
東欧・バルカン半島のゴルフ場が、海外ゴルフ旅行の新しい行き先として注目され始めている。中心はブルガリアで、黒海沿岸にはThracian Cliffs(トレーシアン・クリフス、名手ゲイリー・プレーヤー設計の断崖沿いコース)やBlackSeaRama(ブラックシーラマ、同じくプレーヤーが東欧で初めて完成させたチャンピオンコース)などが集まる。国際ゴルフ旅行事業者協会(IAGTO、世界のゴルフ旅行会社・デスティネーションが加盟する業界団体)は2012年、ブルガリアを「まだ知られていないゴルフ目的地」に選んだ[1][2]。一方でこの地域のゴルフ場は、供給が需要を上回るペースで増えてきたとの指摘もあり、コースの採算をどう保つかという課題も抱える[1][6]。
海外ゴルフ旅行を考える側にとっては、東南アジアやハワイに偏りがちだった行き先の選択肢が一つ増える動きになる。本稿では、コースの中身とプロツアーの開催実績、日本からの行き方を具体的に押さえたうえで、供給過多とされる裏事情までを整理する。

なぜ今バルカン半島なのか — 入国と通貨の条件が変わった
コースが揃ったのは2000年代後半で、それ自体は新しい話ではない。変わったのは行きやすさと料金の読みやすさの方だ。
ひとつがシェンゲン圏への加盟。ブルガリアは2024年3月31日に空路・海路の域内国境検査が撤廃され、2025年1月1日には陸路も含めて完全加盟した[17]。欧州の主要空港で乗り継ぐ場合、そこから先の入国審査が不要になる。
もうひとつが通貨。ブルガリアは2026年1月1日にユーロを導入し、レフは同年2月1日で法定通貨ではなくなった。交換レートは1ユーロ=1.95583レフで固定されていた[18]。グリーンフィーや宿泊費をユーロで直接比較できるようになり、他の欧州の行き先と同じ物差しで検討できる。
つまり「コースは以前からあったが、日本から検討する条件が2025〜2026年に整った」というのが現在地になる。
バルカン半島がゴルフツーリズムの新興地として浮上した背景は何か
ブルガリアの黒海沿岸では、2000年代後半にチャンピオンコースの開業が相次いだ。2008年までに、黒海沿岸に2コース、首都ソフィア周辺に1コースが立て続けに完成した[1]。
IAGTOは2012年、ブルガリアを「まだ知られていないゴルフ目的地」に選定した[2]。当時のIAGTO会長ピーター・ウォルトンは、ブルガリアがバルカン半島・南東欧で一番のゴルフ目的地になり得ると評した[2]。Thracian Cliffsは2014年にIAGTOの「ヨーロッパ・リゾート・オブ・ザ・イヤー」を受賞し、2013年にはボルボ・ワールドマッチプレー選手権の会場にもなった[3]。
新興の観光地がどう選ばれる目的地に育つかを、基礎理論とケーススタディで押さえられる一冊。
ブルガリアの黒海沿岸に集まる名コースにはどんな違いがあるか
黒海沿岸のケープ・カリアクラ(ブルガリア北東部の岬)周辺には、車で数分の距離にチャンピオンコースが集まる。現地ではこの一帯を「バルカン半島のゴルフ海岸」と呼ぶ[4]。

実際の距離を測ると、Lighthouseから隣のBlackSeaRamaまで約6km・車で14分、そこからThracian Cliffsまで約10km・21分[9]。玄関口になるヴァルナ空港からは3コースとも約57〜58km、車で1時間前後の距離にある[9]。1回の滞在で3コースを回るのに、拠点を移す必要がない。
| コース名 | 設計者 | 特徴 |
|---|---|---|
| Thracian Cliffs(トレーシアン・クリフス) | ゲイリー・プレーヤー | 断崖沿いで全ホールから黒海を望む。「欧州のペブルビーチ」とも呼ばれる[3] |
| BlackSeaRama(ブラックシーラマ) | ゲイリー・プレーヤー | 同氏が東欧で手がけた最初の完成コース。パー72、6,648メートルのリンクス形式[5] |
| Lighthouse(ライトハウス) | イアン・ウーズナム | 同エリアに隣接するチャンピオンコース[4] |
3コースがまとまって立地することで、1回の渡航で複数のコースを回れる密度が生まれている。この密度は、単独の名コースが点在する行き先にはない強みになる。
Thracian Cliffs — 崖の上のティー、40メートル下のグリーン

2011年開場、ゲイリー・プレーヤー設計。85ヘクタールの敷地を断崖に沿って使う[10]。看板は6番ホールで、ティーは崖の上、グリーンは約40メートル下の斜面を削って作られ、その先は黒海の波が洗う。バックティーからは210メートルを超える[10]。Top 100 Golf Coursesの評価はブルガリア1位・欧州大陸43位[3]。
BlackSeaRama — 最終18番がロングパー3という終わり方

