
海外ゴルフトレンド連載 第8回
日本のゴルフ予約サイトで「一人予約」は、もはや珍しい機能ではない。楽天GORAでもGDOでも、平日なら一人予約枠はそれなりに埋まっている。ただし、その位置づけは「同伴者が見つからないときの代替手段」であって、一人でラウンドすること自体に積極的な意味を見出す空気は薄い。「一人で来たんですか?」という視線が、まだどこかにある。
ところが米国では、Z世代(1997〜2012年生まれ)を中心に、ソロゴルフの意味が根本から書き換えられつつある。キーワードは「セルフケア」。ヨガやメディテーションと同じ文脈で、一人でコースを歩くことがメンタルヘルスの手段として語られている。同時に、2〜3時間で回れるショートコースが急増し、夜間にLEDボールとDJで盛り上がる「ナイトゴルフ」が新しいエンターテインメントとして広がっている。ソロとソーシャル、静と動 — Z世代のゴルフには、一見矛盾する二面性がある。
この記事でわかること
- Z世代の51%が「メンタルヘルス/セルフケア」をゴルフの動機に挙げ、76%がソロラウンドに関心を示すという調査データ
- 「コースでは一人、エンタメ施設では社交」というZ世代特有の二面性
- 米国で1,700を超えるショートコースが稼働し、新規開場の37%がショートフォーマットである現状
- LED球×DJ×カクテルで展開される「ナイトゴルフ」の具体事例(Lit 9、Shortees Golf等)
- 日本の一人予約文化に「セルフケア」の文脈がなぜ接続しないのか
Z世代ゴルファーの51%が「セルフケア」を動機に挙げる — Lightspeed調査の衝撃
セルフケアとしてのゴルフとは、スコアや競技ではなく、自然の中を歩き、スマートフォンから距離を置き、精神的なリセットを目的にプレーするスタイルを指す。Lightspeed社が米国のZ世代ゴルファーを対象に実施した調査によると、ゴルフをする動機として「メンタルヘルス/セルフケア」を挙げた割合は51%に達した1。これは「友人との社交」や「運動」を上回り、最大の動機となっている。
背景にはパンデミック以降の精神的な疲弊がある。長時間のリモートワーク、SNSによる常時接続のストレス、都市生活の圧迫感。こうした環境から物理的に離脱できる場所として、ゴルフコースが再発見された。ジムやヨガスタジオでは得られない「屋外で数時間、自分のペースで歩く」という体験が、Z世代にとってのセルフケアの器になっている。
ソロラウンドへの関心76%、29%は「常に一人で予約」
同じLightspeed調査で、Z世代ゴルファーの76%がソロラウンドに関心があると回答した。さらに29%は「ティータイムを常に一人で予約する」と答えている1。約3割が「いつも一人」。これはもう例外的な行動ではなく、一つのプレースタイルとして定着しつつある。
注目すべきは、この「ソロ志向」が反社交ではないという点である。同調査では、Z世代の50%がエンターテインメント系のゴルフ施設(Topgolf等)では「社交体験を求める」と回答している1。つまり、コースでは一人で静かにプレーし、エンタメ施設では仲間と盛り上がる。この使い分けがZ世代のゴルフとの付き合い方の核心にある。
「ソロ=孤独」ではなく「ソロ=意図的な選択」
この二面性を理解するには、Z世代の「ソロ」の定義を捉え直す必要がある。従来の世代にとってソロラウンドは「仲間がいないから仕方なく」であることが多かった。しかしZ世代にとっては、SNS疲れや情報過多からの意図的な離脱 — いわば「デジタルデトックス」の手段である。ゴルフコースは電波が弱い場所も多く、スマホを見る理由が物理的に減る。4〜5時間、自然の中を歩きながらボールを打つ。その時間そのものに価値を見出している。
一方で、ゴルフの「ソーシャル」な側面を完全に捨てたわけではない。Topgolfやシミュレーターバーでは、ゴルフを介したカジュアルな社交を楽しむ。場と目的を切り分けているだけだ。
ショートコース急増 — 新規開場の37%がショートフォーマット
ショートコースとは、パー3を中心に構成された6〜12ホールのコースで、通常のラウンド(4〜5時間)に対し1.5〜2.5時間でプレーできるフォーマットである。米国では現在約1,700のショート/エグゼクティブコースが稼働しており、新規開場の37%がショートフォーマットで占められている2。
| コース名 | 場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| The Cradle | Pinehurst(NC) | 9ホール・パー3。全米オープン開催地に併設。予約不要のウォークオン |
| Sandbox | Sand Valley(WI) | 17ホール・パー3。砂丘地帯のリンクス風レイアウト |
