
米国のゴルフ場向け飲食技術企業ClubGrub(クラブグラブ。コース上でのモバイル飲食注文アプリを運営する、2020年設立のスタートアップ)が2026年7月、「2026年ゴルフ場飲食トレンド中間報告」を発表した。同社の集計によれば、ハーフウェイハウス(前半9ホールと後半9ホールの間にある軽食休憩所)の定番だったホットドッグの注文比率が急落し、コース上に届けられる高付加価値メニューへの支出が拡大している[1][2]。この変化は、プレーする側から見れば「ターンで並んで買うホットドッグ」から「カートまで届くロブスターロールやクラフトカクテル」への体験の質の変化として表れる。一方でIT・経営の視点で見れば、ゴルフ場運営者がグリーンフィー(プレー料金)依存から脱し、飲食を独立した収益源として再定義しようとする動きであり、本稿はその実態とリテール業界の非本業収益戦略との共通点を分析する。
ClubGrubの中間報告はゴルフ場の「食」に何を明らかにしたのか
本報告は、同社のモバイル注文アプリを通じて集まった2026年上期の数万件規模の注文データを分析したものである[1][3]。最も象徴的な指標が「ターンのホットドッグ」の衰退である。全注文に占めるホットドッグの比率はわずか3.86%にとどまり、前年同期比で14.9%の減少となった[1][2]。代わって注文数が伸びたのは、フラットブレッド、スライダー、チキンテンダー、マルガリータ、缶入りカクテル(Surfside)といった品目である。さらにフライドチキンサンド、シュリンプタコス、フィッシュタコス、ケサディーヤ、ブレックファストブリトーも比率を伸ばしており、クラブが作り置きではない調理メニューを広げたことが背景にあると同社は説明している[1][2]。単価面でも変化は顕著で、確認された最高額の単一注文は357ドル(約5.5万円。1ドル=155円換算)に達し、トランスフュージョン6杯、ロブスターロール6個、ジョンダリー4杯、フラットブレッド2枚という内容だった[2][3]。

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ClubGrubはどんなサービスなのか
報告の数字を読む前に、データの出どころを押さえておきたい。ClubGrubは2020年創業、ニューヨーク州ホワイトプレインズに拠点を置く企業で、会員制クラブ・ゴルフ場・リゾート・住宅コミュニティ向けの飲食注文プラットフォームを提供している[1][4]。中核はGPS連動である。プレーヤーがスマートフォンから注文すると位置情報から「いま自分がいるホール」が特定され、注文票はクラブの厨房プリンタへ自動で振り分けられる。受け取りはハーフウェイハウスでのピックアップか、カートによるコース上への配達かを選べる[4][10]。

会員が見る画面はクラブ名とコース写真を載せたホワイトラベル(クラブ独自ブランドの見た目で提供する形態)で、配達側の画面には注文者のいるホールとそこまでの経路が表示される。

運営側の画面では、注文が「新規・調理中・受け渡し/配達・完了」の状態別に並び、配達先のホール番号、アレルギー情報、決済手段まで1画面に収まる。電話とメモで回していた受注が、そのまま調理指示に変わる構造である。

対象範囲はコース上に限らない。ハーフウェイハウス、グリルルーム、プールサイドとカバナ、テニス・ピックルボールのコート、練習場の打席、持ち帰り、住宅コミュニティの各戸までを、同じ1つのアプリと厨房ワークフローで扱う[4][10]。2026年7月19日にはこの範囲を広げるプラットフォーム刷新を発表し、既存の導入クラブへ追加費用なしで展開するとしている[10]。
提供形態にも特徴がある。ソフトウェア単体ではなく、4つのパッケージを1本の契約にまとめて提供している[4]。
| パッケージ | 含まれるもの |
|---|---|
| テクノロジー | クラウド型の注文基盤、クラブブランドのアプリ、GPS配達・受取、POS連携、運営ダッシュボード |
| ハードウェア | 設定済みのiPadとスタンド、厨房用レシートプリンタ、保守 |
| 導入支援 | メニュー構築の代行、スタッフ研修、稼働当日のサポート |
| マーケティング | 会員向け告知テンプレート、QRコードと館内サイン、時間帯や場所に応じたプッシュ通知 |
IT担当を置かないクラブでも導入できる構成にしてある点が、ゴルフ場という顧客層の制約を織り込んだ設計であることを示している。
事業面では、2026年6月9日に世界最大のゴルフ運営会社Troonと3年間のパートナーシップを結び、モバイル注文とF&B運営の「推奨パートナー」に指定された(独占契約ではない)[9]。Troonは45州以上・40か国以上で施設を運営しており、対象にはコース上配達、練習場、プールサイド、持ち帰り、住宅コミュニティ管理までが含まれる[9]。今回の中間報告は、この提携(6月)とプラットフォーム刷新(7月)に挟まれた発表である。自社データを使った市場形成の一環という側面も併せて読む必要がある。
ハーフウェイハウス型の軽食モデルはなぜ転換を迫られているのか
従来のゴルフ場運営では、飲食はプレーを止めずに回すための補助機能に過ぎず、ハーフウェイハウスで軽食を素早く売り切ることが最優先とされてきた。ClubGrubの創業者Spencer Potter氏は「数十年間、ゴルフ場の飲食はハーフウェイハウスをいかに早く出入りさせるかが中心だった。今日のクラブはその体験全体を見直している」と述べている[3]。この発言が示すのは、飲食が「回転を妨げないための必要経費」から「顧客体験そのものを構成する要素」へと位置づけを変えた、という認識の転換である。モバイル注文はこの転換を技術面で後押しし、同社導入クラブでは平均15.5分のペースオブプレー改善も報告されている[1][3]。つまり注文の高度化は、単価上昇と回転改善を同時に実現する手段として機能している。

