
台湾・嘉義に生産拠点を置き、米国ナスダック(Nasdaq、米国のハイテク企業が多く上場する株式市場)に上場するFST Corp(ティッカー:KBSX)が、2026年7月28日に第2四半期決算を発表した。同社はスチールとグラファイトのゴルフシャフトを専業で手掛け、「KBS」ブランドで知られる。売上高は前年同期比9.7%増、純損失は縮小し、営業損益は黒字に転じた。伸びを支えたのは新品クラブ向けのOEM(相手先ブランドによる製造)出荷ではなく、既存クラブの交換用シャフトを扱うアフターマーケット(購入後の買い替え・補修部品市場)だった。ゴルファーにとっては、シャフト交換という日常的な道具選びの延長にある需要が、メーカーの経営を左右する規模になっている構図が見える。経営やIT分野の視点では、本体を一度売って終わる取引と、交換部品で継続的に収益を得る取引の違いが、黒字転換という結果に直結した事例といえる。決算の中身を数字で追う。
KBSとはどんなシャフトブランドで、誰が使っているのか
決算の中身に入る前に、KBSというブランドの位置づけを押さえておく。
ブランド名は設計者キム・ブレイリーの頭文字から来ている。ブレイリーはRIFLEやProject Xといったスチールシャフトを手掛けた人物で、その設計指導のもと2007年にKBSブランドが立ち上がり、2008年にPGAツアーを通じて米国市場に入った[7]。親会社のFST Corpは1976年に台湾で創業した金属加工メーカーで、ゴルフシャフト事業への参入は1992年だ[7]。フィッティング拠点「KBS Golf Experience」を2019年に米カールスバッド、2021年に東京、2024年に台北へ広げている[7]。

ツアーでの実績は、記憶に残る場面と結びついている。フィル・ミケルソンが2021年のPGA選手権を50歳で制し、史上最年長のメジャー優勝者になったとき、アイアンとウェッジに入っていたのはKBSのTour-Vだった[5]。キャメロン・スミスが2022年の全英オープンをセントアンドリュースで勝った際は、3番アイアンから9番アイアンとウェッジをKBS Tour 130Xで揃えていた[6]。
完成品クラブへの供給も広い。日本ではスリクソンのZ-FORGED IIがKBS TOURを純正シャフトとして採用しており[8]、KBSの製品ラインはテーラーメイド、キャロウェイ、タイトリスト、ピン、スリクソン、ミズノなど主要メーカーのヘッドに対応する[9]。シャフト単体でブランド名を意識したことがなくても、手元のクラブに入っている可能性がある——それが今回の決算を読むときの前提になる。
新品本体の一度売りから交換部品による継続収益への転換を、製造業全体の文脈で解説している
FST Corpの2026年第2四半期決算はどう改善したのか
決算発表の内容を数字で確認する。
売上高は1,255万2,012ドル(約19.5億円、1ドル=155円換算)で、前年同期の1,143万7,270ドル(約17.7億円)から9.7%増えた[1]。純損失は104万6,379ドル(約1.62億円)で、前年同期の302万9,029ドル(約4.69億円)から3分の1程度に縮小した[1]。1株当たり損失も0.02ドルとなり、前年同期の0.07ドルから改善した[1]。
営業損益は25万9,899ドル(約4,028万円)の黒字となり、前年同期は68万9,488ドルの営業損失だった[2]。黒字転換の幅は94万9,387ドルに達する[2]。四半期単体だけでなく、2026年上半期も純利益83万1,189ドルとなり、前年同期の582万7,047ドルの純損失から大きく改善した[3]。
| 指標 | 2025年Q2 | 2026年Q2 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,143.7万ドル | 1,255.2万ドル |
| 純損失 | 302.9万ドル | 104.6万ドル |
| 営業損益 | ▲68.9万ドル | +26.0万ドル |
| 1株当たり損失 | 0.07ドル | 0.02ドル |

シャフト交換を検討する際に読んでおきたいクラブ選びの基礎をまとめている
なぜアフターマーケット販売がOEMより効いたのか
増収の内訳を確認する。
売上増の主因は、新品クラブへの組み込み販売であるOEMではなく、既存クラブの交換用として単体で売れるアフターマーケット向け販売の伸びだった[1]。スチール製、グラファイト製の両ラインでアフターマーケット売上が増えている[1]。
粗利率は48%となり、前年同期の46%から上昇した。製品構成の変化が背景にある[3]。粗利額は601万ドル(約9.32億円)で、前年同期の526万ドル(約8.15億円)から増えた[3]。
単体のシャフトは完成品より製造・組立の工程が短く、販売単価あたりの粗利が高くなりやすい。新品クラブ向けの完成品出荷よりも、交換需要を捉えた単体販売の方が、今回は収益への貢献度が大きかったことになる。