同じくプレーヤー設計でパー72。ティーの選択で約6,010メートル(ホワイト)から約6,800メートル(ブラック)まで変わる[11]。4番・7番・16番で池が効き、締めくくりの18番は距離のあるパー3。公式が「本当の試練で、タフな終わり方」と表現する珍しい上がりホールだ[11]。
Lighthouse — ウーズナム設計、9番が最難関

イアン・ウーズナム設計、パー71・6,536メートル[12]。公式が最難関に挙げるのは9番(パー4・405メートル)。3番(パー5・479メートル)と16番(パー5・519メートル)はリスクとリターンを選べる設計になっている[12]。
料金とシーズン
Thracian Cliffsの2026年シーズンのグリーンフィーは、リゾート宿泊者89ユーロ、外来119ユーロ(冬季は外来も89ユーロ)。カート別途50ユーロ。プレー期間は3〜10月が中心で、11〜2月は天候次第となる[10]。1ラウンド1万5千円前後という水準は、同格の設計者コースとしては手が届きやすい部類に入る。
供給が先行する市場で対立軸の外に価値を作る発想を整理しており、供給過多をどう読むかの土台になる。
プロツアーは開催されているのか
結論から言うと、欧州ツアーは2度開催され、PGAツアーとLPGAツアーの開催実績はない。
1度目が2013年5月、Thracian Cliffsでのボルボ・ワールド・マッチプレー選手権だ。グレーム・マクダウェルがトンチャイ・ジェイディーを2&1で下している[13]。業界紙は開催決定時に「フル規模の欧州ツアー競技がブルガリアで行われるのはこれが初めて」と報じ、当時のブルガリアを「ゴルフ場が6つ、登録ゴルファーが1,000人未満の国」と書いた[14]。
2度目が2018年9月、LighthouseでのEuropean Tour Properties Senior Classic。コース開場10周年に合わせた開催で、ブルガリアで2つ目の欧州ツアー競技となった[12]。Lighthouseは2016年から欧州ツアー系列のリゾート網であるEuropean Tour Destinationsに加盟している[12]。
裏を返せば、常設のツアー開催地ではない。ツアー競技を毎年見に行ける場所ではなく、「トップ選手が実際に戦った舞台を、普段は空いた状態で回れる」という位置づけになる。
中東欧のゴルフ市場は西欧と比べてどんな段階にあるか
KPMG(監査・コンサルティング大手)はゴルフ市場の分析で、中東欧(CEE、旧東側諸国を含む地域区分)のゴルフ市場を3類型に分けている。確立市場の代表がチェコ、新興の海沿い市場の代表がブルガリア、未開拓市場の代表がアルバニアだ[6]。
業界紙の報道によれば、中東欧のゴルフ市場は供給側・需要側とも長期にわたり拡大を続けてきたが、供給の伸びが需要の伸びを上回るペースで推移してきたという[6]。ブルガリアが「新興の海沿い市場」に位置づけられるのは、この供給先行という地域全体の構図の中に置かれているためだ。
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供給過多のリスクをどう読み解けばよいか
海外ゴルフ旅行を紹介する記事の中には、中東欧の1コースあたりゴルファー数は約302人で、西欧の半分程度にとどまるという数字を引用するものもある[1]。ただしこの数値の一次資料は確認できず、KPMGの報告書そのものからも同じ数値の裏付けは取れなかった。参考情報として扱うにとどめる。
方向性としては、供給が需要を上回るペースで増えてきたという前段の傾向と矛盾しない。供給過多の市場は、プレーする側には予約の取りやすさや割安な料金という利点になりやすい。一方でコース運営側には、観光客の来訪頼みで稼働率を確保できるかという採算面の課題が残る[6]。
そもそもこの3コースは、国内需要を当て込んで作られたものではない。欧州ツアーが来た2013年時点で、ブルガリア国内の登録ゴルファーは1,000人に満たなかった[14]。最初から国外のゴルファーを見込んだ設計であり、供給過多という指摘は「国内市場に対して多すぎる」という意味に近い。
国外からの評価は、賞と加盟で追える。IAGTOは2012年にブルガリアを「まだ知られていないゴルフ目的地」に選び、Thracian Cliffsは2014年に同団体の「ヨーロッパ・リゾート・オブ・ザ・イヤー」を受賞した[2][3]。Lighthouseは2016年からEuropean Tour Destinationsの一員で[12]、Thracian CliffsはTop 100 Golf Coursesで欧州大陸43位に入る[3]。ブルガリア全体で見ても、英国は最大級の送客国のひとつだ[4]。日本からの知名度は低いが、欧州のゴルファーの間では既に「知られた行き先」になっている。
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日本からバルカン半島へゴルフ旅行は行けるのか