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高付加価値メニューはゴルフ場経営にどんな効果をもたらしているのか
数字を積み上げると、飲食は「赤字を出さない部門」から「利益を生む部門」へと役割を変えつつある。ClubGrubは自社サイトで、導入クラブの飲食売上が初シーズンに20〜30%伸びるとし、スタッフ1人あたりの処理注文数が手作業のカート巡回に比べて約3倍になるとしている[4]。いずれも第三者機関の検証を経ていない同社発表値である点には留意が必要だが、上記の注文単価上昇やペースオブプレー改善と組み合わさることで、飲食が独立した収益ドライバーになり得ることを示す傍証にはなる。357ドルの最高額注文の内訳を見ても、単なる「補食」ではなく、複数人分の飲料と主菜を組み合わせた注文であることがわかる。

同社サイトには導入クラブごとの変化も掲載されている。売上額ではなく運営の詰まりが取れた形で語られている点が共通する。
| クラブ | 所在・特徴 | 同社サイトが示す変化 |
|---|---|---|
| Ballyneal | コロラド州ホリヨーク | バーへの電話が1日最大50件からほぼゼロへ |
| University Club | ルイジアナ州立大ゴルフ部の本拠 | 初シーズンで2,000件超の注文を自動化、電話量が約8割減 |
| TPC Jasna Polana | ニュージャージー州プリンストン | 客単価の上昇とペースオブプレー改善 |
| White Manor・Penn Oaks | ペンシルベニア州、Concert Golf Partners傘下 | プールサイドと持ち帰りの飲食売上が増加 |
並んでいる単位が売上額ではなく「電話の本数」や「自動化された注文数」である点は示唆的で、飲食部門のボトルネックが人手と受注動線にあったことを裏づけている。

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リテール業界の非本業収益戦略とゴルフ場経営はどこが重なるのか
リテール業界では、映画館の売店や航空会社の座席アップグレードのように、本業の周辺で発生する「非コア収益」を独立した利益源として設計する手法が広く使われてきた。ゴルフ場におけるグリーンフィーは、映画館のチケット収入や航空券本体の運賃に相当する「コア収益」であり、飲食はこれまで付随的な扱いだった。ClubGrubの報告が示すのは、この付随部分を単価設計・注文動線・データ活用によって能動的にマネジメントする対象へと引き上げる動きである。ゴルフ場経営者にとっては、グリーンフィーの値上げ余地が限られる中で、飲食という別軸の収益レバーを持つことが、収益構造を安定させる選択肢になり得る。

