
インドアゴルフ急増と日本のゴルフ人口構造変化:データで読む2026年の実態
「データで読む 2026年5月のゴルフ業界」第4回
インドアゴルフ施設が4年間で45%増加し1,518件に達した一方、屋外練習場は141件減少しました。ゴルフ人口は912万人とも480万人とも言われ、統計によって数字が大きく異なります。この記事では複数のデータソースを突き合わせ、日本のゴルフ市場で何が起きているのかを構造的に整理します。
この記事でわかること
- インドアゴルフ施設の急増と屋外練習場の減少、具体的な数字の推移
- 「ゴルフ人口912万人」と「480万人」、2つの統計が示す意味の違い
- 20〜30代・女性ゴルファー増加の背景と、インドア施設との関係
- IT業界の「オンプレからクラウドへの移行」との構造的類似性
- 2026年以降、インドアゴルフ市場が直面する淘汰と成長の分岐点
インドアゴルフ施設数の推移:4年で1,045件から1,518件へ
日本のゴルフ練習場は、施設の形態ごとに明暗が分かれています。インドア施設は2019年の1,045件から2023年には1,518件へと、4年間で473件(+45%)増加しました。一方、屋外練習場は同期間に2,463件から2,322件へと141件減少しています。
2024年度の全国練習場総数は2,932件で、3年連続の増加です。この増加はインドア施設の新規出店が屋外の閉鎖を上回っている結果であり、練習場市場の構成比が年々変わっていることを意味します。
練習場施設数の推移(2019年→2023年)
| 区分 | 2019年 | 2023年 | 増減 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| インドア | 1,045件 | 1,518件 | +473件 | +45.3% |
| 屋外 | 2,463件 | 2,322件 | -141件 | -5.7% |
地域別に見ると、偏在が顕著です。インドア施設のうち関東が933施設で全体の61.5%を占め、さらに東京都だけで596施設(39.3%)に集中しています。駅近・小面積で出店できるインドアの特性が、地価の高い都市部でこそ強みになっている構図です。
主要インドアゴルフチェーンの規模
| チェーン名 | 店舗数 | 特徴 |
|---|---|---|
| ステップゴルフ | 137店舗 | 累計会員約10万人、月額約5,000円〜 |
| ZEN GOLF RANGE | 53店舗 | シミュレーター完備 |
| チキンゴルフ | 32店舗 | レッスン特化 |
| わたしのゴルフ | 30店舗以上 | 24時間営業・駅近特化 |
ステップゴルフは5年後500店舗を目標に掲げており、コンビニ型の多店舗展開モデルを志向しています。「わたしのゴルフ」は開業資金2,500万円、投資回収約3年というFC向けの数字を公開しており、参入障壁の低さがインドア急増の一因です。
ゴルフ人口「912万人」と「480万人」の乖離:定義で変わる市場の見え方
日本のゴルフ人口を語るとき、2つの代表的な統計が異なる数字を示しています。笹川スポーツ財団の調査では912万人(年1回以上、コース+練習場を含む)。一方、レジャー白書2025では480万人(コースラウンドのみ、前年比-9.4%)で、ついに500万人を割りました。
この432万人の差は、「コースには行かないが練習場で打っている層」の存在を示唆しています。インドアゴルフの急増と重ね合わせると、「練習場だけのゴルファー」が400万人規模で存在する可能性があるということです。
ゴルフ人口統計の比較
| 統計ソース | 人口 | 定義 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 笹川スポーツ財団 | 912万人 | 年1回以上(コース+練習場) | 広義のゴルフ参加者 |
| レジャー白書2025 | 480万人 | コースラウンドのみ | 前年比-9.4%、500万人割れ |
