
2026年、年会費を値上げするゴルフ場は211コースに達する見込みだ。2025年の93コースを大幅に超える見込みだ[1]。年会費とは、プレーの都度払うグリーンフィーとは別に、会員が資格維持のために毎年払う固定費を指す。値上げの引き金を引いたのは中小ではなく、PGM・アコーディア・ゴルフという大手2社だった[1]。
興味深いのは、同じ時期に値上がりしているのが年会費だけではないことだ。会員権の名義書換にかかる名変料も、同じ時期に引き上げたコースがある[2]。一方でビジター向けのプレーフィーは、コース間の価格競争が激しく大きくは上げにくいという事情がある[3]。
普段ビジターとして安いコースを選んで回っている読者への影響は限定的だ。しかし会員権を持つ、あるいはこれから会員になるかを検討している読者には直結する。ビジネスの読者にとっては、この値上げの組み合わせ方自体が、顧客を動けなくする価格戦略の教科書的な型に見える。
なぜゴルフ場はビジター料金でなく年会費を上げるのか
人件費や肥料代、電気代の上昇はゴルフ場経営に共通する外部要因だ。ただしコース側が価格に転嫁できる先は一様ではない。ビジター料金は予約サイトで他コースと横並びに比較され、高いと予約自体が入らない。値上げが難しいのはこのためだ[3]。
会員は事情が異なる。預託金制のコースでは入会時にまとまった資金を預けており、退会するにはその会員権を誰かに買ってもらう必要がある[1]。値上げされても、その場でよそへ移る自由度はビジターほど高くない。

値上げ幅はコースによって差があるが、いずれも据置期間が数年〜数十年ぶりの改定であることが多い。大利根カントリークラブは2004年以来21年ぶりの改定で、6万6,000円から13万2,000円へちょうど2倍になった[4]。据え置いてきた分を一度に取り返す動きとも読める。
ビジターと会員で値上げのしやすさが違う。これは経営側が意図的に選んだというより、価格を比較されやすいかどうかという市場構造の違いが結果として表れたものと見るのが妥当だ。
顧客が動けなくなる仕組みを価格理論として体系立てて解説した定番書。会員権という『預託金型ロックイン』の構造を理解する土台になる一冊。
名変料の同時値上げは何を意味するのか
名変料の額はコースが独自に設定しており、全国一律の基準はない。埼玉県の嵐山カントリークラブは2022年、名変料を220万円から550万円へ引き上げた[4]。千葉県の袖ヶ浦カンツリークラブも2026年1月、220万円から330万円へ改定している[2]。

名変料は、会員権を買った人が入会時にゴルフ場へ納める一時金で、年会費のように毎年かかるものではない[4]。払うのは買い手だが、効いてくるのは売る側だ。買い手が用意できる総額が変わらないなら、名変料が上がった分は会員権そのものの価格から差し引かれる。
年会費が「留まるコスト」を上げる値上げだとすれば、名変料は買い手の入りにくさを通じて「抜けるときの手取り」を下げる値上げになる。出典[4]では業界関係者が、名変料が上がれば買い手が減り、新規会員が抑えられることで予約が取りやすくなるという運営側の狙いを挙げている。理由が会員の固定であれ新規の抑制であれ、既存会員から見れば、留まるコストと抜けるときの手取りが同じ時期に動いている点は変わらない。
会員制ビジネスの解約構造を扱った本で、破綻した名門ゴルフクラブを章の事例に挙げている。会員をつなぎとめる側の実務を知りたい読者に。
スイッチングコストとロックインとは何か
経済学でスイッチングコストとは、ある取引先や商品から別のものへ乗り換えるときに発生する費用や手間を指す。金額換算できる手数料だけでなく、手続きの煩雑さや心理的な抵抗も含む概念だ[5]。スイッチングコストが十分に高いと、顧客は不満があっても乗り換えず、その場に留まり続ける。この状態をロックインと呼ぶ[5]。
ゴルフ場の会員権に当てはめると、預託金は最初に払った資金がそのまま拘束され続ける仕組みであり、名変料は買い手側の負担を通じて売却価格を押し下げる。この二つが組み合わさることで、会員は値上げ後に抜けようとするほど、回収できる金額が目減りしやすい状態に置かれる。

値上げする側から見れば、ビジターは逃げられるが会員は逃げにくい。ここに、同じコースの中でも客層によって値上げのしやすさが分かれる理由がある。コスト増を価格に転嫁するとき、抵抗の弱い側から先に転嫁するのは、価格理論としては驚くことではない。
愛知県新城市の三河カントリークラブが2026年3月31日、大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。負債総額は約120億円、債権者は約1,400名にのぼる[1]。入会時にゴルフ場へ預けた資金を一定期間後に返してもらう約束、いわゆる預託金の返還[…]
会員はどこまで「逃げられない」のか
ロックインは出口を塞ぐ仕組みではない。会員権を売却して退会すること自体はできる。ただし、値上げをきっかけに売りに出る会員が増えれば、需給が崩れて売却価格そのものが下がる。名変料の引き上げは、その買い手をさらに減らす方向に働く。
千葉県の総武カントリークラブでは、年会費が6万6,000円から13万2,000円へ倍額改定されたのち、会員権相場は450万円前後から230万円まで、半年ほどで半値近くに下落した[2]。袖ヶ浦カンツリークラブも、年会費と名変料の改定後に相場が650万円弱から410万円前後へ下がっている[2]。
| コース | 年会費改定 | 名変料改定 | 会員権相場の変化 |
|---|---|---|---|
| 総武CC | 6.6万円→13.2万円(2026年1月) | 110万円→165万円(2025年10月) | 約450万円→約230万円(約49%減) |
| 袖ヶ浦CC | 9.9万円→15.4万円(2026年1月) | 220万円→330万円(2026年1月) | 約650万円→約410万円(約37%減) |