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日本のゴルフ場は飲食を独立した収益源として位置づけているか
日本のゴルフ場でも飲食を経営上重視する動きはあるが、米国ClubGrubのような「モバイル注文で単価と回転を最大化する」設計とは前提がかなり異なる。日本では、プレー料金に食事の権利をあらかじめ組み込む「昼食付きプラン」が広く定着しており、追加料金なしで食べられる定食と、割増料金が必要なメニューを分けることで、レストラン部門の採算を確保する仕組みが一般的である[8]。上場運営会社の開示を見ると、PGMホールディングス(現・パシフィックゴルフマネージメント)は上場時点(2005年)の開示で、ゴルフプレー等収益57.7%に対し、レストラン・商品販売収益が27.5%、年会費等収益が10.2%という構成比を示していた[7]。ただしその後の同水準の細分開示は乏しく、現時点での最新の比率を裏付ける一次資料は確認できなかった。日本ゴルフ場経営者協会の集計では、国内のゴルフ場数は2025年2月末時点で2154コースと14年連続で減少しており[6]、供給過剰の中でグリーンフィー以外の収益源を強化する動機自体は米国と共通する。運営会社にとっては、飲食を「昼食付き」という一括パッケージから独立採算部門へと再設計できるかが今後の論点になる。プレーヤーにとっては、昼食付きプランの食事券という枠の中で、メニューの質がどこまで上がるかが体験価値を左右する。
| 項目 | 米国(ClubGrubの事例) | 日本 |
|---|---|---|
| 飲食の位置づけ | 独立した収益源、モバイル注文で単価と回転を最大化 | プレー料金に組み込まれた「昼食付きプラン」が主流 |
| 支払い方式 | オンデマンド従量課金(アプリ注文) | 定額の食事券・バウチャー方式が中心 |
| 収益開示の粒度 | クラブ単位のアプリ注文データで随時可視化 | 上場運営会社の開示は粗く、飲食単体比率の最新開示は限定的 |
| 直近の公開データ | 2026年上期、数万件規模の注文データ[1][2][3] | PGM上場時(2005年)の開示で27.5%[7]、以降の同水準開示は未確認 |
「シェア0.9%」は、本当に小さいのか? Day2の冒頭で突きつけられた問いです。 0.9%──数字だけ見ると、ほとんど無視できるような小さな値に思えます。でも、その市場が年間数千万個規模だとしたら? 0.9%は数十万個。1個100円の商[…]
まとめ
ClubGrubの中間報告が示したのは、ゴルフ場の飲食がハーフウェイハウスの軽食から、単価と回転を同時に高める独立した収益源へと役割を変えつつあるという事実である。プレーする側にとっては、行きつけのコースで注文できるメニューの質と届くまでの速さが、今後のコース選びの一要素になっていく。運営者にとっては、グリーンフィーに頼らない収益レバーを飲食部門に持てるかどうかが、供給過剰下での経営体力を左右する論点になる。日本ではまだ「昼食付きプラン」という商習慣が主流だが、収益構造を見直す圧力そのものは共通している。
よくある質問(FAQ)
Q. ClubGrubとはどんな会社か。
A. 2020年創業、ニューヨーク州ホワイトプレインズに拠点を置く米国企業で、ゴルフ場・会員制クラブ・リゾート・住宅コミュニティ向けにGPS連動のモバイル飲食注文プラットフォームを提供している。コース上への配達、プールサイド、練習場、持ち帰りまでを1つのアプリで扱う[1][4]。2026年6月には世界最大のゴルフ運営会社Troonの推奨パートナーに指定された[9]。
Q. 日本のゴルフ場でも同じようなモバイル注文は普及しているのか。
A. 現時点でClubGrubのような業界標準的なモバイル注文基盤は確認できず、多くのコースは食事券方式の「昼食付きプラン」が中心である。
Q. ホットドッグの注文が減っているのはなぜか。
A. ClubGrubの報告では、ゴルファーが軽食よりも新鮮なハンドヘルド料理やクラフトカクテルなど高付加価値なメニューを選ぶ傾向を強めているためとされる[1][2]。
出典
[1] ClubGrub「2026年ゴルフ場飲食トレンド中間報告」(FirstCall Golf掲載)https://www.firstcallgolf.com/industry-news/release/2026-07-06/clubgrub-releases-2026-mid-year-golf-food-beverage-trends-report(2026年7月6日、ニューヨーク州ホワイトプレインズ発)[2] Golf Digest「New data shows golfers might be ditching this halfway-house staple」https://www.golfdigest.com/story/new-data-golfers-ditching-halfway-house-food-hot-dog
[3] The Golf Wire「CLUBGRUB TO RELEASE ITS GOLF FOOD & BEVERAGE PERFORMANCE REPORT」https://thegolfwire.com/clubgrub-performance-report/
[4] ClubGrub公式サイト https://clubgrubapp.com/
[5] American Golfer「ClubGrub releases 2026 Mid-Year Golf Food & Beverage Trends Report」http://americangolfer.blogspot.com/2026/07/clubgrub-releases-2026-mid-year-golf.html
[6] egolf.jp「最新・日本のゴルフ場数は『2123』」(日本ゴルフ場経営者協会集計に基づく)https://egolf.jp/life/121916/
[7] minkabu「PGMホールディングス(2466)新規上場(IPO)」https://minkabu.jp/stock/2466/ipo
[8] egolf.jp「ゴルフ場の“昼食の割増料金”いくらまでなら許せる?」https://egolf.jp/column/181541/
[9] ClubGrub「Troonとモバイル注文・F&B運営で3年間のパートナーシップ」(FirstCall Golf掲載、2026年6月9日)https://www.firstcallgolf.com/industry-news/release/2026-06-09/clubgrub-named-troon-preferred-partner-for-mobile-ordering-and-f-b-operations
[10] ClubGrub「敷地内のどこへでもホスピタリティを届けるプラットフォーム刷新」(FirstCall Golf掲載、2026年7月19日)https://www.firstcallgolf.com/industry-news/release/2026-07-19/clubgrub-launches-platform-upgrade-built-to-extend-hospitality-anywhere-on-property


