合で消えました。当時の日本ではICND1とICND2が各科目 税抜15,000円で、合計 税込31,500円。単一受験とほぼ同額でした。分けても損をしない設計だったわけです。
一方、米国では2012年以降ICNDが各$200で合計$400となり、単一の$295より割高でした。同じ制度でも、国によって経済合理性が逆転していたことになります。
現在は単一のみです。学習を2段階に切って半年ずつかける戦略は取れません。 範囲が広い状態で一度に受け切る前提で計画を組む必要があります。
ブランクがある人が埋めるべき3か所
昔CCNAを取った、あるいはCisco機器を触っていたが、しばらく離れている。この状態の人がいちばん知りたいのは、どこから手をつけるかだと思います。
結論として、埋めるべきは3か所です。
1. 自動化とプログラマビリティ(現行10%)
Python、REST API、JSON、Ansible、Terraform。ここは2020年以降に新設された領域で、それ以前の知識では一切カバーできません。ただし出題はコードを書かせるものではなく、概念と読み取りが中心です。範囲は明確で、短期で埋まります。
2. セキュリティ(現行15%)
2010年前後の基礎に、スイッチセキュリティ、アクセス制御、VPNの具体が積み増されています。2027年のv2.0ではLayer 2セキュリティ(DHCPスヌーピング、Dynamic ARP Inspection、ストーム制御、RAガード、ポートセキュリティ)を含む実務寄りの内容へ再編されます。
3. クラウド上のネットワーク管理
現行v1.1でクラウドネットワーク管理と、生成AI・予測AIの説明が加わりました。オンプレミスの経験しかない場合、ここが最も距離があります。
逆に言えば、これ以外は昔の知識がそのまま通用します。 ブランクがある人ほど、もう全部古いと考えがちですが、実際に古くなっているのは周縁だけです。核は残っている。埋めるべき範囲が3つに絞れると分かれば、再開のハードルはかなり下がります。
まとめ|CCNAの25年で入れ替わったもの
- 消えた技術:AppleTalk、トークンリング、IPX/SPX(2000年前後)、IGRP、RIPv1、ISDN(2003〜2010年)、フレームリレー(2020年前後)、Puppet/Chef(2024年)
- 入ってきた技術:シミュレーション問題(2002年)、VLSM・OSPF・EIGRP・NAT・IPv6・無線・セキュリティ(2003〜2010年)、自動化とプログラマビリティ(2020年、10%で新設)、生成AI・予測AI(2024年)
- 25年変わらない核:TCP/IP、サブネッティング、スイッチング/VLAN/STP、OSPF。最大配点のIPコネクティビティ(25%)はこの中心
- 学習投資の耐用年数は領域で10倍違う。サブネッティングは25年、Puppet/Chefは4年
- 受験形式は単一→分割併存→単一へ回帰。問題数は50〜60問から100〜120問へ倍増
- ブランクがある人が埋めるべきは、自動化・セキュリティ・クラウドの3か所だけ
よくある質問(FAQ)
Q. 昔取ったCCNAの知識は、いまも通用しますか?
中核部分は通用します。TCP/IP、サブネッティング、VLAN、STP、OSPFは25年ほぼ変わっていません。通用しないのはISDN、フレームリレー、IPX/SPX、IGRPといった周縁の技術です。埋めるべき範囲は自動化とプログラマビリティ、セキュリティ、クラウド上のネットワーク管理の3領域に絞られます。
Q. フレームリレーやISDNは、いつCCNAから消えましたか?
ISDNは2007年の640-802で削除されました。フレームリレーは2020年の200-301への刷新までに消滅しています。どちらも拠点間接続がブロードバンドとMPLSへ移った結果です。
Q. CCNAでプログラミングは必要ですか?
2020年の200-301から、自動化とプログラマビリティが10%の配点で加わりました。Python、REST API、JSONが範囲に入ります。ただしコードを書かせる出題ではなく、概念の理解と読み取りが中心です。2027年のv2.0では独立分野ではなくなり、AI・運用管理の分野に統合されます。
Q. サブネッティングは飛ばしても合格できますか?
最大配点のIPコネクティビティが25%を占め、サブネッティングはその中心です。しかも2027年のv2.0では基礎の比重が50%へ増えます。25年間ずっと出題され続けている領域なので、時間対効果としても最初に固めるべき場所になります。
Q. 出題数と試験時間は昔と比べてどう変わりましたか?
2010年前後は50〜60問・90分でしたが、2020年の200-301から約100〜120問・120分になりました。問題数がほぼ倍になり、1問あたりに使える時間は減っています。
Q. 分割受験(ICND1・ICND2)はもうできませんか?
2020年の200-301への統合で廃止されました。現在は単一試験のみです。学習を2段階に分けて期間を空ける戦略は取れません。
このシリーズの他の記事
CCNAを4つの時点で比べた調査を、4本に分けて公開しています。
- CCNAの受験料はなぜ上がったのか——値上げの正体は円安だった
- CCNA v2.0は2027年2月3日から——6ドメインが5ドメインになる
- CCNAは受験料より更新コスト——他資格と並べた10年の保有コスト
出題範囲は現場で使われている技術に連動して動きます。2027年2月のv2.0の公式試験トピックは既に公開されており、本記事のv2.0に関する記述はそれに基づきます。改訂が確認できた時点で、本記事の比較表は更新します。
このブログでは、ネットワークとクラウドの実務、資格とキャリアの意思決定、そしてMBAで扱う経営の視点を横断して書いています。IT業界で25年、通信キャリアのネットワークエンジニアから始めて、いまは大手企業のIT部門で仕事をしている立場からの見方です。一次情報にあたり、数字を分解して、通説が正しいかを確認してから書くようにしています。
出典と注記
- Cisco Learning Network(CCNA 200-301の試験トピック・ブループリント)|learningnetwork.cisco.com
- CCNA v2.0 公式試験トピック一覧(一次情報)|200-301_CCNA_v2.0_Exam_Topics(PDF)
- 各時点の出題項目(640-407/640-507/640-607/640-801/640-802/200-301)|Cisco旧試験ページおよび各時点の対策教材・技術メディア(二次情報)
信頼度の注記
| 項目 | 確度 | 補足 |
|---|---|---|
| 現行v1.1のドメイン構成比 | 高 | Cisco公式ブループリント |
| 各技術の削除・追加時期 | 中〜高 | Cisco旧試験ページと複数の二次情報で整合。年単位の誤差はあり得る |
| 2000年・2010年のドメイン構成比 | 不明 | 当時のブループリント形式が現在と異なるため厳密比較は不可。項目ベースの比較にとどめた |
| 問題数・試験時間 | 高 | 各時点の公式情報 |
出題項目の削除時期は、試験コードの切り替わりと段階的な範囲縮小が重なるため、厳密な日付を特定できないものがあります。本記事は試験コード単位での比較にとどめています。

