
従業員数千人規模で、会員管理システムや基幹業務のデータベースにAmazon RDS for MariaDB(AWSが構築・パッチ適用・バックアップを代行するマネージド型のMariaDB運用サービス)を使い、年1回の予算稟議でシステム投資を通している企業のDB運用担当・情報システム部門は、年末までに投資判断を迫られている。RDS for MariaDB 10.6は2026年12月31日に標準サポートが終了する[2]。1つ前のメジャーバージョンである10.5も同年8月末に支援期限を迎えており、10.6を使っていない企業でも他人事ではない[2]。厄介なのは、MySQLやPostgreSQLと違い、MariaDBには標準サポート終了後も追加課金で延命できるExtended Support(延長サポート)という選択肢が存在しないことだ[1][8]。期限を過ぎても課金を払って先送りする道はなく、選べるのはメジャーバージョンアップグレードか、別エンジンへの移行かの二択に絞られる。稟議には準備期間が要る。年末の期限から逆算すれば、今期の予算サイクルで判断する必要がある。本稿は、期限と選択肢の中身を整理し、予算化の判断材料を示す。
予備知識
- Amazon RDS for MariaDB: AWSが構築・パッチ適用・バックアップを代行するマネージド型のMariaDB(MySQL互換のオープンソースRDBMS)運用サービス。
- 標準サポート: 通常のマイナーバージョン更新とセキュリティパッチが提供される期間。
- Extended Support(延長サポート): 標準サポート終了後も追加課金で同じメジャーバージョンの重要セキュリティ修正を受け続けられるAWSの制度。オープンソース系エンジンではMySQLとPostgreSQLのみが対象。
- 稟議: 投資や契約変更を社内で承認するための、日本企業に特有の決裁プロセス。
移行先としてMySQL系を検討するなら、内部構造と運用の勘所を押さえておきたい。
RDS for MariaDB 10.6、2026年12月31日という期限の中身
RDS for MariaDB 10.6は2026年12月31日で標準サポートが終わり、これは延長でも猶予でもなく完全な期限である。
MariaDBコミュニティ版の10.6系は2026年7月6日にコミュニティとしての保守を終えているが、AWSはRDS上の標準サポートをその約6か月後の12月31日まで独自に延長して提供している[2]。この延長はあくまで無償の標準サポートの範囲内の措置であり、有償のExtended Supportとは別物である点に注意したい[1][2]。
AWS公式のリリースカレンダーが示す主要バージョンの標準サポート終了日は次のとおりである[2]。
| MariaDBメジャーバージョン | RDSリリース日 | コミュニティEOL | RDS標準サポート終了日 |
|---|---|---|---|
| 10.5 | 2021年1月21日 | 2025年6月24日 | 2026年8月31日 |
| 10.6 | 2022年2月3日 | 2026年7月6日 | 2026年12月31日 |
| 10.11 | 2023年8月21日 | 2028年2月16日 | 2028年2月 |
| 11.8 | 2025年8月25日 | 2028年6月(community) | 2028年6月 |
| 11.4 | 2024年10月15日 | 2029年5月(community) | 2029年5月 |

2026年8月時点で10.5は標準サポート終了まで1週間を切っている。10.6でも残り約4か月と、猶予は長くない[2]。
同系バージョンアップか別エンジンへの移行かを判断する軸を持ちたい読者には次の一冊が向く。
MySQL・PostgreSQLと何が違うのか——Extended Supportという安全網の不在
MySQLとPostgreSQLは期限後も最長3年、課金で猶予を買えるが[3]、MariaDBにはその安全網がない。
AWS公式ドキュメントは、describe-db-major-engine-versionsコマンドの応答例として、MySQLの主要バージョンにはopen-source-rds-standard-supportとopen-source-rds-extended-supportの両方が返る一方、MariaDB 10.6にはopen-source-rds-standard-supportしか返らないことを明示している[1]。オープンソース系エンジンのうち、Extended Supportの対象はMySQLとPostgreSQLのみで、MariaDBは対象外というのが仕様である[1]。

参考までに、Extended Supportが使えるMySQLの場合、標準サポート終了後の1〜2年目は1vCPU時間あたり0.10米ドル(1ドル=155円換算で約15.5円)、3年目以降は0.20米ドル(同約31円)という価格が公表されている(米国東部リージョンの例)[4]。

仮にMariaDBにも同水準の制度があれば、4vCPU構成1台で月数万円規模の延命コストを払って対応時期をずらせた計算になる。だが10.6にはこの選択肢そのものがなく、期限内対応が唯一の道になる[1]。
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移行先はどれを選ぶか——バージョンアップの選択肢と強制アップグレードの前例
移行先は10.11・11.4・11.8のいずれかへ1段階でアップグレードでき、判断基準はサポート残存期間と検証コストのバランスになる。
RDS for MariaDBのメジャーバージョンアップグレードは、10.6から10.11・11.4・11.8・12.3のいずれへも1回の操作で移行できる仕様になっている。中間バージョンを経由する必要はない[6]。ただしメジャーバージョンアップグレードは既存アプリケーションとの非互換を含みうるため、AWSは事前の十分な検証を推奨している[6]。