日本の海外ゴルフツアーで、バルカン半島は主流ではない。ゴルフダイジェスト社は2020年、ルーマニアとブルガリアを組み合わせ、黒海沿いの名コースとバラ祭り見学をセットにした9日間・2ラウンドのツアーを企画した[7]。ただしこのツアーは受付終了となっており、現在は定期開催されていない。
JTBや阪急交通社、名鉄観光、インパクトゴルフなどが常時扱う海外ゴルフ旅行先は、東南アジアやハワイ、グアムが中心だ。これらの行き先には直行便があり、現地情報の蓄積も厚い。一方でブルガリアへの直行便は現在なく、渡航には乗り継ぎが前提となる[8]。

現実的なのはイスタンブール経由だ。東京(羽田・成田・関西)からイスタンブールまでターキッシュ エアラインズの直行便で約12時間[15]、イスタンブールからヴァルナまでは約1時間5分[16]。ウィーン経由(オーストリア航空、ウィーン〜ヴァルナ約1時間50分)も選べる[16]。ヴァルナ空港からコースまでは車で1時間前後[9]なので、乗り継ぎ時間を含めても移動は片道おおむね1日で収まる。
| 行き先 | 定期ツアーの有無 | フライト事情 |
|---|---|---|
| 東南アジア・ハワイ・グアム | 複数の旅行会社が常時扱う | 直行便あり |
| ブルガリアなどバルカン半島 | 過去に単発企画のみ、現在は休止[7] | 直行便なし、乗り継ぎ前提[8] |
旅行業界にとっては、定期便も情報の蓄積もまだ薄い分、先行して扱えば差別化になりうる余地が残る。ゴルファーにとっては、混雑を避けた黒海沿いのコースという魅力がある一方、渡航のハードルは既存の主要行き先より高い。
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よくある質問(FAQ)
Q1. ブルガリアのゴルフ場はいつ頃から開業しているか。
A. 黒海沿岸を中心に、2008年までに3つのチャンピオンコースが立て続けに開業した[1]。
Q2. バルカン半島の他の国にもゴルフ場はあるか。
A. KPMGはアルバニアを中東欧の「未開拓市場」の代表例として挙げており、ルーマニアなど周辺国にもコースが点在する[6]。
Q3. 日本から個人でツアーを申し込めるか。
A. 定期ツアーはほぼないため、現地の手配業者や旅行会社への個別問い合わせが現実的な選択肢になる[7]。
Q4. プロのトーナメントは開催されているか。
A. 欧州ツアーが2度開催されている。2013年のボルボ・ワールド・マッチプレー選手権(Thracian Cliffs、優勝グレーム・マクダウェル)[13]と、2018年のEuropean Tour Properties Senior Classic(Lighthouse)[12]。PGAツアーとLPGAツアーの開催実績はない。
Q5. 1回の旅行で何コース回れるか。
A. 3コースが約10km圏に集まっており、コース間の移動は車で14〜21分[9]。拠点を移さずに3コースを回れる。
まとめ
東欧バルカン半島、特にブルガリアの黒海沿岸は、著名設計者のコースとIAGTOの評価を背景に、ゴルフ旅行の新興地として存在感を強めてきた。一方で、供給が需要を上回るペースで拡大してきたという中東欧市場全体の傾向は、コース運営の持続性という課題も映し出す。
ゴルファーにとっては、混雑の少ない黒海沿いのコースという選択肢が増える意味を持つ。旅行業界や投資判断に関わる読者にとっては、新興観光市場の数字を鵜呑みにせず、一次資料に当たって裏を取る姿勢が欠かせない。
出典
[1] Discover the Underrated Golf Courses of Eastern Europe, The All Square Blog https://blog.allsquaregolf.com/discover-the-underrated-golf-courses-of-eastern-europe/[2] Bulgaria can become regional golf center, Peter Walton says, BNR (Bulgarian National Radio) https://bnr.bg/en/post/100124670/bulgaria-can-become-regional-golf-center-peter-walton-says
[3] Thracian Cliffs, Top 100 Golf Courses https://www.top100golfcourses.com/golf-course/thracian-cliffs
[4] Why Bulgaria is a rising star of European golf, bunkered.co.uk https://www.bunkered.co.uk/travel/why-bulgaria-is-a-rising-star-of-european-golf/