ゴルフチャンネルを運営するVersant Media Group(米ケーブルテレビ大手。CNBCやGolf Channelを傘下に持つメディア持株会社)が2026年7月、ゴルフ・野球用シミュレーターを手がけるFull Swing(PGAツ[…]
為替差損の縮小とコスト削減はどこまで寄与したのか
増収以外の改善要因を見る。
販管費と研究開発費の合計は575万ドル(約8.91億円)で、前年同期比3.3%減った[3]。人件費や一般管理費を抑えたことが利益率の改善につながっている[3]。
為替差損も大きく縮んだ。2026年第2四半期の為替差損は11万5,615ドル(約1,792万円)にとどまり、前年同期の251万2,002ドル(約3.89億円)から縮小した。その差は239万4,387ドル(約3.71億円)に相当する[2]。
売上の伸びと粗利率の改善だけでなく、費用の圧縮と為替の落ち着きが重なり、黒字転換につながった。取締役会は最大300万ドル(約4.65億円)の自社株買いも承認している[3]。

中古ゴルフクラブの購入は長い間、「eBay(イーベイ)やメルカリで勘で選ぶ」か「専門店に持ち込んでフィッティング(自分の体格・スイングに合わせてクラブのスペックを最適化する作業)を受ける」かの二択しかなかった。米国カリフォルニア州サンディ[…]
新品本体売りから交換部品売りへの転換は何を意味するのか
業界全体の収益構造への示唆を考える。
新品クラブ本体の販売は一度きりの取引になりやすく、需要は新製品サイクルや消費者の新規購入タイミングに左右される。交換用シャフト単体の販売は、既存クラブを使い続けるゴルファーがスイングの変化やシャフトの摩耗に応じて買い替える、継続的な需要に支えられる。
FST Corpの今回の決算は、この二つの収益源の性格の違いが業績にそのまま表れた例といえる。新品クラブ本体の出荷が伸び悩んでも、交換需要を取り込めれば収益を維持しやすいという構造は、シャフト以外の用品カテゴリーにも当てはまりうる。
| 観点 | OEM(新品クラブ組込み) | アフターマーケット(交換用) |
|---|---|---|
| 取引の性格 | 一度きりが基本 | 継続的に発生しやすい |
| 需要の源泉 | 新製品サイクル・新規購入 | 摩耗・スイング変化に伴う買い替え |
| 今回の決算での動き | 特筆した増加は示されず | 増収を牽引[1] |

ガーミンは誰に何を売っているのか — STPで読む「計測器」ブランド 結論を先に言えば、ガーミンは狙う相手を「真剣なアマチュアと専心するプロ」に絞り込み、感性のスローガンではなくVO2max・電池・衛星精度・安全機能という「測れる成果」で[…]
日本のゴルファーもシャフト交換で買い替えているのか
海外の事例が日本にも当てはまるか確認する。
日本でも、既存クラブのシャフトを交換して使い続ける動き自体は一定程度存在する。ただしFST Corpのように、OEMとアフターマーケットの売上を分けて開示する国内シャフトメーカーは見当たらない。
国内シャフト市場は三菱ケミカルやフジクラなど、国内資本のカーボンシャフトメーカーが主力で、KBSのような海外ブランドは完成品メーカー向けのOEM供給が中心となっている。矢野経済研究所によると、2025年の国内ゴルフ用品市場規模(メーカー出荷ベース)は3,093億5,000万円、前年比5.5%増と予測される[4]。市場全体は伸びているものの、シャフト単体やアフターマーケットに絞った金額の公表は確認できなかった。
ビジネス面では、収益区分の開示不足が構造転換を数字で追いにくくしている。ゴルファーにとっては、リシャフトという選択肢自体は国内でも既に一般的な選択肢として定着している。
| 項目 | FST Corp(米国上場・KBS) | 日本市場 |
|---|---|---|
| 収益区分の開示 | OEM/アフターマーケット別に開示[1] | 区分開示は確認できず |
| 主要プレイヤー | FST Corp(KBS) | 三菱ケミカル、フジクラ等 |
| 直近の市場動向 | Q2売上+9.7%、アフターマーケットが牽引[1] | 2025年予測3,093.5億円、+5.5%[4] |
よくある質問(FAQ)
KBSとはどのようなブランドか。
FST Corpが展開するゴルフシャフトブランドで、スチールとグラファイトの両方を手掛ける[1]。
アフターマーケットとOEMの違いは何か。
OEMは新品クラブに組み込む形で完成品メーカーへ供給する取引、アフターマーケットは購入後に交換用として単体で販売する取引を指す。
FST Corpの黒字転換の主因は何か。
交換用シャフトの販売増加、粗利率の改善、費用削減、為替差損の縮小が重なった結果である[1][2][3]。
まとめ
FST Corpの2026年第2四半期決算は、新品クラブの組み込み販売よりも交換用シャフトの販売が業績を押し上げたことを示した。粗利率の改善と費用削減、為替差損の縮小も重なり、営業損益は黒字に転じた。ゴルファーにとっては、シャフト交換という日常的な道具の選択が、メーカーの経営を左右する需要になっている。経営の視点では、本体を売り切る取引より、交換部品で継続的に収益を得る取引の方が、業績の安定に寄与しうることを、この決算は数字で示した。