| The Wedge / The Squeeze | Cabot Citrus Farms(FL) | 21ホール複合施設。短尺+フルコースを組み合わせたリゾート型 |
| The Park West Palm “Lit 9” | West Palm Beach(FL) | 9ホール・ナイトゴルフ対応。Tiger Woods設計 |
| Butler Park Pitch & Putt | Austin(TX) | 都市公園内のピッチ&パット。市民向けカジュアル施設 |
新規ショートコースの60%がラグジュアリーリゾートまたはプライベートクラブに併設されている点も見逃せない2。PinehurstやCabotのような高級リゾートが、フルコースとは別に「気軽に回れるショートコース」を設置する。これは既存顧客の滞在時間延長と、ゴルフ未経験の家族・同伴者の取り込みを同時に狙った戦略である。
ショートコースがZ世代に刺さる理由
ショートコースの急増とZ世代のセルフケア志向は、実は深く連動している。18ホール・5時間のラウンドは、時間もコストもハードルが高い。一方、ショートコースなら仕事帰りに2時間、予約なしでふらりと立ち寄れる。ドレスコードも緩く、一人で来ても違和感がない。「セルフケアとしてのゴルフ」が成立するには、この手軽さが不可欠だった。
Butler Park Pitch & Puttのような都市公園型の施設は、その究極形である。公園の一角にパー3コースがあり、ジョギングの延長のような感覚でクラブを2〜3本持って立ち寄る。「ゴルフ場に行く」のではなく「公園でゴルフする」。この感覚の違いが、Z世代の参入障壁を大きく下げている。
ナイトゴルフの進化 — LED球、DJ、カクテルで「夜のゴルフパーティー」
ナイトゴルフとは、照明設備を備えたコースでLEDボールを使用し、夜間にプレーするフォーマットである。従来は一部の練習場やリゾートの余興だったが、2024年以降、音楽・飲食・ブランディングを組み合わせた「体験型イベント」として急速に進化している2。
代表例が、Tiger Woods設計のThe Park West Palm Beachが展開する「Lit 9」である。9ホールのショートコースを全面照明で照らし、DJの音楽が流れる中でLEDボールを打つ。各ホールにカクテルバーが設置され、スコアよりも「体験そのもの」を楽しむ設計になっている2。
Shortees Golf(オーストラリア) — ナイトゴルフのブランド化
オーストラリアのShortees Golfは、ナイトゴルフを一つの「ブランド体験」として確立した先駆者である。ショートコース+ナイト照明+ライブミュージック+オリジナルアパレルを統合し、「ゴルフイベント」ではなく「ナイトライフの一形態」として打ち出している2。
ターゲットは明確にZ世代〜ミレニアル世代だ。Instagramでの映えを前提としたコースデザイン、音楽フェスのようなブランディング、アルコール込みの価格設定。ゴルフの技術的なハードルを極限まで下げ、「初めてクラブを握る人」が最も楽しめるように設計されている。従来のゴルフ場が「上手い人のための場所」だったのに対し、Shortees Golfは「初心者が主役になれる場所」を志向している。
日本の現在地 — 「一人予約」はあるが「セルフケア」の文脈がない
日本には一人予約の仕組みがすでに存在する。楽天GORAの一人予約は2010年代から提供されており、利用者も増加傾向にある。ショートコースも河川敷や都市近郊に一定数あり、9ホールのパー3コースは全国に散在している。インフラだけ見れば、米国の動きに対応できる素地はある。
しかし、決定的に異なるのは「語られ方」である。日本の一人予約は「コスパ重視」「時間調整の柔軟性」といった実利の文脈で語られる。ゴルフが「セルフケア」「メンタルヘルス」と結びつけられることは、ほとんどない。ゴルフ雑誌もウェブメディアも、ソロラウンドを特集するときの切り口は「一人で回るときのマナー」や「同伴者なしでも予約できるコース一覧」であって、「心を整えるための一人ゴルフ」ではない。
ナイトゴルフに関しては、さらに距離がある。日本にも照明付きの練習場は多いが、「ナイトゴルフパーティー」という概念 — DJ、カクテル、LED球、SNS映えを統合したイベントフォーマット — は事実上存在しない。ゴルフ場の営業時間、騒音規制、アルコール提供の商慣習など、構造的な制約が大きい。
変化の芽はあるか
一方で、日本のゴルフ場が若年層の取り込みに苦心していることは事実である。2ホールや4ホールだけを切り出した「体験プラン」を提供するコースも出始めている。サブスクリプション型のゴルフ練習場(MASH UP GOLFなど)がシミュレーターゴルフとバーを組み合わせたモデルを展開しているのも、方向性としてはLit 9やShortees Golfと近い。