| 差分 | 約432万人 | — | 「コースに行かないゴルファー」層 |
IT業界に置き換えると、この構造はクラウドの普及に似ています。かつて「ITインフラを使う」とは自社サーバールームに物理機器を持つことでした。クラウドが登場して以降、サーバーを一台も持たずにITサービスを利用する企業が急増しました。ゴルフでも同じことが起きています。「ゴルフをする」の定義が「コースに行く」から「シミュレーターで打つ」へ広がり、従来の統計フレームでは捉えきれない層が生まれているのです。
データを読む側にとって重要なのは、どちらの数字が正しいかではなく、定義の違いを理解したうえで両方を使い分けることです。コース市場を見るならレジャー白書、ゴルフ関連消費全体を見るなら(ゴルフウェア市場の構造変化も参照)笹川財団の数字が適切です。
インドアゴルフ急増の要因分析:なぜ屋外からインドアへ移行するのか
インドアゴルフ施設が急増している背景には、複数の構造要因が重なっています。
第一に、利用者層の変化です。 20代が32.2%で最多、30代が23.8%を占め、20〜30代で利用者の56%に達しています。新規ゴルファーの40.5%が女性であり、特に女性20代のゴルフ実施率は2024年に6.0%と過去最高を記録しました(2022年比+4.0ポイント)。若年層と女性は、仕事帰りにアクセスしやすい駅近・短時間利用を好む傾向があり、インドア施設のビジネスモデルとの親和性が高いのです。
第二に、ビジネスモデルの優位性です。 開業コストと必要面積の差が、参入障壁に直結しています。
インドア vs 屋外:ビジネスモデル比較
| 項目 | インドア | 屋外 |
|---|---|---|
| 開業費用 | 1,000万〜3,000万円 | 4,000万〜5,000万円 |
| 必要面積 | 25〜30坪 | 広大な土地 |
| 課金モデル | 月額会員制(サブスク) | 都度課金 |
| 投資回収 | 約3年 | 長期 |
| 立地 | 駅近・商業ビル内 | 郊外 |
ここでもIT業界との類似性が見えます。屋外練習場はオンプレミスのデータセンターに相当します。広大な土地と大規模な初期投資が必要で、一度建設したら移転は容易ではありません。インドアゴルフはクラウドサービスです。小さな区画で始められ、需要に応じてスケールアウト(多店舗展開)でき、月額課金で安定収益を得られます。
第三に、テクノロジーの進化です。 シミュレーション技術の高度化がインドアの体験価値を引き上げています。韓国GOLFZONは2025年1月に新モデル「TWOVISION NX」を日本市場に投入しました。グローバルのゴルフシミュレーター市場は2024年の10.3億ドルから2033年に24.3億ドルへ成長が見込まれており(年平均成長率9.8%)、技術競争が施設の魅力向上を後押ししています。
第四に、2025年問題の影響です。 団塊世代が75歳以上になり、免許返納や健康上の理由でコースから離れるゴルファーが増加しています。屋外練習場やゴルフ場の主要顧客だったシニア層の退出は、既存施設の経営を圧迫する一方、インドア施設にとっては若年層取り込みの追い風になっています。
2026年のインドアゴルフ市場:淘汰期と成長の分岐点
インドアゴルフ市場はすでに「作れば儲かる」フェーズを過ぎつつあります。GOLFZONの分析によれば、2024年は「開店と閉店がほぼ同数」という状況が生まれました。これは市場が飽和に向かっているのではなく、淘汰期に入ったことを意味しています。
IT業界で言えば、クラウドサービスの黎明期にIaaSベンダーが乱立し、その後AWS・Azure・GCPの寡占に収束していった流れと重なります。ゴルフ練習場市場でも同様の構造が見え始めています。
都市と地方の二極化
地域別の需給バランスに大きな差が出ています。東京都には596施設が集中していますが、それでもGOLFZONは「市場は飽和ではなく成長段階」と分析しています。都市部では駅前の好立地を確保できれば依然として高い稼働率を維持できるためです。一方、地方では人口減少に加え、屋外練習場との価格競争にさらされやすく、供給過多のリスクが高まっています。