つまり抜け道はあるが無料ではない。抜けるなら相場下落という形で売却損を引き受けることになる。留まれば値上げされた年会費を払い続け、抜ければ値下がり分を引き受ける。どちらを選んでも、値上げ前より手元に残る金額は減る。
導入 豪州(オーストラリア)発のゴルフ会員制プラットフォーム「Future Golf」が、2026年9月9日に米国へ上陸した。まずはカリフォルニア州から展開し、ネバダ・テキサス・アリゾナ・フロリダを加えた5州、60以上の加盟コースへと広げ[…]
米国のプライベートクラブにも同じ退出コストの壁はあるか
部分的にある。ただし制度の作り込み方が異なる。米国のカントリークラブでは、入会金(イニシエーションフィー)の全国中央値が2019年の約2万9,000ドルから2022年には約5万ドルへ、3年で7割上昇している[6]。
米国の一部クラブは、退会者への返金を新規入会者の受け入れとひも付ける仕組みを採る。新規会員3人が入るごとに退会者1人へ返金するといった比率型の運用も見られ、順番が回ってくるまで資金を引き出せない[6]。譲渡時にかかるトランスファーフィーは、会員権評価額のおおむね10〜20%とされる[6]。
| 項目 | 日本(名変料型) | 米国(イニシエーションフィー型) |
|---|---|---|
| 売買時にかかる費用 | 名変料(買い手が納める。コースごとに個別設定、嵐山CCで550万円) | トランスファーフィー(評価額の10〜20%) |
| 資金の戻り方 | 会員権を買い手に売却して回収 | 新規入会者数に応じた順番待ちで一部返金 |
| 直近の上昇 | 名変料が1.5〜2.5倍(袖ヶ浦CC・嵐山CC) | 入会金中央値が3年で約1.7倍 |
制度の建て付けは違っても、退出時に一定の負担や待ち時間を挟むという設計思想は共通する。ビジネス側から見れば、会員制クラブという業態そのものが、退出コストを使って顧客を固定する仕組みを内包していると言える。プレーする側から見れば、日本の名変料は入会時に買い手が納め、米国のトランスファーフィーは譲渡時に評価額から差し引かれる。どちらも会員権の売買に一度だけ挟まる費用で、売り手の手取りを削る方向に働くと理解しておくと、入会前の判断材料になる。
よくある質問(FAQ)
自分の入っているコースも年会費が上がるのか
2026年に値上げするゴルフ場は211コースで、業界全体に広がる動きになっている[1]。ただし全国一律ではなく、コースごとに改定の有無や時期は異なる。改定は理事会からの通知や総会資料で知らされるので、まずそこを見る。相場の動きは会員権取引業者が公表している相場表で追える。
値上げされたら退会したほうが得か
一概には言えない。売却価格の下落を引き受けてでも抜けるのか、値上げされた年会費を払い続けるのかは、そのコースの相場水準と今後の値上げ見通し次第で変わる。預託金制なら据置期間や返還の条件も確認したい。
ビジターとして通うだけなら関係ないのか
直接の値上げ対象にはなりにくい。ただしプレーフィーが競争で上げにくい分、コース側の収益確保が会員側に寄っている構図なので、ビジター向けのサービス縮小という形で影響が出る可能性はある。
まとめ
2026年の年会費値上げ211コースは、単独の値上げではなく、名変料という退出コストの引き上げとセットで進んでいる例がある。ビジター料金が競争で上げにくい一方、預託金制の会員は売却の相手を見つけないと抜けられない。この非対称性が、値上げの矛先を会員側へ向けやすくしている。
会員である読者は、留まるコストと抜けるコストの両方を具体的な金額で把握したうえで判断したい。ビジネスの読者には、コスト増をどの客層へ転嫁するかが、価格競争の強さと顧客の固定度によって決まるという教訓が残る。
出典: [1] 一季出版(ゴルフ会員権取引業・桜ゴルフ集計、2025年12月12日時点) https://www.ikki-web2.com/archives/11876 / [2] ゴルフのニュース(egolf.jp)「450万円が230万円に相場が急落したケースも… 『年会費値上げ』が及ぼすリアルな会員権動向」 https://egolf.jp/column/241554/ / [3] ゴルフのニュース(egolf.jp)「200コース超が年会費を値上げ… ゴルフ場が”プレーフィー頼みの経営”を捨て始めた事情」 https://egolf.jp/life/223631/ / [4] ゴルフのニュース(egolf.jp)「名変料が220万円から550万円に上昇したところも… 値上がりが続く2024年上半期のゴルフ場では何が起こっている?」 https://egolf.jp/column/150182/ / [5] カール・シャピロ、ハル・R・バリアン『「ネットワーク経済」の法則』(IDGジャパン、1999年)第5章・第6章 / [6] Private Club Marketing「How Country Club Initiation Fees Really Work in 2026」 https://privateclubmarketing.com/how-country-club-initiation-fees-work-equity-non-equity-refundable-deposits/