ただし、これらはまだ点の取り組みであり、「Z世代のセルフケア」「ゴルフ=メンタルヘルス」という語りの転換を伴っていない。仕組みを輸入するだけでなく、「なぜ若者が一人でゴルフコースに行くのか」という問いの立て方そのものを変える必要があるのではないか。
まとめ — Z世代が再定義するゴルフの「時間・場所・目的」
Z世代のゴルフ行動が示しているのは、「時間・場所・目的」の三つが同時に再定義されているということだ。
- 時間の再定義:18ホール・5時間から、ショートコース・2時間へ。仕事帰りや週末の隙間時間にゴルフが入る余地が生まれた
- 場所の再定義:郊外の本格コースだけでなく、都市公園のピッチ&パット、照明付きのナイトコースが選択肢に加わった。「ゴルフ場に行く」という行為の重さが軽減されている
- 目的の再定義:スコアや競技ではなく、セルフケア・メンタルヘルスが最大の動機になった。一人で歩く時間そのものが価値であり、ソーシャルな体験は別の場(エンタメ施設)に切り分けられている
日本にも一人予約やショートコースというインフラはある。欠けているのは、ゴルフを「セルフケア」として位置づけ直す語りと、夜間エンターテインメントとしてのゴルフという発想だ。米国やオーストラリアの事例をそのまま輸入することは難しいが、「一人ゴルフ=代替手段」から「一人ゴルフ=積極的な選択」への意識転換は、日本のゴルフ市場に新しい顧客層を呼び込む鍵になるだろう。
FAQ
Q. Z世代がゴルフをセルフケアと捉えるようになったきっかけは?
A. パンデミック以降の環境変化が大きい。長時間のリモートワーク、SNSの常時接続によるストレス、都市生活の圧迫感から物理的に離脱できる場としてゴルフコースが再発見された。自然の中を数時間歩き、デジタルデバイスから距離を置ける点が、ヨガやメディテーションに近い「リセット体験」として認識されるようになった。
Q. ショートコースは初心者向けなのか、上級者も楽しめるのか?
A. 両方対応している。PinehurstのThe CradleやSand ValleyのSandboxは、戦略性の高いパー3設計で上級者にも評価が高い。一方、Butler Park Pitch & Puttのような都市公園型はカジュアル層向けの設計。ショートコースは「距離が短い=簡単」ではなく、アプローチとパッティングの精度が問われるため、技術レベルを問わず楽しめるフォーマットである。
Q. ナイトゴルフのLEDボールは実用性があるのか?
A. LEDボールの技術は年々進化しており、飛距離や打感は通常のボールに近づいている。ただし、Lit 9やShortees Golfのようなナイトゴルフイベントでは、ボールの性能よりも「光るボールが夜空を飛ぶ映像体験」が重視されている。スコアを競う場ではなく、エンターテインメントとしてのゴルフという位置づけである。
Q. 日本でナイトゴルフイベントが広がらない理由は?
A. 主に三つの構造的制約がある。第一に、日本のゴルフ場は住宅地との距離が近く、夜間の照明・音響に対する騒音規制が厳しい。第二に、コース上でのアルコール提供は安全管理上の慣習的な制約がある(カートの運転など)。第三に、ゴルフ場の収益モデルが日中のプレー+レストラン売上に最適化されており、夜間営業のオペレーションコストを吸収する仕組みがない。
Q. Z世代の「ソロ志向」は一時的なトレンドか、定着するのか?
A. 構造的に定着する可能性が高い。理由は三つある。第一に、メンタルヘルスへの意識はパンデミック以前から上昇傾向にあり、一時的な流行ではない。第二に、ショートコースやエンタメ施設というインフラがすでに大規模に整備されている。第三に、Z世代の「ソロ活動」はゴルフに限らず、一人旅行・一人映画・一人外食などライフスタイル全般に浸透しており、世代全体の行動特性と一致している。
参考情報
- ↑ Lightspeed, “Gen Z Golf Consumer Survey,” 2025. Z世代ゴルファーの動機・行動パターンに関する調査。51%がメンタルヘルス/セルフケアを動機に挙げ、76%がソロラウンドに関心、29%が常に一人予約と回答。
- ↑ 各コース公式サイト・業界レポートに基づく。米国のショート/エグゼクティブコース約1,700、新規開場の37%がショートフォーマット、うち60%がリゾート/プライベート併設。The Park West Palm “Lit 9″、Shortees Golf等のナイトゴルフ事例を含む。
※本記事は「海外ゴルフトレンド」シリーズ第8回です。
シリーズ一覧はこちらからご覧いただけます。