生き残りの戦略策定の方向性
船井総研は「ハイブリッド型インドアゴルフ業態」が成功のカギだと指摘しています。練習だけでなく、フィットネス・コミュニティ・イベントを組み合わせた複合型の業態です。
IT業界に例えるなら、IaaSだけで勝負するのではなく、PaaS・SaaS・マネージドサービスを組み合わせて顧客の「ロックイン」を実現する戦略に近いものがあります。月額5,000円の打席利用だけでは差別化が難しいため、レッスン・データ分析・コミュニティ運営といった付加価値で会員の継続率を高める方向に向かうのは自然な流れです。
ステップゴルフの500店舗構想やわたしのゴルフのFC展開は、スケールメリットによるブランド認知とコスト競争力の確保を狙っています。個人経営のインドア施設が淘汰される中で、チェーン化による寡占が進む可能性は高いと見ています。
経営戦略フレームワークで見るインドアゴルフ市場
インドアゴルフ市場の動きは、MBAで学ぶ経営戦略のフレームワークで整理すると構造がよく見えます。
STP分析の視点では、インドアゴルフは従来の「郊外・シニア男性・週末利用」というゴルフ市場のセグメントから、「都市部・20〜30代・女性・平日夜」という新セグメントを切り出してターゲティングに成功しています。ステップゴルフの月額5,000円という価格設定は、この新セグメントに対する明確なポジショニングです。
マーケティング・ミックス(4P)の視点で見ると、Product(シミュレーター+レッスン)、Price(月額サブスク)、Place(駅前・商業ビル内)、Promotion(SNS・口コミ)のすべてが、従来の屋外練習場とは異なる設計になっています。特にPlaceの転換が決定的で、「ゴルフの練習は郊外に行くもの」という前提を覆しました。
サービス・マネジメントの視点も重要です。インドアゴルフは「練習の場所」を提供しているだけではなく、「上達の実感」「コミュニティへの所属感」「データで可視化される成長」といった体験価値を設計しています。顧客満足から顧客ロイヤルティへの転換、つまり「打席の利用」から「月額会員の継続」へとつなげる仕組みが、サブスクモデルの肝です。単に満足させるだけでなく、感動体験を設計できるかどうかが会員継続率を左右します。
アマチュアゴルファーとしての実感と今後の視点
私自身、インドア練習場を利用する機会が増えています。仕事帰りに30分だけスイングチェックしたいとき、駅前のインドア施設は圧倒的に便利です。シミュレーターのデータで打球の傾向を確認し、週末のラウンドに反映させるサイクルが定着しました。自宅でもヘッドスピードやミート率を手軽に計測できるユピテルのGST-8 BLEは、データドリブンな練習の入口として重宝しています。
ただし、インドアとコースは別物だという感覚も持っています。芝の感触、風の読み、傾斜の判断――これらはシミュレーターでは再現しきれません。インドアで技術を磨き、コースで実践する。この使い分けが定着すれば、ゴルフ人口の定義も変わっていくのではないでしょうか。
IT業界では「ハイブリッドクラウド」という概念が定着しました。すべてをクラウドに移すのではなく、オンプレミスとクラウドを目的に応じて使い分けるアーキテクチャです。ゴルフの練習環境も同様に「ハイブリッド型」へ移行しているように思います。平日はインドアで効率よく反復練習、週末は屋外やコースで実戦感覚を養う。この組み合わせが、コースラウンド回数に依存しない新しいゴルフの楽しみ方をつくっています。
今後注目しているのは、インドア施設の利用データがゴルファーの行動分析にどう活用されるかです。シミュレーターは毎回のスイングデータを蓄積しています。このデータが練習メニューの自動提案やコース攻略のアドバイスに活用されるようになれば、インドアの価値は「打席」から「データプラットフォーム」へと変わります。
まとめ:数字が示す日本ゴルフ市場の構造変化
日本のゴルフ市場は、練習環境・利用者層・ビジネスモデルの3つの軸で構造的な変化が進んでいます。