検証コストを抑えたいなら、10.6と設定の互換性が近い10.11への移行が現実的だ。長期の運用を見込むなら、2026年8月にRDSへ追加され標準サポートが2029年6月まで続く12.3か、2029年5月までの11.4が候補になる[2]。
もう一つ踏まえておきたいのが、無策で放置した場合の挙動である。AWSは過去にMariaDB 10.0・10.1の標準サポート終了時、猶予期間中はメンテナンスウィンドウ内で自動アップグレードし、猶予後はウィンドウの有無に関係なく強制アップグレードする方針を公表した[5]。10.6でも同様の運用が想定され、判断を先送りした場合の着地点は、担当者が選んだバージョンではなく、AWSが決めたタイミングとバージョンへの強制移行になる[5]。
なおMariaDBからMySQL系エンジンへの切り替えは、メジャーバージョンアップグレードの範囲外である。AWS Database Migration Serviceなどを使った別建ての移行プロジェクトになる点は、事前に押さえておきたい[7]。
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SIer保守契約と稟議フローが移行スケジュールに与える制約
海外と同じ期限が日本企業にも一律に適用されるが、判断から実施までの所要期間が長く、逆算した着手時期はより早まる。
RDS for MariaDB 10.6の標準サポート終了日は、契約主体や拠点に関係なく世界共通で2026年12月31日である[2]。日本企業だからといって猶予が延びるわけではない。
違うのは、そこから実施までの所要期間である。多くの日本企業はRDSの構成変更をSIer(システムインテグレーター)との保守契約の範囲内で委託しており、契約範囲外の作業には追加見積もりと契約変更の手続きが要る。
変更管理委員会や年度稟議を経る社内プロセスもあり、承認まで数週間から数か月かかる企業は珍しくない。監査対象システムであれば、バージョン変更自体を内部統制の証跡として残す必要もある。
| 観点 | 海外の典型例 | 日本企業の典型例 |
|---|---|---|
| 実行判断 | 担当エンジニアが即決 | 変更管理委員会・稟議の承認が前提 |
| 作業主体 | 社内エンジニア | SIer保守契約の範囲内で委託 |
| 意思決定期間 | 数日〜数週間 | 数週間〜数か月 |
| 監査対応 | 事後報告で足りる場合が多い | 変更履歴を統制証跡として保存 |

IT部門の担当者は、10月中に検証結果を添えた移行提案をまとめ、年内の稟議サイクルに乗せる必要がある。決裁側は、延命の選択肢がない以上、先送りを費用の問題ではなく強制アップグレードのリスクとして評価する必要がある。
まとめ
RDS for MariaDB 10.6は2026年12月31日に標準サポートが終了し、MySQLやPostgreSQLと違って延長サポートという猶予策がない[1][2]。移行先は10.11・11.4・11.8のいずれかへ1段階でアップグレードでき、選定基準はサポート残存期間と検証コストのバランスになる[2][6]。無策で放置した場合は、過去の10.0・10.1の前例からみて、担当者が選ばない時期とバージョンへの強制アップグレードに落ち着く可能性が高い[5]。
IT部門担当者の次の一手は、稼働中の10.6インスタンスを棚卸しし、10.11など移行先候補での互換性検証を今月中に着手することである。決裁側の判断材料は、稟議とSIer契約の所要期間を年末の期限から逆算し、遅くとも10月中に予算枠を確保できるかどうかである。
延命という第三の道がない以上、先送りは選択肢を減らすだけで、費用も時間も戻ってこない。
よくある質問(FAQ)
Q. RDS for MariaDB 10.6は12月31日を過ぎたら即座に停止しますか。
A. いいえ。過去のMariaDB 10.0・10.1の前例では、期限後も一定期間はメンテナンスウィンドウ内で自動アップグレードされ、その後はウィンドウの有無にかかわらず強制アップグレードされる仕組みが取られた[5]。10.6でも同様の運用が想定される。
Q. MariaDBからMySQLへ乗り換えれば延長サポートを使えますか。
A. MariaDBからMySQLへの切り替えは通常のメジャーバージョンアップグレードの範囲外で、AWS Database Migration Serviceなどを使った別プロジェクトになる[7]。乗り換え後のMySQLインスタンスであれば、そのバージョンの標準サポート期間内は通常どおり運用でき、将来的にExtended Supportの対象にもなり得る。
Q. 10.6から11.4や11.8へ直接アップグレードできますか。
A. できる。RDS for MariaDBは10.6から10.11・11.4・11.8・12.3のいずれへも1回の操作でアップグレード可能で、中間バージョンを経由する必要はない[6]。
出典
[1] AWS, “Viewing support dates for engine versions in Amazon RDS Extended Support”(2026年時点) https://docs.aws.amazon.com/AmazonRDS/latest/UserGuide/extended-support-viewing-support-dates.html[2] AWS, “MariaDB on Amazon RDS versions”(2026年時点) https://docs.aws.amazon.com/AmazonRDS/latest/UserGuide/MariaDB.Concepts.VersionMgmt.html
[3] AWS, “Amazon RDS Extended Support with Amazon RDS”(2026年時点) https://docs.aws.amazon.com/AmazonRDS/latest/UserGuide/extended-support.html
[4] AWS, “Amazon RDS for MySQL pricing”(2026年時点) https://aws.amazon.com/rds/mysql/pricing/
[5] AWS Database Blog, “Automatic upgrades of Amazon RDS for MariaDB versions 10.0 and 10.1 to begin March 9, 2021” https://aws.amazon.com/blogs/database/automatic-upgrades-of-amazon-rds-for-mariadb-versions-10-0-and-10-1-to-begin-march-9-2021/
[6] AWS, “Major version upgrades for RDS for MariaDB”(2026年時点) https://docs.aws.amazon.com/AmazonRDS/latest/UserGuide/USER_UpgradeDBInstance.MariaDB.Major.html
[7] AWS, “MariaDB または MySQL データベースの Amazon Aurora MySQL への移行”(AWS DMS) https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/dms/latest/sbs/chap-mariadb2auroramysql.html
[8] AWS, “Amazon RDS Extended Support のバージョン” https://docs.aws.amazon.com/AmazonRDS/latest/UserGuide/extended-support-versions.html