[5] BlackSeaRama Golf Resort & Villas, European Golf Association https://www.ega-golf.ch/content/blacksearama-golf-resort-villas
[6] KPMG releases Regional Golf Market Snapshot in Central and Eastern Europe, Golf Business News https://golfbusinessnews.com/news/management-topics/kpmg-releases-regional-golf-market-snapshot-in-central-and-eastern-europe/
[7] =受付終了=【ルーマニア&ブルガリア・名コース】バラ祭りと黒海に面した絶景コースでゴルフ 9日間 2プレー, ゴルフへ行こうWEB by ゴルフダイジェスト https://golfdigest-play.jp/travel_s/s16778933
[8] ソフィアへの飛行時間と所要時間、日本からの直行便, エアラインガイドJP https://www.airlineguide.jp/flight-time/sof/
[9] ルート距離・所要時間の算出: OSRM(OpenStreetMapベースの経路探索)/地図: © OpenStreetMap contributors https://www.openstreetmap.org/copyright
[10] Golf, Thracian Cliffs Golf & Beach Resort(公式) https://thraciancliffs.com/golf/
[11] Golf, BlackSeaRama Golf & Villas(公式) https://blacksearama.com/golf/
[12] Lighthouse Golf Course, Lighthouse Golf & Spa Resort(公式) https://lighthousegolfresort.com/golf/lighthouse-golf-course/
[13] Volvo World Match Play Championship 2013, DP World Tour https://www.europeantour.com/dpworld-tour/volvo-world-match-play-championship-2013/
[14] Volvo World Match Play Championship 2013 begins in Bulgaria, Golf Business News https://golfbusinessnews.com/news/sponsorship-and-events/volvo-world-match-play-championship-2013-begins-in-bulgaria/
[15] 東京発イスタンブール行きのフライト, Turkish Airlines https://www.turkishairlines.com/en/flights-from-tokyo-to-istanbul
[16] Flights to Varna (VAR), FlightConnections https://www.flightconnections.com/flights-to-varna-var
[17] Schengen: Council decides to lift land border controls with Bulgaria and Romania, Council of the EU https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/12/12/schengen-council-decides-to-lift-land-border-controls-with-bulgaria-and-romania/
[18] Bulgaria ready to use the euro from 1 January 2026: Council takes final steps, Council of the EU https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2025/07/08/bulgaria-ready-to-use-the-euro-from-1-january-2026-council-takes-final-steps/