- 施設構成の転換: インドアが4年で45%増加し、屋外は減少。練習場のポートフォリオが都市型・小規模・サブスク型にシフトしている
- ゴルフ人口の再定義: 912万人と480万人の差は「コースに行かないゴルファー」400万人超の存在を示唆。従来の統計フレームでは市場を正確に測れない
- 利用者層の若返り: 20〜30代が56%、新規の40.5%が女性。シニア依存から多様化へ移行中
- 淘汰と寡占化: 開店と閉店が同数の局面に入り、チェーン展開による寡占化が進む見通し
- ハイブリッド型の定着: インドアとコースの使い分けが新しいゴルフスタイルとして定着しつつある
IT業界がオンプレミスからクラウドへ、そしてハイブリッドへと移行したように、ゴルフの練習環境も不可逆な構造変化の途上にあります。数字を正しく読むことが、この変化の本質を理解する第一歩です。
情報ソース
- 笹川スポーツ財団: ゴルフ人口データ(2026年5月8日アクセス)
- クオリティーゴルフ: レジャー白書2025 ゴルフ人口480万人(2026年5月8日アクセス)
- 一季出版: インドアゴルフ施設1518施設に(2026年5月8日アクセス)
- KGR: ゴルフ練習場経営の概況(2026年5月8日アクセス)
- アドウェル調査: インドアゴルフ練習場 女性・若者増加(2026年5月8日アクセス)
- 日本経済新聞: ゴルフ業界襲う2025年問題(2026年5月8日アクセス)
- ALBA Net / GOLFZON分析: インドアゴルフ市場は飽和か(2026年5月8日アクセス)
- 日経ビジネス: ステップゴルフ 全国500店の野望(2026年5月8日アクセス)
シリーズ「データで読む 2026年5月のゴルフ業界」
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よくある質問(FAQ)
Q1. インドアゴルフ施設は全国にどのくらいありますか?
2023年時点で1,518件です。2019年の1,045件から4年間で45%増加しました。ただし地域偏在が大きく、関東が全体の61.5%、東京都だけで39.3%を占めています。2024年度の練習場総数(インドア+屋外)は2,932件で3年連続の増加です。
Q2. 日本のゴルフ人口は実際のところ何万人ですか?
統計の定義によって大きく異なります。笹川スポーツ財団の調査では912万人(年1回以上、コースと練習場を含む)、レジャー白書2025では480万人(コースラウンドのみ)です。この約430万人の差は、コースには行かず練習場だけで楽しむ層の存在を反映しています。どちらが正しいかではなく、目的に応じて使い分ける必要があります。
Q3. インドアゴルフはもう飽和状態ですか?
一概には言えません。2024年には「開店と閉店がほぼ同数」という分析がある一方、GOLFZONは「市場は飽和ではなく成長段階」としています。都市部ではまだ需要が供給を上回る地域がある一方、地方では供給過多のリスクが指摘されています。今後はチェーン化と差別化が進み、淘汰と成長が同時に起こる局面が続くと考えられます。
Q4. なぜ若い世代や女性のゴルフ参加が増えているのですか?
インドア施設の駅近・短時間・定額制というモデルが、仕事帰りの利用や初心者の心理的ハードルの低下につながっています。利用者の20代比率は32.2%で最多、新規ゴルファーの40.5%が女性です。特に女性20代のゴルフ実施率は2024年に6.0%と過去最高を記録しており、従来のゴルフの「おじさんの趣味」というイメージからの転換が進んでいます。
Q5. インドアゴルフとコースでの練習、どちらが上達に効果的ですか?
目的が異なるため、使い分けが効果を高めます。インドアはスイングの反復練習やデータ分析に優れ、短時間で集中して技術課題に取り組めます。コースは芝の感触、風、傾斜判断など実戦でしか得られない感覚を養えます。平日はインドアで効率よく反復し、週末にコースで実践する「ハイブリッド型」の練習スタイルが合理的です。
