前回(機械学習入門⑨)は、生成AIをかしこく使うための方法──プロンプト・RAG・MCP・エージェント──をMBAでの学びをもとに整理した。
そして今回が、シリーズの締めくくりだ。MBAのデータサイエンス講座(全6回)の最終回は「Demo Day」。これまでに学んだことをオールインで使って、自分で課題を設定し、自分で何かを作って発表する場だった。
この記事では、私がDemo Dayで作ったもの、クラスメートから受けた刺激、そして6回分の学びを「What / So what / Now what」で整理しておく。最後にこれから自分がAIをどう使い倒していくかも書いた。
Demo Dayで作ったもの:情報セキュリティ監査の自主チェック支援システム
私が選んだのは生成AI課題。テーマは「皆が嫌いな監査を楽にする」。本職でISO関連の監査に関わっていて、長年感じてきたモヤモヤを解消したかった。
解きたかった問題
- 監査の規程やチェックポイントは分量が多く、現場には分かりにくい
- 毎回別の人が見ると判断がぶれる(属人性)
- 毎回手作業で写真と規程を突き合わせるのが手間
作った仕組み
DifyとOpenAIを組み合わせて、ISO規程(テキスト)と現場の写真(データセンターやオフィス内)を入力すると、関連する監査ポイントを照らし合わせて自主チェック結果を返す仕組みを作った。Difyのワークフロー機能でドキュメントを取り込み、ナレッジベース化し、画像理解付きのLLMに渡して判定させる構成だ。
苦労した点
3つの壁にぶつかった。
- 判定レベルのぶれ:同じ写真を複数回投げると違う回答が返ってくる。前回(⑨)で書いた「プロンプトの蝶のはばたき効果」を地で行く現象だった。プロンプトに評価基準・出力フォーマット・判定の粒度を細かく書き込んで、ようやく安定した。
- 応答速度の悪化:生成AIパートを増やすほど一回のチェックに時間がかかる。RAGとLLMの呼び出しを連結すると指数的に遅くなる。最終的にステップを減らし、必要な箇所だけ生成AIに任せる構成に落とし込んだ。
- 規程と現場のひも付け:「写真のここがダメ」と言わせるには、規程の条文番号と画像内の要素をきちんと対応させる必要がある。プロンプトに「該当条文番号を必ず出力する」というルールを明示した。
動くものができたとき、これまでの講座で習った要素──課題設定、データ前処理、モデル選定、評価、プロンプト設計──が全部つながった感覚があった。ハンズオンで触ってきたピースが、自分の課題のための一つの解になった瞬間だ。
クラスメートの作品から受けた刺激
正直に書くと、私の作品は受賞対象には選ばれなかった。発表されたクラスメートの作品を見て、「課題の見つけ方」と「届けたい相手の明確さ」がまるで違うことに気づかされた。
具体的なテーマには触れないが、印象的だったのは、生活の中の小さな不便──家族のこと、子どものこと、毎日のちょっとした選択──を出発点にしたものが多かったこと。「自分の半径数メートルの困りごとを、AIで解いてみる」という発想だ。私は仕事の課題から入ったので、どうしても「効率化」の枠から出られなかった。
もう一つは、「面白がる力」。「これを解く必要があるか?」と眉をひそめてしまうようなテーマでも、本人がワクワクしながら作っていると、それだけで人を惹きつける。AIは課題解決の道具であると同時に、好奇心を形にする道具でもあるんだと改めて思った。
講座全体の振り返り:What / So what / Now what
What?──最大の学び
機械学習も生成AIも、結局やっていることは「予測」だということ。前者は「データから次に来る数字やラベルを予測する」、後者は「文脈から次に来る単語やピクセルを予測する」。ベースの考え方は同じで、扱うデータと出力の形が違うだけだ。この一点に気づけたことで、AI関連のニュースや論文の理解度が一段上がった。
もう一つは、「イシュー × データ × アルゴリズム」の掛け算。どれか一つだけ強くしても価値は出ない。良い問いがあって、それに見合うデータがあって、そこにアルゴリズムが乗って初めて意味のある結果になる。Demo Dayはまさにこれを体感する場だった。
So what?──実務への気づき
AIを「使えるかどうか」を議論する時代は終わった。問題は「自分の仕事のどこに、どう組み込むか」に移っている。そして、組み込むためには「何を解きたいか」を自分の言葉で言語化できる必要がある。これは技術のスキルではなく、ビジネスサイドの問いの立て方そのものだ。
もう一つの実務的な気づきは、「触らないと分からない」こと。Exploratoryで予測モデルを動かしたり、Difyでエージェントを組んだりして初めて、データの汚さやプロンプトの繊細さが体感できた。本を読むだけでは絶対に到達できないレベルの理解だ。
Now what?──これからどうするか
三つ決めた。
- 本職にAIを実装する:監査支援システムをDemo Day版で終わらせず、実際の業務で使えるレベルまで磨く。社内に展開できれば、属人性の問題に一石を投じられる。
- 「半径数メートル」発想を取り入れる:仕事の効率化だけでなく、自分や家族の生活の中の不便にも目を向ける。クラスメートに教わった視点を実践する。
- 毎日触る:講座で繰り返し言われた「これは短距離走ではなくマラソン」という言葉どおり、毎日何かしらAIを使う。使わない日が続いた瞬間に置いていかれる感覚を、講座を通じて確信した。
シリーズの締めくくりに
このブログシリーズも、この記事を含めて10本になった。書きながら理解が深まる感覚は、講座でハンズオンを触りながら覚えたあの感覚とよく似ていた。「分かっている」と「説明できる」の間には、思っていた以上の距離がある。
次回は、講座の最終日に扱われたもう一つの大事なテーマ──AIと著作権・知的財産──について書く予定だ。日本がなぜ「機械学習天国」と呼ばれるのか、ビジネスパーソンが押さえておくべき論点を整理する。
講座を振り返るのに役立った本
① AI&データの時代に経営や人材育成をどう考えるか
講座中ずっと頭の中で反芻していたのが、安宅和人さんの『シン・ニホン』だった。AI×データ時代に日本がどう再生していくか、そのための人材育成のあり方を骨太に論じた一冊。MBAの講座で学んだ「機械学習が解けるイシューのフロンティアが拡大している」という感覚が、この本のフレームと完全に重なる。
② 大人がもう一度学び直すということ
50歳を過ぎてMBAでデータサイエンスを学ぶというのは、まさにリスキリングそのものだった。後藤宗明さんの『自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング』は、なぜ学び直しが必要か、何をどう学べばいいか、を実践的に教えてくれる。社会人の学び直しに迷っている人に勧めたい。